リンカーとライブラリ

ELF ヘッダー

いくつかのオブジェクトファイル制御構造は大きくなることがありますが、そのサイズは ELF ヘッダーに記録されます。オブジェクトファイルの形式が変わった場合、ELF 形式のファイルにアクセスするプログラムは、大きくなったり小さくなったりした制御構造体を扱うことになります。大きくなった場合は、追加された部分を無視することができるかもしれません。小さくなった場合は、無くなった部分の扱いは状況に依存しますし、形式が変更された時に規定されるでしょう。

ELF ヘッダーの構造体 (sys/elf.h 内で定義) は、以下のとおりです。

#define EI_NIDENT       16
 
typedef struct {
        unsigned char   e_ident[EI_NIDENT]; 
        Elf32_Half      e_type;
        Elf32_Half      e_machine;
        Elf32_Word      e_version;
        Elf32_Addr      e_entry;
        Elf32_Off       e_phoff;
        Elf32_Off       e_shoff;
        Elf32_Word      e_flags;
        Elf32_Half      e_ehsize;
        Elf32_Half      e_phentsize;
        Elf32_Half      e_phnum;
        Elf32_Half      e_shentsize;
        Elf32_Half      e_shnum;
        Elf32_Half      e_shstrndx;
} Elf32_Ehdr;

typedef struct {
        unsigned char   e_ident[EI_NIDENT]; 
        Elf64_Half      e_type;
        Elf64_Half      e_machine;
        Elf64_Word      e_version;
        Elf64_Addr      e_entry;
        Elf64_Off       e_phoff;
        Elf64_Off       e_shoff;
        Elf64_Word      e_flags;
        Elf64_Half      e_ehsize;
        Elf64_Half      e_phentsize;
        Elf64_Half      e_phnum;
        Elf64_Half      e_shentsize;
        Elf64_Half      e_shnum;
        Elf64_Half      e_shstrndx;
} Elf64_Ehdr;

この構造体の要素を次に示します。

e_ident

先頭のバイト列に、オブジェクトファイルであることを示す印と、機種に依存しない、ファイルの内容を復号化または解釈するためのデータが入ります。完全な記述は、ELF 識別で行われています。

e_type

オブジェクトファイルの種類を示します。次の種類が存在します。

表 7–3 ELF ファイル識別子

名前 

値 

意味 

ET_NONE

0

ファイルタイプが存在しない 

ET_REL

1

再配置可能ファイル 

ET_EXEC

2

実行可能ファイル 

ET_DYN

3

共有オブジェクトファイル 

ET_CORE

4

コアファイル 

ET_LOPROC

0xff00

プロセッサに固有 

ET_HIPROC

0xffff

プロセッサに固有 

コアファイルの内容は指定されていませんが、ET_CORE タイプはコアファイルを示すために予約されます。ET_LOPROC から ET_HIPROC までの値 (それぞれを含む) は、プロセッサ固有の方法で解釈されます。他の値は予約され、必要に応じて新しいオブジェクトファイルの種類に割り当てられます。

e_machine

個々のファイルに必要なアーキテクチャを指定します。関連するアーキテクチャを、次の表に示します。

表 7–4 ELF 機種

名前 

値 

意味 

EM_NONE

0

マシンが存在しない 

EM_SPARC

2

SPARC 

EM_386

3

Intel 80386 

EM_SPARC32PLUS

18

Sun SPARC 32+ 

EM_SPARCV9

43

SPARC V9 

他の値は予約され、必要に応じて新しい機種に割り当てられます (sys/elf.h を参照)。プロセッサ固有の ELF 名の識別には、機種名が使用されます。たとえば、表 7–5 で定義されたフラグでは、接頭辞 EF_ が使用されます。EM_XYZ マシンの WIDGET というフラグは、EF_XYZ_WIDGET と呼ばれます。

e_version

オブジェクトファイルのバージョンを示します。次のバージョンが存在します。

表 7–5 ELF バージョン

名前 

値 

意味 

EV_NONE

0

無効なバージョン 

EV_CURRENT

>=1

現在のバージョン 

値 1 は最初のファイル形式を示します。EV_CURRENT の値は、現在のバージョン番号を示すために必要に応じて変化します。

e_entry

システムが制御を最初に渡す仮想アドレスを保持し、仮想アドレスが与えられると、プロセスが起動します。ファイルに関連するエントリポイントが存在しない場合、この構成要素は 0 を保持します。

e_phoff

プログラムヘッダーテーブルのファイルオフセットを保持します (単位: バイト)。ファイルにプログラムヘッダーテーブルが存在しない場合、この構成要素は 0 を保持します。

e_shoff

セクションヘッダーテーブルのファイルオフセットを保持します (単位: バイト)。ファイルにセクションヘッダーテーブルが存在しない場合、この構成要素は 0 を保持します。

e_flags

ファイルに対応付けられたプロセッサ固有のフラグを保持します。フラグ名は、EF_machine「_flag」という形式をとります。x86 の場合、この構成要素はゼロになります。SPARC の場合のフラグを、次の表に示します。

表 7–6 SPARC: ELF フラグ

名前 

値 

意味 

EF_SPARC_EXT_MASK

0xffff00

ベンダー拡張マスク 

EF_SPARC_32PLUS

0x000100

V8+ 共通機能 

EF_SPARC_SUN_US1

0x000200

Sun UltraSPARC™ 1 拡張 

EF_SPARC_HAL_R1

0x000400

HAL R1 拡張 

EF_SPARC_SUN_US3

0x000800

Sun UltraSPARC 3 拡張 

EF_SPARCV9_MM

0x3

メモリーモデルのマスク 

EF_SPARCV9_TSO

0x0

トータルストアオーダリング (TSO) 

EF_SPARCV9_PSO

0x1

パーシャルストアオーダリング (PSO) 

EF_SPARCV9_RMO

0x2

リラックスメモリーオーダリング (RMO) 

e_ehsize

ELF ヘッダーのサイズ (単位: バイト)。

e_phentsize

ファイルのプログラムヘッダーテーブルの 1 つのエントリのサイズ (単位:バイト)。すべてのエントリは同じサイズです。

e_phnum

プログラムヘッダーテーブルのエントリ数。e_phentsizee_phnum を掛けると、テーブルのサイズ (単位: バイト) が求められます。ファイルにプログラムヘッダーテーブルが存在しない場合、e_phnum は値 0 を保持します。

e_shentsize

セクションヘッダーのサイズ (単位:バイト)。1 つのセクションヘッダーは、セクションヘッダーテーブルの 1 つのエントリです。すべてのエントリは同じサイズです。

e_shnum

セクションヘッダーテーブルのエントリ数。e_shentsizee_shnum を掛けると、セクションヘッダーテーブルのサイズ (単位: バイト) が求められます。ファイルにセクションヘッダーテーブルが存在しない場合、e_shnum は値 0 を保持します。

セクションの数が SHN_LORESERVE (0xff00) 以上の場合、この構成要素の値は 0 となり、セクションヘッダーテーブルエントリの実際の数はセクションヘッダーの sh_size フィールドのインデックス 0 の位置に入っています。そうでない場合、当初のエントリの sh_size 構成要素には 0 が入っています。

e_shstrndx

セクション名文字列テーブルに対応するエントリのセクション ヘッダーテーブルインデックス。ファイルにセクション名文字列テーブルが存在しない場合、この構成要素は値 SHN_UNDEF を保持します。

セクション名文字列テーブルセクションのインデックスが SHN_LORESERVE (0xff00) 以上の場合、この構成要素の値は SHN_XINDEX (0xffff) となり、セクション名文字列テーブルセクションの実際のインデックスはセクションヘッダーの sh_link フィールドのインデックス 0 の位置に入っています。そうでない場合、当初のエントリの sh_link 構成要素には 0 が入っています。