Sun Studio 12: OpenMP API ユーザーズガイド

2.4 Solaris でのプロセッサ結合

プロセッサ結合では、プログラマはプログラムの実行を通じてプログラム内のスレッドを同じプロセッサで実行すべきであることを、Solaris オペレーティングシステムに指示します。この機能は Linux 上では使用できません。

static スケジュール指定ととともにプロセッサ結合を使用すると、並列領域またはワークシェアリング領域の前回呼び出し以降、その領域内のスレッドがアクセスするデータがローカルキャッシュに存在する、特定のデータ再利用パターンを持つアプリケーションにメリットがあります。

ハードウェアから見ると、コンピュータシステムは 1 つまたは複数の「物理」プロセッサから構成されています。オペレーティングシステム (Solaris) から見ると、これらの「物理」プロセッサはそれぞれ、プログラム内のスレッドを実行可能な 1 つまたは複数の「仮想」プロセッサにマッピングされます。n 個の仮想プロセッサを使用する場合、n 個のスレッドを同時に実行するようスケジューリングできます。システムによって、仮想プロセッサはプロセッサ、コアなどになる可能性があります。たとえば、UltraSPARC IV 物理プロセッサには、それぞれ 2 つのコアがあります。Solaris OS から見ると、この各コアはスレッドの実行をスケジューリング可能な「仮想」プロセッサです。一方、UltraSPARC T1 物理プロセッサには 8 つのコアがあり、各コアはスレッドを 4 つ同時に処理できます。Solaris OS から見ると、スレッドの実行をスケジューリング可能な仮想プロセッサは 32 個あります。Solaris オペレーティングシステムでは、psrinfo(1M) コマンドを使用して仮想プロセッサの数を特定できます。

オペレーティングシステムがスレッドをプロセッサに結合すると、スレッドは実質的に「物理」プロセッサではなく、特定の「仮想」プロセッサに結合されます。

Solaris OS で実行する場合、OpenMP プログラム内のスレッドを特定の仮想プロセッサに結合するには、SUNW_MP_PROCBIND 環境変数を設定します。SUNW_MP_PROCBIND には、次のいずれかの値を指定できます。

前述の非負整数は論理識別子 (ID) を表しています。論理 ID は「仮想」プロセッサ ID とは異なります。その違いを次に示します。

仮想プロセッサ ID

システム内の各仮想プロセッサは一意のプロセッサ ID を持ちます。Solaris OS の psrinfo(1M) コマンドを使用すると、システム内のプロセッサに関するプロセッサ ID などの情報を表示できます。さらに、prtdiag(1M) コマンドを使用すると、システム構成および診断情報を表示できます。

Solaris の最近のリリースでは psrinfo -pv を使用すると、システム内のすべての物理プロセッサ、および各物理プロセッサに関連付けられた仮想プロセッサを一覧表示できます。

仮想プロセッサ ID は、連番になることも、ID 番号が飛ぶこともあります。たとえば、8 個の UltraSPARC IV プロセッサ (16 コア) を持つ Sun Fire 4810 では、仮想プロセッサ ID が 0、1、2、3、8、9、10、11、512、513、514、515、520、521、522、523 のようになります。

論理 ID

前述のとおり、SUNW_MP_PROCBIND に指定された非負整数は論理 ID です。論理 ID は 0 から始まる連続した整数です。システムで使用可能な仮想プロセッサの数が n 個の場合、その論理 ID は、psrinfo(1M) で表示される順に 0、1、...、n-1 のようになります。次の Korn シェルスクリプトを使用すると、仮想プロセッサ ID から論理 ID へのマッピングを表示できます。


#!/bin/ksh

NUMV= `psrinfo | fgrep "on-line" | wc -l `
set -A VID  `psrinfo | cut -f1 `

echo "Total number of on-line virtual processors = $NUMV"
echo

let "I=0"
let "J=0"
while [[ $I -lt $NUMV ]]
do
  echo "Virtual processor ID ${VID[I]} maps to logical ID ${J}"
  let "I=I+1"
  let "J=J+1"
done

1 つの物理プロセッサが複数の仮想プロセッサにマッピングされているシステムでは、同じ物理プロセッサに属す仮想プロセッサにどの論理 ID が対応しているかを知っておくと便利です。次の Korn シェルスクリプトを最近のリリースの Solaris で使用すると、この情報が表示されます。


#!/bin/ksh

NUMV= `psrinfo | grep "on-line" | wc -l `
set -A VLIST  `psrinfo | cut -f1 `
set -A CHECKLIST  `psrinfo | cut -f1 `

let "I=0"

while [ $I -lt $NUMV ]
do
  let "COUNT=0"
  SAMELIST="$I"

  let "J=I+1"

  while [ $J -lt $NUMV ]
  do
    if [ ${CHECKLIST[J]} -ne -1 ]
    then
      if [  `psrinfo -p ${VLIST[I]} ${VLIST[J]} ` = 1 ]
      then
        SAMELIST="$SAMELIST $J"
        let "CHECKLIST[J]=-1"
        let "COUNT=COUNT+1"
      fi
    fi
    let "J=J+1"
  done

  if [ $COUNT -gt 0 ]
  then
    echo "The following logical IDs belong to the same physical processor:"
    echo "$SAMELIST"
    echo " "
  fi

  let "I=I+1"
done

SUNW_MP_PROCBIND に指定された値の解釈

SUNW_MP_PROCBIND に指定された値が非負整数の場合、その整数はスレッドの結合先の仮想プロセッサの開始論理 ID を表します。スレッドは、指定された論理 ID のプロセッサから始めてラウンドロビン式に仮想プロセッサに結合され、論理 ID n-1 のプロセッサのあとは ID 0 のプロセッサに戻ります。SUNW_MP_PROCBIND に指定された値が 2 つ以上の非負整数のリストになっている場合、スレッドはラウンドロビン式に指定された ID の仮想プロセッサに結合されます。指定された以外の論理 ID を持つプロセッサは使用されません。

SUNW_MP_PROCBIND に指定された値が、マイナス記号 (-) で区切られた 2 つの非負整数の場合、スレッドは最初の論理 ID から 2 番目の論理 ID の範囲の仮想プロセッサに、ラウンドロビン式で結合されます。この範囲に含まれない論理 ID を持つプロセッサは使用されません。

SUNW_MP_PROCBIND に指定された値が前述のどの形式にも当てはまらないか、不正な論理 ID が指定された場合は、エラーメッセージが出力され、プログラムの実行が終了します。

microtasking ライブラリ libmtsk で作成されるスレッドの数は、環境変数、ユーザーのプログラム内の API 呼び出し、および num_threads 句によって異なります。SUNW_MP_PROCBIND は、スレッドの結合先となる仮想プロセッサの論理 ID を指定します。スレッドは、その一連のプロセッサにラウンドロビン式で結合されます。プログラム内で使用しているスレッドの数が、SUNW_MP_PROCBIND で指定された論理 ID の数よりも少ない場合、一部の仮想プロセッサはそのプログラム内で使用されません。SUNW_MP_PROCBIND で指定された論理 ID の数よりもスレッドの数が多い場合、一部の仮想プロセッサには複数のスレッドが結合されます。