Solstice Enterprise Agents 1.0 ユーザーズガイド

Solstice Enterprise Agents とは

Enterprise Agents の概要

簡易ネットワーク管理プロトコル (SNMP) は、システム、ネットワークを構成する装置、およびネットワークそのものを効率的に管理するために、企業ネットワークで幅広く使われています。SNMP の普及に伴い、システムやネットワークの管理に関連する多くの問題点も出てきました。SNMP の利点の 1 つとして、増加しつつあるネットワーク構成要素やアプリケーションに対応するためのソリューションを迅速に提供できることが挙げられます。

SNMP ネットワーク内で、管理を必要とするエンティティ (システム、構成要素、およびアプリケーション) の数は急速に増えています。そこで、複数の装置をより柔軟に、しかも動的に管理したいという要求に応える必要があります。

初期の SNMP ベースのネットワーク管理ソリューションでは、開発者は、システムまたは装置ごとに単位型エージェントを 1 つずつ作成していました。この単位型エージェントは、単独のポート (ポート 161) で受信処理を行います。しかし、この SNMP のソリューションには多くの制約があったため、必要なすべての装置を効率的に管理するという点で柔軟性に欠けていました。

1 つの装置で複数の構成要素やアプリケーションを個別に管理できるようにするため、複数の開発者が複数のエージェントを作成するための技術が求められました。その結果、新しい拡張性のあるエージェント技術、つまりマスター / サブエージェント技術が生まれました。サンでは、この技術に基づいた Solstice Enterprise Agents (SEA) というソリューションを提供しています。

この場合エージェントは、マスターエージェントとサブエージェントで構成されます。マスターエージェントは、マネージャから SNMP ベースの管理要求を受信し、これらの管理要求に対する応答を返送します。それぞれのサブエージェントから適切な値を受信してから、応答が返送されます。サブエージェントは、構成要素またはアプリケーション用に特別に設計された管理情報ベース (MIB または MIF) に従って、さまざまな構成要素を管理します。

また、Enterprise Agents では、SNMP ベースのレガシーエージェントを統合して使用できます。

マスターエージェントとサブエージェントの役割については、あとの章で詳しく説明します。

Enterprise Agents を構成する要素

SNMP ベースの SEA 製品は、さまざまな要素から構成されています。

図 1-1 に、SEA のアーキテクチャを示します。

図 1-1 SEA のアーキテクチャ

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次に、SEA 製品に関連する各構成要素について説明します。

SNMP マスターエージェント

マスターエージェントは、Domain ManagerTM、Enterprise ManagerTM、HP OpenView などの各マネージャと SNMP のプロトコルメッセージを交換する、被管理ノード上のエンティティまたはプロセスです。

マスターエージェントは、ポート 161 で受信します。

サブエージェント

サブエージェントは、管理情報にアクセスできる 0 (ゼロ) 個以上のプロセスです。これによってシステム内のさまざまなアプリケーションや構成要素に対する管理機能を発揮します。サブエージェントは、SNMP でマスターエージェントと通信します。サブエージェントがマネージャに直接アクセスすることはありません。

エージェントとサブエージェントのソフトウェア開発ツールキット

ソフトウェア開発ツールキットには、複数の構成要素があります。このツールキットには、エージェント / サブエージェントライブラリ、MIB コンパイラ、およびサブエージェントのサンプルが含まれています。MIB コンパイラは MIB を解析し、スタブファイルを作成します。スタブファイルは、必要に応じて修正したり拡張できる機能を収めたものです。これによって、それぞれの構成要素やアプリケーションを管理できます。

レガシー SNMP エージェント

レガシー SNMP エージェントは、SNMP ベースのエージェントであり、システム内で単位型エンティティとして機能します。Enterprise Agents を使うと、レガシー SNMP エージェントを統合できます。レガシーエージェントとは、サン・マイクロシステムズ社または他の会社からすでにリリースされている製品のエージェントのことです。

マッパー

Enterprise Agents の技術を使用することにより、DMI 2.0 の機能も統合できます。これは、サブエージェントとしての役割を果たすマッパーによって行われます。マッパーは、マスターエージェントから要求を受信すると、それらを適切なDMI 要求に変換します。変換された DMI 要求は、DMI サービスプロバイダに送信されます。マッパーは、DMI サービスプロバイダからの応答を受信すると、その応答を SNMP 応答に変換してから、マスターエージェントを通じてマネージャに転送します。

用語

SEA 製品を使う際には、次に示す用語を知っておく必要があります。

「登録」は、マスターエージェントがサブエージェントから情報を受信すると行われる処理です。登録後に、サブエージェントに MIB サブツリーの管理が提供されます。

「サブツリー」は、1 つの OID によって示されます。マスターエージェントは、MIB 定義にないサブツリーは認識しません。サブツリーは、実際には「host」のように MIB 全体であったり、「hrDeviceDescr.42」のようにフルインスタンスであったりします。また、MIB 定義で名前が指定されていないサブツリーもあります。

「OID」の範囲は、サブツリーに組み込まれている OID の範囲です。たとえば、サブツリー 1.2.3 は、1.2.3 を含んだそれ以降の範囲を表しますが、1.2.4 は含まれません。

「二重登録」は、あるサブエージェントによってすでに登録されているサブツリーと同一のサブツリーを、別のエージェントが登録しようとすることです。

「重複登録」は、あるサブエージェントによってすでに登録されているサブツリーに含まれているか、またはそのサブツリーを含んでいるサブツリーを、別のエージェントが登録しようとすることです。

「ディスパッチ」は、マスターエージェントから 1 つ以上のサブエージェントに管理要求を送信することです。ディスパッチは、マスターエージェントの登録されたサブツリーの現在の状態と、明示的に定義されたアルゴリズムに従って行われます。

そのほかの用語については、このマニュアルの用語集で説明します。

SNMP の機能

マスターエージェントは、システムマネージャから SNMP 要求を受信すると、サブエージェントから適切な値を受けとってからこれらの要求に対する応答を返送します。サブエージェントは、構成要素やアプリケーション用に特別に設計された管理情報ベース (MIB) に従って、さまざまな構成要素を管理します。動的に呼び出されたサブエージェントは、それぞれマスターエージェントに登録されます。この登録中に、サブエージェントが管理している MIB サブツリーをマスターエージェントに通知します。詳細は、第 3 章「SNMP ベースのマスターエージェントとサブエージェント」を参照してください。

SEA 技術は、サブエージェントを作成、リリース、およびインストールできるソフトウェア開発キットを提供します。また、SEA を使えば、SNMP ベースのレガシーエージェントを統合して使えます。

DMI とは

デスクトップ管理インタフェース (DMI) は、システム内に存在する管理アプリケーションと構成要素の間を仲介する、インタフェースとサービスプロバイダです。DMI は、特定のオペレーティングシステムや管理プロセスに結び付かない独立したインタフェースです。

サンでは、サンのプラットフォームおよびそのプラットフォームで動作するソフトウェアアプリケーションを管理するための DMI ベースの機能を提供しています。ここでいうサンのプラットフォームには、ハードウェアとソフトウェアが含まれます。DMI サブエージェントは、SEA 製品に含まれるサブエージェントの 1 つです。DMI を使うことによって、ほとんどのシステム内のさまざまな要素を管理できます。これらの要素には、PC、ワークステーション、ルーター、ハブ、その他のネットワークオブジェクトなどがあります。

DMI は、次の 4 つの要素で構成されています。

詳細は、第 5 章「DMI の使用方法」を参照してください。

マスターエージェント

マスターエージェントは、ネットワークマネージャとサブエージェントの間の主インタフェースとしての役割を果たします。ネットワークマネージャから送信された要求は、マスターエージェントによって解析されます。必要に応じて、元の要求は複数の要求に分割されることがあります。元の要求は、各サブエージェントが提供する管理特性に基づき、マスターエージェントから配信されます。要求は適切なサブエージェントに転送され、各要求に対する応答が返送されます。それぞれのサブエージェントからすべての応答を収集すると、最終の応答がネットワークマネージャに送信されます。

1 つのマスターエージェントが、マスターエージェント / サブエージェントモデル全体を管理します。マスターエージェントは、すべての登録されたサブエージェントに対する要求のスケジューラとディスパッチャとして機能します。また、サブエージェントがマスターエージェントにトラップを送信すると、そのトラップはネットワークマネージャに転送されます。

図 1-2 に、SEA アーキテクチャに関連するマスターエージェントを示します。

図 1-2 マスターエージェントのアーキテクチャ

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