Sun Cluster データサービスの計画と管理 (Solaris OS 版)

第 1 章 Sun Cluster データサービスの計画

この章では、Sun Cluster データサービスのインストールと構成を計画するにあたってのガイドラインを説明します。この章の内容は次のとおりです。

データサービス、リソースタイプ、リソース、およびリソースグループについての概念的な情報については、『 Sun Cluster の概念 (Solaris OS 版)』のマニュアルを参照してください。

Sun Cluster ソフトウェアがサービスを提供できるのは、 Sun Cluster 製品で提供されるデータサービス、または、 Sun Cluster データサービス API (Application Programming Interface) で作成されたデータサービスだけです。

Sun Cluster データサービスとして現在提供されていないアプリケーションについては、『 Sun Cluster データサービス開発ガイド (Solaris OS 版)』を参照してください。アプリケーション用の高可用性データサービスを開発する方法について説明されています。


注 –

Sun Cluster ソフトウェアは、sendmail(1M) サブシステム用のデータサービスを提供しません。sendmail サブシステムを個々のクラスタノードで実行することは認められていますが、sendmail の機能 (メールの配信、経路設定、待ち行列化、再試行など) は HA 対応ではありません。


Sun Cluster データサービス構成のガイドライン

この節では、Sun Cluster データサービスを構成するためのガイドラインを説明します。

データサービス固有の要件の確認

Solaris と Sun Cluster のインストールを開始する前に、すべてのデータサービスの要件を確認します。計画に不備があった場合、インストールエラーが発生し、Solaris や Sun Cluster ソフトウェアを完全にインストールし直す必要が生じる可能性もあります。

たとえば、Sun Cluster Support for Oracle Parallel Server/Real Application Clusters の Oracle Parallel Fail Safe/Real Application Clusters Guard オプションには、ユーザーがクラスタ内で使用するホスト名に関する特殊な要件があります。Sun Cluster HA for SAP にも特殊な要件があります。Sun Cluster ソフトウェアをインストールした後にホスト名は変更できないため、このような必要条件は Sun Cluster ソフトウェアをインストールする前に調整しておく必要があります。Sun Cluster Support for Oracle Parallel Server/Real Application Clusters および Sun Cluster HA for SAP は、どちらも x86 ベースのクラスタではサポートされていないので注意してください。

アプリケーションバイナリの格納先の決定

アプリケーションソフトウェアおよびアプリケーション構成ファイルは、次のいずれかの場所にインストールできます。

nsswitch.conf ファイルの内容の確認

nsswitch.conf ファイルは、ネームサービスの検索用の構成ファイルです。このファイルは次の情報を指定します。

一部のデータサービスについては、「group」検索の対象の先頭を「files」に変更してください。具体的には、nsswitch.conf ファイル内の「group」行を変更し、「files」エントリが最初にリストされるようにします。「group」行を変更するかどうかを判断するには、構成するデータサービスに関するマニュアルを参照してください。

Sun Cluster 環境で nsswitch.conf ファイルを構成する方法の追加情報については、『 Sun Cluster ソフトウェアのインストール (Solaris OS 版) 』の計画の章を参照してください。

クラスタファイルシステムの構成の計画

データサービスによっては、Sun Cluster の要件を満たす必要があります。特別な検討事項が必要かどうかを判断するには、そのデータサービスに関するマニュアルを参照してください。

クラスタファイルシステムの作成方法については、『 Sun Cluster ソフトウェアのインストール (Solaris OS 版)』の計画の章を参照してください。

リソースタイプ HAStoragePlus を使用すると、フェイルオーバー用に構成された Sun Cluster 環境で HA ローカルファイルシステムを使用できます。HAStoragePlus リソースタイプの設定方法については、「高可用性ローカルファイルシステムの有効化」を参照してください。

リソースグループとディスクデバイスグループの関係

Sun Cluster は、ディスクデバイスグループとリソースグループに関し、ノードリストという概念を持っています。ノードリストには、ディスクデバイスグループまたリソースグループの潜在的マスターであるノードが順にリストされています。ダウンしていたノードがクラスタに再結合し、そのノードがノードリストで現在の稼働系より前に設定されているときの挙動を決定するために、Sun Cluster は「フェイルバックポリシー」を使用します。フェイルバックが True に設定されていると、デバイスグループまたはリソースグループが現在の稼働系から、再結合したノードに切り替えられ、このノードが新しい稼働系になります。

フェイルオーバーリソースグループの高可用性を保証するには、そのグループのノードリストと関連するディスクデバイスグループのノードリストとを一致させます。スケーラブルリソースグループの場合、そのリソースグループのノードリストは必ずしもデバイスグループのノードリストと一致するとは限りません。これは、現段階では、デバイスグループのノードリストには 2 つのノードしか含むことができないためです。2 ノードを超えるクラスタの場合は、スケーラブルリソースグループのノードリストに、3 ノード以上を含むことができます。

たとえば、ノード phys-schost-1phys-schost-2 が含まれるノードリストを持つディスクデバイスグループ disk-group-1 があり、フェイルバックポリシーが Enabled に設定されているとします。さらに、 アプリケーションデータの保持に disk-group-1 を使用する resource-group-1 というフェイルオーバーリソースグループも持っているとします。このような場合は、resource-group-1 を設定するときに、リソースグループのノードリストに phys-schost-1phys-schost-1 も指定し、フェイルバックポリシーを True に設定します。

スケーラブルリソースグループの高可用性を保証するためには、そのスケーラブルサービスグループのノードリストをディスクデバイスグループのノードリストのスーパーセットにします。スーパーセットにすることで、ディスクに直接接続されるノードは、スケーラブルリソースグループを実行するノードになります。この利点は、データに接続されている少なくとも 1 つのクラスタノードがクラスタで起動されているときに、スケーラブルリソースグループがこれらと同じノード上で実行されても、スケーラブルサービスは利用できることです。

ディスクデバイスグループの設定方法の詳細は、『 Sun Cluster ソフトウェアのインストール (Solaris OS 版)』を参照してください。ディスクデバイスグループとリソースグループの関係の詳細については、『Sun Cluster の概念 (Solaris OS 版)』のマニュアルを参照してください。

HAStorageHAStoragePlus の概要

リソースタイプ HAStorageHAStoragePlus は、次のオプションの設定に使用できます。

HAStoragePlus は、マウントされていない状態であることが確認されたグローバルファイルシステムをマウントすることもできます。詳細については、「クラスタファイルシステムの構成の計画」を参照してください。


注 –

HAStorage または HAStoragePlus リソースがオンラインの間にデバイスグループが別のノードに切り替えられた場合、AffinityOn の設定は無視され、リソースグループはデバイスグループと共に別のノードに移行することはありません。一方、リソースグループが別のノードに切り替わった場合、AffinityOnTrue に設定されていると、デバイスグループはリソースグループと一緒に新しいノードに移動します。


ディスクデバイスグループとリソースグループ間の関係については、「リソースグループとディスクデバイスグループ間での起動の同期」を参照してください。追加情報は、SUNW.HAStorage(5) および SUNW.HAStoragePlus(5) のマニュアルページにあります。

VxFS などのファイルシステムをローカルモードでマウントする方法については、「高可用性ローカルファイルシステムの有効化」を参照してください。詳細は、SUNW.HAStoragePlus(5) のマニュアルページを参照してください。

データサービスが HAStorage または HAStoragePlus を必要とするかどうかを確認する方法

HAStorage または HAStoragePlus の選択

データサービスリソースグループ内で HAStorage リソースと HAStoragePlus リソースのどちらを作成すべきかを決定するには、以下の基準を考慮してください。

考慮事項

この節の情報は、データサービスのインストールまたは構成について計画する場合に利用してください。これらの情報に目を通すことで、ユーザーの決定がデータサービスのインストールと構成に及ぼす影響について理解できるでしょう。特定のデータサービスについては、そのデータサービスのマニュアルを参照してください。

ノードリストプロパティ

データサービスを構成するときに、次の 3 つのノードリストを指定できます。

  1. installed_nodes – データサービスのリソースタイプのプロパティ。このプロパティには、リソースタイプがインストールされ、実行が有効になるクラスタノード名の一覧が含まれます。

  2. nodelist — リソースグループのプロパティ。優先順位に基づいて、グループをオンラインにできるクラスタノード名の一覧が含まれます。これらのノードは、リソースグループの潜在的主ノードまたはマスターです。フェイルオーバーサービスについては、リソースグループノードリストを 1 つだけ設定します。スケーラブルサービスの場合は、2 つのリソースグループを設定するため、ノードリストも 2 つ必要になります。一方のリソースグループとノードリストには、共有アドレスをホストするノードが含まれます。このノードリストは、スケーラブルリソースが依存するフェイルオーバーリソースグループを構成します。もう一方のリソースグループとそのノードリストは、アプリケーションリソースをホストするノードを識別します。アプリケーションリソースは、共有アドレスに依存します。共有アドレスを含むリソースグループ用のノードリストは、アプリケーションリソース用のノードリストのスーパーセットになる必要があるためです。

  3. auxnodelist — 共有アドレスリソースのプロパティ。このプロパティは、クラスタノードを識別する物理ノード ID の一覧が含まれます。このクラスタノードは共有アドレスをホストできますが、フェイルオーバー時に主ノードになることはありません。これらのノードは、リソースグループのノードリストで識別されるノードとは、相互に排他的な関係になります。このノードリストは、スケーラブルサービスにのみ適用されます。詳細は、scrgadm(1M) のマニュアルページを参照してください。

インストールと構成プロセスの概要

データサービスをインストールして構成するには、次の手順を使用します。

データサービスのインストールと構成を開始する前に『Sun Cluster ソフトウェアのインストール (Solaris OS 版)』を参照してください。このマニュアルには、データサービスソフトウェアパッケージのインストール方法と、ネットワークリソースが使用する Internet Protocol Network Multipathing (IP Networking Multipathing) グループを構成する方法を確認してください。


注 –

以下のデータサービスのインストールと構成には、SunPlexTM Manager を使用できます。Sun Cluster HA for Oracle、Sun Cluster HA for Sun Java System Web Server、Sun Cluster HA for Sun Java System Directory Server、 Sun Cluster HA for Apache、Sun Cluster HA for DNS、および Sun Cluster HA for NFS。Sun Cluster HA for Oracle および Sun Cluster HA for Apache は、SPARC ベースのクラスタでのみサポートされているので注意してください。詳細については、SunPlex Manager のオンラインヘルプを参照してください。


インストールと構成の作業の流れ

表 1–1 に、Sun Cluster フェイルオーバーデータサービスのインストールおよび構成作業と、その手順が説明されている参照先を示します。

表 1–1 Task Map: Sun Cluster データサービスのインストールと構成

タスク 

参照箇所 

Solaris と Sun Cluster ソフトウェアのインストール 

Sun Cluster ソフトウェアのインストール (Solaris OS 版)

IP ネットワークマルチパス グループの設定 

Sun Cluster ソフトウェアのインストール (Solaris OS 版)

多重ホストディスクの設定 

Sun Cluster ソフトウェアのインストール (Solaris OS 版)

リソースとリソースグループの計画 

付録 C 「データサービス構成のワークシートと記入例」

アプリケーションバイナリの格納先の決定 (nsswitch.conf の構成)

「アプリケーションバイナリの格納先の決定」

nsswitch.conf ファイルの内容の確認」

アプリケーションソフトウェアのインストールと構成 

該当する Sun Cluster データサービスブック 

データサービスソフトウェアパッケージのインストール 

Sun Cluster ソフトウェアのインストール (Solaris OS 版)』または該当する Sun Cluster データサービスブック

データサービスの登録と構成 

該当する Sun Cluster データサービスブック 

SPARC: 例

この節では、例として高可用性フェイルオーバーデータサービスとして設定されている Oracle アプリケーション用に、リソースタイプ、リソース、リソースグループを設定する方法を紹介します。

この例とスケーラブルデータサービスの例では、ネットワークリソースを含むフェイルオーバーリソースグループが異なります。さらに、スケーラブルデータサービスには、アプリケーションリソースごとに別のリソースグループ (スケーラブルリソースグループ) が必要です。

Oracle アプリケーションは、サーバーとリスナーの 2 つのコンポーネントを持ちます。Sun は Sun Cluster HA for Oracle データサービスを提供しているため、これらのコンポーネントはすでに Sun Cluster リソースタイプに対応付けられています。これら両方のリソースタイプが、リソースとリソースグループに関連付けられます。

この例は、フェイルオーバーデータサービスの例なので、論理ホスト名ネットワークリソースを使用し、主ノードから二次ノードにフェイルオーバーする IP アドレスを使用します。フェイルオーバーリソースグループに論理ホスト名リソースを入れ、Oracle サーバーリソースとリスナーリソースを同じリソースグループに入れます。この順に入れることで、フェイルオーバーを行うすべてのリソースが 1 つのグループになります。

Sun Cluster HA for Oracle をクラスタ上で実行するには、次のオブジェクトを定義する必要があります。

データサービスリソースを管理するためのツール

この節では、インストールや構成の作業に使用するツールについて説明します。

SunPlex Manager グラフィカルユーザーインタフェース (GUI)

SunPlex Manager は、次の作業を実行できる Web ベースのツールです。

SunPlex Manager を使用し、クラスタソフトウェアをインストールする方法については、『 Sun Cluster ソフトウェアのインストール (Solaris OS 版)』を参照してください。管理作業については、SunPlex Manager のオンラインヘルプを参照してください。

SPARC: Sun Management Center GUI 用の Sun Cluster モジュール

Sun Cluster モジュールを使用すると、クラスタの監視やリソースおよびリソースグループに対する処理の一部を Sun Management Center GUI から行えます。Sun Cluster モジュールのインストール要件と手順については、『Sun Cluster ソフトウェアのインストール (Solaris OS 版)』を参照してください。Sun Management Center の詳細は、http://docs.sun.com にある Sun Management Center ソフトウェアのマニュアルを参照してください。

scsetup ユーティリティー

scsetup(1M) ユーティリティーは、メニュー主導型のインタフェースで、Sun Cluster の一般的な管理に使用できます。このユーティリティーは、さらに、データサービスのリソースやリソースグループの構成にも使用できます。この場合には、scsetup のメインメニューからオプション 2 を選択して、「Resource Group Manager」というサブメニューを起動してください。

scrgadm コマンド

scrgadm コマンドにより、データサービスリソースの登録や構成を行うことができます。データサービスの登録と構成の方法については、データサービスのブックを参照してください。たとえば、Sun Cluster HA for Oracle を使用する場合は、『Sun Cluster Data Service for Oracle ガイド (Solaris OS 版)』の手順を参照してください。第 2 章「データサービスリソースの管理」 にも、scrgadm コマンドを使ってデータサービスリソースを管理する方法が記載されています。最後に、追加情報については、scrgadm(1M) のマニュアルページを参照してください。

データサービスリソースの管理作業

次の表に、データサービスリソースの管理作業に使用できるツール (コマンド行以外の) を示します。これらの作業の詳細や、関連する手順をコマンド行から行う方法については、第 2 章「データサービスリソースの管理」を参照してください。

表 1–2 データサービスリソースの管理作業に使用できるツール

タスク 

SunPlex Manager 

SPARC:Sun Management Center 

scsetup ユーティリティー

リソースタイプを登録する 

Yes 

いいえ 

Yes 

リソースグループを作成 

Yes 

いいえ 

Yes 

リソースグループへソースを追加する 

Yes 

いいえ 

Yes 

リソースグループをオンラインにする 

Yes 

Yes 

いいえ 

リソースグループを削除 

Yes 

Yes 

いいえ 

リソースを削除する 

Yes 

Yes 

いいえ 

リソースグループの現在の主ノードを切り替える 

Yes 

いいえ 

いいえ 

リソースを使用不可にする 

Yes 

Yes 

いいえ 

無効なリソースのリソースグループを非管理状態にする 

Yes 

いいえ 

いいえ 

リソースタイプ、リソースグループ、リソース構成情報を表示する 

Yes 

Yes 

いいえ 

リソースプロパティを変更する 

Yes 

いいえ 

いいえ 

リソースの STOP_FAILED エラーフラグを消去する

Yes 

いいえ 

いいえ 

ノードをリソースグループに追加する 

Yes 

いいえ 

いいえ