このマニュアルでは、Sun Cluster のマニュアルの読者に必要な概念について説明します。次の読者を対象としています。
クラスタハードウェアを設置して保守を行う担当者
Sun Cluster ソフトウェアをインストール、構成、管理するシステム管理者
現在 Sun Cluster 製品に含まれていないアプリケーション用のデータサービスを開発するアプリケーション開発者
このマニュアルは、Sun Cluster の他のマニュアルと合わせて、Sun Cluster の全体を説明するものです。
この章では、次のことを説明します。
Sun Cluster の基本知識と概要
Sun Cluster の各ユーザーごとの役割と参照する情報
Sun Cluster で作業するにあたって理解する必要がある重要な概念
重要な概念に関連する手順と情報を記載した Sun Cluster のマニュアル
クラスタに関連する作業と、これらの作業手順が記載されたマニュアル
Sun Cluster は、SolarisTM オペレーティング環境をクラスタオペレーティングシステムに拡張するものです。クラスタとは、緩やかに結合された処理ノードの集合のことで、データベース、Web サービス、ファイルサービスなどのネットワークサービスやアプリケーションを、1 つのクライアントとして扱います。
各クラスタノードは、それ自身のプロセスを実行するスタンドアロンサーバーです。これらのプロセスは相互にやりとりして、ユーザーに提供するアプリケーション、システムリソース、データを (ネットワーククライアントに対して) 1 つのシステムとして見えるように形成します。
クラスタは、従来の単一サーバーシステムと比較した場合、いくつかの利点があります。これらの利点には、可用性の高いスケーラブルなアプリケーションのサポート、モジュールの成長に対応できる容量、従来のハードウェアフォルトトレラントシステムよりも低価格の製品といったものがあります。
次に、Sun Cluster の導入目的を示します。
ソフトウェアまたはハードウェアの障害が原因のシステム停止時間を減らす、または完全になくす
単一サーバーシステムを停止させるような障害が発生しても、エンドユーザーへのデータとアプリケーションの可用性を保証する
クラスタにノードを追加し、追加したプロセッサに応じたサービスを提供できるようにすることで、アプリケーションのスループットを向上させる
クラスタ全体を停止しなくても保守を実行できるようにすることで、システムの可用性を強化する
Sun Cluster は、高可用性 (HA) システムとして設計されています。つまり、データとアプリケーションに対してほぼ連続的なアクセスを可能にするシステムです。
これに対して、フォルトトレラントのハードウェアシステムは、データとアプリケーションに対する一定したアクセスを可能にしますが、特殊なハードウェアが必要なため、コストが高くなります。また、通常はソフトウェアの障害を考慮していません。
Sun Cluster は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって高可用性を実現しています。冗長なクラスタインターコネクト、記憶装置、パブリックネットワークは、単一の障害に対する防護策となります。クラスタソフトウェアは、メンバーノードの状態を常に監視し、障害が発生したノードがクラスタに属さないようにしてデータの破壊を防止します。また、クラスタは、アプリケーションとそれに依存するシステムリソースを監視し、障害が発生した場合にアプリケーションの処理を継続するか再開します。
高可用性については、「高可用性に関する FAQ」を参照してください。
Sun Cluster を使用すると、フェイルオーバーまたはスケーラブルのどちらかをベースにしてアプリケーションを実装できます。フェイルオーバーおよびスケーラブルの各アプリケーションは、同じクラスタで同時に実行することもできます。通常、フェイルオーバーアプリケーションは可用性 (冗長性) が高く、スケーラブルアプリケーションは可用性が高いとともに、パフォーマンスも向上します。
フェイルオーバーとは、クラスタが、障害の発生した主ノードから指定した二次ノードにアプリケーションを自動的に再配置するプロセスのことです。フェイルオーバーによって、Sun Cluster は高い可用性を実現します。
フェイルオーバーが発生すると、クライアントでは、サービスが短時間中断して、フェイルオーバーの終了後に再接続しなければならない場合があります。しかし、クライアントは、アプリケーションとデータの提供元である物理サーバーを認識していません。
フェイルオーバーは冗長性に関係していますが、スケーラビリティは負荷に関係なく一定した応答時間とスループットを提供するものです。スケーラブルアプリケーションは、1 つのクラスタにある複数のノードに作用し、アプリケーションを同時に実行するため、パフォーマンスは向上します。スケーラブルな構成では、クラスタ内の各ノードは、データを提供して、クライアント要求を処理することができます。
フェイルオーバーとスケーラブルサービスの詳細については、「データサービス」を参照してください。
この節では、Sun Cluster のユーザーを 3 種類に分け、各ユーザーに関連する概念とマニュアルについて説明します。各ユーザーは次のとおりです。
ハードウェア保守担当者
システム管理者
アプリケーションプログラマ。Sun Cluster は、一連の可用性の高いデータサービスを提供します。これらのサービスは、クラスタで実行される可用性の高いデータサービスとして構成された Oracle、Apache Web Server、DNS などのアプリケーションです。Sun Cluster API を使用すると、可用性の高いデータサービスに他のアプリケーションを組み込むことができます。アプリケーションプログラマは、API を使用するシェルスクリプトや C プログラムを作成できます。
ハードウェア保守担当者にとって、Sun Cluster は、サーバー、ネットワーク、および記憶装置を含む市販のハードウェアの集合に見えます。これらのコンポーネントは、すべてのコンポーネントにバックアップがあり、単一の障害によってシステム全体が停止しないように配線されています。
ハードウェア保守担当者は、クラスタに関する次の概念を理解する必要があります。
クラスタハードウェアの構成と配線
設置と保守 (追加、取り外し、交換)
ネットワークインタフェースコンポーネント (アダプタ、接続点、ケーブル)
ディスクインタフェースカード
ディスクアレイ
ディスクドライブ
管理コンソールとコンソールアクセスデバイス
管理コンソールとコンソールアクセスデバイスの設定
次の項には、前述の重要な概念に関連する説明が記載されています。
次の Sun Cluster のマニュアルには、ハードウェア保守の概念に関連する手順と情報が記載されています。
システム管理者にとって、Sun Cluster は、ケーブルによって接続された、記憶装置を共有するサーバー (ノード) の集合に見えます。システム管理者は、次のソフトウェアを扱います。
クラスタノード間のコネクティビティを監視するための、Solaris ソフトウェアに統合された専用のクラスタソフトウェア
クラスタノードで実行されるユーザーアプリケーションプログラムの状態を監視するための専用のソフトウェア
ディスクを設定して管理するためのボリューム管理ソフトウェア
直接ディスクに接続されていないものも含め、すべてのノードが、すべての記憶装置にアクセスできるようにするための専用のクラスタソフトウェア
ファイルがすべてのノードに対してローカルに接続されているように表示するための専用のソフトウェア
システム管理者は、次の概念とプロセスについて理解する必要があります。
ハードウェアとソフトウェアの間の対話
クラスタをインストールして構成する方法の一般的な流れ
Solaris オペレーティング環境のインストール
Sun Cluster のインストールと構成
ボリューム管理ソフトウェアのインストールと構成
クラスタを動作可能状態にするためのアプリケーションソフトウェアのインストールと構成
Sun Cluster データサービスソフトウェアのインストールと構成
クラスタハードウェアとソフトウェアのコンポーネントを追加、削除、交換、およびサービス提供するためのクラスタ管理手順
パフォーマンスを向上させるための構成の変更方法
次の項には、前述の主な概念に関連する説明が記載されています。
次の Sun Cluster のマニュアルには、システム管理の概念に関連する手順と情報が記載されています。
Sun Cluster は、Oracle、NFS、DNS、iPlanet Web Server、Apache Web Server、Netscape Directory Server などのアプリケーションに対して、可用性の高いデータサービスを提供します。あるサイトで、別のアプリケーションをクラスタ上で実行する必要が生じた場合は、Sun Cluster API (アプリケーションプログラミングインタフェース) と DSDL API (データサービス開発ライブラリ API) を使用して、そのアプリケーションをクラスタ上で可用性の高いデータサービスとして実行するために必要なデータサービスソフトウェアを開発できます。
アプリケーションプログラマは、次の点について理解する必要があります。
各アプリケーションの特性。アプリケーションを可用性の高いデータサービスまたはスケーラブルなデータサービスとして実行できるかどうかを判断する必要があります。
Sun Cluster API、DSDL API、汎用データサービス。プログラマは、各自のアプリケーションをクラスタ環境に合わせて構成するプログラムまたはスクリプトを記述するために、どのツールが最も適しているかを判断する必要があります。
次の項には、前述の主な概念に関連する説明が記載されています。
次の Sun Cluster のマニュアルには、アプリケーションプログラミングの概念に関連する手順と情報が記載されています。
すべての概念は作業に対応し、すべての作業にいくつかの概念的な予備知識が必要です。次の表に、作業と作業手順を記載しているマニュアルを示します。このマニュアルの概念に関する章では、各概念がこれらの作業とどのように対応するかを説明します。
表 1-1 作業マップ: ユーザーの作業と参照するマニュアル
実行する作業 |
使用するマニュアル |
---|---|
クラスタハードウェアの設置 | |
クラスタへの Solaris ソフトウェアのインストール | |
SunTM Management Center ソフトウェアのインストール | |
Sun Cluster ソフトウェアのインストールと構成 | |
ボリューム管理ソフトウェアのインストールと構成 |
『Sun Cluster 3.0 ソフトウェアのインストール』 各ボリューム管理ソフトウェアのマニュアル |
Sun Cluster データサービスのインストールと構成 | |
クラスタハードウェアの保守 | |
Sun Cluster ソフトウェアの管理 | |
ボリューム管理ソフトウェアの管理 |
各ボリューム管理ソフトウェアのマニュアル |
アプリケーションソフトウェアの管理 |
各アプリケーションのマニュアル |
問題の識別と対処方法 | |
新しいデータサービスの作成 |