リンカーとライブラリ

単純な解析

このシンボル解析は、群をぬいて最もよく使用されるもので、類似した特徴を持つ 2 つのシンボルが削除された場合や、1 つのシンボルが他のシンボルよりも優先される場合に実行されます。このシンボル解析は、リンカーによって自動的に実行されます。たとえば、同じ結びつきを伴う複数のシンボルでは、あるファイルから未定義シンボルへのリファレンスは結合されるか、または他のファイルからの定義シンボルまたは一時的シンボル定義によって満たされます。あるいは、あるファイルからの一時的シンボル定義は、他のファイルからの定義シンボルの定義に結合されます。

解析を受けるシンボルは、大域結合またはウィーク結合されます。ウィーク結合の方が、大域結合よりも優先度が低くなります。そのため、異なる結びつきを伴うシンボルは、基本規則のわずかな変更に従って解析されます。しかし、まず初めに、シンボルがどのように作成されるかを紹介しましょう。

ウィークシンボルは通常、個別にあるいは大域シンボルの別名として、コンパイラによって定義されます。この機構では、pragma 定義を使用します。


$ cat main.c
#pragma weak    bar
#pragma weak    foo = _foo

int             bar = 1;

_foo()
{
        return (bar);
}
$ cc -o main.o -c main.c
$ nm -x main.o
 
[Index]   Value      Size      Type  Bind  Other Shndx   Name
...............
[7]     |0x00000000|0x00000004|OBJT |WEAK |0x0  |3      |bar
[8]     |0x00000000|0x00000028|FUNC |WEAK |0x0  |2      |foo
[9]     |0x00000000|0x00000028|FUNC |GLOB |0x0  |2      |_foo

ウィークの別名 foo に、大域シンボル _foo と同じ属性が割り当てられていることに注意してください。この関係は、リンカーによって保持され、その結果、シンボルには出力イメージ内の同じ値が割り当てられます。シンボル解析においては、ウィーク定義シンボルは、同じ名前の大域定義によって自動的に上書きされます。

単純なシンボル解析のこの他の形式は、再配置可能オブジェクトと共有オブジェクト間、または複数の共有オブジェクト間に発生し、割り込み (interposition) と呼ばれます。このような場合、シンボルが複数回定義されている場合、リンカーにより、再配置可能オブジェクト、または複数の共有オブジェクト間の最初の定義が自動的に採用されます。再配置可能オブジェクトの定義、または最初の共有オブジェクトの定義は、他のすべての定義上に割り込みを行うといわれます。この割り込みを使用すると、1 つの共有オブジェクト、動的実行可能ファイル、または他の共有オブジェクトによって提供された機能を上書きできます。

ウィークシンボルと割り込みを組み合わせることにより、非常に有用なプログラミングテクニックを使用できます。たとえば、標準 C ライブラリは、再定義可能ないくつかのサービスを提供していますが、ANSI C は、システム上になければならない一連の標準サービスを定義し、厳密に適合するプログラム内に置き換えることはできません。

たとえば、関数 fread(3C) は、ANSI C ライブラリの関数ですが、関数 read(2) は、ANSI C ライブラリの関数ではありません。適合する ANSI C プログラムは、read(2) を再定義でき、予測できる方法で fread(3C) を使用できなければなりません。

ここでの問題は、read(2) は、標準 C ライブラリ内に fread(3C) を実装する基盤になるため、read(2) を再定義するプログラムは、fread(3C) の実装を間違える可能性があるのではないかと思われます。このような間違いをなくすためには、ANSI C は、実装には、そこに予約されていない名前は使用できないように指定します。さらに、以下に示す pragma 指示語を使用することにより、この予約名を定義できます。


#pragma weak read = _read

また、この予約名から、関数 read(2) の別名が生成されます。こうすることにより、ユーザーは、fread(3C) の実装に妥協することなく、自分専用の read() 関数を自由に定義できます。

標準 C ライブラリの、共有オブジェクトまたはアーカイブバージョンのどちらにリンクしている場合でも、ユーザーによる read() の再定義に対するリンカーからのクレームはありません。前者の場合には、割り込みによって方法が決められ、後者の場合には、read(2) の C ライブラリの定義をウィークにすることにより、自動的に上書き可能になります。

リンカーの -m オプションを使用すると、割り込みされるすべてのシンボルリファレンスのリストが、セクションの読み込みアドレス情報とともに標準出力に書き込まれます。