リンカーとライブラリ

再配置処理

「概要」で説明したように、オブジェクトの配置および対応付け後、実行時リンカーは各オブジェクトを処理し、必要な再配置を実行する必要があります。dlopen(3DL) を使用してプロセスのアドレススペースに配置されたオブジェクトは、同じ方法で再配置する必要もあります。

単純なアプリケーションの場合には、このプロセスはまったく関係ないこともありますが、多くのオブジェクトを含む多数の dlopen(3DL) 呼び出しと、共通の依存関係も伴う複雑なアプリケーションを所有するユーザーにとって、このことは非常に重要です。

再配置は、実行された時間によって分類されます。実行時リンカーのデフォルトの動作では、初期設定時にデータ参照の再配置がすべて処理され、通常レイジー結合と呼ばれるプロセスの実行時に関数参照がすべて処理されます。

この同じメカニズムは、モードが RTLD_LAZY として定義されているときに、dlopen(3DL) を使用して追加されたオブジェクトに適用されます。 この代わりとしては、オブジェクトが追加されたときに、オブジェクトの再配置すべてをすぐに実行する必要があります。これは、モード RTLD_NOW を使用することによって、 またはリンカーの -z now オプションを使用して作成されたときに、オブジェクト内のこの必要条件を記録することによって実現されます。この再配置の必要条件は、オープン状態のオブジェクトの依存関係に伝達されます。

また、再配置は、非シンボリックおよびシンボリックにも分類できます。このセクションの後半では、シンボル再配置がいつ発生するかに関係なく、この再配置に関連した問題について、シンボル検索の詳細に焦点をあてて説明します。

シンボル検索

dlopen(3DL) によって取得したオブジェクトが大域シンボルを参照する場合は、実行時リンカーは、プロセスを作成したオブジェクトのプールからこのシンボルを配置する必要があります。直接結合が無い場合は、dlopen(3DL) によって入手されたオブジェクトには、次の節で記述されているようにデフォルトのシンボル検索モデルが適用されます。ただし、プロセスを作成したオブジェクトの属性と結合される dlopen(3DL) のモードは、代わりのシンボル検索のモデルに提供されます。

直接結合を指定されたオブジェクトでは、それに対応する依存関係から直接、シンボルが検索されます (「直接結合」を参照)。ただし、この後で述べるすべての属性はそのまま有効です。

オブジェクトの 2 つの属性は、シンボル検索に影響を与えます。1 つ目は、オブジェクトシンボルの検索範囲の要求で、2 つ目は、プロセス内の各オブジェクトが提供するシンボルの可視性です。オブジェクトの検索範囲には次のものがあります。

ワールド (world)

オブジェクトは、プロセス内の他の大域オブジェクト内で検索されます。

グループ (group)

オブジェクトは、同じグループ内のオブジェクト内でのみ検索されます。dlopen(3DL) を使用して入手されたオブジェクトから作成された依存関係ツリー、またはリンカーの -B group オプションを使用して構築されたオブジェクトから作成された依存関係ツリーは、固有のグループを形成します。

オブジェクトからのシンボルの可視性には、次のものがあります。

大域 (global)

オブジェクトのシンボルは、ワールド検索範囲を持つオブジェクトから参照できます。

ローカル (local)

オブジェクトのシンボルは、同じグループを構成する他のオブジェクトからのみ参照されます。

デフォルトにより、dlopen(3DL) を使用して入手したオブジェクトには、ワールドシンボル検索範囲とローカルシンボル可視性が割り当てられます。「デフォルトのシンボル検索モデル」では、このデフォルトモデルを使用して、典型的なオブジェクトグループのインタラクションについて説明しています。「大域オブジェクトの定義」「グループの分離」、および 「オブジェクト階層」では、デフォルトのシンボル検索の展開に dlopen(3DL) モードとファイル属性を使用する例を示しています。

デフォルトのシンボル検索モデル

dlopen(3DL) によって追加された各オブジェクトでは、実行時リンカーは、最初に動的実行プログラム内でシンボルを検索し、次に、プロセスの初期設定中に提供されたそれぞれのオブジェクト内を検索します。ただし、シンボルが検出されない場合には、実行時リンカーは、dlopen(3DL) によって入手されたオブジェクト内と、その依存関係内の検索を続行します。

たとえば、動的実行プログラム prog と共有オブジェクト B.so.1 を入手してみます。この 2 つには、それぞれ以下の単純な依存関係が付いています。


$ ldd prog
        A.so.1 =>        ./A.so.1
$ ldd B.so.1
        C.so.1 =>        ./C.so.1

prog が、dlopen(3DL) を使用して共有オブジェクト B.so.1 を入手した場合、共有オブジェクト B.so.1C.so.1 の再配置に必要なシンボルが、最初に prog 内で検索され、A.so.1B.so.1C.so.1 の順番に検索されます。このような単純なケースでは、dlopen(3DL) によって入手された共有オブジェクトは、アプリケーションの元のリンク編集の末尾に追加されたと考える方が簡単な場合があります。たとえば、上記のオブジェクトの参照を図示すると、次のようになります。

図 3-1 単一の dlopen() 要求

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dlopen(3DL) から入手されたオブジェクトによって要求されたシンボル検索は、影付きのブロックで示しています。このシンボル検索は、動的実行プログラム prog から、最後の共有オブジェクト C.so.1 へと進みます。

このシンボル検索は、読み込まれたオブジェクトに割り当てられた属性によって確立されます。動的実行プログラムとそれと同時に読み込まれたすべての依存関係には、大域シンボル可視性が割り当てられ、新しいオブジェクトにはワールドシンボルの検索範囲が割り当てられることを思い出してください。これによって、新しいオブジェクトは元のオブジェクト内を調べてシンボルを検索できます。また、新しいオブジェクトは、固有のグループを形成し、このグループ内では、各オブジェクトはローカルシンボル可視性を持ちます。そのため、グループ内の各オブジェクトは、他のグループ構成要素内でシンボルを検索できます。

これらの新しいオブジェクトは、アプリケーションまたはその最初のオブジェクトの依存関係によって要求される、通常のシンボル検索には影響を与えません。たとえば、上記の dlopen(3DL) が実行された後で、A.so.1 に関数再配置が必要な場合、実行時リンカーの再配置シンボルの通常の検索は、progA.so.1 で実施されますが、その後で B.so.1 または C.so.1 は検索されません。

このシンボル検索は、読み込まれたときにオブジェクトに割り当てられた属性によって実行されます。動的実行プログラムとこれとともに読み込まれた依存関係に割り当てられたワールドシンボルの検索範囲では、ローカルシンボル可視性だけを提供する新しいオブジェクト内を検索できません。

これらのシンボル検索とシンボル可視性の属性は、そのプロセスのアドレススペースへの投入とオブジェクト間の依存の関係に基づいて、オブジェクト間の関係を保持します。指定された dlopen(3DL) に関連したオブジェクトを割り当てることにより、固有のグループでは、同じ dlopen(3DL) と関連したオブジェクトだけが、グループ内のオブジェクトと関連する依存関係の中の検索ができます。

このオブジェクト間の関係を定義するという概念は、複数の dlopen(3DL) を実行するアプリケーション内では、より明確になります。たとえば、共有オブジェクト D.so.1 に次の依存関係があるとします。


$ ldd D.so.1
        E.so.1 =>         ./E.so.1

このとき prog アプリケーションが、共有オブジェクト B.so.1 に加えて、この共有オブジェクトにも dlopen(3DL) を実行した場合は、オブジェクト間のシンボル検索の関係は、図 3-2 のように表すことができます。

図 3-2 複数の dlopen() 要求

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B.so.1D.so.1 の両方にシンボル foo の定義が組み込まれ、C.so.1E.so.1 にこのシンボルが必要とする再配置が組み込まれている場合、固有のグループに対するオブジェクトの関係によって、C.so.1B.so.1 の定義に結合され、E.so.1D.so.1 の定義に結合されます。このメカニズムは、dlopen(3DL) への複数の呼び出しにより入手されたオブジェクトの最も直感的な結合を提供するためのものです。

オブジェクトが、前述した処理の進行の中で使用される場合、それぞれの dlopen(3DL) が実施された順番は、結果として発生するシンボル結合には影響しません。ただし、複数のオブジェクトに共通の依存関係がある場合は、結果の結び付きは、dlopen(3DL) 呼び出しが実行された順番による影響を受けます。

次に、同じ共通依存関係を持つ共有オブジェクト O.so.1P.so.1 の例を示します。


$ ldd O.so.1 
        Z.so.1 =>        ./Z.so.1
$ ldd P.so.1 
        Z.so.1 =>        ./Z.so.1

この例では、prog アプリケーションは、各共有オブジェクトに dlopen(3DL) を使用しています。共有オブジェクト Z.so.1 が、O.so.1P.so.1 両方の共通依存関係であるため、図 3-3 のようにこの依存関係は 2 つの dlopen(3DL) 呼び出しに関連する両方のグループに割り当てられます。

図 3-3 共通依存関係を伴う複数の dlopen() 要求

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この結果、O.so.1P.so.1 の両方がシンボルの検索に Z.so.1 を使用できます。ここで重要なのは、dlopen(3DL) の順序に限って言えば、Z.so.1O.so.1P.so.1 の両方の中でシンボルを検索できることです。

そのため、O.so.1P.so.1 の両方に、Z.so.1 の再配置に必要なシンボル foo の定義が組み込まれている場合、実際に発生する結び付きを予期することはできません。それは、この結び付きが dlopen(3DL) 呼び出しの順序の影響を受けるからです。シンボル foo の機能が、シンボルが定義されている 2 つの共有オブジェクト間で異なる場合、Z.so.1 コードを実行したすべての結果は、アプリケーションの dlopen(3DL) の順序によって異なる可能性があります。

大域オブジェクトの定義

dlopen(3DL) によって入手されたオブジェクトへのデフォルトのローカルシンボルの可視性の割り当ては、モード引数に RTLD_GLOBAL フラグを指定することによって、大域に拡大ができます。このモードでは、dlopen(3DL) によって入手されたオブジェクトは、シンボルを配置するためのワールドシンボルの検索範囲の指定された他のオブジェクトによって使用することができます。

また、RTLD_GLOBAL フラグが指定された dlopen(3DL) によって入手されたオブジェクトは、dlopen(0) を使用したシンボル検索にも使用できます (「追加オブジェクトの読み込み」を参照)。


注 -

ローカルシンボルの可視性を持つグループの構成要素が、他の大域シンボルの可視性を必要とするグループによって参照される場合、オブジェクトの可視性はローカルと大域の両方を連結したものになります。この後大域グループの参照が削除されても、この格上げされた属性はそのまま残ります。


グループの分離

dlopen(3DL) によって入手されたオブジェクトへのデフォルトのワールドシンボルの検索範囲の割り当ては、モード引数に RTLD_GROUP フラグを指定することによって、グループに縮小することができます。このモードでは、dlopen(3DL) によって入手されたオブジェクトは、そのオブジェクト固有のグループ内でしかシンボルの検索ができません。

オブジェクトがリンカーの -B group オプションを使用して構築された場合、オブジェクトには、割り当てられたグループシンボルの検索範囲があります。


注 -

グループ検索機能を持つグループの構成要素が、ワールド検索機能を必要とする他のグループによって参照された場合、オブジェクトの検索機能はグループとワールドが結合したものになります。この後ワールドグループの参照が削除されても、この格上げされた属性はそのまま残ります。


オブジェクト階層

dlopen(3DL) によって入手された最初のオブジェクトが、2 番目のオブジェクトに dlopen(3DL) を使用した場合、両方のオブジェクトは 1 つのグループに割り当てられます。これにより、オブジェクトが互いにシンボルを配置し合うことを防ぐことができます。

実装の中には、最初のオブジェクトの場合、シンボルを 2 番目のオブジェクトの再配置用にエキスポートする必要がある場合もあります。この必要条件は、次の 2 つのメカニズムのいずれかによって満たすことができます。

最初のオブジェクトを 2 番目のオブジェクトの明示的な依存関係にした場合、これは 2 番目のオブジェクトのグループにも割り当てられます。そのため、最初のオブジェクトは、2 番目のオブジェクトの再配置に必要なシンボルも提供できます。

ただし、ほとんどのオブジェクトが 2 番目のオブジェクトに dlopen(3DL) を実行し、これらの最初のオブジェクトが、それぞれ 2 番目のオブジェクトの再配置を満足させる同じシンボルをエキスポートする必要がある場合、2 番目のオブジェクトには明示的な依存関係を割り当てることはできません。この場合、2 番目のオブジェクトの dlopen(3DL) モードは、RTLD_PARENT フラグを使用して補強できます。このフラグによって、2 番目のオブジェクトのグループが、明示的な依存関係が伝達されたのと同じ方法で、最初のオブジェクトに伝達されます。

上記の 2 つのテクニックには、1 つ異なる点があります。明示的な依存関係を指定する場合、その依存関係そのものは、2 番目のオブジェクトの dlopen(3DL) 依存関係ツリーの一部になるため、dlopen(3DL) を使用したシンボル検索が可能になります。RTLD_PARENT を使用して 2 番目のオブジェクトを入手する場合、最初のオブジェクトは、dlopen(3DL) を使用したシンボルの検索に使用できるようにはなりません。


注 -

dlopen(3DL) によって 2 番目のオブジェクトが、大域シンボル可視性が指定された最初のオブジェクトから入手された場合、RTLD_PARENT モードは冗長で他に影響を与えることはありません。このような状態は、dlopen(3DL) がアプリケーションから呼び出されたとき、またはアプリケーションの中の依存関係の 1 つから呼び出されたときに多く発生します。