GSS-API のプログラミング

追加のコンテキストサービス

gss_init_sec_context() 関数 (コンテキストの起動 (クライアント)を参照) を使用すると、アプリケーションは基本のコンテキスト確立以外にも追加のデータ保護サービスも要求できます。このようなサービス (以降の節で説明) を要求するには、gss_init_sec_context()req_flags 引数を使用します。

すべての機構が追加の保護サービスを提供するわけではありません。したがって、特定のコンテキストで使用できる追加の保護サービスを調べるには、gss_init_sec_context()ret_flags 引数を使用します。同様に、コンテキスト受け入れ側も gss_accept_sec_context() 関数から戻された ret_flags の値を見て、どのサービスを使用できるかを判断します。以降の節では、追加のサービスについて説明します。

委託

可能であれば、コンテキスト起動側はコンテキスト受け入れ側がプロクシとして動作するように要求できます。この場合、受け入れ側は起動側の代わりに別のコンテキストを起動できます。このような委託の例としては、マシン A 上のユーザーがマシン B に rlogin し、次に、マシン B からマシン C に rlogin するなどです (図 1–8 を参照)。委託された資格がマシン B をマシン A として識別するか、あるいは、マシン A の代わりに動作しているマシン B と識別するかは、機構によって異なります。

図 1–8 資格の委託

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委託が許可されると、ret_flags に値 GSS_C_DELEG_FLAG が設定されます。受け入れ側は委託された資格を gss_accept_sec_context()delegated_cred_handle 引数として受け取ります。資格の委託はコンテキストのエクスポートとは異なります (コンテキストのエクスポートとインポート を参照)。その違いのひとつは、アプリケーションはその資格を一度に複数回委託できますが、コンテキストは一度に 1 つのプロセスでしか保持されません。

相互認証

ftp でファイルを公的な ftp サイトにダウンロードする場合、サイトがユーザーの ID を証明するように要求することはあっても、ユーザーがサイトの ID を証明するように要求することはありません。ところが、パスワードやクレジットカードの番号をアプリケーションに提供する場合、ユーザーは受け取り側が信頼できるサイトであることを確認したいはずです。このような場合、「相互認証」が必要です。つまり、コンテキストの起動側と受け入れ側が両方とも自身の ID を証明する必要があるということです。

コンテキスト起動側が相互認証を要求するには、gss_init_sec_context()req_flags 引数に値 GSS_C_MUTUAL_FLAG を設定します。相互認証が承認されると、ret_flags 引数にも値 GSS_C_MUTUAL_FLAG が設定されます。相互認証が要求されたが使用できない場合、結果に応じて応答するのは起動側アプリケーションの責任です。つまり、このような理由では、GSS-API はコンテキストを終了しません。機構の中には、要求されたかどうかに関わらずに相互認証を実行するものもあります。

誤順序の検出とリプレイの検出

通常、コンテキスト起動側が複数の連続するデータパケットを受け入れ側に転送する場合、到達したパケットが正しい順序であり、不必要な重複がないことをコンテキスト受け入れ側がチェックできるような機構もあります (図 1–9 を参照)。受け入れ側がこのような 2 つの状態をチェックするのは、パケットの有効性を検証するとき、あるいは、パケットをラップ解除するときです。詳細は、ラップ解除と検証 を参照してください。

図 1–9 リプレイされたメッセージと順序が正しくないメッセージ

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このような 2 つの状態を検査するように要求するには、起動側は、gss_init_sec_context() でコンテキストを起動するときに、req_flags 引数に値 GSS_C_REPLAY_FLAG または GSS_C_SEQUENCE_FLAG をビット論理和で設定する必要があります。

匿名認証

GSS-API の通常の使用においては、起動側の識別情報 (ID) はコンテキスト確立プロセスの結果として、受け入れ側に使用できるようになります。しかし、コンテキスト起動側は自身の ID をコンテキスト受け入れ側に知らせないように要求することもできます。

たとえば、医療情報が含まれているデータベースへのアクセスを提供するアプリケーションで、サービスへの制限なしのアクセスを提供している場合を想定してください。このようなサービスのクライアントは、サービスを認証したい (つまり、そこから取得できる情報の信頼性を確立したい) と希望しますが、サービスによりクライアントの識別情報が取得されることは希望しません (特定の照合に関するプライバシの問題や、メールリストなどに利用されるのを防ぐなどのため)。

匿名性を要求するには、gss_init_sec_context()req_flags 引数に GSS_C_ANON_FLAG を設定します。匿名性を使用できるかどうかをチェックするには、gss_init_sec_context() または gss_accept_sec_context()ret_flags 引数に GSS_C_ANON_FLAG が設定されているかどうかを調べます。

匿名性が有効であり、gss_accept_sec_context() または gss_inquire_context() が戻したクライアント名上で gss_display_name() が呼び出された場合、gss_display_name() は汎用的な匿名を生成します。


注 –

匿名性が要求されたが使用できない場合、適切な対処を行うのはアプリケーションの責任です。つまり、このような理由では、GSS-API はコンテキストを終了しません。