lint は、デフォルトでいくつかの移植不能コードを知らせます。lint が -p または -Xc を指定して呼び出されると、さらに多くのケースが診断されます。-Xc により、lint は ANSI C 規格に一致しない言語構造を検査します。-p と -Xc のもとで発行されるメッセージに関しては、「lint ライブラリ」を参照してください。次に例を示します。
いくつかの C 言語処理系では、signed や unsigned と明示的に宣言されない文字変数は、一般に -128 から 127 の範囲の符号付きデータとして扱われます。別の処理系では、これらは一般に 0 から 255 の範囲の負でないデータとして扱われます。そこで EOF が値 -1 を持つ以下のテストは、文字変数が負でない値を取るマシンでは常に失敗します。
char c; c = getchar(); if (c == EOF) ...
-p オプションで呼び出した lint は、普通の char が負の値を取る可能性があるような比較をすべて検査します。しかし上記の例では、c を signed char で宣言しても、問題が除去されるのではなく診断が除去されるだけである点に注意してください。これは、getchar() が入力可能な文字と明確な EOF 値を返さなければならず、char がその値を格納することができないためです。これは、処理系ごとに定義される符号拡張から生ずる最も一般的な例です。これにより、lint の移植性オプションを注意深く使用すると移植性に関係しないバグを発見するのに役立つということがわかります。ここでは c を int で宣言します。
同様の問題がビットフィールドにもあります。定数値がビットフィールドに代入される場合、その値を保持するにはフィールドが小さすぎる場合があります。int 型のビットフィールドを符号なしデータとして扱うマシンでは、int x:3 に対し許容される値は 0 から 7 の範囲で、符号付きデータとして扱うマシンでは、- 4 から 3 の範囲です。int 型を宣言した 3 ビットフィールドは後者のマシンでは値 4 を持つことはできません。-p を指定して呼び出された lint は、unsigned int または signed int 以外のすべてのビットフィールド型にフラグを立てます。unsigned int と signed int のみが移植可能なビットフィールド型です。コンパイラは、ビットフィールドの型 int、char、short、および long をサポートしますが、これらは unsigned、signed、またはそのどちらでもない場合があります。さらにコンパイラは enum のビットフィールドの型もサポートします。
大きなサイズの型が小さなサイズの型に代入されると、バグが発生することがあります。有効なビットが切り捨てられると正確な値を保持できなくなり、lint は、デフォルトでこの様な代入すべてを知らせます。
short s; long l; s = l;
診断は、-a オプションを指定して呼び出すことにより抑制することができます。どのオプションを指定して lint を呼び出しても、他の診断をも抑制する可能性があることに注意してください。2 つ以上の診断を抑制するオプションについては、「lint ライブラリ」のリストを参照してください。
あるオブジェクト型へのポインタをより厳密な境界整列要求を持つオブジェクト型のポインタにキャストすると、移植性がなくなることがあります。大部分のマシンでは、int は char とは異なり任意のバイト境界から開始することができないため、 lint はフラグを立てます。
int *fun(y) char *y; { return(int *)y; }
-h を指定して lint を実行することによってこの診断を抑制することができます。この場合もまた、他のメッセージを抑制する可能性があります。汎用ポインタ void * を使用すれば他の影響を回避することができます。
ANSI C は、複雑な式の評価順序を定義していません。この意味は、関数呼び出し、入れ子になった代入文、またはインクリメントとデクリメント演算子から副作用が生じる場合 (すなわち、式評価の副作用として変数が変更される時)、副作用の生じる順序はマシンへの依存度が高いということです。デフォルトでは、lint は副作用で変更されたり同一式内で他の場所に使用される変数を知らせます。
int a[10]; main() { int i = 1; a[i++] = i; }
この例での a[1] の値は、あるコンパイラでは 1、別のコンパイラでは 2 という可能性もあります。ビット単位の論理演算子 & が論理演算子 && の代わりに誤って使用されると、この診断を引き起こします。
if ((c = getchar()) != EOF & c != '0')