この章では、Sun Cluster ソフトウェアで使用できるデータ複製技術について説明します。 データ複製は、主ストレージデバイスからバックアップデバイス (二次デバイス) へのデータのコピーとして定義されます。主デバイスに障害が発生した場合も、二次デバイスからデータを使用できます。データ複製を使用すると、クラスタの高可用性と耐障害性を確保できます。
Sun Cluster ソフトウェアは、次のデータ複製タイプをサポートします。
クラスタ間 – 障害回復には、Sun Cluster Geographic Edition を使用します
クラスタ内 – キャンパスクラスタ内でホストベースのミラーリングの代替として使用します
データ複製を実行するには、複製するオブジェクトと同じ名前のデバイスグループが必要です。1 つのデバイスは、一度に 1 つのデバイスグループにのみ属することができるため、デバイスを有する Sun Cluster デバイスグループをすでに持っている場合、そのグループを削除してからそのデバイスを新しいデバイスグループに追加します。Solaris Volume Manager、Veritas Volume Manager、ZFS、または raw ディスクデバイスグループの作成および管理については、第 5 章の「デバイスグループの管理」を参照してください。
クラスタに最適なサービスを提供する複製アプローチを選択するには、ホストベースとストレージベースのデータ複製を両方とも理解しておく必要があります。障害回復でデータ複製を管理するために使用する Sun Cluster Geographic Edition に関する詳細は、『Sun Cluster Geographic Edition Overview』を参照してください。
この章で説明する内容は次のとおりです。
Sun Cluster はデータ複製に対して次のアプローチをサポートしています。
ホストベースのデータ複製では、ソフトウェアを使用して、地理的に離れたクラスタ間でディスクボリュームをリアルタイムに複製します。リモートミラー複製を使用すると、主クラスタのマスターボリュームのデータを、地理的に離れた二次クラスタのマスターボリュームに複製できます。リモートミラービットマップは、主ディスク上のマスターボリュームと、二次ディスク上のマスターボリュームの差分を追跡します。クラスタ間 (およびクラスタとクラスタの外にあるホストとの間) の複製に使用されるホストベースの複製ソフトウェアには、Sun StorageTek Availability Suite 4 や Sun StorEdge Availability Suite 3.2.1 などがあります。
ホストベースのデータ複製は、特別なストレージアレイではなくホストリソースを使用するため、比較的安価なデータ複製ソリューションです。Solaris OS を実行する複数のホストが共有ボリュームにデータを書き込むことができるように構成されているデータベース、アプリケーション、またはファイルシステムはサポートされていません (Oracle 9iRAC、Oracle Parallel Server など)。2 つのクラスタ間でホストベースのデータ複製を使用する方法の詳細については、『Sun Cluster Geographic Edition Data Replication Guide for Sun StorageTek Availability Suite』を参照してください。Sun Cluster Geographic Edition を使用しないホストベースの複製の例については、付録 A の「Sun StorEdge Availability Suite または Sun StorageTek Availability Suite ソフトウェアを使用したホストベースのデータ複製の構成」を参照してください。
ストレージベースのデータ複製は、ストレージコントローラ上でソフトウェアを使用して、データ複製の作業をクラスタノードからストレージデバイスに移動させます。 このソフトウェアはノードの処理能力を一部解放し、クラスタの要求にサービスを提供します。クラスタ内またはクラスタ間でデータを複製できるストレージベースのソフトウェアには、Hitachi TrueCopy、Hitachi Universal Replicator、および EMC SRDF などがあります。ストレージベースのデータ複製は、構内クラスタ構成において特に重要になることがあります。この方法の場合、必要なインフラストラクチャーを簡素化できます。構内クラスタ環境でストレージベースのデータ複製を使用する方法の詳細については、「クラスタ内でのストレージベースのデータ複製の使用」を参照してください。
複数のクラスタ間でのストレージベースの複製と、そのプロセスを自動化する Sun Cluster GeoEdition 製品についての詳細は、『Sun Cluster Geographic Edition Data Replication Guide for Hitachi TrueCopy and Universal Replicator 』 と 『Sun Cluster Geographic Edition Data Replication Guide for EMC Symmetrix Remote Data Facility 』 を参照してください。また、このタイプのクラスタ構成の完全な構成例については、「Sun StorEdge Availability Suite または Sun StorageTek Availability Suite ソフトウェアを使用したホストベースのデータ複製の構成」も参照してください。
Sun Cluster ソフトウェアは、クラスタ間またはクラスタ内のデータ複製方式として以下をサポートしています。
クラスタ間の複製 – 障害回復目的でのクラスタ間のデータ複製には、ホストベースまたはストレージベースの複製を使用できます。通常、ホストベースの複製とストレージベースの複製のいずれかを選択し、両方の組み合わせは選択しません。Sun Cluster Geographic Edition ソフトウェアで両方の種類の複製を管理できます。
ホストベースの複製
Sun StorageTek Availability Suite 4 (Solaris 10 OS 以降)
Sun StorEdge Availability Suite 3.2.1 (Solaris 9 OS)
このマニュアルでは、特に明記していないかぎり、Sun StorageTek Availability Suite ソフトウェアに言及している内容は、Sun StorEdge Availability Suite ソフトウェアにも該当します。
Sun Cluster Geographic Edition ソフトウェアを使用しないでホストベースの複製を使用する場合は、付録 A 例の「Sun StorEdge Availability Suite または Sun StorageTek Availability Suite ソフトウェアを使用したホストベースのデータ複製の構成」を参照してください。
ストレージベースの複製
Hitachi TrueCopy および Hitachi Universal Replicator (Sun Cluster Geographic Edition 経由)
EMC Symmetrix Remote Data Facility (SRDF) (Sun Cluster Geographic Edition 経由)
Sun Cluster Geographic Edition ソフトウェアを使用しないでストレージベースの複製を使用する場合は、複製ソフトウェアのマニュアルを参照してください。
クラスタ内の複製 – この方式は、ホストベースのミラー化の代替として使用されます。
アプリケーションベースの複製 – Oracle Data Guard はアプリケーションベースの複製ソフトウェアの例です。この種類のソフトウェアは障害回復目的でのみ使用されます。詳細については、『Sun Cluster Geographic Edition Data Replication Guide for Oracle Data Guard』を参照してください。
ストレージベースのデータ複製は、ストレージデバイスにインストールされているソフトウェアを使用して、クラスタまたは構内クラスタ内の複製を管理します。このようなソフトウェアは、特定のストレージデバイスに固有で、障害回復には使用されません。ストレージベースのデータ複製を構成する際には、ストレージデバイスに付属するマニュアルを参照してください。
使用するソフトウェアに応じて、ストレージベースのデータ複製を使用して自動または手動いずれかのフェイルオーバーを使用できます。Sun Cluster は、Hitachi TrueCopy、Hitachi Universal Replicator、EMC SRDF ソフトウェアによる複製物の手動、自動フェイルオーバーをサポートしています。
この節では、構内クラスタで使用されるストレージベースのデータ複製を説明します。図 4–1 に、2 つのストレージアレイ間でデータが複製される、2 か所に設置されたクラスタ構成の例を示します。この例では、第一の場所に主ストレージアレイがあり、これが両方の場所のノードにデータを提供します。また主ストレージアレイは、複製するデータを二次ストレージアレイに提供します。
図 4–1 は、複製されていないボリューム上に定足数デバイスがあることを示しています。複製されたボリュームを定足数デバイスとして使用することはできません。
使用するアプリケーションの種類によっては、Hitachi TrueCopy または Hitachi Universal Replicator によるストレージベースのデータ複製を Sun Cluster 環境で同期的または非同期に実行できます。構内クラスタで自動フェイルオーバーを実行する場合は、TrueCopy を同期的に使用します。EMC SRDF によるストレージベースの同期複製は、Sun Cluster でサポートされています。EMC SRDF については、非同期複製はサポートされていません。
EMC SRDF のドミノモードまたは適応型コピーモードを使用しないでください。ドミノモードでは、ターゲットが使用可能でないとき、ローカルとターゲット SRDF ボリュームをホストで使用できなくなります。適応型コピーモードは、一般的にデータ移行およびデータセンター移行に使用され、障害回復には推奨されません。
Hitachi TrueCopy または Hitachi Universal Replicator で、データモードまたはステータスモードを使用しないでください。二次ストレージデバイスに不具合が生じた場合、主ストレージへの書き込みに問題が生じる可能性があります。
データの整合性を確保するには、マルチパスおよび適切な RAID パッケージを使用します。次のリストには、ストレージベースのデータ複製を使用するクラスタ構成を実装するための考慮事項が含まれています。
ノードからノードヘの距離は、Sun Cluster Fibre Channel とインターコネクトインフラストラクチャーにより制限されます。現在の制限とサポートされる技術の詳細については、Sun のサービスプロバイダにお問い合わせください。
複製されたボリュームを、定足数デバイスとして構成しないでください。共有の複製されていないボリュームにある定足数デバイスを見つけるか、定足数サーバーを使用します。
データの主コピーのみがクラスタノードに認識されるようにします。このようにしないと、ボリュームマネージャーはデータの主コピーと二次コピーの両方に同時にアクセスしようとする場合があります。データコピーの可視性の制御に関しては、ご使用のストレージアレイに付属するマニュアルを参照してください。
EMC SRDF、Hitachi TrueCopy、Hitachi Universal Replicator では、ユーザーは複製デバイスのグループを決定することができます。各複製デバイスグループには、同じ名前の Sun Cluster デバイスグループが必要です。
特定のアプリケーション固有のデータは、非同期データ複製には適さない場合があります。アプリケーションの動作に関する知識を活用して、ストレージデバイス間でアプリケーション固有のデータを複製する最善の方法を決定します。
クラスタを自動フェイルオーバー用に構成する場合は、同期複製を使用します。
複製されたボリュームの自動フェイルオーバー用にクラスタを構成する手順については、「ストレージベースの複製されたデバイスの管理」を参照してください。
クラスタ内で複製している場合、Oracle Real Application Clusters (RAC) は、SRDF、Hitachi TrueCopy、および Hitachi Universal Replicator でサポートされません。ノードの接続先の複製が現在は主複製ではない場合、そのノードに書き込みアクセス権はありません。クラスタのすべてのノードからの直接書き込みアクセス権が必要なスケーラブルアプリケーションは、複製されるデバイスでサポートできません。
Sun Cluster ソフトウェア用の Veritas Cluster Volume Manager (CVM) および Solaris Volume Manager (SVM) OBAN クラスタはサポートされていません。
EMC SRDF でドミノモードまたは適応型コピーモードを使用しないでください。詳細は、「クラスタ内でのストレージベースのデータ複製の使用」を参照してください。
Hitachi TrueCopy または Hitachi Universal Replicator でデータモードまたはステータスモードを使用しないでください。詳細は、「クラスタ内でのストレージベースのデータ複製の使用」を参照してください。
すべての構内クラスタと同じように、ストレージベースのデータ複製を使用するクラスタは、通常、1 つの障害が発生した場合はユーザーの操作は必要ありません。ただし、(図 4–1 に示すように) 手動フェイルオーバーを使用し、主ストレージデバイスを保持する空間が失われた場合、2 ノードクラスタでは問題が発生します。残ったノードは定足数デバイスを予約できず、またクラスタメンバーとして起動できません。このような状況では、クラスタには次の手動操作が必要になります。
クラスタメンバーとして起動するよう、Sun のサービスプロバイダが残りのノードを再構成する必要があります。
ユーザーまたは Sun のサービスプロバイダが、二次ストレージデバイスの複製されてない方のボリュームを定足数デバイスとして構成する必要があります。
二次ストレージデバイスを主ストレージとして使用できるよう、ユーザーまたは Sun のサービスプロバイダが残りのノードを構成する必要があります。このような再構成には、ボリュームマネージャーボリュームの再構築、データの復元、ストレージボリュームとアプリケーションの関連付けの変更が含まれます。
ストレージベースのデータ複製に Hitachi TrueCopy または Hitachi Universal Replicator ソフトウェアを使用するデバイスグループを設定する場合は、次のプラクティスに従ってください。
同期複製を使用して、主サイトに障害が発生したときにデータの損失を防ぎます。
Sun Cluster グローバルデバイスグループとhorcm 構成ファイルで定義された TrueCopy 複製グループの間に 1 対 1 の関係が存在するようにしてください。これにより、両方のグループが 1 つの単位としてノードからノードへ移動することができます。
同一の複製されたデバイスグループ内にグローバルファイルシステムボリュームとフェイルオーバーファイルシステムボリュームを混在させることはできません。制御方法が異なるためです。グローバルファイルシステムはデバイス構成システム (Device Configuration System、DCS) によって制御され、フェイルオーバーファイルシステムボリュームは HAS+ によって制御されます。それぞれの主ノードが異なるノードである可能性があるため、どのノードを複製の主ノードにすべきかについて衝突が発生します。
すべての RAID マネージャーインスタンスが常に起動され実行中であるべきです。
ストレージベースのデータ複製に EMC SRDF ソフトウェアを使用する場合は、静的デバイスではなく動的デバイスを使用します。静的デバイスでは主複製を変更するのに数分かかり、フェイルオーバー時間に影響を与えることがあります。