リンカーとライブラリ

手続きリンクテーブル (プロセッサに固有)

大域オフセットテーブルは位置に依存しないアドレスの計算を絶対位置に変換するので、手続きリンクテーブルは位置に依存しない関数呼び出しを絶対位置に変換します。リンカーは、ある 1 つの実行可能オブジェクトまたは共有オブジェクトから別の実行可能オブジェクトまたは共有オブジェクトへの実行転送 (関数呼び出しなど) を解決できません。したがって、リンカーはプログラム転送制御を手続きリンクテーブルのエントリに与えます。

SPARC: 手続きリンクテーブル

SPARC アーキテクチャの場合、手続きリンクテーブルは私用データに存在します。実行時リンカーは、宛先の絶対アドレスを判定し、これらの絶対アドレスに従って手続きリンクテーブルのメモリーイメージに変更を加えます。このようにして実行時リンカーは、位置からの独立性とプログラムのテキストの共有性を低下させることなくエントリを向け直します。実行可能ファイルと共有オブジェクトファイルには、別個の手続きリンクテーブルが存在します。

最初の 4 つの手続きリンクテーブルエントリは、予約されます。 テーブルの各エントリは 3 ワード (12 バイト) を占めており、最後のテーブルエントリの後には nop 命令が続きます。64 ビット SPARC オブジェクトの場合、各エントリは 8 つの命令 (32 バイト) を占めており、32 バイト境界で整列されなければなりません (テーブル全体は 256 バイト境界で整列されなければなりません)。

再配置テーブルは、手続きリンクテーブルに関連付けられています。_DYNAMIC 配列の DT_JMP_REL エントリは、最初の再配置エントリの位置を与えます。再配置テーブルには、各手続きリンクテーブルエントリに対して 1 つのエントリが同じ順番で存在します。最初の 4 つのエントリを除き、再配置タイプは R_SPARC_JMP_SLOT であり、再配置オフセットは関連付けられている手続きリンクテーブルエントリの先頭バイトのアドレスを指定し、シンボルテーブルインデックスは該当するシンボルを参照します。

手続きリンクテーブルの説明のため、表 7-45 は 4 つのエントリを示しています。最初の 2 つのエントリは予約されている最初の 4 つのエントリの内の 2 つであり、3 番目のエントリは name1 に対する呼び出しであり、4 番目のエントリは name2 に対する呼び出しです。この例では、name2 のエントリがテーブルの最後のエントリであることを前提としており、後に続く nop 命令が示されています。左欄は、動的リンクが行われる前のオブジェクトファイルの命令を示しています。右欄は、実行時リンカーが手続きリンクテーブルエントリを修正することにしてとり得る方法を示しています。

表 7-45 SPARC: 手続きリンクテーブルの例
オブジェクトファイルメモリーセグメント
.PLT0:
     unimp
	    unimp
	    unimp
.PLT1:
	    unimp
	    unimp
	    unimp
	    ...
.PLT0:
	    save    %sp,-64,%sp
	    call    runtime-linker
	    nop
.PLT1:
	    .word   identification
	    unimp
	    unimp
	    ...
	... 
.PLT101:
	    sethi    (.-.PLT0),%g1
	    ba,a     .PLT0
	    nop
.PLT102:
	    sethi    (.-.PLT0),%g1
	    ba,a     .PLT0
     nop
	...
.PLT101:
	    sethi   (.-.PLT0),%g1
	    sethi   %hi(name1),%g1
	    jmp1    %g1+%lo(name1),%g0
.PLT102:
	    sethi   (.-.PLT0),%g1
	    sethi   %hi(name2),%g1
	    jmp1    %g1+%lo(name2),%g0
     nop
	    nop

実行時リンカーとプログラムは、以下の手順に従って手続きリンクテーブル内のシンボル参照を協調して解決します。ただし、以下に記述されている手順は、単に説明用のためのものです。実行時リンカーの正確な実行時動作については、記述されていません。

  1. 実行時リンカーは、プログラムのメモリーイメージを最初に作成するとき、手続きリンクテーブルの初期エントリに、実行時リンカー自身のルーチンの 1 つに制御を渡すように変更を加える。実行時リンカーはまた、識別情報 (identification) を 2 番目のエントリに格納する。リンカー自身のルーチンが制御を受け取った時、このワードを調べることで、このルーチンを呼び出したオブジェクトを見つけることができる

  2. 他のすべての手続きリンクテーブルエントリは、最初は先頭エントリに渡される。これで、実行時リンカーは各テーブルエントリの最初の実行時に制御を取得する。たとえば、プログラムが name1 を呼び出すと、制御が .PLT101 に渡される

  3. sethi 命令は、現在の手続きリンクテーブルエントリと最初の手続きリンクテーブルエントリの距離を計算する。つまり、.PLT101 と .PLT0 の距離を計算する。この値は、%g1 レジスタの最上位 22 ビットを占める。この例では、実行時リンカーが制御を受け取ると、%g1 には 0x12f000 が格納される

  4. 次に、ba,a 命令が .PLT0 にジャンプして、スタックフレームを作成し、実行時リンカーを呼び出す

  5. 実行時リンカーは、識別情報の値を使うことによってオブジェクトのデータ構造体 (再配置テーブルを含む) を取得する

  6. 実行時リンカーは、%g1 値をシフトし手続きリンクテーブルエントリのサイズで除算することで、name1 の再配置エントリのインデックスを計算する。再配置エントリ 101 には R_SPARC_JMP_SLOT が存在し、オフセットは .PLT101 のアドレスを指定し、シンボルテーブルインデックスは name1 を参照。したがって、実行時リンカーはシンボルの実際の値を取得し、スタックを戻し、手続きリンクテーブルエントリに変更を加え、本来の宛先に制御を渡す

実行時リンカーは、メモリーセグメント欄に示された命令シーケンスを作成しなければならないということはないのですが、作成することがあります。もし作成した場合は、いくつかの点についてより詳しい説明が必要です。

LD_BIND_NOW 環境変数は、動的リンクの動作を変更します。この環境変数の値が空文字列以外の場合、実行時リンカーは、プログラムに制御を渡す前に R_SPARC_JMP_SLOT 再配置エントリ (手続きリンクテーブルエントリ) を処理します。LD_BIND_NOW が空文字列の場合、実行時リンカーは、各テーブルエントリの最初の実行時にリンクテーブルエントリを評価します。

IA: 手続きリンクテーブル

IA アーキテクチャの場合、手続きリンクテーブルは共有テキストに存在しますが、私用大域オフセットテーブルのアドレスを使用します。実行時リンカーは、宛先の絶対アドレスを判定し、これらの絶対アドレスに従って大域オフセットテーブルのメモリーイメージに変更を加えます。このようにして実行時リンカーは、位置からの独立性とプログラムのテキストの共有性を低下させることなくエントリを向け直します。実行可能ファイルと共有オブジェクトファイルには、別個の手続きリンクテーブルが存在します。

表 7-46 IA: 手続きリンクテーブルの例
.PLT0:  pushl   got_plus_4
        jmp     *got_plus_8
        nop;    nop
        nop;    nop
.PLT1:  jmp     *name1_in_GOT
        pushl   $offset
        jmp     .PLT0@PC
.PLT2:  jmp     *name2_in_GOT
        pushl   $offset
        jmp     .PLT0@PC
        ...
.PLT0:  pushl   4(%ebx)
        jmp     *8(%ebx)
        nop;    nop
        nop;    nop
.PLT1:  jmp     *name1@GOT(%ebx)
        pushl   $offset
        jmp     .PLT0@PC
.PLT2:  jmp     *name2@GOT(%ebx)
        pushl   $offset
        jmp     .PLT0@PC
        ...

実行時リンカーとプログラムは、以下の手順に従って手続きリンクテーブル内と大域オフセットテーブル内のシンボル参照を協調して解決します。

  1. 実行時リンカーは、プログラムのメモリーイメージを最初に作成するとき、大域オフセットテーブルの 2 番目と 3 番目のエントリに特殊な値を設定する。これらの値については、以下の手順で説明する

  2. 手続きリンクテーブルが位置に依存していない場合、大域オフセットテーブルのアドレスは、%ebx に存在しなければならない。プロセスイメージにおける各共有オブジェクトファイルには自身の手続きリンクテーブルが存在しており、制御は同じオブジェクトファイル内からのみ手続きリンクテーブルエントリに渡される。したがって、呼び出し側関数は、手続きリンクテーブルエントリを呼び出す前に、大域オフセットテーブル基底レジスタをセットしなければならない

  3. たとえば、プログラムが name1 を呼び出すと、制御が .PLT1 に渡される

  4. 最初の命令は、name1 の大域オフセットテーブルエントリのアドレスにジャンプする。大域オフセットテーブルは最初は、後続の pushl 命令のアドレスを保持します (name1 の実アドレスは保持しない)

  5. したがって、プログラムは再配置オフセット (offset) をスタックにプッシュする。再配置オフセットは、再配置テーブルへの 32 ビットの負ではないバイトオフセット。指定された再配置エントリには R_386_JMP_SLOT が存在しており、オフセットは、前の jmp 命令で使用された大域オフセットテーブルエントリを指定する。再配置エントリにはシンボルテーブルインデックスも存在しており、実行時リンカーはこれを使って参照されたシンボル name1 を取得する

  6. プログラムは、再配置オフセットをプッシュした後、.PLT0 (手続きリンクテーブルの先頭エントリ) にジャンプする。pushl 命令は、2 番目の大域オフセットテーブルエントリ (got_plus_4 または 4(%ebx)) の値をスタックにプッシュして、実行時リンカーに 1 ワードの識別情報を与える。プログラムは次に、3 番目の大域オフセットテーブルエントリ (got_plus_8 または 8(%ebx)) のアドレスにジャンプして、実行時リンカーにジャンプする

  7. 実行時リンカーはスタックを戻し、指定された再配置エントリを調べ、シンボルの値を取得し、name1 の実際のアドレスを大域オフセットテーブルエントリに格納し、そして宛先にジャンプする

  8. その後の手続きリンクテーブルエントリに対する実行は、name1 に直接渡される (実行時リンカーの再呼び出しは行われない)。これは、.PLT1 における jmp 命令は、pushl 命令にはジャンプする代わりに、name1 にジャンプするから

LD_BIND_NOW 環境変数は、動的リンク動作を変更します。この環境変数の値が空文字列以外の場合、実行時リンカーは、プログラムに制御を渡す前に R_386_JMP_SLOT 再配置エントリ (手続きリンクテーブルエントリ) を処理します。LD_BIND_NOW が空文字列の場合、実行時リンカーは、各テーブルエントリの最初の実行時にリンクテーブルエントリを評価します。