Oracle Solaris Studio 12.2: dbx コマンドによるデバッグ

第 8 章 データの評価と表示

dbx では、次の 2 通りの方法でデータをチェックすることができます。

この章の内容は次のとおりです。

変数と式の評価

この節は、dbx を使用して変数および式を評価する方法について説明します。

実際に使用される変数を確認する

dbx がどの変数を評価するか確かでないときは、which コマンドを使用して dbx が使用する完全修飾名を調べてください。

変数名が定義されているほかの関数やファイルを調べるには、whereis コマンドを使用します。

コマンドについては、which コマンド」whereis コマンド」を参照してください。

現在の関数のスコープ外にある変数

現在の関数のスコープ外にある変数を評価 (監視) したい場合は、次のいずれかを行います。

変数、式または識別子の値を出力する

式はすべて、現在の言語構文に従う必要がありますが、dbx がスコープおよび配列を処理するために導入したメタ構文は除きます。

ネイティブコードの変数または式を評価するには、次のように入力します。


print expression

Java コードの式、局所変数、またはパラメータを評価するには、print コマンドを使用できます。

詳細については、print コマンド」を参照してください。


注 –

dbx は、C++ の dynamic_cast および typeid 演算子をサポートしています。これらの 2 つの演算子で式を評価すると、dbx は、コンパイラで提供された特定の rtti 関数へ呼び出しを行います。ソースが明示的に演算子を使用しない場合、これらの関数はコンパイラで生成されない場合があり、dbx は式を評価することができません。


C++ ポインタを出力する

C++ では、オブジェクトポインタに 2 つの型があります。1 つは「静的な型」で、ソースコードに定義されています。もう 1 つは「動的な型」で、変換前にオブジェクトは何であったかを示します。dbx は、動的な型のオブジェクトに関する情報を提供できる場合があります。

通常、オブジェクトに仮想関数テーブルの vtable が含まれる場合、dbx はこの vtable 内の情報を使用して、オブジェクトの型を正しく知ることができます。

printdisplay、または watch コマンドは、-r (再帰的) オプション付きで使用できます。 その場合、dbx はクラスによって直接定義されたデータメンバーすべてと、基底クラスから継承されたものを表示することができます。

これらのコマンドには、-d または +d オプションも使用できます。これは、dbx 環境変数 output_derived_type でデフォルト動作を切り替えることができます。

プロセスが何も実行されていないときに、-d フラグを使用するか、または dbx 環境変数 output_dynamic_typeon に設定すると、プログラムが実行可能な状態ではないことを表すエラーメッセージが出されます。これは、コアファイルのデバッグを実行している場合のように、プロセスがないときに動的情報にアクセスすることは不可能なためです。仮想継承から動的な型の検索を試みると、クラスポインタの不正なキャストを表すエラーメッセージが生成されます (仮想基底クラスから派生クラスへのキャストは C++ では無効です)。

C++ プログラムにおける無名引数を評価する

C++ では、無名の引数を持つ関数を定義できます。次に例を示します。


void tester(int)
{
};
main(int, char **)
{
   tester(1);
};

無名の引数はプログラム内のほかの場所では使用できませんが、dbx は無名引数を評価できる形式にコード化します。その形式は次のとおりです。ここで、dbx は %n に整数を割り当てます。


_ARG%n

コンパイラによって割り当てられた引数名を入手するには、対象の関数名を指定した whatis コマンドを実行します。


(dbx) whatis tester
void tester(int _ARG1);
(dbx) whatis main
int main(int _ARG1, char **_ARG2);

詳細については、whatis コマンド」を参照してください。

無名の関数引数を評価 (表示) するには、次のようにします。


(dbx) print _ARG1
_ARG1 = 4

ポインタを間接参照する

ポインタを間接参照すると、ポインタが指している内容に格納された値を参照できます。

ポインタを間接参照すると、dbx は、コマンド区画に評価結果を表示します。次の例では、t の指す値が表示されます。


(dbx) print *t
*t = {
a = 4
}

式を監視する

プログラムが停止するたびに式の値を監視することにより、特定の式または変数がいつどのように変化するかを効果的に知ることができます。 display コマンドは、指定されている 1 つまたは複数の式または変数を監視するように dbx に命令します。監視は、undisplay コマンドによって取り消されるまで続けられます。watch コマンドは、すべての停止ポイントの式を、その停止ポイントでの現在のスコープ内で評価して出力します。

プログラムが停止するたびに変数または式の値を表示するには、次のようにします。


display expression, ...

一度に複数の変数を監視できます。オプションを指定しないで display コマンドを使用すると、監視対象のすべての式が表示されます。

詳細については、display コマンド」を参照してください。

expression の値をすべての停止ポイントで監視するには、次のように入力します。


watch expression, ...

詳細については、watch コマンド」を参照してください。

表示を取り消す (非表示)

監視している変数の値の表示は、undisplay コマンドで「表示」を取り消すまで続けられます。特定の式だけを表示しないようにすることも、現在監視しているすべての式の表示を中止することも可能です。

特定の変数または式の表示をオフにするには、次のようにします。


undisplay expression

現在監視しているすべての変数の表示をオフにするには、次のようにします。


undisplay 0

詳細については、undisplay コマンド」を参照してください。

変数に値を代入する

変数に値を代入するには、次のように入力します。


assign variable = expression

配列を評価する

配列の評価は、ほかの種類の変数を評価する場合と同じ方法で行います。

Fortran の配列の例 :


integer*4 arr(1:6, 4:7)

配列を評価するには、print コマンドを使用します。静的関数


(dbx) print arr(2,4)

dbx コマンドの print を使用して、大型の配列の一部を評価することができます。配列を評価するには、次の操作を行います。

刻みは配列の断面化を行うときに必要に応じて指定することができます (刻みのデフォルト値は 1 で、その場合は各要素を出力します)。

配列の断面化

C、C++、Fortran では、printdisplay、および watch コマンドによって、配列の断面化を行うことができます。

C と C++ での配列の断面化の構文

配列の各次元を断面化するための print コマンドの完全な構文は次のとおりです。


print array-expression [first-expression .. last-expression : stride-expression]

ここで

array-expression

配列またはポインタ型に評価されるべき式

first-expression

印刷される最初の要素。デフォルトは 0

last-expression

印刷される最後の要素。その上限にデフォルト設定

stride-expression

刻み幅の長さ (スキップされる要素の数は stride-expression-1)。デフォルトは 1

最初、最後、および刻み幅の各式は、整数に評価されなければならない任意の式です。

次に例を示します。


(dbx) print arr[2..4]
arr[2..4] =
[2] = 2
[3] = 3
[4] = 4
(dbx) print arr[..2]
arr[0..2] =
[0] = 0
[1] = 1
[2] = 2

(dbx) print arr[2..6:2]
arr[2..6:2] =
[2] = 2
[4] = 4
[6] = 6

Fortran のための配列断面化構文

配列の各次元を断面化するための print コマンドの完全な構文は次のとおりです。


print array-expression [first-expression : last-expression : stride-expression]

ここで

array-expression

配列型に評価される式

first-expression

範囲内の最初の要素は、出力される最初の要素下限にデフォルト設定

last-expression

範囲内の最後の要素。ただし刻み幅が 1 でない場合、出力される最後の要素とはなりません。その上限にデフォルト設定

stride-expression

刻み幅。デフォルトは 1

最初、最後、および刻み幅の各式は、整数に評価されなければならない任意の式です。n 次元の断面については、カンマで各断面の定義を区切ります。

次に例を示します。


(dbx) print arr(2:6)
arr(2:6) =
(2) 2
(3) 3
(4) 4
(5) 5
(6) 6

(dbx) print arr(2:6:2)
arr(2:6:2) =
(2) 2
(4) 4
(6) 6

行と列を指定するには、次のように入力します。


demo% f95 -g -silent ShoSli.f
demo% dbx a.out
Reading symbolic information for a.out
(dbx) list 1,12
    1         INTEGER*4 a(3,4), col, row
    2         DO row = 1,3
    3             DO col = 1,4
    4               a(row,col) = (row*10) + col
    5             END DO
    6         END DO
    7         DO row = 1, 3
    8                WRITE(*,’(4I3)’) (a(row,col),col=1,4)
    9        END DO
    10        END
(dbx) stop at 7
(1) stop at "ShoSli.f":7
(dbx) run
Running: a.out
stopped in MAIN at line 7 in file "ShoSli.f"
    7          DO row = 1, 3

行 3 を印刷するには、次のように入力します。


(dbx) print a(3:3,1:4)
’ShoSli’MAIN’a(3:3, 1:4) =
        (3,1)   31
        (3,2)   32
        (3,3)   33
        (3,4)   34
(dbx)

列 4 を印刷するには、次のように入力します。


(dbx) print a(1:3,4:4)
’ShoSli’MAIN’a(1:3, 1:4) =
        (1,4)   14
        (2,4)   24
        (3,4)   34
(dbx)

断面を使用する

2 次元の C++ の矩形配列の断面の例を示します。ここでは、刻み値が省略され、デフォルト値の 1 が使用されます。


print arr(201:203, 101:105)

このコマンドは、大型配列の要素のブロックを出力します。stride-expression が省略され、デフォルトの刻み値である 1 が使用されていることに注意してください。

列が 100 から 106 までで、行が 200 から 205 までの配列の図列 101 から 105 のまでで、行 201 から 203 までの要素は網掛けされています。

最初の 2 つの式 (201:203) は、この 2 次元配列の第 1 次元 (3 行で構成される列) を指定します。配列の断面は行 201 から始まり、行 203 で終わります。次の組の式は最初の組とコンマで区切られ、第 2 次元の配列の断面を定義します。配列の断面は列 101 から始まり、列 105 で終わります。

刻みを使用する

print コマンドで刻み幅を指定すると、配列の断面に含まれる特定の要素だけが評価されます。

配列の断面のための構文の 3 番目の式 (stride-expression) は、刻み幅の長さを指定します。stride-expression の値は印刷する要素を指定します。刻み幅のデフォルト値は 1 です。このとき、指定された配列の断面のすべての要素が評価されます。

ここに、前述の例で使用したものと同じ配列があります。今度は、print コマンドの第 2 次元の配列の断面の定義に刻み幅の値として 2 を加えます。


print arr(201:203, 101:105:2)

図で示すとおり、刻み値として 2 を指定すると、各行を構成する要素が 1 つおきに出力されます。

列が 100 から 106 までで、行が 200 から 205 までの配列の図列 101、103、および 105 の、行 201 から 203 までの要素は網掛けされています。

print コマンドの配列の断面の定義を構成する式を省略すると、配列の宣言されたサイズに等しいデフォルト値が使用されます。このような簡易構文を使用した例を以下に示します。

1 次元配列の場合

print arr

デフォルトの境界で配列全体を出力します。

print arr(:)

デフォルトの境界とデフォルトの刻み (1) で、配列全体を出力します。

print arr(::stride-expression)

配列全体を stride-expression で指定された刻み幅で出力します。

2 次元配列の場合、次のコマンドは配列全体を出力します。


print arr

2 次元配列の第 2 次元を構成する要素を 2 つおきに出力します。


print arr (:,::3)

pretty-print の使用

pretty-print を使用すると、プログラムで関数呼び出しにより、式の値を独自に整形出力できます。printrprintdisplay、または watch コマンドに -p オプションを指定すると、dbxconst chars *db_pretty_print (const T *, int flags, const char *fmt) 形式の関数を検索して呼び出し、出力または表示用の戻り値を変換します。

この関数の flags 引数で渡される値は、次のいずれかのビット単位の論理和です。

FVERBOSE

0x1

現在実装されておらず、常に設定される 

FDYNAMIC

0x2

-d

FRECURSE

0x4

-r

FFORMAT

0x8

-f (設定されている場合、fmt はフォーマット部分)

FLITERAL

0x10

-l

db_pretty_print() 関数は、静的メンバー関数かスタンドアロン関数に指定できます。

dbx の環境変数 output_pretty_print を on に設定した場合、printrprint、または display コマンドにデフォルトとして -p が渡されます。この動作を上書きするには、+p を使用します。

次のことも考慮してください。