Solaris のシステム管理 (IP サービス)

第 27 章 モバイル IP (概要)

モバイルインターネットプロトコル (IP) は、モバイルコンピュータ間での情報の送受信を可能にします。「モバイルコンピュータ」には、ラップトップや無線通信機器などがあります。モバイルコンピュータは外部のネットワークに移動できます。外部のネットワークに移動しても、モバイルコンピュータは元のネットワークにアクセスし、通信できます。モバイル IP の Solaris による実装では、IPv4 のみをサポートしています。

この章では、次の内容について説明します。

モバイル IP 関連の作業については、第 28 章モバイル IP の管理 (手順)を参照してください。モバイル IP のリファレンス情報については、第 29 章モバイル IP のファイルおよびコマンド (リファレンス)を参照してください。

モバイル IP の最新情報

モバイル IP 機能は、Solaris 10 8/07 よりあとの Solaris 10 Update から削除されました。

モバイル IP の概要

インターネットプロトコル (IP) の現在のバージョンでは、コンピュータがインターネットあるいはネットワークに接続する場所は固定されているものと仮定しています。また、IP はその IP アドレスが接続しているネットワークを識別するものと仮定しています。データグラムは、IP アドレスに含まれる場所情報に基づいてコンピュータに送信されます。多くのインターネットプロトコルは、ノードの IP アドレスを変更しない状態にしておく必要があります。よって、このようなプロトコルをモバイル IP コンピュータデバイスで実行すると、そのアプリケーションは失敗します。TCP 接続が一時的なものでない場合は、HTTP も失敗します。IP アドレスの更新と Web ページの更新は、場所を移動して行うことはできません。

モバイルコンピュータ、つまり「モバイルノード」が IP アドレスを変更せずに新たなネットワークに移動すると、そのアドレスは新しい接続点を反映しません。その結果、既存の経路制御プロトコルではデータグラムをモバイルノードに正しく送り届けることができません。このような場合、モバイルノードを新しい場所を表す別の IP アドレスに再構成しなければなりません。ただし、別の IP アドレスを割り当てるには手間がかかります。このように現在のインターネットプロトコルでは、モバイルノードがアドレスを変更せずに移動すれば、そのルートを失います。また、アドレスを変更すれば、今までの接続を失ってしまいます。

モバイル IP では、この問題を 2 つの IP アドレスをモバイルノードに与えることで解決します。1 つ目のアドレスは固定の「ホームアドレス」です。2 つ目のアドレスは新しい接続点ごとに変わる「気付アドレス (care-of address)」です。モバイル IP より、1 つのコンピュータはインターネットを自由に移動することが できます。また、1 つのコンピュータは同じホームアドレスを維持しながら、企業ネットワークを自由に移動できます。その結果、ユーザーがコンピュータの接続点を変更した場合でも、コンピュータ動作が中断されることはありません。ネットワークはモバイルノードの新しい場所に関する情報を更新します。モバイル IP に関連する用語の定義については、用語集を参照してください。

次の図にモバイル IP の一般的なトポロジを示します。

図 27–1 モバイル IP トポロジ

この図では、ホームエージェントのホームネットワークと、外来エージェントの外来ネットワーク間のモバイルノードの関係を示しています。

この図のモバイル IP トポロジを使って、データグラムがどのようにモバイル IP フレームワーク内のある点から別の点に移動するかを説明します。

  1. インターネットホストはモバイルノードのホームアドレスを使って、データグラムをモバイルノードへ送信します (通常の IP 経路制御処理)。

  2. モバイルノードがホームネットワーク上にある場合、データグラムは通常の IP 処理でモバイルノードに配信されます。それ以外の場合は、ホームエージェントがデータグラムを取得します。

  3. モバイルノードが外部ネットワーク上にある場合、ホームエージェントがデータグラムを外来エージェントに転送します。外来エージェントの IP アドレスが外部 IP ヘッダーに表示されるように、ホームエージェントはそのデータグラムを外部データグラム内にカプセル化する必要があります。

  4. 外来エージェントはデータグラムをモバイルノードに配信します。

  5. モバイルノードからデータグラムは、通常の IP 経路制御手順でインターネットホストへ送信されます。モバイルノードが外部ネットワーク上にある場合は、パケットは外来エージェントに配信されます。外来エージェントはデータグラムをインターネットホストに転送します。

  6. 進入フィルタがある場合には、データグラムの送信元であるサブネットに対して、発信元アドレスをトポロジとして正しくしないと、ルーターがデータグラムを転送できません。この状況がモバイルノードと通信ノード間のリンク上に存在する場合、外来エージェントで逆方向トンネリングを使用する必要があります。そのあと、外来エージェントはモバイルノードがそのホームエージェントに送信する各データグラムを配信します。ホームエージェントは、データグラムが通過するパスを経由してそのデータグラムをホームネットワーク上にあるモバイルノードに転送します。この処理により、確実に発信元アドレスは、データグラムが横断する必要のあるすべてのリンクに対して正しくなります。

無線通信の場合、図 27–1 では無線トランシーバを使用してデータグラムをモバイルノードに送信します。また、インターネットホストとモバイルノード間で送受信されるすべてのデータグラムは、モバイルノードのホームアドレスを使用します。モバイルノードが外部ネットワークにある場合でも、ホームアドレスを使用します。その際、気付アドレスはモバイルエージェントとの通信にだけ使用されます。気付アドレスでは、インターネットホストが 関わることはありません。

モバイル IP の構成要素

モバイル IP は次のような新しい構成要素を使用します。

モバイル IP の動作

モバイル IP により、IP データグラムをモバイルノードへ経路制御できます。モバイルノードのホームアドレスは、モバイルノードの接続場所に関係なく、常にモバイルノードを指します。ホームから離れているときは、気付アドレスにモバイルノードのホームアドレスを関連付けます。気付アドレスが、モバイルノードの現在の接続点に関する情報を提供します。モバイル IP は、登録機構を利用して気付アドレスをホーム エージェントに登録します。

ホームエージェントは、データグラムをホームネットワークからその気付アドレスに転送します。ホームエージェントは、モバイルノードの気付アドレスを含む新しい IP ヘッダーを宛先 IP アドレスとして作成します。この新しいヘッダーは元の IP データグラムをカプセル化します。その結果、モバイルノードのホームアドレスは、カプセル化されたデータグラムが気付アドレスに到達するまで、その経路制御に影響を与えません。このようなカプセル化を「トンネリング」とも呼びます。気付アドレスに到達後、データグラムはカプセル化を解除されます。そのあと、データグラムはモバイルノードに配信されます。

次の図では、外部ネットワーク B に移動する前の、ホームネットワーク A 上にあるモバイルノードを示しています。どちらのネットワークもモバイル IP をサポートしています。モバイルノードは、モバイルノードのホームアドレス 128.226.3.30 によって常に関連付けられています。

図 27–2 ホームネットワーク上にあるモバイルノード

この図では、ホームネットワーク上にあるモバイルノード、ホームエージェントへの接続、および外来エージェントとの関連性を示しています。

次の図では、外部ネットワーク B に移動したモバイルノードを示しています。モバイルノード宛てのデータグラムはホームネットワーク A 上のホームエージェントが取得し、カプセル化します。そのデータグラムをネットワーク B 上の外来エージェントに転送します。カプセル化されたデータグラムを受信すると、外来エージェントは外側のヘッダーを取り除きます。そのあと、そのデータグラムをネットワーク B にあるモバイルノードに配信します。

図 27–3 モバイルノードの外部ネットワークへの移動

この図では、外部ネットワーク上のモバイルノード、外来エージェントへの接続、およびホームエージェントとの関連性を示しています。

気付アドレスは外来エージェントに含まれる場合があります。また、動的ホスト構成プロトコル (DHCP) またはポイントツーポイントプロトコル (PPP) を使ってモバイルノードにより取得される場合もあります。PPP により取得される場合、モバイルノードは、共存気付アドレスを持っています。

モビリティーエージェント (ホームエージェントと外来エージェント) は「エージェント通知」メッセージを使用してその存在を通知します。オプションとしてモバイルノードは、エージェント通知メッセージを要請できます。モバイルノードは、「エージェント要請」メッセージによって、ローカルに接続されている任意のモビリティーエージェントを使用します。モバイルノードは、そのエージェント通知を受信して、モバイルノードがホームネットワーク上または外部ネットワーク上にあるのかを判断します。

モバイルノードは、特別な「登録」処理を使用して現在の場所に関する情報をホームエージェントに提供します。また、常に存在を通知するモビリティーエージェントを「待機」します。さらに、それらの通知を利用して、モバイルノードが別のサブネットに移動する時期を判断します。モバイルノード自体がサブネットに移動したと判断すると、新しい外来エージェントを使用して登録メッセージをホームエージェントに転送します。ある外部ネットワークから別の外部ネットワークにモバイルノードが移動したときにも、モバイルノードでは同じ処理を行います。

モバイルノード自体がホームネットワークにいることを判断すると、モビリティーサービスを利用せずに動作します。モバイルノードがホームネットワークに戻ると、ホームエージェントの「登録を解除」します。

エージェントの発見

モバイルノードは次の情報を調べ「エージェントの発見」をします。

モビリティーエージェントは、「エージェント通知」を送信してネットワークにサービスを通知します。エージェント通知がない場合は、モバイルノードは通知を要請できます。これを「エージェント要請」といいます。モバイルノードで自身の共存気付アドレスをサポートできる場合、モバイルノードはエージェント要請に通常のルーター広告を使用できます。

エージェント通知

モバイルノードは、エージェント通知を使用してインターネットまたは組織のネットワークへの現在の接続点を決めます。エージェント通知とは、モビリティーエージェント通知拡張も送信するように拡張されたインターネット制御メッセージプロトコル (ICMP) ルーター広告のことです。

外来エージェント (FA) は、忙しすぎて新たなモバイルノードを処理できない場合があります。しかし、外来エージェントはエージェント通知を継続して送信しなければなりません。このようにして、外来エージェントに登録済みのモバイルノードが、外来エージェントの有効範囲から外れていないことを認識できます。また、外来エージェントに障害が発生していないことも認識できます。外来エージェントに登録済みのモバイルノードが外来エージェントからエージェント通知を受信しない場合には、その外来エージェントと通信できないと認識します。

動的インタフェースによるエージェント通知

外来エージェントの実装を設定して、動的に作成されたインタフェースによって通知を送信できます。通知するインタフェースによる、要請されていない通知を制限するかどうかを決定できるオプションがあります。動的に作成されたインタフェースは、mipagent デーモンの開始後に設定されるインタフェースとしてのみ定義されます。動的インタフェースによる通知は、モバイルインタフェースを一時的にサポートするアプリケーションに有用です。さらに、要請されていない通知を制限することで、ネットワークの帯域幅を節約できます。

エージェント要請

各モバイルノードはエージェント要請を実装する必要があります。モバイルノードは、ICMP ルーターの要請メッセージ用に指定されたものと同じエージェント要請用の手順、デフォルト値、および定数を使用します。

モバイルノードが要請を送信する頻度は、モバイルノードによって制限されます。モバイルノードはエージェントの検索時に、3 回の初期要請 (最大で 1 秒間に 1 回ずつ) を送信できます。モバイルノードをエージェントに登録したあとは、要請を送信する頻度を減少させ、ローカルネットワークのオーバーヘッドを制限します。

気付アドレス

モバイル IP は、気付アドレスを取得するために次の代替モードを提供します。

共存気付アドレスにより、モバイルノードは外来エージェントなしで機能できます。その結果、モバイルノードは外来エージェントを配置していないネットワークで共存気付アドレスを使用できます。

共存気付アドレスをモバイルノードが使用している場合、モバイルノードはその気付アドレスのネットワーク接頭辞によって識別されるリンク上になければなりません。リンク上にないと、その気付アドレス宛てのデータグラムを配信できません。

逆方向トンネリングを使用するモバイル IP

「モバイル IP の動作」では、インターネット上の経路制御は、データパケット発信元アドレスから独立したものと想定されています。しかし、中間ルーターは、トポロジとして正しい発信元アドレスを確認します。中間ルーターが確認する場合は、モバイルノードで逆方向トンネルを設定しなければなりません。モバイルノードの気付アドレスからホームエージェントへ逆方向トンネルを設定することで、IP データパケットについてトポロジとして正しいソースアドレスを確保できます。逆方向トンネルのサポートは、外来エージェントとホームエージェントによって通知されます。モバイルノードは、登録時に外来エージェントとホームエージェントの間に逆方向トンネルを要求できます。逆方向トンネルは、モバイルノードの気付アドレスで始まり、ホームエージェントで終わるトンネルです。次の図に逆方向トンネルを使用するモバイル IP トポロジを示します。

図 27–4 逆方向トンネルを使用するモバイル IP

この図では、モバイルノードが逆方向トンネルを使用して、通信ノードと通信を行う方法を示しています。

専用アドレスの制限付きサポート

専用アドレスを持ち、インターネットを経由してグローバルに経路制御できないモバイルノードには、逆方向トンネルが必要です。Solaris モバイル IP は、専用アドレスを持つモバイルノードをサポートします。Solaris モバイル IP がサポートしない機能については、「Solaris モバイル IP 実装の概要」 を参照してください。

外部との接続が必要でない場合、ネットワークでは専用アドレスを使います。専用アドレスは、インターネットを通る経路制御ができません。専用アドレスを持つモバイルノードは、データグラムをそのホームエージェントに逆方向トンネリングを設定することによって通信ノードとだけ通信できます。通常、モバイルノードがホームにあるときにデータグラムが配信される場合でも、ホームエージェントはデータグラムを通信ノードに配信します。次の図は、専用アドレスが指定された 2 つのモバイルノードのネットワークトポロジを示します。その 2 つのモバイルノードは、同じ外来エージェントに登録されたときに同じ気付アドレスを使用します。

図 27–5 同じ外部ネットワーク上にある、専用アドレスが指定されたモバイルノード

この図では、同じ外来エージェントに登録されたときに同じ気付アドレスを使用する、2 専用アドレスが指定された 2 つのモバイルノードのネットワークトポロジを示しています。

気付アドレスとホームエージェントの IP アドレスが公衆インターネットによって接続される異なるドメインに属する場合、それらのアドレスはグローバルに経路制御できるアドレスでなければなりません。

同じ外部ネットワーク上に、同じ IP アドレスを持つ、専用アドレスが指定された 2 つのモバイルノードを持つことは可能です。ただし、各モバイルノードが異なるホームエージェントを持っていなければなりません。さらに、各モバイルノードが共通の 1 つの外来エージェントの異なる通知サブネット上になければなりません。次の図は、このような状況を表わすネットワークトポロジを示しています。

図 27–6 異なる外部ネットワーク上にある、専用アドレスが指定されたモバイルノード

この図では、異なる外部ネットワークにある、専用アドレスが指定された 2 つのモバイルノードのネットワークトポロジを示しています。

モバイル IP の登録

モバイルノードは、エージェント通知を利用してサブネット間を移動した時期を検出します。モバイルノードは、その場所を変更したことを示すエージェント通知を受信すると、外来エージェントを経由して登録します。モバイルノードは、共存気付アドレスを取得できる場合でも、この機能によってサイトはモビリティーサービスへのアクセスを制限できます。

モバイル IP 登録機能は、モバイルノードの現在の到達可能情報をホームエージェントに通知するための融通性のある機構を提供します。登録処理によってモバイルノードは次の作業を実行できます。

登録メッセージは、モバイルノード、外来エージェント、およびホームエージェント間の情報を交換します。登録によってホームエージェントでのモビリティー結合を作成または変更します。登録は、指定された有効期間モバイルノードのホームアドレスをその気付アドレスに関連付けます。

登録処理によってモバイルノードは次の機能を実行できます。

モバイル IP は、モバイルノードに対して次の登録処理を定義します。

これらの処理には登録要求および登録応答メッセージの交換が伴います。外来エージェントを使用して登録する場合、登録処理は次の手順で行われます (下図を参照)。

  1. モバイルノードは、可能性がある外来エージェントに登録要求を送信して、登録処理を開始します。

  2. 外来エージェントは登録要求を処理し、その要求をホームエージェントに転送します。

  3. ホームエージェントは登録応答を外来エージェントに送信し、要求を承認または否認します。

  4. 外来エージェントは登録応答を処理し、その応答をモバイルノードに転送して、その要求を処理したことを通知します。

図 27–7 モバイル IP の登録処理

この図では、モバイルノードが、外来エージェントを使用してホームエージェントに登録する方法を示しています。

モバイルノードがホームエージェントに直接登録する場合、登録処理には次の手順が必要です。

また、逆方向トンネルが外来エージェントまたはホームエージェントのいずれかに要求されます。外来エージェントが逆方向トンネリングをサポートする場合、モバイルノードは登録処理を使用して、逆方向トンネルを要求します。モバイルノードは、登録要求で逆方向トンネルフラグを設定することによって、逆方向トンネルを要求します。

ネットワークアクセス識別子 (NAI)

インターネット内で使用している認証、承認、会計 (AAA) サーバーは、ダイアルアップコンピュータ用の認証および承認サービスを提供します。これらのサービスは、ノードが AAA サーバーにより外部ドメインに接続しようとしているときにモバイル IP を使用しているモバイルノードにも、同様に価値がある可能性があります。AAA サーバーは、ネットワークアクセス識別子 (NAI) を使ってクライアントを特定します。モバイルノードは NAI をモバイル IP 登録要求に含めることによって自分自身を識別できます。

NAI は通常モバイルノードを特定するために使用されるので、モバイルノードのホームアドレスが必ずしもこの機能を提供する必要はありません。したがって、モバイルノードでそれ自体を認証します。その結果、モバイルノードではホームアドレスがない場合でも、外部ドメインへ接続するための承認を得ることができます。ホームアドレスの割り当てを要求するために、モバイルノードの NAI 拡張を含むメッセージは登録要求内でホームアドレスをゼロに設定できます。

モバイル IP メッセージの認証

各モバイルノード、外来エージェント、およびホームエージェントは、さまざなモバイル IP 構成要素間のモビリティーセキュリティーアソシエーションをサポートします。セキュリティーアソシエーションは、セキュリティーパラメータインデックス (SPI) と IP アドレスで索引付けされています。モバイルノードの場合、このアドレスはモバイルノードのホームアドレスです。モバイルノードとそのホームエージェント間の登録メッセージは、モバイルホーム間認証拡張により認証されます。必須であるモバイルホーム間認証に加え、ユーザーは任意のモバイルと外来エージェント間、およびホームと外来エージェント間認証を使用できます。

モバイルノード登録要求

モバイルノードは、「登録要求」メッセージを使用してそのホームエージェントに登録します。このようにして、ホームエージェントが (たとえば新しい有効期間をもつ) そのモバイルノード用のモビリティー結合を作成または変更できるようにします。外来エージェントは登録要求をホームエージェントに転送できます。ただしモバイルノードが、共存気付アドレスを登録している場合には、モバイルノードはその登録要求を直接ホームエージェントに送信できます。外来エージェントが、登録メッセージを送信する必要があることを通知する場合、モバイルノードは登録要求を外来エージェントに送信しなければなりません。

登録応答メッセージ

モビリティーエージェントは、登録要求メッセージを送信したモバイルノードに「登録応答」メッセージを返します。モバイルノードが外来エージェントにサービスを要求している場合、その外来エージェントはホームエージェントから応答を受信します。そのあと、外来エージェントはその応答をモバイルノードに転送します。応答メッセージには、登録要求の状態についてモバイルノードと外来エージェントに通知するのに必要なコードが含まれています。また、ホームエージェントにより許可されている有効期間も含まれています。有効期間は元の要求よりも短い可能性があります。登録応答には動的ホームアドレス割り当てが含まれることがあります。

外来エージェント

外来エージェントは、ほとんどの場合モバイル IP の登録において受動的役割を果たします。また、ビジターテーブルに登録されているモバイルノードをすべて追加します。外来エージェントは、登録要求をモバイルノードとホームエージェント間で転送します。また、気付アドレスをサポートしている場合は、データグラムをカプセル化解除してモバイルノードに配信します。さらに、周期的エージェント通知メッセージを送信して外来エージェントの存在を通知します。

ホームエージェントと外来エージェントが逆方向トンネルをサポートし、モバイルノードが逆方向トンネルを要求する場合、外来エージェントはすべてのパケットをモバイルノードからホームエージェントへトンネリングします。そのあと、ホームエージェントはそのパケットを通信ノードに送信します。この処理は、モバイルノードへの配信用にホームエージェントがモバイルノードのすべてのパケットを外来エージェントにトンネリングする場合と逆です。逆方向トンネルをサポートしている外来エージェントは、登録のために逆方向トンネルをサポートしていることを通知します。ローカルポリシーにより、外来エージェントは、逆方向トンネルフラグが設定されていないときに、登録要求を拒否できます。また、モバイルノードが外来エージェント上の異なる 2 つのインタフェースに移動するときに、外来エージェントが特定できるのは、同じ (専用) IP アドレスを持つ複数のモバイルノードだけです。順方向トンネルの場合、外来エージェントは、着信側のトンネルインタフェースを調べることによって、同じ専用アドレスを共有する複数のモバイルノードを特定します。着信トンネルインタフェースは、固有のホームエージェントのアドレスに対応します。

ホームエージェント

ホームエージェントは、モバイル IP の登録処理において能動的役割を果たします。ホームエージェントは、モバイルノードから登録要求を受信します。登録要求は、外来エージェントによって転送されます。また、このモバイルノードに対するモビリティー結合の記録を更新します。さらに、各登録要求に対して適切な登録応答を発行します。その上、モバイルノードがホームネットワークから離れているときには、そのモバイルノードにパケットを転送します。

ホームエージェントは、モバイルノード用に構成された物理サブネットを持たなければいけないわけではありません。ただし、ホームエージェントは、登録を承認するときに mipagent.conf ファイルまたはほかの機構を使用してモバイルノードのホームアドレスを認識しなければなりません。mipagent.conf の詳細は、「モバイル IP 構成ファイルの作成」を参照してください。

専用アドレスが指定されたモバイルノードをサポートするには、mipagent.conf ファイルで専用アドレスが指定されたモバイルノードを設定します。ホームエージェントで使用されるホームアドレスは一意にする必要があります。

動的ホームエージェントの発見

モバイルノードは、登録しようとする際にそのホームエージェントのアドレスを認識していないことがあります。モバイルノードがそのホームエージェントのアドレスを認識していない場合、動的ホームエージェントアドレス解決を使用してホームエージェントのアドレスを認識できます。この場合、モバイルノードは登録要求のホームエージェントフィールドをモバイルノードのホームネットワークのサブネット指定のブロードキャストアドレスに設定します。ブロードキャスト宛先アドレスが指定された登録要求を受信した各ホームエージェントは、拒否登録応答を返信することによってモバイルノードの登録を拒否します。こうすることによってモバイルノードは、拒否応答に示された、ホームエージェントのユニキャスト IP アドレスを次に登録を行う際に使用できます。

モバイルノードに対するデータグラムの経路制御

モバイルノード、ホームエージェント、および外来エージェントが協力して、外部ネットワークに接続されているモバイルノードへのデータグラムのルートを指定する方法を説明します。Solaris OS でサポートされているモバイル IP の機能については、「Solaris モバイル IP 実装の概要」を参照してください。

カプセル化方式

ホームエージェントおよび外来エージェントは、利用可能なカプセル化方法のいずれか 1 つを使用して、トンネルを使用するデータグラムをサポートします。定義されているカプセル化の方法は、IP 内 IP (IP-in-IP) カプセル化、最小カプセル化、および汎用経路制御カプセル化です。外来エージェントおよびホームエージェントの場合 (つまり、モバイルノードとホームエージェントが間接的に共存する場合)、同じカプセル化の方法をサポートする必要があります。また、すべてのモバイル IP エントリが IP 内 IP カプセル化をサポートする必要があります。

ユニキャストデータグラムの経路制御

外部ネットワークに登録された場合、モバイルノードは次に示す規則を使用してデフォルトのルーターを選択します。

ブロードキャストデータグラム

ホームエージェントがブロードキャストデータグラムまたはマルチキャストデータグラムを受信したときは、ホームエージェントが受信するモバイルノードに対してそのデータグラムだけを転送します。ブロードキャストデータグラムおよびマルチキャストデータグラムをモバイルノードに転送する方法は、主に 2 つの要素によって異なります。モバイルノードで外来エージェントが提供する気付アドレスを使用するか、その独自の共存気付アドレスを使用するかという 2 つの要素です。気付アドレスを使用する場合、データグラムを二重カプセル化する必要があります。最初の IP ヘッダーは、データグラムの配信先となるモバイルノードを示します。最初の IP ヘッダーは、ブロードキャストデータグラムまたはマルチキャストデータグラムには存在しないので注意してください。2 番目の IP ヘッダーは、気付アドレスを示し、その通常のトンネルヘッダーとなります。独自の共存気付アドレスを使用する場合、モバイルノードはその独自のデータグラムのカプセル化を解除し、そのデータグラムを通常のトンネル経由のみで送信する必要があります。

マルチキャストデータグラムの経路制御

モバイルノードが外部サブネットの移動時に、マルチキャストトラフィックの受信を開始するには、次のいずれかの方法でマルチキャストグループを結合します。

マルチキャストの経路制御は IP 発信元アドレスに依存しています。マルチキャストデータグラムを送信するモバイルノードは、そのリンクで有効な発信元アドレスからそのデータグラムを送信する必要があります。したがって、マルチキャストデータグラムを移動先ネットワークに直接送信するモバイルノードは、共存気付アドレスを IP 発信元アドレスとして使用します。また、モバイルノードはそのアドレスに関連付けられるマルチキャストグループを結合する必要もあります。同様に、移動前にホームサブネットでマルチキャストデータグラムを結合する、またはホームエージェントへの逆方向トンネルを通して移動中にマルチキャストグループを結合するモバイルノードは、そのホームアドレスをマルチキャストデータグラムの IP 発信元アドレスとして使用します。したがって、モバイルノードはそのホームサブネットにそれらのデータグラムを逆方向トンネルで送信する必要があると同様に、その共存気付アドレスを使用してモバイルノード自体または外来エージェントの逆方向トンネルのいずれかも使用します。

モバイルノードが移動先のサブネットから常に結合している方が効率的であると思われる場合、モバイルノードのままにします。よって、モバイルノードはサブネットに移動するたびにその結合を繰り返すことになります。モバイルノードがそのホームエージェントを通して結合した方が効率的である場合には、このオーバーヘッドを処理する必要はありません。また、マルチキャストセッションはホームサブネットで有効な場合に限り存在します。さらに、特定の方法でモバイルノードが加入するためには、そのほかにも留意点があります。

モバイル IP におけるセキュリティーについて

多くの場合、モバイルコンピュータは無線リンクを利用してネットワークに接続されます。無線リンクは特に、盗聴や、攻撃などの能動的な攻撃に対して脆弱です。

モバイルIP はこの脆弱性を低下あるいは除去することはできないため、それらの攻撃に対してモバイル IP 登録メッセージを保護するために認証形式を使用します。使用しているデフォルトのアルゴリズムは、128 ビットの鍵を採用した MD5 です。デフォルトの動作モードでは、ハッシュしようとするデータの前後にこの 128 ビット鍵がある必要があります。外来エージェントは、MD5 を使用して認証をサポートします。また、128 ビット以上の鍵サイズ、および手動による鍵配布を使用し た認証もサポートしています。モバイル IP では、より多くの認証アルゴリズム、アルゴリズムモード、鍵の配布方法、および鍵サイズをサポートできます。

これらの方法により、モバイル IP 登録メッセージの改ざんを防止します。さらに、前のモバイル IP 登録メッセージと重複するメッセージを受信した場合、モバイル IP は モバイル IP の要素を警告する応答保護形式も使用します。この保護方法を使用しないと、登録メッセージの受信時にモバイルノードとそのホームエージェントが同期をとることができなくなります。そのため、モバイル IP はその状態を更新します。たとえば、モバイルノードが外来エージェントを通して登録している間に、ホームエージェントが重複する登録解除メッセージを受信したとします。

その場合、「ナンス (Nonce)」と呼ばれる方法または「タイムスタンプ」によって、応答保護を確立します。ナンスおよびタイムスタンプは、モバイル IP 登録メッセージ内でホームエージェントとモバイルノードによって交換されます。ナンスおよびタイムスタンプは、認証機構による変更から保護されています。その結果、ホームエージェントまたはモバイルノードが重複するメッセージを受け取った場合、そのメッセージを破棄できます。

トンネリングは非常に攻撃されやすく、特に登録が認証されていない場合に脆弱です。また、アドレス解決プロトコル (ARP) は認証されていないため、別のホストのトラフィックを盗むために利用される可能性があります。