従来の UNIX でもスレッドという概念はすでにサポートされています。各プロセスは 1 つのスレッドを含むので、複数のプロセスを使うようにプログラミングすれば、複数のスレッドを使うことになります。しかし、1 つのプロセスは 1 つのアドレス空間でもあるので、1 つのプロセスを生成すると 1 つの新しいアドレス空間が作成されます。
新しいプロセスを生成するかわりに、スレッドを生成するとシステムへの負荷は小さくなります。これは、新たに生成されるスレッドが現在のプロセスのアドレス空間を使用するからです。スレッドの切り替えに要する時間は、プロセスの切り替えに要する時間よりも短くて済みます。その理由の 1 つは、スレッドを切り替える上でアドレス空間を切り替える必要がないことです。
同じプロセスに属するスレッド間の通信は簡単に実現できます。それらのスレッドは、アドレス空間を含めあらゆるものを共有しているからです。したがって、あるスレッドで生成されたデータを、他のすべてのスレッドがただちに利用できます。
マルチスレッドをサポートするインタフェースは、サブルーチンライブラリで提供されます (POSIX スレッド用は libpthread で、Solaris スレッド用は libthread です)。カーネルレベルとユーザーレベルのリソースを切り離すことによって、マルチスレッドは柔軟性をもたらします。
スレッドは、マルチスレッドのプログラミングにおいて基本となるプログラミングインタフェースです。 [ユーザレベルのスレッドという呼称は、システムプログラマだけが関係するカーネルレベルのスレッドと区別するためのものです。このマニュアルは、アプリケーションプログラマ向けであるため、カーネルレベルのスレッドについては触れません。] スレッド は、そのプロセス内でのみ参照可能であり、アドレス空間や開いているファイルといったプロセスリソースは、すべて共有されます。スレッドごとに固有な状態としては次のものがあります。
スレッドはプロセスの命令とそのデータの大半を共有するので、あるスレッドが行なった共有データの変更は、プロセスの他のすべてのスレッドから参照できます。スレッドが自分と同じプロセス内の他のスレッドとやり取りを行う場合は、オペレーティング環境を介する必要はありません。
デフォルトでは、スレッドは軽量です。しかし、スレッドをより厳格に制御したいアプリケーションでは (たとえば、スケジューリングの方針をより厳密に適用したい場合など)、スレッドを結合できます。アプリケーションがスレッドを実行リソースに結合すると、そのスレッドはカーネルのリソースとなります (詳細は、システムスコープ (結合スレッド)を参照してください)。
以下に、ユーザーレベルのスレッドの利点を要約します。
独自のアドレス空間を生成する必要がないので、生成に伴うシステムへの負荷が小さくてすみます。
同期がカーネルレベルでなくユーザーレベルでとられるため、高速な同期が可能です。
スレッドライブラリ libpthread または libthread によって管理します。
スレッドライブラリは、カーネルによってサポートされる軽量プロセス (LWP) と呼ばれる制御スレッドを基礎としています。 LWP は、コードまたはシステムコールを実行する仮想 CPU と見なすことができます。
通常、スレッドを使用するプログラミングで LWP を意識する必要はありません。以下に述べる LWP の説明は、プロセススコープ (非結合スレッド)で述べるスケジューリングスコープの違いを理解する際の参考にしてください。
fopen() や fread() などの stdio ライブラリルーチンが open() や read() などのシステムコールを使用するのと同じように、スレッドインタフェースも LWP インタフェースを使用します。
軽量プロセス (LWP) はユーザーレベルとカーネルレベルの橋渡しをします。各プロセスは、1 つ以上の LWP で構成されます。各 LWP は、1 つ以上のユーザースレッドを実行します (図 1–1 を参照)。
各 LWP はカーネルプールの中のカーネルリソースであり、スレッドに割り当てられ たり、割り当てを解除されたりします。