1


WDR の概要

WDR (WBEM Dynamic Reconfiguration) は、ソフトウェアアプリケーションで使用できるアプリケーションプログラムインタフェース (API) を提供しており、以下のシステム上で動的再構成 (DR) 操作を遠隔実行できます。

ソフトウェア開発者とシステム管理者は、WDR API を使用すると、負荷均衡などの重要なシステム管理機能を遠隔実行する独自のアプリケーションを作成することができます。WDR では DR 操作を実行する従来の方式に代わる方法を提供しており、DR 操作は Sun Fire システムコントローラ (SC) 上と Solaris ドメイン上 (cfgadm システムライブラリ使用による) のいずれかで実行されます。


WDR のハードウェア要件

Sun Fire 6800/4810/4800/3800 システムでは、WDR は Midframe Service Processor (MSP) と呼ばれる外部ホスト上で動作します。Sun Fire 15K と 12K システムでは、WDR は システムコントローラ (SC) 上で動作します。

Sun Fire 6800/4810/4800/3800 システムでの MSP のハードウェア要件

MSP に必要な最小構成のハードウェア要件は、次のとおりです。


WDR のソフトウェア要件

WDR は、Solaris 8 2/02 または Solaris 9 ソフトウェアが実行されている、Sun Fire 6800/4810/4800/3800 または Sun Fire 15K/12K システムドメイン上で使用できます。WDR は、Solaris オペレーティング環境などのソフトウェアにはバンドルされていません。

Sun Fire 15K/12K システムでのソフトウェア要件

WDR を使用するには、WDR ソフトウェアと Solaris WBEM Services ソフトウェアの両方を SC 上にインストールしておく必要があります。さらに、System Management Services (SMS) バージョン 1.2 ソフトウェアも SC 上にインストールしておく必要があります。

Sun Fire 6800/4810/4800/3800 システムでのソフトウェア要件

WDR を使用するには、WDR ソフトウェアと Solaris WBEM Services ソフトウェアの両方を MSP 上にインストールしておく必要があります。


Web-Based Enterprise Management (WBEM) とは

WDR インタフェースは、業界標準である Web-Based Enterprise Management (WBEM) に基づいて設計され、さまざまなプラットフォーム上でシステム、ネットワーク、およびデバイスを Web ベースで管理することができます。WBEM は、多数の業界リーダー企業で構成される Distributed Management Task Force (DMTF) のメンバーにより開発された標準規格です。

WBEM は、以下の 3 つの主要コンポーネントで構成されています。

つまり WBEM では、管理対象オブジェクトを CIM クラス、プロパティー、およびメソッドで表し、CIM 操作を XML/HTTP または RMI メッセージのいずれかで表して、これらのメッセージをネットワークを介して送信します。

このマニュアルでは、WBEM 標準規格について全体的な説明はしません。しかし、WBEM の詳細については、DMTF の Web サイト www.dmtf.org をはじめとして、さまざまな情報源から入手可能です。


Common Information Model (CIM)

WDR は Sun Fire システム専用に CIM スキーマを拡張したものであり、以下のものを表すときに使用されます。

Sun Fire 6800/4810/4800/3800 システムのアーキテクチャーは、Sun Fire 15K および 12K システムのアーキテクチャーとかなり異なっています。WDR には、WDR を使用する Sun Fire システムが異なっていても、Sun Fire システムのすべてのアーキテクチャーに反映される CIM スキーマが組み込まれています。

CIM スキーマには、すべての Sun Fire システムに共通のオブジェクト、Sun Fire 6800/4810/4800/3800 システム専用のオブジェクト、そして Sun Fire 15K および 12K システム専用のオブジェクトがあります。

システムアーキテクチャー間の共通点はプラットフォームに依存しないスーパークラスに取り込まれ、相違点はプラットフォームに依存しないスーパークラスのプラットフォーム固有のサブクラスに取り込まれます。

プラットフォーム固有および共通の MOF ファイル

WDR で使用される CIM スキーマは、3 つの Managed Object Format (MOF) ファイルに記述されています。これは、Sun Fire システム上の管理対象リソースを表すオブジェクトがすべて定義されている ASCII テキストファイルです。

MOF ファイルは、スキーマを提供するだけでなく、ソフトウェア開発者やシステム管理者に WDR CIM スキーマを構成するオブジェクトの形式定義も提供します。



注 - CIM の形式定義については、『Common Information Model, Implementing the Object Model for Enterprise Management』(Winston Bumpus 他共著、Wiley Computer Publishing、copyright 2000、New York、ISBN 0-471-35342-6) を参照してください。




WDR により実行される操作

WDR では、以下の動的再構成操作を遠隔実行することができます。

WDR の機能は DR 自体の基本的な機能と同じものであり、WDR には DR に追加された操作はありません。しかし、ドメインとスロットに関する情報、クラス間の関連、およびイベント通知を提供することによって、WDR では DR の機能を向上させています。

WDR は、パフォーマンスを著しく低下させることなく、DR 操作を効率的に実行することを目的に設計されています。


管理者セキュリティーモデル

WDR では、Sun Fire 15K/12K および 6800/4810/4800/3800 システム上で管理者セキュリティーモデルが適用されます。

Sun Fire 6800/4810/4800/3800 システムレベルでのセキュリティーの実装についての詳細は、『Sun Fire 6800/4810/4800/3800 システムプラットフォーム管理ガイド』(Part No. 806-7904) を参照してください。

Sun Fire 15K/12K システムレベルでのセキュリティーの実装についての詳細は、『System Management Services (SMS) 1.2 管理者マニュアル (Sun Fire 15K/12K システム用)』(Part No. 816-7243) を参照してください。

また、Solaris WBEM Services により使用可能となるセキュリティーについては、 第 2 章で説明します。

WDR セキュリティー

/etc/group ファイルに、現在ログインしているユーザーが割り当てられているグループが表示されます。

Sun Fire 6800/4810/4800/3800 システムグループ

Sun Fire 6800/4810/4800/3800 システム上のグループメンバーシップを示す /etc/group ファイルは、手動で編集することができます。

割り当てられているグループメンバーシップに応じて、ユーザーが実行できるすべての操作を以下の表に示します。

表 1-1 グループに応じて実行できるタスク - Sun Fire 6800/4810/4800/3800

グループ

ユーザーが実行できるタスク

なし (すべてのユーザー)

ドメインとスロットの列挙。

spltadm

ボードの割り当ておよび割り当て解除。

spltop

特別な特権はありません。

sdxadm

x はドメインを意味します。

  • ドメイン x の接続点の列挙。
  • ユーザーがすべてのドメインで sdxadm グループに割り当てられている場合は、すべての接続点の列挙。
  • 接続点状態の変更、ドメイン x の使用可能構成要素リストにあるボードの割り当て、割り当て解除、電源投入、および電源切断。

sdxop

x はドメインを意味します。

  • ドメイン x の接続点の列挙。
  • ユーザーがすべてのドメインで sdxop グループに割り当てられている場合は、すべての接続点の列挙。

Sun Fire 15K および 12K システムグループ

Sun Fire 15K または 12K システム上のグループメンバーシップを示す /etc/group ファイルを変更するには、引数を指定して /opt/SUNWSMS/bin/smsconfig スクリプトを実行します。詳細は、『System Management Services (SMS) 1.2 管理者マニュアル (Sun Fire 15K/12K システム用)』を参照してください。

割り当てられているグループメンバーシップに応じて、ユーザーが実行できるすべての操作を以下の表に示します。

表 1-2 グループに応じて実行できるタスク - Sun Fire 15K および 12K

グループ

ユーザーが実行できるタスク

platadmn

ボードの割り当て、割り当て解除、電源投入、および電源切断。

platoper

特別な特権はありません。

dmnxadm

x はドメインを意味します。

  • ドメイン x の接続点の列挙。
  • ユーザーがすべてのドメインで dmnxadm グループに割り当てられている場合は、すべての接続点の列挙。
  • 接続点状態の変更、ドメイン x の使用可能構成要素リストにあるボードの割り当て、割り当て解除、電源投入、および電源切断。

dmnxrcfg

x はドメインを意味します。

  • ドメイン x の接続点の列挙。
  • ユーザーがすべてのドメインで dmnxrcfg グループに割り当てられている場合は、すべての接続点の列挙。
  • 接続点状態の変更、ドメイン x の使用可能構成要素リストにあるボードの割り当て、割り当て解除、電源投入、および電源切断。


Solaris WBEM Services

WDR は、Solaris 8 2/02 および Solaris 9 オペレーティング環境に搭載されている Solaris WBEM Services ソフトウェアを拡張したものです。Solaris WBEM Services ソフトウェアを使用すると、管理データに安全にアクセスして操作することができるため、ソフトウェア開発者は Solaris 環境でシステムリソースを管理するクライアントアプリケーションを作成することができます。

Solaris WBEM Services ソフトウェアは、以下の 3 つのレベルで機能するコンポーネントから構成されています。

Solaris WBEM Services コンポーネントは、Solaris ソフトウェアとも、システムハードウェアとも対話します。Solaris WBEM Services ソフトウェアについての詳細は、Solaris WBEM Web サイト www.sun.com/software/solaris/wbem を参照してください。

負荷均衡などのシステム管理アプリケーションの開発者は、Solaris WBEM Services ソフトウェアを使用すると、Sun Fire システムドメイン上での現在使用されているリソースの使用率レベル情報を入手することができます。システムパフォーマンスデータは、WDR 自体からは提供されません。


CIM Object Manager (CIMOM)

WBEM システム上では、CIMOM が CIM オブジェクトの管理を行います。CIMOM は、WBEM クライアント間の情報、CIMOM Repository の情報、および管理対象リソースの情報をプロバイダ経由で転送します。CIMOM は RMI プロトコルを使用して管理アプリケーションからの接続を受け付け、接続されているクライアントに以下のサービスを提供します。


WBEM プロバイダ

WDR にはいくつかのプロバイダクラスがあり、これは MOF ファイルに記述されています。WBEM プロバイダは、システム上の CIMOM と管理対象オブジェクトとの間の仲介を行うクラスです。WBEM プロバイダは、管理対象デバイス上で情報の取得と設定を行い、さらに操作を実行することもあります。WBEM プロバイダでは、Solaris WBEM Services ソフトウェアに含まれている CIMOM に取り出した情報を転送して、要求側クライアントに配布します。

CIMOM が CIMOM Repository で取得できない情報に関する要求を受け取った場合は、その要求をプロバイダに転送します。プロバイダではその情報に対する要求を受け取ると、API を使ってその情報を返します。


Solaris WBEM ソフトウェア開発キット (SDK)

WDR アプリケーションの開発者は、Solaris WBEM SDK を使用することができます。ただし、WDR では標準のプロトコルセットが使用されているので、Solaris WBEM SDK を使用するための要件はありません。Solaris WBEM SDK についての詳細は、以下の Sun Developer Connection の Web サイトをご覧ください。

www.sun.com/solaris/wbem