プログラミングインタフェース

第 1 章 メモリー管理

この章では、アプリケーション開発者から見た SunOS の仮想メモリーについて説明します。

メモリー管理インタフェース

仮想メモリー機能を使用するとき、アプリケーションはいくつかのインタフェースを使用します。この節では、このようなインタフェースの要約について説明します。この節ではまた、このようなインタフェースの使用例も示します。

マッピングの作成と使用

mmap(2) は、名前付きファイルシステムオブジェクトのプロセスアドレス空間へのマッピングを確立します。 名前付きファイルシステムオブジェクトは部分的にもプロセスアドレス空間にマッピングできます。この基本的なメモリー管理インタフェースはとても簡潔です。 open(2) を使用してファイルを開いてから、mmap(2) を使用して適切なアクセスオプションと共有オプションを持つマッピングを作成します。その後、ユーザーのアプリケーションを処理します。

mmap(2) でマッピングを確立すると、指定されたアドレス範囲にあった以前のマッピングは置き換えられます。

MAP_SHARED フラグと MAP_PRIVATE フラグはマッピングのタイプを指定します。これらのフラグはどちらか 1 つを指定する必要があります。 MAP_SHARED を設定すると、書き込みが行われたときに、マッピングされたオブジェクトが変更されます。オブジェクトを変更するとき、これ以外の操作は必要ありません。 MAP_PRIVATE を設定すると、マッピングされたオブジェクトに書き込みが行われたときに、最初の書き込み時にページのコピーが作成されます。以降の書き込みではコピーが参照されます。コピーが作成されるのは、変更されたページだけです。

fork(2) を行なっても、マッピングのタイプは保持されます。

mmap(2) でマッピングを確立した後、呼び出しで使用されたファイル記述子は二度と使用されません。ファイルを閉じても、munmap(2) でマッピングを取り消すまで、マッピングは有効です。新しいマッピングを作成すると、既存のマッピングは失われます。

切り捨ての呼び出しを行うと、マッピングされたファイルが短くなることがあります。(短くなって) 失われた領域にアクセスしようとすると、SIGBUS シグナルが発生します。

/dev/zero をマッピングすると、0 で初期化された仮想メモリーブロックが呼び出し元プログラムに提供されます。ブロックのサイズは、mmap(2) への呼び出しに指定します。次のコードは、このテクニックを使用して、0 で初期化された記憶領域のブロックをプログラム内に作成する例を示しています。このブロックのアドレスはシステムが選択します。

removed to fr.ch4/pl1.create.mapping.c

デバイスまたはファイルの中には、マッピングによってアクセスされるときだけ使用できるものもあります。たとえば、ビットマップ形式のディスプレイをサポートするときに使用するフレームバッファデバイスなどです。ディスプレイのアドレスを直接操作する場合、ディスプレイ管理アルゴリズムはより簡単に実装できます。

マッピングの削除

munmap(2) は、呼び出し元プロセスの指定されたアドレス範囲にあるページのマッピングをすべて削除します。munmap(2) は、マッピングされていたオブジェクトにはまったく影響しません。

キャッシュ制御

SunOS の仮想メモリーシステムは、プロセッサのメモリーがファイルシステムオブジェクトのデータをバッファリングするキャッシュシステムです。キャッシュの状態を制御または調査するために、次のようなインタフェースが提供されています。

mincore

mincore(2) インタフェースは、指定された範囲内のマッピングが示すアドレス空間にメモリーページが存在するかどうかを判断します。mincore がページをチェックしてからデータを返すまでの間にページの状態が変わっている可能性もあるので、mincore が返す情報は最新の状態を示していない場合があります。メモリーに残っていると保証されるのは、ロックされたページだけです。

mlockmunlock

mlock(3C) は、指定されたアドレス範囲内にあるページを物理メモリーにロックします。当該プロセスまたはほかのプロセスでロックされたページを参照しても、入出力操作が必要になるページフォルトは発生しません。このような入出力操作は仮想メモリーの通常の動作を妨害し、ほかのプロセスを遅くするので、mlock の使用はスーパーユーザーだけに制限されます。メモリーにロックできるページ数の制限はシステム構成によって異なります。この制限を超えると、mlock の呼び出しは失敗します。

munlock は、物理ページ上にロックされたページを解放します。1 つのマッピングのアドレス範囲で複数の mlock 呼び出しを行なっている場合も 1 回の munlock でロックを解放できます。ただし、mlock で同じページを異なるマッピングで処理した場合、このページのロックを解除するには、すべてのマッピングを解放する必要があります。

マッピングを削除することによってもロックを解放できます。つまり、mmap(2) でマッピングを置き換えるか、munmap(2) でマッピングを削除することで可能です。

前述の MAP_PRIVATE マッピングに関連する書き込み時コピーイベントは、コピー元ページからコピー先ページにロックを転送します。したがって、書き込み時コピー先を変更しても、MAP_PRIVATE マッピングを含むアドレス範囲上のロックは透過的に保持されます。この変更については、マッピングの作成と使用を参照してください。

mlockallmunlockall

mlockall(3C) と munlockall(3C) は mlockmunlock に似ていますが、mlockallmunlockall はアドレス空間全体に対して動作します。mlockall はアドレス空間にあるすべてのページにロックを設定し、munlockall はアドレス空間にある (mlock または mlockall で確立された) すべてのページのロックを解除します。

msync

msync(3C) は、指定されたアドレス範囲内にある変更されたページのすべてを、これらのアドレスでマッピングされているオブジェクトにフラッシュ (実際に書き込み) します。このコマンドは fsync(3C) に似ていますが、こちらはファイルに対して動作します。

ライブラリレベルの動的メモリー

ライブラリレベルの動的メモリー割り当ては、動的メモリー割り当てに使いやすいインタフェースを提供します。

動的メモリー割り当て

最もよく使用されるインタフェースは次のとおりです。

その他の動的メモリー割り当てインタフェースは memalign (3C)、valloc(3C)、および realloc (3C) です。

動的メモリーデバッグ

Sun™ WorkShop ツールパッケージを使用すると、動的メモリーの使用中に発生するエラーを発見して除外することができます。Sun WorkShop の Run Time Checking (RTC) 機能は、動的メモリーの使用中に発生するエラーを発見します。

-g オプションを付けてプログラムをコンパイルしなくても、RTC はすべてのエラーを発見できます。しかし、 特に初期化されていないメモリーから読み取る場合、エラーの正確性を保証するために、(-g で入手できる) シンボリック情報が必要になることもあります。したがって、シンボリック情報が入手できないと、ある種のエラーは抑制されます。このようなエラーには、a.outruiや共有ライブラリの rui + aib + air があります。この動作を変更するには、suppressunsuppress を使用します。

check -access

-access オプションは、アクセス権のチェックをオンにします。RTC は次のようなエラーを報告します。

baf

不正な解放

duf

重複する解放

maf

整列されていない解放

mar

整列されていない読み取り

maw

整列されていない書き込み

oom

メモリー不足

rua

割り当てられていないメモリーからの読み取り

rui

初期化されていないメモリーからの読み取り

rwo

読み取り専用メモリーへの書き込み

wua

割り当てられていないメモリーへの書き込み

デフォルトの動作は、アクセス権エラーを発見するたびにプロセスを停止します。この動作を変更するには、rtc_auto_continue dbxenv 変数を使用します。on に設定した場合、RTC はアクセス権エラーをファイルに記録します。このファイル名は rtc_error_log_file_name dbxenv 変数で決定されます。デフォルトでは、一意なアクセス権エラーごとにエラーが発生した最初の時刻だけが報告されますが 、rtc_auto_suppress dbxenv 変数を使用して変更できます。この変数のデフォルト設定は on です。

check -leaks [-frames n] [-match m]

-leaks オプションは、リークのチェックをオンにします。RTC は次のようなエラーを報告します。

aib

メモリーリークの可能性 – 唯一のポインタがブロックの真ん中を指しています。

air

メモリーリークの可能性 – ブロックへのポインタがレジスタだけに存在します。

mel

メモリーリーク – ブロックへのポインタが存在しません。

リークのチェックをオンにした場合、プログラムが終了したとき、リークレポートが自動的に報告されます。このとき、潜在的なリークを含むすべてのリークが報告されます。デフォルトでは、簡易レポートが生成されます。このデフォルトは dbxenv rtc_mel_at_exit を使用すると変更できます。リークレポートはいつでも要求できます。

-frames n 変数を使用した場合、リークが報告されるとき、n 個までのスタックフレームが個別に表示されます。-match m 変数を使用した場合、リークは結合されて表示されます。複数のリークが発生した割り当て時に、呼び出しスタックが m 個のフレームに一致した場合、これらのリークは結合されて、単一のリークレポートとして報告されます。n のデフォルト値は 8 または m の大きい方ですが、16 が上限です。 m のデフォルト値は 2 です。

check -memuse [-frames n] [-match m]

-memuse オプションはメモリー (ブロック) 使用状況のチェック (memuse) をオンにします。check -memuse を使用すると、check -leaks も自動的に使用されます。つまり、プログラムが終了したとき、リークレポートに加えて、(メモリー) ブロック使用状況レポート (biu) が報告されます。デフォルトでは、簡易 (メモリー) ブロック使用状況レポートが生成されます。このデフォルトは dbxenv rtc_biu_at_exit を使用すると変更できます。プログラムの実行中はいつでも、プログラム内のメモリーがどこに割り当てられているかを参照できます。

次の節では、-frames n-match m 変数の機能について説明します。

check -all [-frames n ] [-match m]

check -access; check -memuse [-frames n] [-match m] と同じです。rtc_biu_at_exit dbxenv 変数の値は check -all では変更されません。そのため、デフォルトでは、プログラムが終了したとき、メモリー (ブロック) 使用状況レポートは作成されません。

check [funcs] [files] [loadobjects ]

check -all; suppress all; unsuppress all in funcs files loadobjects と同じです。このオプションを使用すると、気になる場所に RTC を集中させることができます。

その他のメモリー制御インタフェース

sysconf

sysconf(3C) は、メモリーページのシステム依存サイズを返します。移植性のため、アプリケーションはページのサイズを指定する定数を埋め込まないでください。同じ命令セットの実装においても、ページのサイズが異なることは特に珍しいことではありません。

mprotect

mprotect(2) は、指定されたアドレス範囲内にあるすべてのページに、指定された保護を割り当てます。保護は、配下のオブジェクトに許可されたアクセス権を超えることはできません。

brk sbrk

break は、スタック内には存在しないプロセスイメージにおいて最大の有効なデータアドレスです。プログラムが実行を開始するとき、ブレーク値は通常、execve(2) によって、プログラムとそのデータ記憶領域によって定義される最大のアドレスに設定されます。

brk(2) を使用すると、さらに大きなアドレスにブレークを設定できます。また、sbrk(2) を使用すると、プロセスのデータセグメントに記憶領域の増分を追加できます。getrlimit(2) の呼び出しを使用すると、データセグメントの可能な最大サイズを取得できます。

caddr_t
 brk(caddr_t addr);

 caddr_t
 sbrk(intptr_t incr); 

brk は、呼び出し元プログラムが使用していないデータセグメントの最低の位置を addr に設定します。この位置は、システムページサイズの次の倍数に切り上げられます。

sbrk (代替のインタフェース) は、呼び出し元プログラムのデータ空間に incr バイトを追加して、新しいデータ領域の開始場所へのポインタを返します。