リンカーとライブラリ

ハードウェアとソフトウェア機能の特定

再配置可能オブジェクトのハードウェア機能とソフトウェア機能は、一般的にコンパイル時に記録されます。リンカーは入力再配置可能オブジェクトの機能を組み合わせて、出力ファイルの最終機能セクションを作成します。「ハードウェアおよびソフトウェア機能に関するセクション」を参照してください。

さらに、リンカーが出力ファイルを作成するときにも機能を定義できます。これらの機能は、mapfile とリンカーの -M オプションを使用して特定します。mapfile を使用して定義した機能は、入力再配置可能オブジェクトから提供される機能を増強したり、無効にしたりすることができます。

次の節では、mapfile を使用して機能を定義する方法を説明します。

ハードウェア機能の特定

オブジェクトのハードウェア機能は、オブジェクトを正しく実行するために必要なプラットフォームのハードウェア要件を特定します。この要件の例としては、一部の x86 アーキテクチャーで利用できる MMX または SSE を必要とするコードの特定があります。

ハードウェア機能要件は、次の mapfile 構文を使用して特定できます。


hwcap_1 = TOKEN | Vval [ OVERRIDE ];

hwcap_1 宣言は 1 つ以上のトークンで修飾されます。これはハードウェア機能のシンボル表現です。さらに、別の方法として、より多くの機能の 1 つを表す数値に V という接頭辞をつけて指定できます。SPARC プラットフォームでは、ハードウェア機能は sys/auxv_SPARC.hAV_ の値として定義されます。x86 プラットフォームでは、ハードウェア機能は sys/auxv_386.hAV_ の値として定義されます。

次の x86 の例では、オブジェクト foo.so.1 に必要なハードウェア機能として MMXSSE が宣言されています。


$ egrep "MMX|SSE" /usr/include/sys/auxv_386.h
#define AV_386_MMX    0x0040
#define AV_386_SSE    0x0800
$ cat mapfile
hwcap_1 = SSE MMX;
$ cc -o foo.so.1 -G -K pic -Mmapfile foo.c -lc
$ elfdump -H foo.so.1

Hardware/Software Capabilities Section:  .SUNW_cap
     index  tag               value
       [0]  CA_SUNW_HW_1     0x840  [ SSE  MMX ]

再配置可能オブジェクトには、ハードウェア機能の値を含めることができます。リンカーは、複数の入力再配置可能オブジェクトからのハードウェア機能値を組み合わせます。この結果生じる CA_SUNW_HW_1 の値は、関連入力値のビット単位の OR となります。デフォルトでは、これらの値は、mapfile で指定されたハードウェア機能と組み合わせられます。

出力ファイルのハードウェア機能要件は、OVERRIDE キーワードを使用して mapfile から明示的に制御できます。OVERRIDE キーワードは、ハードウェア機能値 0 とともに、構築中のオブジェクトからハードウェア機能要件を事実上削除します。


$ elfdump -H foo.o

Hardware/Software Capabilities Section:  .SUNW_cap
     index  tag               value
       [0]  CA_SUNW_HW_1     0x840  [ SSE  MMX ]
$ cat mapfile
hwcap_1 = V0x0 OVERRIDE;
$ cc -o bar.o -r -Mmapfile foo.o
$ elfdump -H bar.o
$ 

オブジェクトが定義したハードウェア機能要件は、実行時リンカーによってプロセスで利用できるハードウェア機能に対して検証されます。ハードウェア機能要件の一部を満足できない場合、そのオブジェクトは実行時に読み込みされません。たとえば、SSE 機能がプロセスで利用できない場合、ldd(1) は次のエラーを示します。


$ ldd prog
        foo.so.1 =>      ./foo.so.1  - hardware capability unsupported: \
                         0x800 [ SSE ]
        ....

異なるハードウェア機能を利用する動的オブジェクトは、フィルタを使用して柔軟な実行時環境を提供できます。「ハードウェア機能固有の共有オブジェクト」を参照してください。

ソフトウェア機能の特定

オブジェクトのソフトウェア機能は、プロセスのデバッグまたは監視にとって重要なことがあるソフトウェアの特徴を特定します。現在、認識されているソフトウェア機能だけが、オブジェクトによるフレームポインタ使用に関係します。

オブジェクトは、フレームポインタ使用を認識することを示せます。この状態は、フレームポインタを使用中または未使用として宣言することで、修飾されます。

ソフトウェア機能フラグは、sys/elf.h で定義されています。

#define  SF1_SUNW_FPKNWN    0x001
#define  SF1_SUNW_FPUSED    0x002

これらのソフトウェア機能要件は、次の mapfile 構文を使用して特定できます。


sfcap_1 = TOKEN | Vval [ OVERRIDE ];

sfcap_1 の宣言は、トークン FPKNWNFPUSED で修飾できます。または、これらの状態を表す数値を代わりに使用することもできます。

再配置可能オブジェクトには、ソフトウェア機能の値を含めることができます。リンカーは、複数の入力再配置可能オブジェクトからのソフトウェア機能値を組み合わせます。ソフトウェア機能は、mapfile も提供されます。デフォルトでは、mapfile のすべての値が、再配置可能オブジェクトで提供される値と組み合わせられます。

出力ファイルのソフトウェア機能要件は、OVERRIDE キーワードを使用して mapfile から明示的に制御できます。OVERRIDE キーワードは、ソフトウェア機能値 0 とともに、構築中のオブジェクトからソフトウェア機能要件を事実上削除します。


$ elfdump -H foo.o

Hardware/Software Capabilities Section:  .SUNW_cap
     index  tag               value
       [0]  CA_SUNW_SF_1     0x3  [ SF1_SUNW_FPKNWN  SF1_SUNW_FPUSED ]
$ cat mapfile
sfcap_1 = V0x0 OVERRIDE;
$ cc -o bar.o -r -Mmapfile foo.o
$ elfdump -H bar.o
$ 

ソフトウェア機能フレームポインタの処理

2 つのフレームポインタ入力値からの CA_SUNW_SF_1 値は、次のように計算されます。

表 2–1 CA_SUNW_SF_1 フレームポインタフラグ組み合わせ状態テーブル

入力ファイル 1 

入力ファイル 2 

 

SF1_SUNW_FPKNWN SF1_SUNW_FPUSED

SF1_SUNW_FPKNWN

<unknown>

SF1_SUNW_FPKNWN SF1_SUNW_FPUSED

SF1_SUNW_FPKNWN SF1_SUNW_FPUSED

SF1_SUNW_FPKNWN

SF1_SUNW_FPKNWN SF1_SUNW_FPUSED

SF1_SUNW_FPKNWN

SF1_SUNW_FPKNWN

SF1_SUNW_FPKNWN

SF1_SUNW_FPKNWN

<unknown>

SF1_SUNW_FPKNWN SF1_SUNW_FPUSED

SF1_SUNW_FPKNWN

<unknown>

この計算は、再配置可能オブジェクト値と mapfile 値にそれぞれ適用されます。.SUNW_cap セクションが存在しない場合や、このセクションに CA_SUNW_SF_1 の値が含まれない場合、SF1_SUNW_FPKNW フラグも SF1_SUNW_FPUSED フラグも設定されていない場合は、オブジェクトのフレームポインタソフトウェア機能は不明になります。