Sun Studio 12: C ユーザーズガイド

7.2.1 派生型

32 ビットと 64 ビットのどちらのコンパイル環境でも安全なコードにするには、システム派生型を使用します。一般的に、変更の可能性がある場合には派生型を使用することをお勧めします。派生データ型を使用すると、データ型モデルの変更あるいは移植に際して、システム派生型を変更すればよいだけになります。

システムインクルードファイルの <sys/types.h> および <inttypes.h> には、32 ビットと 64 ビットのどちらにも安全なアプリケーションの作成に役立つ定数、マクロ、派生型が含まれています。

7.2.1.1 <sys/types.h>

アプリケーションのソースファイルに <sys/types.h> をインクルードして、 _LP64 および _ILP32 の定義を使用できるようにしてください。このヘッダーには、必要に応じて使用される基本派生型もいくつか含まれています。特に次は大切です。

これらの派生型はすべて、ILP32 コンパイル環境では 32 ビット量のままですが、LP64 コンパイル環境では、64 ビット量になります。

7.2.1.2 <inttypes.h>

<inttypes.h> インクルードファイルには、コンパイル環境に関係なく、明示的にサイズ指定されたデータ項目との互換性を持たせるのに役立つ定数、マクロ、派生型が含まれています。このファイルには、8、16、32、64 ビットオブジェクトを操作するための仕組みも含まれています。inttypes.h は、新しい 1999 ISO/IEC C 規格の一部であり、このファイルが 1999 ISO/IEC C 規格に含まれるように、ファイルの内容は従っています。近い将来、このファイルは更新され、1999 ISO/IEC C 規格に完全に適合する予定です。<inttypes.h> に含まれることが議論されている基本機能としては、次のものがあります。

次に <inttypes.h> のこれらの基本機能について詳しく説明します。

固定幅の整数型

<inttypes.h> が提供する固定幅の整数型には、int8_tint16_tint32_tint64_t などの符号付整数型と、uint8_tuint16_tuint32_tuint64_t などの符号なし整数型があります。

指定数のビットを保持できる最小サイズの整数型として定義されている派生型としては、 int_least8_t、…、int_least64_tuint_least8_t、…、uint_least64_t などがあります。

ループカウンタやファイル記述子などの演算に int または unsigned int を使用することは問題ありません。配列インデックスに long を使用することも問題ありません。しかし、これらの固定幅型はむやみに使用しないでください。固定幅の型は、次の明示的なバイナリ表現に使用してください。

unintptr_t などの便利な型

<inttypes.h> ファイルには、ポインタを保持するのに十分な大きさの符号付き整数型と符号なし整数型 intptr_tuintptr_t が含まれます。また、符号付きと符号なし整数型の中で最長 (ビット) の整数型である intmax_tuintmax_t も提供します。

uintptr_t 型は、符号なし long などの基本型ではなく、ポインタ用の整数型として使用してください。ILP32 と LP64 コンパイル環境で符号なし long とポインタが同じサイズであるとしても、uintptr_t を使用するということは、データ型モデルが変わった場合に、その影響を受けるのは uintptr_t の定義だけになることを意味します。このため、ほかの多くのシステムにコードを移植できるようになります。また、これは、C で自分の意図していることをより明確に表現する手段になります。

intptr_t および uintptr_t 型は、アドレス演算でポインタの型変換を行うときに大変役立ちます。この目的には、long や符号なし long ではなく、intptr_tuintptr_t 型を使用してください。

定数マクロ

定数のサイズと符号の指定には、INT8_C(c)INT64_C(c)UINT8_C(c)UINT64_C(c) マクロを使用してください。基本的に、これらのマクロは、必要に応じて定数の末尾に lulllull という文字列を追加します。たとえば、INT64_C(1) は、ILP32 では、定数 1 に ll、 LP 64 では l を付加します。

定数を最大型にするときは、INTMAX_C(c)UINTMAX_C(c) を使用してください。これらのマクロは、「7.3 LP64 データ型モデルへの変換」で説明している定数型を指定する際に大変役立ちます。

制限値

<inttypes.h> で定義されている上下制限は、いろいろな整数型の最小値と最大値を指示する定数です。これには、INT8_MININT64_MININT8_MAXINT64_MAX などの固定幅型をそれぞれの符合なし型に対する最小値と最大値が含まれます。

<inttypes.h> ファイルには、最小サイズのそれぞれの型に対する最小値と最大値も含まれます。これには、INT_LEAST8_MININT_LEAST64_MININT_LEAST8_MAXINT_LEAST64_MAX 型やこれらに対応する符号なし型があります。

また、<inttypes.h> には、サポートされる最大整数型の最小値と最大値も定義されています。これには、INTMAX_MININTMAX_MAX、これらに対応する符号なし型があります。

書式文字列マクロ

<inttypes.h> ファイルには printf(3S) および scanf(3S) の書式指示子を指定するマクロも含まれています。基本的にこれらのマクロは、引数のビット数がマクロ名に組み込まれていることを条件に、書式指示子の前に l または ll を付加して、引数が long または long long のどちらであるかを示します。

次の例に示すように、最小および最大整数型を 10 進、8 進、符号なし、16 進の形式で表示する、printf(3S) 用のマクロがあります。


int64_t i;
printf("i =%" PRIx64 "\n", i);

同様に、最小および最大整数型を 10 進、8 進、符号なし、16 進の形式で読み取る、scanf(3S) 用のマクロがあります。


uint64_t u;
scanf("%" SCNu64 "\n", &u);

これらのマクロはむやみに使用しないでください。「固定幅の整数型」で説明しているように、固定幅型に対して使用するのがもっとも適しています。