Oracle Solaris Studio 12.2: パフォーマンスアナライザ

ハードウェアカウンタオーバーフローのプロファイルデータ

ハードウェアカウンタは、キャッシュミス、キャッシュストールサイクル、浮動小数点演算、分岐予測ミス、CPU サイクル、および実行対象命令といったイベントの追跡に使用されます。ハードウェアカウンタオーバーフローのプロファイルでは、LWP が動作している CPU の特定のハードウェアカウンタがオーバーフローしたときに、コレクタはプロファイルパケットを記録します。この場合、そのカウンタはリセットされ、カウントを続行します。プロファイルパケットには、オーバーフロー値とカウンタタイプが入っています。

各種の CPU ファミリが 2 潤オ 18 個の同時ハードウェアカウンタレジスタをサポートしています。コレクタは、複数のレジスタ上でデータを収集できます。コレクタではレジスタごとに、オーバーフローを監視するカウンタの種類を選択し、カウンタのオーバーフロー値を設定することができます。ハードウェアカウンタには、任意のレジスタを使用できるものと、特定のレジスタしか使用できないものがあります。このことは、1 つの実験であらゆるハードウェアカウンタの組み合わせを選択できるわけではないことを意味します。

パフォーマンスアナライザは、ハードウェアカウンタのオーバーフロープロファイルデータをカウントメトリックスに変換します。循環型のカウンタの場合、報告されるメトリックスは時間に変換されます。非循環型のカウンタの場合は、イベントの発生回数になります。複数の CPU を搭載したマシンの場合、メトリックスの変換に使用されるクロック周波数が個々の CPU のクロック周波数の調和平均となります。プロセッサのタイプごとに専用のハードウェアカウンタセットがあり、またハードウェアカウンタの数が多いため、ハードウェアカウンタメトリックスはここに記載していません。次の項で、どのような種類のハードウェアカウンタがあるかについて調べる方法を説明します。

ハードウェアカウンタの用途の 1 つは、CPU に出入りする情報フローに伴う問題を診断することです。たとえば、キャッシュミス回数が多いということは、プログラムを再構成してデータまたはテキストの局所性を改善するか、キャッシュの再利用を増やすことによってプログラムのパフォーマンスを改善できることを意味します。

ハードウェアカウンタはほかのカウンタと関連する場合があります。たとえば、分岐予測ミスが発生すると、間違った命令が命令キャッシュに読み込まれ、これらの命令を正しい命令と置換しなければならなくなるため、分岐予測ミスと命令キャッシュミスが関連付けられることがよくあります。置換により、命令キャッシュミス、命令変換索引バッファー (Instruction Translation Look aside Buffer、ITLB) ミス、またはページフォルトが発生する可能性があります。

ハードウェアカウンタのオーバーフローは、イベントを発生させて対応するイベントのカウンタをオーバーフローにした命令のあとに、1 つ以上の命令で実現される傾向があります。これは「滑り止め」と呼ばれ、カウンタオーバーフローのプロファイルを解釈しにくくする可能性があります。原因となる命令を正確に識別するためのハードウェアサポートがないと、候補の原因となる命令の適切なバックトラッキング検索が行われる場合があります。

そのようなバックトラッキングが収集中にサポートされて指定されると、ハードウェアカウンタプロファイルパケットにはさらに、ハードウェアカウンタイベントに適した候補の、メモリー参照命令の PC (プログラムカウンタ) と EA (有効アドレス) が組み込まれます。解析中の以降の処理は、候補のイベント PC と EA を有効にするのに必要です。このメモリー参照イベントに関する追加情報により、データ空間プロファイリングと呼ばれるさまざまなデータ指向解析が容易になります。バックトラッキングは、Oracle Solaris オペレーティングシステムを実行している SPARC ベースのプラットフォームでのみサポートされます。

候補のイベント PC および EA のバックトラッキングと記録は、時間プロファイルに対しても指定できますが、解釈しにくい場合があります。

ハードウェアカウンタのリスト

ハードウェアカウンタはプロセッサ固有であるため、どのカウンタを利用できるかは、使用しているプロセッサによって異なります。パフォーマンスツールには、よく使われると考えられるいくつかのカウンタの別名が用意されています。コレクタから特定システム上で利用できるハードウェアカウンタの一覧を取り出すには、引数を付けないで collect をそのシステム上の端末ウィンドウに入力します。プロセッサとシステムがハードウェアカウンタプロファイルをサポートしている場合、collect コマンドは、ハードウェアカウンタに関する情報が入った 2 つのリストを出力します。最初のリストには一般的な名称に別名が設定されたハードウェアカウンタが含まれ、2 番目のリストには raw ハードウェアカウンタが含まれます。パフォーマンスカウンタサブシステムも collect コマンドも特定システムのカウンタの名前を知らない場合、各リストは空になります。ただしほとんどの場合、カウンタは数値で指定できます。

次に、カウンタリストに含まれるエントリの表示例を示します。別名が設定されたカウンタがリストの最初に表示され、続いて raw ハードウェアカウンタリストが表示されます。この例の出力における各行は、印刷用の形式になっています。


Aliased HW counters available for profiling:
cycles[/{0|1}],9999991 (’CPU Cycles’, alias for Cycle_cnt; CPU-cycles)
insts[/{0|1}],9999991 (’Instructions Executed’, alias for Instr_cnt; events)
dcrm[/1],100003 (’D$ Read Misses’, alias for DC_rd_miss; load events)
...
Raw HW counters available for profiling:
Cycle_cnt[/{0|1}],1000003 (CPU-cycles)
Instr_cnt[/{0|1}],1000003 (events)
DC_rd[/0],1000003 (load events)

別名が設定されたハードウェアカウンタリストの形式

別名が設定されたハードウェアカウンタリストでは、最初のフィールド (たとえば、cycles) は、collect コマンドの -h counter... 引数で使用できる別名を示します。この別名は、 er_print コマンド内で使用する識別子でもあります。

リストの 2 番目のフィールドには、そのカウンタに使用可能なレジスタ、たとえば、[/{0|1}] が示されます。

3 番目のフィールドは、たとえば 9999991 など、カウンタのデフォルトのオーバーフロー値です。別名が設定されたカウンタの場合は、合理的なサンプルレートを提供するためにデフォルト値が選択されています。実際のレートは、かなり変化するため、デフォルト以外の値を指定する必要がある場合もあります。

4 番目のフィールドは、括弧で囲まれ、タイプ情報を含んでいます。これは、簡単な説明 (CPU Cycles など)、raw ハードウェアカウンタ名 (Cycle_cnt など)、およびカウントされる単位の種類 (CPU-cycles など) を提供します。

タイプ情報の最初のワードが、

タイプ情報の 2 番目または唯一のワードが、

この例の別名が設定されたハードウェアカウンタリストでは、タイプ情報に 1 ワードが含まれており、最初のカウンタの場合は CPU-cycles で、2 番目のカウンタの場合は、events となっています。3 番目のカウンタでは、タイプ情報に load events という 2 ワードが含まれています。

raw ハードウェアカウンタリストの形式

raw ハードウェアカウンタリストに含まれる情報は、別名設定されたハードウェアカウンタリストに含まれる情報のサブセットです。raw ハードウェアカウンタリスト内の各行には、cpu-track(1) によって使用された内部カウンタ名、そのカウンタを使用できるレジスタ番号 (単数または複数)、デフォルトのオーバーフロー値、およびカウンタ単位が含まれており、カウンタ単位は CPU-cyclesEvents です。

カウンタがプログラムの実行に関連のないイベントを測定する場合、タイプ情報の最初のワードは not-program-related になります。そのようなカウンタの場合、プロファイリングで呼び出しスタックが記録されませんが、その代わりに、擬似関数 collector_not_program_related で使用された時間が示されます。スレッドと LWP ID は記録されますが、意味がありません。

raw カウンタのデフォルトのオーバーフロー値は 1000003 です。この値はほとんどの raw カウンタで最適でないため、raw カウンタを指定する際にオーバーフロー値を指定する必要があります。