Sun Studio 12 Update 1: C++ ユーザーズガイド

A.2.110 -xarch=isa

対象となる命令セットアーキテクチャー (ISA) を指定します。

このオプションは、コンパイラが生成するコードを、指定した命令セットアーキテクチャーの命令だけに制限します。このオプションは、すべてのターゲットを対象とするような命令としての使用は保証しません。ただし、このオプションを使用するとバイナリプログラムの移植性に影響を与える可能性があります。


注 –

意図するメモリーモデルとして LP64 (64 ビット) または ILP32 (32 ビット) を指定するには、それぞれ -m64 または -m32 オプションを使用してください。次に示すように以前のリリースとの互換性を保つ場合を除いて、-xarch オプションでメモリーモデルを指定できなくなりました。


別々の手順でコンパイルしてリンクする場合は、両方の手順に同じ -xarch の値を指定してください。コンパイル時とリンク時の両方に指定する必要があるコンパイラオプションの全一覧については、「3.3.3 コンパイル時とリンク時のオプション」を参照してください。

A.2.110.1 SPARC での -xarch のフラグ

次の表に、SPARC プラットフォームでの各 -xarch キーワードの詳細を示します。

表 A–23 SPARC プラットフォームでの -xarch のフラグ

フラグ  

意味 

generic

ほとんどのプロセッサに共通の命令セットを使用します。これはデフォルトであり、—m32 を指定してコンパイルする場合の v8plus、および —m64 を指定する場合の sparc に相当します。

generic64

多くのシステムで良好な 64 ビットパフォーマンスを得るためのコンパイルをします (Solaris のみ)。 

このオプションは -m64 -xarch=generic に相当し、以前のリリースとの互換性のために用意されています。64 ビットでのコンパイルを指定するには、次のものではなく -m64 を使用してください。 -xarch=generic64

native

このシステムで良好なパフォーマンスを得られるようにコンパイルします。現在コンパイルしているシステムプロセッサにもっとも適した設定を選択します。 

native64

このシステムで良好なパフォーマンスを得られるようにコンパイルします (Solaris のみ)。このオプションは -m64 -xarch=native に相当し、以前のリリースとの互換性のために用意されています。

sparc

SPARC-V9 ISA 用のコンパイルを実行しますが、VIS (Visual Instruction Set) は使用せず、その他の実装に固有の ISA 拡張機能も使用しません。このオプションを使用して、コンパイラは、V9 ISA で良好なパフォーマンスが得られるようにコードを生成できます。 

sparcvis

SPARC-V9 + VIS (Visual Instruction Set) Version 1.0 + UltraSPARC 拡張機能用のコンパイルを実行します。このオプションを使用すると、コンパイラは、UltraSPARC アーキテクチャー上で良好なパフォーマンスが得られるようにコードを生成することができます。 

sparcvis2

UltraSPARC アーキテクチャー + VIS (Visual Instruction Set) Version 2.0 + UltraSPARC-III 拡張機能用のオブジェクトコードを生成します。 

sparcfmaf

SPARC-V9 命令セット、VIS (Visual Instruction Set) Version 1.0 を含む UltraSPARC 拡張機能、VIS (Visual Instruction Set) Version 2.0 を含む UltraSPARC-III 拡張機能、および浮動小数点積和演算用の SPARC64 VI 拡張機能の命令をコンパイラが使用できるようになります。 

-xarch=sparcfmaf fma=fused と組み合わせて使用し、ある程度の最適化レベルを指定することで、コンパイラが自動的に積和命令の使用を試みるようにする必要があります。

v7

(廃止)

SPARC-V7 ISA 用にコンパイルします。最新の Solaris オペレーティングシステムは、SPARC V7 アーキテクチャーをサポートしていません。このオプションを付けてコンパイルしたプログラムは、最新のプラットフォームで実行速度が低下します。 

デフォルトは -xarch=v8plus です。

例: SPARCstation 1、SPARCstation 2 

v8a

(廃止)

V8a 版の SPARC-V8 ISA 用にコンパイルします。定義上、V8a は V8 ISA を意味します。ただし、fsmuld 命令は含まれていません。

このオプションを使用すると、コンパイラは、V8 a ISA 上で良好なパフォーマンスが得られるようにコードを生成することができます。 

例: microSPARC I チップアーキテクチャーに基づくすべてのシステム 

v8

(廃止)

SPARC-V8 ISA 用にコンパイルします。V8 アーキテクチャー上で良好なパフォーマンスを得るためのコードを生成します。例: SPARCstation 10 

v8plus

V8plus 版の SPARC-V9 ISA 用にコンパイルします。定義上、V8plus は V9 ISA を意味します。ただし、V8plus ISA 仕様で定義されている 32 ビットサブセットに限定されます。さらに、VIS (Visual Instruction Set) と実装に固有な ISA 拡張機能は含まれていません。

  • このオプションを使用すると、コンパイラは、V8plus ISA 上で良好なパフォーマンスが得られるようにコードを生成することができます。

  • 生成されるオブジェクトコードは SPARC-V8 + ELF32 形式であり、Solaris UltraSPARC 環境でのみ実行できます。つまり、V7 または V8 のプロセッサ上では実行できません。

    例: UltraSPARC チップアーキテクチャーに基づく任意のシステム

v8plusa

V8plusa 版の SPARC-V9 ISA 用にコンパイルします。定義上、V8plusa V8plus アーキテクチャー + VIS (Visual Instruction Set) Version 1.0 + UltraSPARC 拡張機能を意味します。

  • UltraSPARC アーキテクチャー上で良好なパフォーマンスを得るためのコードを生成します。ただし、V8plus 仕様で定義されている 32 ビットサブセットに限定されます。

  • 生成されるオブジェクトコードは SPARC-V8 + ELF32 形式であり、Solaris UltraSPARC 環境でのみ実行できます。つまり、V7 または V8 のプロセッサ上では実行できません。

    例: UltraSPARC チップアーキテクチャーに基づく任意のシステム

v8plusb

UltraSPARC-III 拡張機能を持つ、V8plusb 版の SPARC-V8plus ISA 用にコンパイルします。 

UltraSPARC アーキテクチャー + VIS (Visual Instruction Set) Version 2.0 + UltraSPARC-III 拡張機能用のオブジェクトコードを生成します。 

  • 生成されるオブジェクトコードは SPARC-V8 + ELF32 形式です。Solaris UltraSPARC-III 環境でのみ実行できます。

  • UltraSPARC-III アーキテクチャー上で良好なパフォーマンスを得るための最良のコードを使用します。

v9

-m64 -xarch=sparc に相当します。64 ビットメモリーモデルを得るために -xarch=v9 を使用する古いメイクファイルとスクリプトでは、-m64 だけを使用すれば十分です。

v9a

-m64 -xarch=sparcvis に相当し、以前のリリースとの互換性のために用意されています。

v9b

-m64 -xarch=sparcvis2 に相当し、以前のリリースとの互換性のために用意されています。

また、次のことにも注意してください。

オプションの選択によっては、生成された実行可能プログラムのパフォーマンスが、初期のアーキテクチャーよりかなり劣ることがあります。また、4 倍精度 (long double) の浮動小数点命令は、これらの命令セットアーキテクチャーの多くで使用できますが、コンパイラは、それらの命令を生成するコードでは、それらの命令を使用しません。

A.2.110.2 x86 での -xarch のフラグ

次の表に、x86 プラットフォームでの -xarch フラグを示します。

表 A–24 x86 での -xarch のフラグ

フラグ 

意味  

amd64

-m64 -xarch=sse2 に相当します (Solaris のみ)。64 ビットメモリーモデルを得るために -xarch=amd64 を使用する古いメイクファイルとスクリプトでは、-m64 だけを使用すれば十分です。

amd64a

-m64 -xarch=sse2a に相当します (Solaris のみ)。

generic

ほとんどのプロセッサに共通の命令セットを使用します。これはデフォルトであり、—m32 でコンパイルする場合の pentium_pro、および —m64 でコンパイルする場合の sse2 に相当します。

generic64

多くのシステムで良好な 64 ビットパフォーマンスを得るためのコンパイルをします (Solaris のみ)。このオプションは -m64 -xarch=generic に相当し、以前のリリースとの互換性のために用意されています。64 ビットでのコンパイルを指定するには、次のものではなく -m 64 を使用してください。 - xarch=generic64

native

このシステムで良好なパフォーマンスを得られるようにコンパイルします。現在コンパイルしているシステムプロセッサにもっとも適した設定を選択します。 

native64

このシステムで良好なパフォーマンスを得られるようにコンパイルします (Solaris のみ)。このオプションは -m64 -xarch=native に相当し、以前のリリースとの互換性のために用意されています。

pentium_pro

命令セットを 32 ビット pentium_pro アーキテクチャーに限定します。 

pentium_proa

AMD 拡張機能 (3DNow!、3DNow! 拡張機能、および MMX 拡張機能) を 32 ビット pentium_pro アーキテクチャーに追加します。 

sse

SSE 命令セットを pentium_pro アーキテクチャーに追加します。

ssea

AMD 拡張機能 (3DNow!、3DNow! 拡張機能、および MMX 拡張機能) を 32 ビット SSE アーキテクチャーに追加します。 

sse2

SSE2 命令セットを pentium_pro アーキテクチャーに追加します。

sse2a

AMD 拡張機能 (3DNow!、3DNow! 拡張機能、および MMX 拡張機能) を 32 ビット SSE2 アーキテクチャーに追加します。 

sse3

SSE3 命令セットを SSE2 命令セットに追加します。 

ssse3

SSSE3 命令セットで、pentium_pro、SSE、SSE2、および SSE3 の各命令セットを補足します。 

sse4_1

SSSE4.1 命令セットで、pentium_pro、SSE、SSE2、SSE3、および SSSE3 の各命令セットを補足します。 

sse4_2

SSSE4.2 命令セットで、pentium_pro、SSE、SSE2、SSE3、SSSE3、および SSSE4.1 の各命令セットを補足します。 

A.2.110.3 x86 の特記事項

x86 Solaris プラットフォーム用にコンパイルを行う場合に注意が必要な、重要な事項がいくつかあります。

従来の Sun 仕様の並列化プログラムは、x86 では使用できません。代わりに OpenMP を使用してください。従来の並列化指令を OpenMP へ変換する方法については、『Sun Studio OpenMP API ユーザーズガイド』を参照してください。

-xarchssesse2sse2a、または sse3 以降に設定してコンパイルしたプログラムは、必ずこれらの拡張子と機能を提供するプラットフォームでのみ実行してください。

Pentium 4 互換プラットフォームの場合、Solaris OS リリースは SSE/SSE2 に対応しています。これより前のバージョンの Solaris OS は SSE/SSE2 に対応していません。-xarch で選択した命令セットが、実行中の Solaris OS で有効ではない場合、コンパイラはその命令セットのコードを生成またはリンクできません。

コンパイルとリンクを別々に行う場合は、必ずコンパイラを使ってリンクし、-xarch 設定で適切な起動ルーチンがリンクされるようにしてください。

x86 の 80 バイト浮動小数点レジスタが原因で、x86 での演算結果が SPARC の結果と異なる数値になる場合があります。この差を最小にするには、 -fstore オプションを使用するか、ハードウェアが SSE2 をサポートしている場合は -xarch=sse2 でコンパイルします。

イントリンシック算術ライブラリ (sin(x) など) が異なるため、Solaris と Linux でも演算結果が数値的に異なる場合があります。

A.2.110.4 バイナリの互換性の妥当性検査

Sun Studio 11 と Solaris 10 OS から、これらの特殊化された -xarch ハードウェアフラグを使用してコンパイルし、構築されたプログラムバイナリは、適切なプラットフォームで実行されることが確認されます。

Solaris 10 以前のシステムでは妥当性検査が行われないため、これらのフラグを使用して構築したオブジェクトが適切なハードウェアに配備されることをユーザが確認する必要があります。

これらの -xarch オプションでコンパイルしたプログラムを、適切な機能または命令セット拡張に対応していないプラットフォームで実行すると、セグメント例外や明示的な警告メッセージなしの不正な結果が発生することがあります。

このことは、.il インラインアセンブリ言語関数を使用しているプログラムや、SSE、SSE2、SSE2a、および SSE3 の命令と拡張機能を利用している __asm() アセンブラコードにも当てはまります。

A.2.110.5 相互の関連性

このオプションは単体でも使用できますが、-xtarget オプションの展開の一部でもあります。したがって、特定の -xtarget オプションで設定される -xarch のオーバーライドにも使用できます。-xtarget=ultra2-xarch=v8plusa -xchip=ultra2 -xcache=16/32/1:512/64/1 に展開されます。次のコマンドでは、-xarch=v8plusb は、-xtarget=ultra2 の展開で設定された -xarch=v8plusa より優先されます。


example% CC -xtarget=ultra2 -xarch=v8plusb foo.cc

-xarch=generic64-xarch=native64-xarch=v9-xarch=v9a、または -xarch=v9b による -compat[=4] の使用はサポートされていません。

A.2.110.6 警告

このオプションを最適化と併せて使用する場合、適切なアーキテクチャーを選択すると、そのアーキテクチャー上での実行パフォーマンスを向上させることができます。ただし、適切な選択をしなかった場合、パフォーマンスが著しく低下するか、あるいは、作成されたバイナリプログラムが目的のターゲットプラットフォーム上で実行できない可能性があります。

別々の手順でコンパイルしてリンクする場合は、両方の手順に同じ -xarch の値を指定してください。