Solaris のシステム管理 (第 3 巻)

PPP によるネットワークの拡張

この節では、PPP に関連する通信の概念を紹介します。また、最も一般的な PPP 構成についても説明します。

ポイントツーポイント通信リンク

Solaris PPP の最も一般的な使用目的は、ポイントツーポイント通信リンクを設定することです。一般的なポイントツーポイント通信構成は、2 つのエンドポイントを通信リンクで接続したものです。この一般構成では、エンドポイントシステムはコンピュータでも端末でもよく、切り離された状態でも、ネットワークに物理的に接続していてもかまいません。通信リンクという用語は、2 つのエンドポイントシステムを接続するハードウェアとソフトウェアを指します。図 21-1 にこの概念を示します。

図 21-1 基本的なポイントツーポイントリンク

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ダイヤルアウト操作とアウトバウンド通信

一方のエンドポイントが通信リンクの反対側のエンドポイントとの通信を望むとき、そのエンドポイントはダイヤルアウト操作を開始します。たとえば、エンドポイント B と通信する場合、その対等ホストであるエンドポイント A のユーザーは、rlogin end-point-B と入力します。すると、エンドポイント A は通信リンクを介してダイヤルアウトします。この場合、エンドポイント A はダイヤルアウトマシンとして機能することになります。rlogin コマンドは、モデムがエンドポイント B の電話番号をダイヤルすることを引き起こします。このコマンドが起動するエンドポイント A 動作と相手に渡す情報を、アウトバウンド通信といいます。

ダイヤルインとインバウンド通信

データが通信リンクを介してエンドポイント B に到達すると、エンドポイント B のシステムは着信データを受け取り、肯定応答信号をエンドポイント A に送って、通信を確立します。この場合、エンドポイント B は他のシステムからのダイヤルインを受け入れるので、ダイヤルインマシンとして機能することになります。通信の受信側に渡される情報と受信側が行う動作を、インバウンド通信といいます。

Solaris PPP がサポートするポイントツーポイント構成

Solaris PPP は、次の 4 つの種類のポイントツーポイント構成をサポートしています。

PPP リンクは、実質的にはローカルエリアネットワークと同じ種類の接続を提供しますが、ブロードキャスト機能だけはありません。次の各節では、上記の構成についてそれぞれ簡単に説明します。各構成の設定方法については、第 22 章「PPP 構成の計画」で説明します。

2 つの単独ホストをポイントツーポイントリンクで接続

PPP を使用すると、異なる場所にある 2 つのスタンドアロンマシンを接続するポイントツーポイントリンクを設定できます。これにより、事実上、この 2 つのマシンだけからなるネットワークが作成されることになります。これはエンドポイントが 2 つしかなく、したがって最も単純なポイントツーポイント構成と言えます。図 21-1 に示した一般的な構成でも、このホストツーホスト構成が使用されています。

可搬マシンをダイヤルインサーバーに接続

従来は、標準的なダイヤル呼び出し接続または一時接続の場合、ネットワークに接続できるのは ASCII 端末だけでした。Solaris PPP を用いれば、個々のマシンを PPP リンクの 1 つのエンドポイントとして構成することによって、それらのマシンを物理的に離れた場所にあるネットワークの一部とすることができます。この可搬接続は、頻繁に旅行するユーザーや在宅勤務のユーザーを含むネットワークの場合に、特に便利です。

図 21-2 に示す可搬コンピュータは、それぞれネットワーク上のエンドポイントシステムへのポイントツーポイントリンクを持っています。ネットワーク上のエンドポイントシステムを、ダイヤルインサーバーと言います。

図 21-2 可搬コンピュータと動的リンクを持つダイヤルインサーバー

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動的ポイントツーポイントリンクを持つダイヤルインサーバー

図 21-2 に示したネットワークのエンドポイントマシンは、動的ポイントツーポイントリンクを持つダイヤルインサーバーとして働きます。これをダイヤルインサーバーと呼ぶのは、リモートマシンがこのマシンにダイヤルインすることによってネットワークに入ることができるからです。サーバーは、あるマシンからダイヤルインの要求を受け取ると、必要時に提供するという方式でそのマシンに PPP リンクを割り当てます。

ダイヤルインサーバーは、動的ポイントツーポイントリンクまたはマルチポイントリンクを介してリモートホストと通信します。マルチポイントリンクについては、「マルチポイント通信リンク」で説明します。動的ポイントツーポイントには、ポイントツーポイント通信と同じ利点があります。つまり、リンク上で RIP を実行でき、ブロードキャストが使用可能になります。最も重要なのは、物理ネットワーク上の複数のマシンが、ダイヤルインサーバーとして機能することができるという点です。これはバックアップサーバーを構成できることを意味し、したがってサーバーの重複が可能となり、管理が容易になります。図 21-2 の各マシンはネットワークエンドポイントとは直接通信できますが、互いに直接通信することはできません。ダイヤルインサーバーエンドポイントを仲介として、相互に情報を受け渡しする必要があります。

2 つのネットワークをポイントツーポイントリンクで接続

PPP を使用すると、2 つのネットワークをポイントツーポイントリンクで接続し、各ネットワーク上の 1 つのシステムをエンドポイントとして機能させることができます。これらのエンドポイントは、図 21-1 に示したのと実質的に同じ方法で、モデムと電話回線を使用して互いに通信します。ただし、この設定では、エンドポイント、モデム、PPP ソフトウェアは、各物理ネットワークのルーターとして働きます。この種類の構成方式を使用して、地理的に広い範囲にわたるインターネットワークを構築できます。

図 21-3 は、異なる場所にある 2 つのネットワークをポイントツーポイントリンクで接続した構成を示しています。

図 21-3 PPP リンクで接続された 2 つのネットワーク

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この例では、エンドポイント A と B、それぞれのモデム、公衆電話回線、PPP ソフトウェアが、ネットワーク間のルーターとして働きます。これらのネットワークには、物理ネットワーク間のルーターとして機能する別のホストが存在することもあります。また、PPP ルーターとして機能するホストが追加のネットワークインタフェースボードを備えていて、同時に物理ネットワークのルーターとして機能する場合もあります。

マルチポイント通信リンク

Solaris PPP を使用して、マルチポイント通信リンクを設定できます。この種類の構成では、それぞれ個々のマシンが通信リンク上の 1 つのエンドポイントとして働きます。リンクの 1 つの端に複数のエンドポイントマシンが存在する場合もあります。これは、通信リンクの両端に 1 つずつしかエンドポイントがないポイントツーポイント構成とは異なります。

図 21-4 可搬コンピュータとマルチポイントダイヤルインサーバー

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PPP がサポートするマルチポイント構成

PPP によって構成できるマルチポイントリンクには、次の 2 つの種類があります。

次の各節では、これらの構成の概略を説明します。各構成の設定方法については、第 22 章「PPP 構成の計画」で説明します。

マルチポイントダイヤルインサーバー

図 21-3 では、地理的に離れた場所にある 3 台のコンピュータが、ネットワーク上のエンドポイントマシンへのポイントツーポイントリンクを介して、互いに通信します。しかし、ネットワークエンドポイントマシンは、マルチポイントリンクを介して可搬コンピュータと通信できるので、このマシンはマルチポイントダイヤルインサーバーとみなすことができます (「動的ポイントツーポイントリンクを持つダイヤルインサーバー」で説明したように、動的ポイントツーポイント接続を持つダイヤルインサーバーも設定できます)。

ダイヤルインサーバーは、マルチポイント PPP リンクの反対側にあるすべてのマシンと通信できます。図 21-4 の各マシンはマルチポイントダイヤルインサーバーとは直接通信できますが、各マシンどうしが直接通信することはできません。各マシンは、ダイヤルインサーバーを介して、互いに情報を受け渡しする必要があります。

仮想ネットワーク

PPP を使用して仮想ネットワークを設定できます。この設定では、モデム、PPP ソフトウェア、電話回線が、「仮想」ネットワークメディアとなります。Ethernet やトークンリングなどの物理ネットワークでは、コンピュータはケーブルで直接ネットワークメディアに接続されています。仮想ネットワークでは、現実のネットワークメディアは存在しません。

仮想ネットワーク上で各マシンをマルチポイント通信リンクにより接続した場合、マシンはどれも対等ホストとなります。各ホストは、モデムと電話回線を介して、他のエンドポイントマシンと通信できます。各コンピュータはダイヤルインマシンとしても機能するので、仮想ネットワーク上の対等ホストからのダイヤルインを受け入れることができます。

図 21-5 は、モデムと電話回線によって相互に接続されている可搬コンピュータで構成されている、仮想ネットワークを示しています。

図 21-5 可搬コンピュータの仮想ネットワーク

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各マシンはそれぞれ、仮想ネットワーク上の他のマシンから離れた場所にある別々のオフィスに設置されていますが、マルチポイント通信リンクを介して、他の対等ホストとの通信を確立できます。