ユーザーのホームディレクトリの設定には、ユーザーのログインシェルにユーザー初期設定ファイルを提供することも含まれます。ユーザー初期設定ファイルは、ユーザーがシステムにログインしたあとにユーザーのために作業環境を設定するシェルスクリプトです。基本的にシェルスクリプトで行える処理はどれもユーザー初期設定ファイルで実行できます。主に、ユーザーの検索パス、環境変数、ウィンドウ機能の環境など、ユーザーの作業環境を定義します。次の表に示すように、各ログインシェルには、1 つまたは複数の、固有のユーザー初期設定ファイルがあります。
表 4-16 Bourne、C、Korn シェルのユーザー初期設定ファイル
シェル |
初期設定ファイル |
種類 |
---|---|---|
$HOME/.profile |
ログイン時のユーザー環境の定義
|
|
$HOME/.cshrc |
すべての C シェルに対するユーザー環境の定義で、ログインシェルのあとに起動される |
|
|
ログイン時のユーザー環境の定義
|
|
ログイン時のユーザー環境の定義 |
||
|
$HOME/$ENV |
ログイン時のユーザー環境の定義で、Korn シェルの ENV 環境変数によって指定される |
Solaris 環境には、次の表に示すように、各システムの /etc/skel ディレクトリに、各シェル用のデフォルトのユーザー初期設定ファイルが提供されています。
表 4-17 デフォルトのユーザー初期設定ファイル
シェル |
デフォルトファイル |
---|---|
| |
これらのファイルを変更して、すべてのユーザーに共通な作業環境を提供する標準のファイルセットを作成できます。または、異なるタイプのユーザーに作業環境を提供することもできます。異なるタイプのユーザーにユーザー初期設定ファイルを作成する手順については、ユーザー初期設定ファイルをカスタマイズする方法を参照してください。
Users Tool で新しいユーザーアカウントを作成して、ホームディレクトリを作成するオプションを選択すると、選択したログインシェルに合わせて次のファイルが作成されます。
シェル |
作成されるファイル |
---|---|
C |
/etc/skel/local.cshrc ファイルと /etc/skel/local.login ファイルがユーザーのホームディレクトリにコピーされ、それぞれ、.cshrc と .login という名前に変更される。 |
Bourne と Korn |
/etc/skel/local.profile ファイルがユーザーのホームディレクトリにコピーされ、.profile という名前に変更される。 |
useradd コマンドで新しいユーザーアカウント追加するために、-k オプションと -m オプションで /etc/skel ディレクトリを指定した場合、3 つの /etc/skel/local* ファイルと /etc/skel/.profile ファイルがすべてユーザーのホームディレクトリにコピーされます。この時点で、これらのファイルの名前をユーザーのログインシェルに合わせて変更する必要があります。
ユーザー初期設定ファイルは管理者とユーザーの両方によってカスタマイズできます。この重要な機能は、サイト初期設定ファイルと呼ばれる、グローバルに配布されるユーザー初期設定ファイルによって実現します。サイト初期設定ファイルを使用して、ユーザーの作業環境に新しい機能を絶えず導入でき、しかもユーザーはユーザー初期設定ファイルをカスタマイズすることもできます。
ユーザー初期設定ファイルでサイト初期設定ファイルを参照するとき、サイト初期設定ファイルに対して行なったすべての更新は、ユーザーがシステムにログインするときかユーザーが新しいシェルを起動するとき自動的に反映されます。サイト初期設定ファイルは、ユーザーを追加したときにはなかったサイト全体の変更をユーザーの作業環境に配布するよう設計されています。
ユーザー初期設定ファイルでできるカスタマイズは、サイト初期設定ファイルでも行えます。これらのファイルは通常はサーバー、またはサーバーのグループにあり、ユーザー初期設定ファイルの最初の行に現れます。また、各サイト初期設定ファイルは、それを参照するユーザー初期設定ファイルと同じ型のシェルスクリプトでなければなりません。
C シェルのユーザー初期設定ファイルでサイト初期設定ファイルを参照するには、ユーザー初期設定ファイルの初めに次のような行を挿入してください。
source /net/machine-name/export/site-files/site-init-file |
Bourne または Korn シェルのユーザー初期設定ファイルでサイト初期設定ファイルを参照するには、ユーザー初期設定ファイルの初めに次のような行を入れてください。
. /net/machine-name/export/site-files/site-init-file |
ユーザー初期設定ファイルに、ローカルシステムへの固有の参照は追加しないでください。初期設定ファイルの設定は、ユーザーがどのシステムにログインしても有効になる必要があります。たとえば、次のようにします。
ユーザーのホームディレクトリをネットワーク上の任意の位置で利用できるようにするには、常に環境変数の値 $HOME を使用してホームディレクトリを参照してください。たとえば、/export/home/username/bin ではなく $HOME/bin を使用してください。$HOME は、ユーザーが別のシステムにログインする場合でも有効で、その場合ホームディレクトリは自動マウントされます。
ローカルディスクのファイルにアクセスするには、/net/system-name/directory-name などのグローバルパス名を使用してください。システムが AutoFS を実行していれば、/net/system-name で参照されるディレクトリはすべてユーザーがログインする任意のシステムに自動的にマウントできます。
次の表に各シェルの基本的な機能を示します。ユーザー初期設定ファイルを作成するのにどのシェルがどんな機能を提供するか参考にしてください。
表 4-18 Bourne、C、Korn シェルの基本機能
機能 |
Bourne |
C |
Korn |
---|---|---|---|
UNIX で標準シェルとして知られる |
O |
X |
X |
Bourne シェルと互換性がある構文 |
- |
X |
O |
ジョブ制御 |
O |
O |
O |
履歴リスト |
X |
O |
O |
コマンド行の編集 |
X |
O |
O |
別名 (エイリアス) |
X |
O |
O |
ログインディレクトリの 1 文字省略形 |
X |
O |
O |
ファイルの上書き保護 (noclobber) |
X |
O |
O |
CTRL-D 無視 (ignoreeof) |
X |
O |
O |
拡張 cd |
X |
O |
O |
.profile とは別の初期設定ファイル |
X |
O |
O |
ログアウトファイル |
X |
O |
シェルは、login プログラム、システム初期設定ファイル、ユーザー初期設定ファイルによって定義される変数を含む環境を管理します。また、一部の変数はデフォルトによって定義されます。シェルには次の 2 種類の変数があります。
環境変数 – シェルによって生成されるすべてのプロセスにエクスポートされる変数。環境変数の設定値は env コマンドで表示できます。PATH などを含む環境変数の一部が、シェルそのものの動作に影響を与えます。
シェル (ローカル) 変数 – 現在使用中のシェルだけに関係する変数。C シェルの場合は、シェル変数は環境変数と特別に対応しています。これらのシェル変数は user、term、home、path です。シェル変数は、対応する環境変数の値によって初期設定されます。
C シェルでは、小文字を使って set コマンドでシェル変数を設定し、大文字を使って setenv コマンドで環境変数を設定します。シェル変数を設定すると、対応する環境変数が設定され、その逆もあります。たとえば、path シェル変数を新しいパスで更新すると、シェルは PATH 環境変数も新しいパスで更新します。
Bourne、Korn の両シェルでは、何らかの値に等しい大文字の変数名を使ってシェル変数と環境変数を設定できます。また、export コマンドを使って、その後に実行されるコマンドの変数をアクティブにする必要があります。
すべてのシェルで、シェル変数と環境変数は一般的に大文字の名前で参照します。
ユーザー初期設定ファイルで、ユーザーのシェル環境を、あらかじめ定義された変数の値を変更するか、変数を追加することによってカスタマイズできます。次の表に、ユーザー初期設定ファイルで環境変数を設定する方法を示します。
表 4-19 ユーザー初期設定ファイルでの環境変数の設定方法
環境変数を設定したいシェルタイプ |
ユーザー初期設定ファイルに追加する行 |
---|---|
setenv MAIL /var/mail/ripley |
|
VARIABLE =value; export VARIABLE 例: MAIL=/var/mail/ripley;export MAIL |
次の表では、ユーザー初期設定ファイルでカスタマイズできる環境変数とシェル変数について説明します。各シェルで使用される変数についての詳細は、 sh(1)、 ksh(1)、 csh(1) の各マニュアルページを参照してください。
表 4-20 シェル変数と環境変数の説明
ユーザーが絶対パス名でコマンドを入力すると、シェルはそのパス名を使ってコマンドを探します。ユーザーがコマンド名しか指定しないと、シェルは PATH 変数で指定されているディレクトリの順でコマンドを探します。コマンドがいずれかのディレクトリで見つかれば、シェルはコマンドを実行します。
デフォルトのパスがシステムで設定されますが、大部分のユーザーはそれを変更して他のコマンドディレクトリを追加します。環境の設定や、正しいバージョンのコマンドまたはツールへのアクセスに関連して発生するユーザーの問題の多くは、パス定義の誤りが原因です。
次に、効率的な PATH 変数を設定するガイドラインをいくつか示します。
セキュリティが特に問題とならないときは、現在の作業ディレクトリ (.) をパスの最初に指定します。しかし、現在の作業ディレクトリをパスに入れると、セキュリティ上の問題となることがあり、特にスーパーユーザーにとって問題となります。
検索パスはできるだけ短くしておきます。シェルはパスで各ディレクトリを探します。コマンドが見つからないと、検索に時間がかかり、システムのパフォーマンスが低下します。
検索パスは左から右に読まれるため、通常使用するコマンドをパスの初めの方に指定するようにしてください。
パスでディレクトリを重複しないように確認してください。
可能であれば、大きなディレクトリの検索は避けてください。大きなディレクトリはパスの終わりに指定します。
NFS サーバーが応答しないときに「ハング」の可能性を少なくしたり、不要なネットワークトラフィックを削減するよう、NFS がマウントするディレクトリより前にローカルディレクトリを指定します。
次の例は、ユーザーのデフォルトパスがホームディレクトリと他の NFS マウントディレクトリを含むように設定する方法を示します。現在の作業ディレクトリはパスの初めに指定されます。C シェルユーザー初期設定ファイルでは、次の行を追加してください。
set path=(. /usr/bin $HOME/bin /net/glrr/files1/bin) |
Bourne または Korn シェルユーザー初期設定ファイルでは、次の行を追加してください。
PATH=.:/usr/bin:/$HOME/bin:/net/glrr/files1/bin export PATH
LANG および LC 環境変数は、時間帯と照合順序、および日付、時間、通貨、番号の書式など、ロケール固有の変換と表記をシェルに指定します。さらに、ユーザー初期設定ファイルで stty コマンドを使って、システムが複数バイト文字をサポートするかどうかを設定できます。
LANG は、ロケールのすべての変換と表記を設定します。特に必要な場合はこれとは別に、LC_COLLATE、LC_CTYPE、 LC_MESSAGES、LC_NUMERIC、 LC_MONETARY、LC_TIME などの LC 変数によってその他の設定を行えます。
次の表は、LANG と LC 環境変数の値の一部を示します。
表 4-21 LANG と LC 変数の値
値 |
ロケール |
---|---|
de |
German |
fr |
French |
iso_8859_1 |
English および European |
it |
Italian |
japanese |
Japanese |
korean |
Korean |
sv |
Swedish |
tchinese |
Taiwanese |
次の例は、LANG 環境変数を使ってロケールを設定する方法を示しています。C シェルユーザー初期設定ファイルでは、次の行を追加してください。
setenv LANG de |
Bourne または Korn シェルユーザー初期設定ファイルでは、次の行を追加してください。
LANG=DE; export LANG |
ファイルまたはディレクトリを作成したときに設定されるデフォルトのファイルアクセス権は、ユーザーマスクによって制御されます。ユーザーマスクは、初期設定ファイルで umask コマンドによって設定されます。現在のユーザーマスクの値は、umask と入力して Return キーを押すと表示できます。
最初の桁でそのユーザーのアクセス権を設定する
2 桁目でグループのアクセス権を設定する
3 桁目で「その他」(ワールドとも呼ばれます) のアクセス権を設定する
最初の桁がゼロの場合、その桁は表示されません。たとえば、umask を 022 に設定すると、22 が表示されます。
設定する umask の値は、与えたいアクセス権の値を 666 (ファイルの場合) または 777 (ディレクトリの場合) から引きます。引いた残りが umask に使用する値です。たとえば、ファイルのデフォルトモードを 644 (rw-r--r--) に変更したいとします。このとき 666 と 644 の差 022 が umask コマンドの引数として使用する値です。
また、次の表から umask 値を決めることもできます。この表は、umask の各 8 進値から作成される、ファイルとディレクトリのアクセス権を示します。
表 4-22 umask 値のアクセス権
umask 8 進値 |
ファイルアクセス権 |
ディレクトリアクセス権 |
---|---|---|
0 |
rw- |
rwx |
1 |
rw- |
rw- |
2 |
r-- |
r-x |
3 |
r-- |
r-- |
4 |
-w- |
-wx |
5 |
-w- |
-w- |
6 |
--x |
--x |
7 |
--- (なし) |
--- (なし) |
次の例は、デフォルトのファイルアクセス権を rw-rw-rw- に設定します。
umask 000 |
ここでは、ユーザー自身の初期設定ファイルをカスタマイズする場合にまず使用する、ユーザー初期設定ファイルとサイト初期設定ファイルの例を示します。例の中のシステム名やパス名は、実際のサイトに合わせて置き換えてください。
1 PATH=$PATH:$HOME/bin:/usr/local/bin:/usr/ccs/bin:. 2 MAIL=/var/mail/$LOGNAME 3 NNTPSERVER=server1 4 MANPATH=/usr/share/man:/usr/local/man 5 PRINTER=printer1 6 umask 022 7 export PATH MAIL NNTPSERVER MANPATH PRINTER |
ユーザーのシェル検索パスを設定する。
ユーザーのメールファイルへの検索パスを設定する。
ユーザーの Usenet ニュースサーバーを設定する。
マニュアルページへのユーザーの検索パスを設定する。
ユーザーのデフォルトプリンタを設定する。
ユーザーのデフォルトのファイル作成アクセス権を設定する。
指定された環境変数をエクスポートする。
1 set path=($PATH $HOME/bin /usr/local/bin /usr/ccs/bin) 2 setenv MAIL /var/mail/$LOGNAME 3 setenv NNTPSERVER server1 4 setenv PRINTER printer1 5 alias h history 6 umask 022 7 source /net/server2/site-init-files/site.login |
ユーザーのシェル検索パスを設定する。
ユーザーのメールファイルへの検索パスを設定する。
ユーザーの Usenet ニュースサーバーを設定する。
ユーザーのデフォルトプリンタを設定する。
history コマンドの別名 (エイリアス) を作成する。これにより、h と入力するだけで history コマンドを実行できる。
ユーザーのデフォルトのファイル作成アクセス権を設定する。
指定されたサイト初期設定ファイルを読み込む。
次のサイト初期設定ファイルの例では、ユーザーは特定のバージョンのアプリケーションを選択できます。
# @(#)site.login main: echo "Application Environment Selection" echo "" echo "1. Application, Version 1" echo "2. Application, Version 2" echo "" echo -n "Type 1 or 2 and press Return to set your application environment: " set choice = $< if ( $choice !~ [1-2] ) then goto main endif switch ($choice) case "1": setenv APPHOME /opt/app-v.1 breaksw case "2": setenv APPHOME /opt/app-v.2 endsw |
次のようにして、このサイト初期設定ファイルをユーザーの .cshrc ファイル (C シェルユーザーのみ使用可能) で参照させることができます。
source /net/server2/site-init-files/site.login |
この行では、サイト初期設定ファイルは site.login という名前で、server2 という名前のサーバー上にあります。また、自動マウンタがユーザーのシステムで実行されていることを前提としています。