この節では、SVR4 と Solaris オペレーティング環境の主な違いについて説明します。Solaris オペレーティング環境で利用できて SVR4 で利用できない機能と、SVR4 で利用できて Solaris オペレーティング環境で利用できない機能を取り上げます。
Solaris オペレーティング環境は、SVR4 ベースのオペレーティングシステムに、付加価値の高いコンポーネントを追加しています。これらはコンピュータ処理を容易にするとともに、ユーザ、システム管理者、開発者に新しい可能性を提供するものとなります。
一般的に、SVR4 に代表される既存のシステムや Solaris オペレーティング環境は、既存のアプリケーションとの互換性を維持しながら、機能を強化しています。この結果、削除する機能をわずかにとどめ、多くの機能やコマンドを追加しています。
Solaris オペレーティング環境に含まれる強力な DeskSetTM アプリケーションのセットは、ユーザ個人の生産性を高めます。DeskSet のアプリケーションすべては、ドラッグ&ドロップのインタフェースを採用しているため、ユーザはマウスを使用するだけで、UNIX の複雑なコマンドを実行することができます。特に重要な機能を次に示します。
カレンダマネージャ - スケジュール管理のアプリケーションです。会議や作業の予定を一覧表示します。期間として、1 日、1 週間、1 カ月のいずれかを選択できます。また、複数のカレンダを表示する機能により、グループ内のスケジュールの調整が容易になります。複数のカレンダーを重ね合わせることができるので、会議に適した時間帯が一目でわかります。
イメージツール - 40 種類以上のフォーマットのイメージをロードしたり表示したり保存したりすることができます。フォーマットとして、PICT、PostScriptTM、TIFF、GIF、JFIF をサポートしています。
システム管理者は Solaris オペレーティング環境のさまざまな新しいツールにより、分散コンピューティング環境を容易に管理することができます。システム管理者用の機能として次のものが挙げられます。
64 ビットアプリケーション開発用の 64 ビット Solaris オペレーティングシステム環境およびアプリケーション環境 (SPARC プラットフォームのみ)。新しい 64 ビットアプリケーションが大きなアドレス空間を処理できるほか、既存の 32 ビットアプリケーションの大半が動作します。
デバイス情報 - システム管理者は、オプションのユーティリティを使うことにより、インストールされているデバイスの名前、属性、アクセス状況などの情報を得ることができます。従来の UNIX システムにはなかった機能としてデバイス割り当てプールを作成することにより、管理は容易になります。
ファイルシステムの管理 - これらのユーティリティを使用することにより、システム管理者はファイルシステムの作成、コピー、マウント、デバッグ、修復、マウント解除が行えます。また、ハードファイルリンクと名前付きパイプの作成や削除、ボリュームの管理も行えます。
プロセス間通信 - 2 つのプロセス間通信ユーティリティは、システムのプロセス間通信機能 (メッセージ待ち行列、セマフォ、共有メモリの ID) の作成、削除、状態のレポートを行います。これらのユーティリティは、システムのチューニングに役立つ情報を提供します。
プロセス管理 - プロセス管理ユーティリティは、システムのスケジューリングを制御します。これらのユーティリティを使用すると、管理者は性能、ログイン、ディスクアクセスの位置に関するレポートを作成し、システムのパフォーマンスをより効率良くチューニングする方法を検討することができます。さらに、システムの実行レベルの変更、アクティブなプロセスの終了、コマンドの実行時間の指定、カーネルによるデフォルトのスケジューリング優先順位の変更、タイムシェアリング、リアルタイム処理などの変更も可能です。
システムアカウント - アカウントユーティリティを使用すると、システム管理者は CPU、ユーザ、プロセスによるシステムの使用状況を追跡し、より効率の良い優れたリソースの割り当てを検討することができます。
システム情報 - これらのユーティリティは、システムメモリとシステムの構成についてレポートします。システム管理者は、これらのユーティリティを使用して、システム名やネットワークのノードを変更することができます。
ユーザとグループの管理 - システム管理者は、これらのユーティリティを使用して、グループとパスワードのデータベース内のエントリの作成と削除、デフォルトのホームディレクトリと環境の指定、ユーザログインとシステムログインの管理、グループ ID とユーザ ID の割り当てなどを行うことができます。これらのユーティリティは、一次グループと二次グループの両方をサポートしています。
Admintool - Admintool は OpenWindowsTM 環境下で動作するもので、システム管理機能を提供します。これらの機能は、ローカルシステム上での、ホストの追加、ネットワークの管理、他の多くの日常作業を支援します。
自動構成 - Solaris オペレーティング環境は動的なカーネルを持っており、デバイスがアクセスされたときに、ドライバや他のモジュールをメモリにロードします。インストールの後でカーネルを再構築する必要や、システム管理者がドライバの追加と削除を行う必要はありません。
インストール - Solaris オペレーティング環境はインストール用の GUI を備えているため、インストール作業やアップグレード作業が容易になります。ネットワーク全体にわたる自動インストールや自動アップグレードも可能です。
セキュリティ - 自動セキュリティ拡張ツール (ASET) は、セキュリティを改善するユーティリティです。システム管理者は、このユーティリティを使用することにより、パーミッション、所有権、ファイル内容などを含む、システムファイルの設定をチェックすることができます。ASET は、ユーザにセキュリティ上の潜在的な問題を警告するほか、適切な状況で、指定されたセキュリティレベルに従って、システムファイルのパーミッションを自動的に設定します。
アプリケーション開発者は、Solaris オペレーティング環境に含まれるさまざまなツールキットと機能によって、グラフィカルユーザインタフェースを使用する複雑なアプリケーションを容易に開発することができます。
マルチスレッド (MT) カーネル - MT は、対称型マルチプロセッシングカーネルを提供します。複数のプロセッサが、このカーネルを同時に実行することができます。1 つのスレッドによる制御ではなく、複数の独立したプロセッサによる処理 (マルチスレッド) を想定して、アプリケーションの構造を決めることができます。オペレーティングシステムは、独立した操作のインタリーブを行うことができるため、マルチスレッドの効率は高くなります。マルチスレッドのメリットは、「アプリケーションの多重度」として知られています。
拡張された基本データ型 - ID のデータ型 (uid、pid、デバイス ID など) と、その他のデータ型のうち特定のものは、32 ビットに拡張されました。この結果、大規模なシステムや組織での仕様に適した、オペレーティングシステムのスケーラビリティが改善されました。
デバイスドライバのインタフェース - Solaris のデバイスドライバには、3 種類のインタフェースがあります。デバイスカーネルインターフェース (DKI)、デバイスドライバインターフェース (DDI)、デバイスドライバインターフェース / デバイスカーネルインターフェース (DDI/DKI) です。DDI/DKI に準拠しているデバイスドライバは、SPARC プラットフォームにおけるソース互換性やバイナリ互換性が優れているため、開発者は、ある周辺機器用のドライバを 1 つ作成するだけで、すべての SPARC プラットフォーム上の周辺機器をサポートすることができます。
デバイス構成ライブラリ - デバイス構成情報を取得するための libdevinfo ライブラリが、Solaris 7 ソフトウェアにおいてさらに強固で包括的になりました。詳細については、libdevinfo(3) のマニュアルページを参照してください。
動的リンク - Solaris オペレーティング環境は、ライブラリの動的リンクと静的リンクをサポートしています。リンカはライブラリと実行可能ファイルのバージョン番号を参照して、アプリケーションに適したライブラリ、ルーチン、インタフェースをリンクします。
オペレーティング環境 - 32 ビットアプリケーション開発環境および 32 ビットアプリケーションをサポートし、既存の多くの 32 ビットアプリケーションが動作します。また、64 ビットアプリケーション開発環境および 64 ビットのアプリケーションをサポートし、大きなアドレス空間を処理できる新しい 64 ビットアプリケーションのほか、既存の 32 ビットアプリケーションの大半が動作します。
WebNFS ソフトウェア開発キット - WebNFS ソフトウェア開発キット (SDK) には、WebNFS による Java アプリケーションのリモートファイルアクセス機能が用意されています。NFS プロトコルを直接実装するので、ホストシステムで NFS をサポートする必要はありません。
SVR4 の機能の一部が、Solaris オペレーティング環境ではサポートされていません。これらは、AT&T のハードウェアに固有の機能、または、主に SVR3 の機能との上位互換性を保つために用意されている機能であるため、SunOS ユーザにとってはあまり意味のないものです。
Solaris オペレーティング環境は、System V のファイルシステムと、それに関連するユーティリティを含んでいません。これらは、UNIX のファイルシステムに比べて、制約が大きいためです。SVR4 のブートファイルシステムも、従来の SunOS のブートモデルに比べると管理負担が大きいため、採用されていません。
デバイスの自動構成とカーネルの再構築を行う AT&T の SVR4 の一般的なモデルは、完全な動的構成が可能なカーネルに置き換えられています。このカーネルは、現在と将来の SPARC システムのユーザのニーズに応えることができます。
SPARC XENIX はインストールベースでは存在しないため、Solaris オペレーティング環境の SPARC 用リリースは、XENIX アプリケーションとの互換性を持っていません。
Solaris オペレーティング環境には、AT&T の sysadm ユーティリティは含まれません。sysadm メニューユーティリティは、主に独立したシステムの端末デバイスを対象として設計されているため、ネットワーク全体にわたる分散システムの処理を容易にするという視点からグラフィカルユーザインタフェースが採用されました。Solaris オペレーティング環境は、SVR4 の sysadm ユーティリティの基本的な部分を持つユーティリティや構成ディレクトリを提供していますが、sysadm ユーティリティ自体は提供していません。