Solaris ボリュームマネージャの管理

第 16 章 ホットスペア集合 (概要)

この章では、Solaris ボリュームマネージャでホットスペア集合をどのように使用するかについて説明します。関連する作業の実行手順については、 第 17 章「ホットスペア集合 (作業)」を参照してください。

この章では、次の内容について説明します。

ホットスペア集合とホットスペアの概要

ホットスペア集合 とは、RAID-1 (ミラー) や RAID-5 ボリュームのデータ可用度を高めるために Solaris ボリュームマネージャが使用するスライスの集合 (ホットスペア) です。サブミラーまたは RAID-5 ボリュームのスライスに障害が発生すると、Solaris ボリュームマネージャはそのスライスをホットスペアで自動的に置き換えます。


注 –

ホットスペアは、RAID-0 ボリュームや 1 面ミラーには適用されません。交換を自動的に行うためには、冗長データが必要です。


アイドル状態のホットスペアにデータや状態データベースの複製を格納することはできません。ホットスペアは、対応付けられているボリューム内のスライスに障害が発生した場合には、ただちに使用できる状態でなければなりません。したがって、ホットスペアを使用するためには、システムが通常の動作を行うのに必要なディスクに加え、予備のディスクを用意しておく必要があります。

Solaris ボリュームマネージャでは、ホットスペア集合内のホットスペアを動的に追 加、削除、交換、および有効化することができます。ホットスペアやホットスペア集合の管理には、Solaris 管理コンソールまたはコマンド行ユーティリティーを使用します。これらの作業の詳細については、第 17 章「ホットスペア集合 (作業)」を参照してください。

ホットスペア

ホットスペアは、動作可能、使用可能であり、なおかつ使用中ではないスライス (ボリュームではない) です。ホットスペアは、サブミラーや RAID-5 ボリュームのスライスに障害が発生したときに、ただちに交換できる予備のスライスとして用意されています。

ホットスペアによって、ハードウェア障害から保護されます。RAID-1 ボリュームと RAID-5 ボリュームのスライスは、障害が発生するとホットスペアで自動的に置き換えられます。ホットスペアは再同期化され、ボリューム内で使用できるようになります。ホットスペアは、サブミラーや RAID-5 ボリュームのスライスが修復されるか交換されるまで一時的に使用されるスライスです。

ホットスペアはホットスペア集合内に作成します。同じホットスペアを複数のホットスペア集合に登録することができます。たとえば、サブミラーとホットスペアが 2 つずつあるとします。この場合、これらのホットスペアを 2 つのホットスペア集合に登録し、それぞれの集合の中でホットスペアの優先順位を変えておくこともできます。この方式では、最初に使用するホットスペアを指定できます。この方式によって使用可能なホットスペアが増えるので、可用性も向上します。

サブミラーや RAID-5 ボリュームの不良スライスの代わりに使用できるホットスペアのサイズは、そのスライスと同じかそれ以上でなければなりません。たとえば、サブミラーの容量が 1G バイトであれば、サブミラー用のホットスペアの容量は 1G バイト以上でなければなりません。

ホットスペア集合

ホットスペア集合は、ホットスペアの順序付きリスト (集合) です。

ホットスペアを複数のホットスペア集合に登録することによって、最小数のスライスで最大限の柔軟性と安全性を達成できます。ホットスペアとして使用する 1 つのスライスを複数のホットスペア集合に割り当て、個々のホットスペア集合に異なるスライスや特性を持たせることができます。個々のホットスペア集合は、任意の数のサブミラーボリュームや RAID-5 ボリュームに割り当てることができます。


注 –

同じホットスペア集合を複数のサブミラーボリュームや RAID-5 ボリュームに割り当てることはできますが、個々のサブミラーボリュームや RAID-5 ボリュームは 1 つのホットスペア集合しか割り当てることはできません。


ホットスペアの仕組み

入出力エラーが発生した場合、Solaris ボリュームマネージャは、ホットスペア集合にホットスペアが追加された順序に基づいて、ホットスペア集合内でホットスペアを探します。Solaris ボリュームマネージャは、障害のあるスライスとサイズが同じかそれ以上のサイズの最初のホットスペアをホットスペア集合から探します。Solaris ボリュームマネージャが最初に見つけた、適切なサイズのホットスペアが不良スライスの置き換えに使用されます。Solaris ボリュームマネージャはそのホットスペアを「使用中 (In-Use)」の状態にして、必要であれば、データの同期化を自動的に開始します。ホットスペア集合内でのホットスペアの順序は、置き換えの後も変わりません。

ホットスペアの同期化には、サブミラーの場合は有効なサブミラーのデータが使用され、RAID-5 ボリュームの場合は、同じボリュームの他のスライスが使用されます。十分な大きさのホットスペアがホットスペア集合にないと、障害が発生したサブミラーや RAID-5 ボリュームはエラー状態となり、ホットスペアは使用されません。この場合、サブミラーではデータを完全に複製することができなくなり、RAID-5 ボリュームではデータの冗長性が失われます。


ヒント –

ホットスペア集合にホットスペアを追加するときは、小さいものから順に追加してください。これによって、小さいスライスの置き換えのために「大きい」スライスがむだに使用されることを防げます。


スライスで入出力エラーが発生すると、そのスライスは「障害 (Broken)」状態になります。この状態から回復するためには、まず、不良スライスを修理または交換します。次に、Solaris 管理コンソール内の「拡張ストレージ」を使用して、スライスを「使用可能 (Available)」状態に戻します。または、metahs -e コマンドを使用します。

サブミラーまたは RAID-5 ボリュームは、障害の発生したスライスが有効になるか、または交換されるまで、そのスライスの代わりにホットスペアを使用します。使用が終わると、そのホットスペアはホットスペア集合内で「使用可能 (Available)」になります。このホットスペアは再び使用可能になります。

ホットスペア集合の状態

次の表に、ホットスペア集合の状態と実行可能な処置を示します。

表 16–1 ホットスペア集合の状態 (コマンド行)

状態 

意味 

処置 

使用可能 (Available) 

ホットスペア集合内のホットスペアが動作していて、データを受け付けることのできる状態です。ホットスペアは現在のところ、書き込みも読み取りも行っていません。 

必要ない 

使用中 (In-Use) 

このホットスペア集合には、冗長ボリュームの不良スライスの代わりに使用されているホットスペアが含まれています。 

ホットスペアの使用状況を調べます。次に、このホットスペア集合によって置き換えられたボリュームのスライスを修理します。 

障害 (Broken) 

ホットスペアまたはホットスペア集合に問題があります。ただし、ただちにデータが失われる危険はありません。この状態は、すべてのホットスペアが使用中の場合にも表示されます。 

ホットスペアの使用状況または故障の原因を調べます。必要であれば、別のホットスペアをホットスペア集合に追加することができます。 

例 — ホットスペア集合

図 16–1に、ミラー d1 のサブミラー d11d12 に対応付けられているホットスペア集合を示します。どちらかのサブミラーのスライスに障害が発生すると、そのスライスは自動的にホットスペアで置き換えられます。ホットスペア集合自体はミラーではなく、個々のサブミラーボリュームに対応付けられています。必要であれば、このホットスペア集合を他のサブミラーや RAID-5 ボリュームに対応付けることもできます。

図 16–1 ホットスペア集合の例

サブミラーのコンポーネントに障害発生後、ホットスペアがコンポーネントの代わりに使用されます。

シナリオ — ホットスペア

ホットスペアは、冗長ボリューム (RAID-1 および RAID-5) の保護機能を強化し、データの安全性をさらに向上します。ホットスペアと、RAID-0 サブミラーや RAID-5 ボリュームを構成するスライスを対応付けることによって、障害が発生したスライスは、ホットスペア集合内の有効なスライスで自動的に置き換えられます。使用するために置き換えられたスライスは更新され、本来あるべき情報が与えられます。したがって、置き換えられたスライスは引き続き、元のスライスと同じように動作します。不良スライスは、いつでも交換できます。