Solaris のシステム管理 (第 3 巻)

ネットワークソフトウェアが情報を転送する仕組み

ネットワークソフトウェアの設定は複雑な作業です。そこで、まず設定しようとしているネットワークソフトウェアがどのようにして情報を転送するかを理解しておくことが重要です。

図 2-2 に、ネットワーク通信に関係のある基本的な要素を示します。

図 2-2 ネットワーク上での情報の転送

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この図では、あるコンピュータがネットワークメディアを介して、同じメディアに接続している別のコンピュータにパケットを送信しています。

情報が転送される仕組み : パケット

ネットワークを介して転送する情報の基本単位をパケットと言います。パケットの構成は通常の手紙によく似ています。

どのパケットにもヘッダーがあり、これは手紙の封筒に当たります。ヘッダーには、受取先と送信元のアドレスに加えて、パケットがプロトコル群の各層を移送されるときにそのパケットをどのように扱うかを指示する情報が含まれています。

パケットのメッセージ部は手紙の本文に相当します。パケットに含めることのできるデータのバイト数には制限があり、これは使用しているネットワークメディアによって異なります。したがって、電子メールメッセージなどのような代表的な通信は、いくつかのパケットフラグメントに分割されることがあります。

情報を送受信する主体 : ホスト

経験を積んだ Solaris ユーザーなら、もちろん「ホスト」という言葉はよくご存じのことでしょう。この言葉は、しばしば「コンピュータ」または「マシン」の同義語として使用されます。TCP/IP の視点から見れば、ネットワーク上に存在するエンティティは、ルーターとホストの 2 つだけです。

ルーターは、ネットワークから別のネットワークへとパケットを転送するマシンです。これを行うには、ルーターは少なくとも 2 つのネットワークインタフェースを持っている必要があります。ネットワークインタフェースが 1 つしかないマシンは、パケットを転送できません。このようなマシンはホストとみなされます。ネットワーク管理者がネットワーク上に設定するマシンのほとんどはホストです。

複数のネットワークインタフェースを持っているけれどもルーターとしては機能しないマシンもあります。このようなマシンをマルチホームホストと呼びます。マルチホームホストは、持っているネットワークインタフェースを使用して複数のネットワークに直接的に接続されます。ただし、1 つのネットワークから別のネットワークへとパケットを転送することはしません。

あるホストが通信を開始したとき、それを送信側ホスト、送信、送信元、などと呼びます。たとえば、あるホストのユーザーが rlogin を入力するか、または他のユーザーに電子メールメッセージを送ると、そのホストは通信を開始します。通信の宛先となるホストを、受信側ホスト、受信側、受信先などと呼びます。たとえば、rlogin への引数として指定されたリモートホストは、そのログイン要求の受信先です。

各ホストは、ネットワーク上の他の対等ホストに自身を識別させるための次の 3 つの特性を備えています。

ホスト名

ホスト名 は、ローカルマシンの名前と所属組織の名前を組み合わせたものです。多くの組織では、ユーザーが各自のマシンのホスト名を選定します。sendmailrlogin などのプログラムは、ネットワーク上のリモートマシンを指定するときにホスト名を使用します。ホスト名については、 『Solaris のシステム管理 (第 1 巻)』でより詳しく説明しています。

マシンのホスト名は、一次ネットワークインタフェースの名前にもなります。この概念は、ネットワークデータベースを設定したりルーターを構成したりするときに重要な意味を持ちます。

ネットワークを設定するときは、そのネットワークに関与するすべてのマシンのホスト名を入手する必要があります。ネットワークデータベースを設定するときに、必要となります。詳細は、「ネットワーク上のエンティティへの名前付け」を参照してください。

IP アドレス

「IP アドレス」は、TCP/IP ネットワーク上で各マシンが持っている 2 種類のアドレスの 1 つで、そのマシンをネットワーク上の他の対等ホストに識別させるためのものです。このアドレスには、特定のホストがネットワーク上のどこに位置しているかを、対等ホストに知らせる役割もあります。ネットワーク上のマシンに Solaris オペレーティング環境をインストールしたことがある場合は、インストール時に IP アドレスを指定したことを覚えていることでしょう。IP アドレス指定は TCP/IP の重要な要素の 1 つであり、これについては、「IPv4 アドレス指定スキーマの設計」で詳しく説明します。

ハードウェアアドレス

ネットワーク上の各ホストは一意のハードウェアアドレスを持っており、これもホストを他の対等ホストに識別させるために使用されます。ハードウェアアドレスは、製造元でマシンの CPU またはネットワークインタフェースに物理的に割り当ててあります。ハードウェアアドレスはどれも一意なものです。

本書では、ハードウェアアドレスを「Ethernet アドレス」という言葉で表しています。Ethernet は、Solaris オペレーティング環境のネットワーク上で最も一般的に使用されているネットワークメディアなので、本書では、Solaris ホストのハードウェアアドレスが Ethernet アドレスであるものと想定して、説明を進めます。FDDI など他のネットワークメディアを使用している場合は、そのメディアに付属しているマニュアルの中のハードウェアアドレス指定に関する部分を参照してください。