mipagent コマンドは、起動時に /etc/inet/mipagent.conf 構成ファイルから構成情報を読み取ります。モバイル IP は /etc/inet/mipagent.conf 構成ファイルを使用してモバイル IP モビリティーエージェントを初期化します。構成および配置されると、モビリティーエージェントは定期的なルーター広告を発行し、ルーター発見要請メッセージおよびモバイル IP 登録メッセージに応答します。
ファイル属性の説明は、mipagent.conf(4) のマニュアルページを参照してください。このファイルの使用法については、mipagent(1M) のマニュアルページを参照してください。
モバイル IP 構成ファイルはセクションにより構成されています。各セクションは固有の名前を持っていて、角括弧で囲まれています。各セクションには 1 つ以上のラベルが含まれています。ラベルに値を設定するには次の形式を用います。
[Section_name] Label-name = value-assigned |
セクション名やラベル、指定可能な値については、 「構成ファイルのセクションとラベル」を参照してください。
Solaris のデフォルトのインストールでは、次の構成ファイルのサンプルが /etc/inet ディレクトリにあります。
mipagent.conf-sample – 外来エージェントおよびホームエージェントの両機能を提供するモバイル IP エージェント用のサンプル構成ファイル
mipagent.conf.fa-sample – 外来エージェント機能のみを提供するモバイル IP エージェント用のサンプル構成ファイル
mipagent.conf.ha-sample – ホームエージェント機能のみを提供するモバイル IP エージェント用のサンプル構成ファイル
これらのサンプル構成ファイルには、モバイルノードアドレスおよびセキュリティー設定の例が含まれています。モバイル IP を実装する前に、mipagent.conf という構成ファイルを作成して /etc/inet ディレクトリに格納しなければなりません。このファイルには、ユーザーのモバイル IP 実装の要件を満たす値を指定します。サンプル構成ファイルの 1 つを選択し、ユーザーのアドレスおよびセキュリティー設定で変更して、/etc/inet/mipagent.conf にコピーすることもできます。
詳細は、「モバイル IP 構成ファイルを作成する方法」を参照してください。
次に mipagent.conf-sample ファイルに含まれているセクション名、ラベル、および設定値を示します。構文やセクション、ラベル、値については、 「構成ファイルのセクションとラベル」を参照してください。
[General] Version = 1.0 # version number for the configuration file. (required) [Advertisements hme0] HomeAgent = yes ForeignAgent = yes PrefixFlags = yes AdvertiseOnBcast = yes RegLifetime = 200 AdvLifetime = 200 AdvFrequency = 5 ReverseTunnel = no ReverseTunnelRequired = no [GlobalSecurityParameters] MaxClockSkew = 300 HA-FAauth = yes MN-FAauth = yes Challenge = no KeyDistribution = files [Pool 1] BaseAddress = 10.68.30.7 Size = 4 [SPI 257] ReplayMethod = none Key = 11111111111111111111111111111111 [SPI 258] ReplayMethod = none Key = 15111111111111111111111111111111 [Address 10.1.1.1] Type = node SPI = 258 [Address mobilenode@sun.com] Type = node SPI = 257 Pool = 1 [Address Node-Default] Type = node SPI = 258 Pool = 1 [Address 10.68.30.36] Type = agent SPI = 257 |
次に mipagent.conf.fa-sample ファイルに含まれているセクション名、ラベル、および設定値を示します。構文やセクション、ラベル、値については、 「構成ファイルのセクションとラベル」を参照してください。
mipagent.conf.fa-sample ファイルは、外来エージェント機能のみを提供する構成を示しています。サンプルファイルには Pool セクションが含まれていません。Pool はホームエージェントのみが利用するからです。その他の点では、このファイルは mipagent.conf-sample ファイルと同じです。
[General] Version = 1.0 # version number for the configuration file. (required) [Advertisements hme0] HomeAgent = no ForeignAgent = yes PrefixFlags = yes AdvertiseOnBcast = yes RegLifetime = 200 AdvLifetime = 200 AdvFrequency = 5 ReverseTunnel = yes ReverseTunnelRequired = no [GlobalSecurityParameters] MaxClockSkew = 300 HA-FAauth = yes MN-FAauth = yes Challenge = no KeyDistribution = files [SPI 257] ReplayMethod = none Key = 11111111111111111111111111111111 [SPI 258] ReplayMethod = none Key = 15111111111111111111111111111111 [Address 10.1.1.1] Type = node SPI = 258 [Address 10.68.30.36] Type = agent SPI = 257 |
次に mipagent.conf.ha-sample ファイルに含まれているセクション名、ラベル、および設定値を示します。構文やセクション、ラベル、値については、 「構成ファイルのセクションとラベル」を参照してください。
mipagent.conf.ha-sample ファイルは、ホームエージェント機能のみを提供する構成を示しています。その他の点では、このファイルは mipagent.conf-sample ファイルと同じです。
[General] Version = 1.0 # version number for the configuration file. (required) [Advertisements hme0] HomeAgent = yes ForeignAgent = no PrefixFlags = yes AdvertiseOnBcast = yes RegLifetime = 200 AdvLifetime = 200 AdvFrequency = 5 ReverseTunnel = yes ReverseTunnelRequired = no [GlobalSecurityParameters] MaxClockSkew = 300 HA-FAauth = yes MN-FAauth = yes Challenge = no KeyDistribution = files [Pool 1] BaseAddress = 10.68.30.7 Size = 4 [SPI 257] ReplayMethod = none Key = 11111111111111111111111111111111 [SPI 258] ReplayMethod = none Key = 15111111111111111111111111111111 [Address 10.1.1.1] Type = node SPI = 258 [Address mobilenode@sun.com] Type = node SPI = 257 Pool = 1 [Address Node-Default] Type = node SPI = 258 Pool = 1 |
モバイル IP 構成ファイルには、次のセクションが含まれています。
General (必須)
Advertisements (必須)
GlobalSecurityParameters (省略可能)
Pool (省略可能)
SPI (省略可能)
Address (省略可能)
General と GlobalSecurityParameters セクションには、モバイル IP エージェントの動作に関する情報を指定します。これらのファイルは、構成ファイルに 1 つずつしか指定できません。
General セクションには 1 つのラベル (構成ファイルのバージョン番号) しか指定できません。General セクションの構文は次のとおりです。
[General] Version = 1.0 |
Advertisements セクションには、ほかのラベルとともに HomeAgent や ForeignAgent ラベルを指定します。モバイル IP サービスを提供するローカルホストの各インタフェースには、それぞれ異なる Advertisements セクションを指定しなければなりません。Advertisements セクションの構文は次のとおりです。
[Advertisements interface] HomeAgent = <yes/no> ForeignAgent = <yes/no> . . |
通常、システムは 1 つのインタフェース(eri0 や hme0 など) を持ち、ホームエージェントと外来エージェントの動作をサポートします。たとえば hme0 の場合、yes が HomeAgent および ForeignAgent の両ラベルに次のように指定されます。
[Advertisements hme0] HomeAgent = yes ForeignAgent = yes . . |
動的インタフェースによる通知の場合、デバイス ID 部分に * を使用します。たとえば、 Interface-name ppp* は、mipagent デーモンの開始後に構成されるすべての PPP インタフェースを含むことを意味します。動的インタフェースタイプの advertisement セクションにあるすべての属性は、同じ状態にします。
次の表は、Advertisements セクションに指定できるラベルと値を示しています。
表 29–1 Advertisements セクションのラベルと設定値
GlobalSecurityParameters セクションには、maxClockSkew、HA-FAauth、MN-FAauth、Challenge、および KeyDistribution ラベルが含まれます。このセクションの構文は次のとおりです。
[GlobalSecurityParameters] MaxClockSkew = n HA-FAauth = <yes/no> MN-FAauth = <yes/no> Challenge = <yes/no> KeyDistribution = files |
モバイル IP プロトコルは、タイムスタンプをメッセージ内に含めることで、メッセージの再実行に対する保護を提供します。クロックが異なる場合、ホームエージェントは現在時間とともにエラーをモバイルノードに返します。モバイルノードはその現在時間を使って再登録できます。モバイルノードはその現在時間を使って再登録できます。MaxClockSkew ラベルを使用して、ホームエージェントとモバイルノードのクロック間で異なる最大秒数を構成できます。デフォルト値は 300 秒です。
HA-FAauth および MN-FAauth ラベルは、それぞれホームと外来間、およびモバイルと外来間の認証に関する条件を有効または無効にします。デフォルトは無効です。外来エージェントが通知内に指定されたモバイルノードへ呼び出しを発行するようにするためには、challenge ラベルを使用します。このラベルは再実行に対する保護のために使用します。デフォルト値は無効です。
次の表は、GlobalSecurityParameters セクションに指定可能なラベルと設定値を示しています。
表 29–2 GlobalSecurityParameters セクションのラベルと設定値
ラベル |
値 |
説明 |
---|---|---|
MaxClockSkew |
n | |
HA-FAauth |
yes または no | |
MN-FAauth |
yes または no | |
Challenge |
yes または no | |
KeyDistribution |
files |
モバイルノードには、ホームエージェントによって動的アドレスを割り当てることができます。動的アドレスの割り当ては、DHCP とは独立に mipagent デーモンが行います。ユーザーは、ホームアドレスを要求することによってモバイルノードが使用できるアドレスプールを作成できます。アドレスプールは、構成ファイルの Pool セクションを使って構成されます。
Pool セクションには、BaseAddress および Size ラベルが含まれます。Pool セクションの構文は次のとおりです。
[Pool pool-identifier] BaseAddress = IP-address Size = size |
Pool 識別子を使用している場合、モバイルノードの Address セクションにも存在していなければなりません。
Pool セクションを使用してモバイルノードに割り当て可能なアドレスプールを定義します。BaseAddress ラベルは、プール内の最初の IP アドレスを設定するのに使用します。Size ラベルは、プール内の使用可能なアドレス数を指定するのに使用します。
たとえば、IP アドレスの 192.168.1.1 から 192.168.1.100 が Pool 10 に予約されている場合、Pool セクションには次の項目を指定します。
[Pool 10] BaseAddress = 192.168.1.1 Size = 100 |
アドレスの範囲にブロードキャストアドレスは含まないでください。たとえば、BaseAddress = 192.168.1.200、Size = 60 のように割り当てないでください。このアドレス範囲にはブロードキャストアドレスの 192.168.1.255 が含まれているからです。
次の表は、Pool セクションに指定可能なラベルと設定値を示しています。
表 29–3 Pool セクションのラベルと設定値
ラベル |
値 |
説明 |
---|---|---|
BaseAddress |
n.n.n.n | |
Size |
n |
モバイル IP プロトコルはメッセージ認証を要求するので、セキュリティーパラメータインデックス (SPI) を使用してセキュリティーコンテキストを特定しなければなりません。セキュリティーコンテキストは SPI セクションに定義します。定義したセキュリティーコンテキストそれぞれに異なる SPI セクションを指定しなければなりません。ID 番号がセキュリティーコンテキストを特定します。モバイル IP プロトコルは、最初の 256 SPI を予約しています。したがって、256 より大きい SPI 値を使用してください。SPI セクションには、共有された秘密情報や再実行保護など、セキュリティーに関連した情報が含まれています。
SPI セクションにはまた、ReplayMethod および Key ラベルが含まれています。SPI セクションの構文は次のとおりです。
[SPI SPI-identifier] ReplayMethod = <none/timestamps> Key = key |
2 つの通信中のピアは、同じ SPI 識別子を共有しなければなりません。ユーザーはそれらを同じ鍵と再実行メソッドで構成しなければなりません。鍵は 16 進数の文字列で指定します。最大長は 16 バイトです。たとえば、鍵の長さが 16 バイトで 16 進数値の 0 から f を含んでいる場合、鍵は次のようになります。
Key = 0102030405060708090a0b0c0d0e0f10 |
鍵は、偶数の桁 (1 バイト 2 桁の表示法に対応) を持たなければなりません。
次の表は、SPI セクションに指定可能なラベルと設定値を示しています。
表 29–4 SPI セクションのラベルと設定値
ラベル |
値 |
説明 |
---|---|---|
ReplayMethod |
none または timestamps | |
Key |
x |
モバイル IP の Solaris 実装では、3 つの方法の 1 つを使ってモバイルノードを構成できます。各方法は Address セクションで構成されます。最初の方法は、従来のモバイル IP プロトコルに従い、各モバイルノードがホームアドレスを持つことを要求します。第2 の方法では、モバイルノードをネットワークアクセス識別子 (NAI) を使って特定することが可能になります。最後の方法では、ユーザーは「デフォルト」のモバイルノードを構成できます。このデフォルトモバイルノードは、適当な SPI 値および関連する鍵情報を持っているどのモバイルノードでも利用できます。
モバイルノード用の Address セクションには、アドレスタイプと SPI 識別子を定義した Type および SPI ラベルが含まれます。Address セクションの構文は次のとおりです。
[Address address] Type = node SPI = SPI-identifier |
サポートされた各モバイルノードに対して Address セクションをホームエージェントの構成ファイル内に指定しなければなりません。
モバイル IP メッセージ認証が外来エージェントおよびホームエージェント間で必要な場合は、エージェントが通信する必要のある各ピアに対してAddress セクションを指定しなければなりません。
構成した SPI 値は、構成ファイルに存在する SPI セクションを示さなければなりません。
また、モバイルノード用の専用アドレスを構成することもできます。
次の表は、モバイルノード用の Address セクションに指定可能なラベルと設定値を示しています。
表 29–5 Address セクションのラベルと設定値 (モバイルノード)
ラベル |
値 |
説明 |
---|---|---|
Type |
ノード | |
SPI |
n |
モビリティーエージェント用の Address セクションには、アドレスタイプと SPI 識別子を定義した Type および SPI ラベルが含まれます。モビリティーエージェントの Address セクションの構文は次のとおりです。
[Address address] Type = agent SPI = SPI-identifier |
サポートされた各モビリティーエージェントに対して Address セクションをホームエージェントの構成ファイル内に指定しなければなりません。
モバイル IP メッセージ認証が外来エージェントおよびホームエージェント間で必要な場合は、エージェントが通信する必要のある各ピアに対して Address セクションを指定しなければなりません。
構成した SPI 値は、構成ファイルに存在する SPI セクションを示さなければなりません。
次の表で、モビリティーエージェント用の Address セクションに指定可能なラベルと設定値について説明します。
表 29–6 Address セクションのラベルと設定値 (モビリティーエージェント)
ラベル |
値 |
説明 |
---|---|---|
Type |
agent |
この項目がモビリティーエージェント用であることを指定する |
SPI |
n |
関連する項目用の SPI 値を指定する |
自分の NAI で識別されるモバイルノード用の Address セクションには、Type、SPI、および Pool ラベルが含まれます。NAI パラメータがあるため、NAI によるモバイルノードの識別が可能になります。NAI パラメータを使用した Address セクションの構文は次のとおりです。
[Address NAI] Type = Node SPI = SPI-identifier Pool = pool-identifier |
プールを利用するには、NAI 経由でモバイルノードを特定します。Address セクションでは、ホームアドレスの場合と異なり NAI を構成できます。NAI には、user@domain の形式を使用します。ホームアドレスをモバイルノードに割り当てるためにどのアドレスプールを使用するかを指定するには、Pool ラベルを使用します。
次の表は、自分の NAI で識別されるモバイルノード用の Address セクションに指定可能なラベルと設定値を示しています。
表 29–7 Address セクションのラベルと設定値 (自分の NAI で識別されるモバイルノード)
ラベル |
値 |
説明 |
---|---|---|
Type |
ノード | |
SPI |
n | |
Pool |
n |
次の図に示すように、NAI で識別されたモバイルノードを指定した Address セクションに定義された SPI および Pool ラベルに対して、ユーザーは対応する SPI および Pool セクションを持たなければなりません。
デフォルトのモバイルノード用の Address セクションには、Type、SPI、および Pool ラベルが含まれます。Node-Default パラメータがあるため、(このセクションで定義された) 正しい SPI を持っている場合は、すべてのモバイルノードがサービスを受けられるようになります。Node-Default パラメータを使用した Address セクションの構文は次のとおりです。
[Address Node-Default] Type = Node SPI = SPI-identifier Pool = pool-identifier |
Node-Default パラメータがあるため、構成ファイルのサイズを縮小することが可能になります。その他の方法では、各モバイルノードには独自のセクションが必要です。ただし、Node-Default パラメータはセキュリティーに影響します。何かの理由でモバイルノードが信用できなくなった場合、すべての信頼のおけるモバイルノードに関するセキュリティー情報を更新する必要があります。この作業は手間がかかります。しかし、セキュリティーがあまり重要でないネットワークでは Node-Default パラメータを利用できます。
次の表は、デフォルトモバイルノード用の Address セクションに指定可能なラベルと設定値を示しています。
表 29–8 Address セクションのラベルと設定値 (デフォルトモバイルノード)
ラベル |
値 |
説明 |
---|---|---|
Type |
ノード | |
SPI |
n | |
Pool |
n |
次の図に示すように、デフォルトモバイルノードを指定した Address セクションに定義された SPI および Pool ラベルに対して、対応する SPI および Pool セクションを持たなければなりません。