以下の 4 つの基本的な指示を mapfile に入力できます。
セグメント宣言
対応付け指示
大きさシンボル宣言
ファイル制御指示
それぞれの指示は複数の行にまたがることができ、最後にセミコロンを付ければ、いくつでも空白 (改行を含む) を入れることができます。mapfile に指示をまったく入れないことも、複数入れることもできます (指示をまったく入れない場合、リンカーは mapfile を無視し、みずからの初期値を使います)。
通常、セグメント宣言の後には、対応付け指示がきます。つまり、セグメントを宣言し、次にセクションがそのセグメントの一部分になる条件を定義するわけです。対応付け先のセグメントを最初に宣言しないで、対応付け指示あるいはサイズシンボル宣言を入力した場合、後で説明する組み込みのセグメント以外のセグメントには、以下で説明するように初期値の属性が与えられます。この場合このようなセグメントは「暗示的に宣言されたセグメント」 になります。
サイズシンボル宣言、およびファイル制御指示は、mapfile のどこにでも入れることができます。
以後の節では、それぞれの指示について説明します。すべての構文説明について、次の表記が適用されます。
固定幅の文字のエントリ、すべてのコロン、セミコロン、等符号、@ 記号は、そのままの文字を入力する
「斜体文字」で示されたエントリはすべて、適切なもので置き換える
{ ... }* は、「無しまたはそれ以上」を意味する
{ ... }+ は、「1 つまたはそれ以上」を意味する
[ ... ] は、「任意指定」を意味する
section_names と segment_namesは、C 識別子と同じ規則に従い、ピリオド (.) は文字として扱われる (たとえば、.bss は、正当な名前)
section_names、segment_names、file_names、および symbol_names には大文字と小文字の区別があり、それ以外のものには大文字と小文字の区別はない
空白文字 (あるいは改行文字) は、数字の前および名前や値の間以外はどこにでも入れられる
# で始まり改行で終わるコメントは、空白文字を入れることができる場所であれば、どこにでも入れられる
セグメントの宣言により、a.out に新しいセグメントを作ったり、既存のセグメントの属性値を変更したりできます (既存のセグメントとは、以前に定義したもの、あるいは以下に述べる 3 つの組み込みセグメントの 1 つのことです)。
セグメントの宣言は以下の構文で行います。
segment_name = {segment_attribute_value}*; |
各 segment_names について、任意の数の segment_attribute_values を任意の順序で指定でき、それぞれは空白文字で区切ります (セグメント属性ごとに、1 つの値だけ指定できます)。セグメント属性と、それらの有効な値は以下のとおりです。
表 8-1 mapfileセグメント属性
属性 |
値 |
---|---|
segment_type |
LOAD|NOTE |
segment_flags |
?[E][N][O][R][W][X] |
virtual_address |
Vnumber |
physical_address |
Pnumber |
長さ |
Lnumber |
丸め |
Rnumber |
整列 |
Anumber |
3 つの組み込みセグメントが存在し、以下のような初期値の属性値を持っています。
テキスト (LOAD、?RX、virtual_address と physical_address と長さは指定なし、CPU 固有の整列値)
データ (LOAD、?RWX、virtual_address と physical_address と長さは指定なし、CPU 固有の整列値)
注釈 (NOTE)
リンカーは、mapfile を読み取る前に、これらのセグメントが宣言されたように動作します。詳細は、「mapfile オプションの初期値」を参照してください。
セグメント宣言を入力する場合、以下のことに注意してください。
数字には、C 言語と同じ形式で、16 進数、10 進数、あるいは 8 進数が使える
V、P、L、R、あるいは A と数字の間には空白文字を入れてはいけない
segment_type 値は、LOAD あるいは NOTE のどちらかになる
segment_type の初期値は、LOAD
segment_flags 値は、R は読み取り可能 、W は書き込み可能、X は実行可能、O は順番です。疑問符 ? と segment_flags 値を構成する個々のフラグの間には、空白文字を入れてはいけない
LOAD セグメントの segment_flags 値は、初期値で RWX になる
NOTE セグメントには、segment_type 以外のセグメント属性値は割り当てられない
暗示的に宣言されたセグメントでは、segment_type 値は LOAD、segment_flags 値は RWX、 virtual_address と physical_address と整列値は初期値、そして長さは無制限になる
リンカーは、1 つ前のセグメントの属性値に基づいて、現在のセグメントのアドレスや長さを計算します。また、暗示的に宣言されたセグメントがデフォルトで 「長さ制限なし」になっていても、マシンのメモリー限界は適用されます。
LOAD セグメントには、 virtual_address 値、 physical_address 値、最大セグメント長値のいずれかまたはすべてを明示的に指定できる
セグメントに ? の segment_flags 値があって後に何もない場合、値は読み取り不可、書き込み不可、および実行不可になる
整列値は、セグメントの最初の仮想アドレスを計算する際に使われる。この整列は、整列指定されたセグメントにだけ影響する。その他のセグメントは、その整列が変更されない限り、デフォルトの整列が使われる
virtual_address、physical_address、あるいは長さの属性値のいずれかが設定されていない場合、リンカーは、a.out を作成する際に、これらの値を計算する
セグメントに対して整列値が指定されていない場合、組み込みの初期値に設定される (初期値は CPU により異なり、カーネルのバージョンによっても異ることがある。これらの数字については、適切な資料で確認のこと)
virtual_address と整列値の両方がセグメントに対して指定されている場合、virtual_address の方が優先される
virtual_address 値がセグメントに対して指定されている場合、プログラムヘッダーの整列フィールドには、初期値の整列値が設定される
丸め値がセグメントに対して設定されている場合、そのセグメントの仮想アドレスは与えられた値に一致する次のアドレスに丸められる。この値は、指定の対象となるセグメントにしか効力はない。値が入力されないと、丸めは行われない
?E フラグにより、空のセグメントが作れます。これは、関連するセクションがないセグメントです。このセグメントは実行プログラムについてのみ指定でき、LOAD 型で、長さおよび整列が指定されていなければなりません。この種類のセグメントは複数定義することもできます。
?N フラグにより、ELF ヘッダー、および任意のプログラムヘッダーを最初の読み込み可能なセグメントの一部分として含めるかどうかを制御できます。初期値では、ELF ヘッダーおよびプログラムヘッダーは、これらのヘッダーの情報が対応付けられたイメージ内 (一般に実行時リンカーによって対応付けられる) で使われるため、最初のセグメントに含まれます。?N オプションを使用すると、イメージの仮想アドレス計算が最初のセグメントの最初の「セクション」で開始します。
?O フラグにより、最終的な再配置可能オブジェクト、実行可能ファイル、あるいは共有オブジェクトのセクションの順序を制御できます。このフラグは、コンパイラの -xF オプションと合わせて使うようになっています。ファイルを -xF オプションを使ってコンパイルすると、そのファイル内の各関数が、.text セクションと同じ属性を持つ別個のセクションに置かれます。これらのセクションは、.text%function_name (function_name は関数名です) という名前になります。
たとえば、main()、foo() および bar() の 3 つの関数を持つファイルを、 -xF オプションを使ってコンパイルすると、 3 つの関数のテキストが .text%main、.text%foo および .text%bar という名前のセクションにあるオブジェクトファイルが作成されます。 -xF オプションは 1 つのセクションに 1 つの関数を割り当てるので、セクションの順番を制御するために ?O フラグを使うと、実際には関数の順番を制御することになります。
次のユーザー定義の mapfile を検討します。
text = LOAD ?RXO; text: .text%foo; text: .text%bar; text: .text%main; |
ソースファイルの関数定義の順序が、main、foo および bar の場合、最終的な実行プログラムには foo、bar および main の順序で関数が含まれます。
同じ名前の静的関数を対象とする場合、ファイル名も指定する必要があります。?O フラグを指定すると、mapfile で指定されたとおりにセクションの順序付けが行われます。たとえば、静的関数 bar() がファイル a.o および b.o にあって、ファイル a.o の関数 bar() を、ファイル b.o の関数 bar() の前に置く場合、mapfile のエントリは次のようになります。
text: .text%bar: a.o; text: .text%bar: b.o; |
次の構文を使用することも可能ですが、ファイル a.o の関数 bar() が、ファイル b.o の関数 bar() の前に置かれることが保障されません。2 番目の形式は、結果が予測できないため、おすすめしません。
text: .text%bar: a.o b.o; |
virtual_address が指定されている場合、セグメントはその仮想アドレスに置かれます。これは、システムカーネルに対して、正しい結果を出します。exec(2) を介して開始するファイルの場合、この方法では、セグメントにそのページ境界に対応する正しいオフセットがないため、間違った a.out ファイルが作成されることになります。
対応付け指示は、入力セクションをどのように出力セグメントに対応付けするかをリンカーに伝えます。基本的には、対応付け先のセグメントの名前を指定し、名前を指定したセグメントに対応付けするためにセクションの属性をどうすべきかを指定します。特定のセグメントに対応付けするためにセクションが持っていなければならないセクション属性値 (section_attribute_values) は、そのセグメントの「入口条件」と呼ばれます。a.out の指定したセグメントにセクションを置くには、セクションはセグメントの入口条件に正確に合致していなければなりません。
対応付け指示には以下のような構文があります。
segment_name : {section_attribute_value}* [: {file_name}+]; |
セグメント名 (segment_name) に対して、任意の数のセクション属性値 (section_attribute_values) を任意の順序で指定し、それぞれは空白文字で区切ります (セクション属性ごとに 1 つの値だけ指定できます)。ファイル名 (file_name) を指定して、特定の .o ファイルからセクションを持ってこなければならないというように指定することもできます。セクション属性とその有効値は以下のとおりです。
表 8-2 セクション属性
セクション属性 |
値 |
---|---|
section_name |
任意の有効なセクション名 |
section_type |
$PROGBITS $SYMTAB $STRTAB $REL $RELA $NOTE $NOBITS |
section_flags |
?[[!]A][[!]W][[!]X] |
対応付け指示を入力する場合、以下の点に注意してください。
上に挙げた section_types から 1 つの値を選択する。上に挙げた section_types は組み込まれているものです。section_types の詳細については、「セクション」を参照
section_flags 値は、A は割り当て可能 、 W は書き込み可能、X は実行可能。個々のフラグの前に感嘆符 (!) がついている場合、リンカーは、フラグが設定されていないことを確認する。section_flags 値を構成する疑問符、感嘆符、および個々のフラグの間には空白文字を入れてはいけない
ファイル名には、ファイル名として正当な名前を指定できる。また、/usr/lib/usr/libc.a(printf.o) のように「アーカイブ名 (要素名) 」の形式で指定することもできます。さらに、ファイル名に *filename の形式で指定することもできる
ファイル名が *filename の形式になっている場合、リンカーはコマンド行で与えられた行からファイル名に basename(1) と同等の処理を行い、得られたファイル名を使って指定された filename との一致を調べる。言い換えれば、mapfile で指定する filename は、コマンドラインで与えられるファイル名の最後の部分だけが合致すればよいということ (「対応付けの例」を参照)
リンク編集の際に -l オプションを使っていて、-l オプションの後のライブラリが現在のディレクトリにある場合、mapfile 内のライブラリと一致させるために mapfile 内のライブラリの前に ./ (あるいはパス名全体) を付ける必要がある
特定の出力セグメントについて複数の指示行を指定できる。たとえば、以下のような一連の指示を行うことができる
S1 : $PROGBITS; S1 : $NOBITS; |
1 つのセグメントに対して複数の対応付け命令行を指示することは、複数のセクション属性値を指定するための唯一の方法です。
1 つのセクションは複数の入口条件に合致することがある。その場合、mapfile で最初に入口条件が合致したセグメントが使われる。たとえば、mapfile が以下のようになっているとする
S1 : $PROGBITS; S2 : $PROGBITS; |
この場合、$PROGBITS セクションは、セグメント S1 に対応付けられます。
以下のような表記を使うことにより、セグメント内にセクションを配置する順序を指定できます。
segment_name | section_name1; segment_name | section_name2; segment_name | section_name3; |
上記の形式で指定されたセクションは、すべての名前なしセクションの前に、mapfile に列挙されている順序で配置されます。
大きさシンボル宣言を使って、指定したセグメントの大きさをバイトで示す大域絶対シンボルを定義できます。このシンボルは、オブジェクトファイル内で参照できます。大きさシンボルは次の構文で宣言します。
segment_name @ symbol_name; |
symbol_name (シンボル名) には、任意の正当な C 識別子が入ります。ただし、リンカーは、symbol_name の構文の確認は行いません。
ファイル制御指示により、共有オブジェクト内のどのバージョンの定義をリンク編集時に使用可能にするかを指定できます。ファイル制御構文で宣言します。
shared_object_name - version_name [ version_name ... ]; |
version_name (バージョン名) には、指定した shared_object_name (共有オブジェクト名) 内のバージョン定義名が入ります。バージョン制御の詳細については、「バージョン結合の指定」を参照してください。