Sun Java System Application Server Enterprise Edition 8.2 パフォーマンスチューニングガイド

特殊な手法の使用

この節では、特殊なパフォーマンス強化手法について説明します。ここで紹介する手法は、バージョン整合性と要求のパーティション分割の 2 つです。

バージョン整合性

データベース内のデータの完全性を保護しながらパフォーマンスを改善するには、「バージョン整合性」を使用します。アプリケーションサーバーは EJB コンポーネントの複数のコピーを同時に使用できるので、同時アクセスを通じて EJB コンポーネントが破壊された状態になる可能性があります。

破壊を防ぐ標準的な方法は、特定の Bean に関連付けられたデータベース行をロックすることです。これは、2 つの同時トランザクションによって Bean がアクセスされることを防ぎ、結果的にデータを保護します。ただし、この方法は実質的にすべての EJB アクセスを直列化するため、パフォーマンスも低下させます。

バージョン整合性は、EJB データの完全性を保護するためのもう 1 つのアプローチです。バージョン整合性を使用するには、バージョン番号として使用するデータベース内の列を指定します。その場合、EJB ライフサイクルの進行は次のようになります。

2 回目以降の Bean の使用では、ejbLoad() メソッドがその初期データ (バージョン番号を含む) を内部キャッシュからロードすることを除いて、動作は同様です。これにより、データベースへのアクセスが省略されます。ejbStore() メソッドが呼び出されると、トランザクションで正しいデータが使用されたことを保証するためにバージョン番号がチェックされます。

バージョンが一致していると、2 つのトランザクションが同じ EJB コンポーネントを同時に使用できるため、めったに変更されない EJB コンポーネントがある場合には効果的な手法です。どちらのトランザクションもデータを変更しないため、両方のトランザクションの終了時にバージョン番号は不変のままであり、トランザクションは両方とも成功します。ただし、この時点ではトランザクションの並列実行が可能です。2 つのトランザクションが同じ EJB コンポーネントを変更する場合、一方が成功し、もう一方は失敗して、新しい値を使用して再試行することができます。これは、再試行の頻度が一定以下であれば、EJB コンポーネントへのすべてのアクセスを直列化するよりも高速です (ただし、再試行操作を実行するための新しいアプリケーションロジックを準備する必要がある)。

バージョン整合性を使用するには、特定のテーブル用のデータベーススキーマに、バージョンを格納できる列を含める必要があります。その後、特定の Bean に対する配備記述子 sun-cmp-mapping.xml でそのテーブルを指定します。

<entity-mapping>
    <cmp-field-mapping>
        ...
    </cmp-field-mapping>
    <consistency>
        <check-version-of-accessed-instances>
            <column-name>OrderTable.VC_VERSION_NUMBER</column-name>
        </check-version-of-accessed-instances>
    </consistency>
</entity-mapping>

加えて、指定されたテーブル内のデータが変更されたときにバージョン列を自動的に更新するためのトリガーを、データベースに対して確立する必要があります。Application Server では、そのようなトリガーはバージョン整合性を使用する必要があります。そのようなトリガーを定義することにより、EJB データを変更する外部アプリケーションが、進行中の EJB トランザクションと競合しないことも保証されます。

たとえば、次の DDL は、Order テーブルのトリガーを作成する方法を例示します。

CREATE TRIGGER OrderTrigger
  BEFORE UPDATE ON OrderTable
  FOR EACH ROW
  WHEN (new.VC_VERSION_NUMBER = old.VC_VERSION_NUMBER)
  DECLARE
  BEGIN
    :NEW.VC_VERSION_NUMBER := :OLD.VC_VERSION_NUMBER + 1;
  END;

パーティション分割要求

「パーティション分割要求」では、要求の優先度を EJB コンポーネントに割り当てることができます。これにより、特定の EJB コンポーネントを、ほかよりも高い優先度で実行させる柔軟性が得られます。

要求優先度が割り当てられた EJB コンポーネントは、その要求 (サービス) を、割り当てられたスレッドプールの内部で実行させます。スレッドプールをその実行に割り当てることにより、EJB コンポーネントはほかの保留中の要求から独立して実行できます。要約すると、要求のパーティション分割により、サービスごとに異なるレベルの優先度が割り当てられたサービスレベルアグリーメントを満たすことが可能になります。

パーティション分割要求は、リモートインタフェースを実装するリモート EJB コンポーネントのみに適用されます。ローカル EJB コンポーネントは、その呼び出しスレッド内で実行されます (たとえば、サーブレットがローカル Bean を呼び出すと、サーブレットのスレッド上でローカル Bean 呼び出しが発生する)。

Procedureパーティション分割要求を有効にする

  1. 管理コンソールを使用して、EJB 実行用の追加スレッドプールを設定します。

  2. Application Server の ORB に、追加スレッドプールの ID を追加します。

    これは、domain.xml ファイルを編集することによって、または管理コンソールを使用して行うことができます。

    たとえば、 priority-1 および priority-2 という名前のスレッドプールを有効にするには、<orb> 要素を次のように編集します。


    <orb max-connections="1024" message-fragment-size="1024"
        use-thread-pool-ids="thread-pool-1,priority-1,priority-2">       
  3. EJB コンポーネントの配備記述子 sun-ejb-jar.xmluse-thread-pool-id 要素に、スレッドプールの ID を含めます。

    たとえば、次に示す sun-ejb-jar.xml は、「TheGreeter」という名前の EJB コンポーネントの配備記述子であり、priority-2 という名前のスレッドプールに割り当てられます。

    <sun-ejb-jar> 
      <enterprise-beans> 
        <unique-id>1</unique-id> 
        <ejb> 
          <ejb-name>TheGreeter</ejb-name> 
          <jndi-name>greeter</jndi-name> 
          <use-thread-pool-id>priority-1</use-thread-pool-id> 
        </ejb> 
      </enterprise-beans> 
    </sun-ejb-jar>
  4. Application Server を再起動します。