管理グループの計画

管理におけるすべての決定と同じく、効果的な実装のためには計画と準備が重要です。管理グループについても同様です。

ステップ1: グループ階層の計画

Enterprise Managerのデプロイメントで保持できる管理グループ階層は1つのみで、これにより、管理グループのメンバー・ターゲットがただ1つの管理グループに直接属することが保証されます。これにより、1つのターゲットが異なるモニタリング設定に関連付けられている複数の管理グループに属することで発生する、モニタリングの競合を回避できます。

階層を定義するには、まず、Enterprise Managerに追加するすべてのターゲットからなる最高レベル(ルート)について考える必要があります。次に、モニター方法に従ってターゲットを分割する方法について考えます。1つの方法でモニターされるターゲットは1つのグループに存在し、別の方法でモニターされるターゲットは別のグループに属します。たとえば、本番ターゲットがモニターされた方法とは別の方法でテスト・ターゲットがモニターされる場合があります。モニタリング方法に詳細な違いがある場合は、個々のグループをさらに分類できます。たとえば本番ターゲットは、ライン・オブ・ビジネスをモニターするために追加のメトリックがある場合があるため、サポートしているライン・オブ・ビジネスに基づいて詳細に分類される場合があります。最終的には、rootノード下のグループの階層を使用します。


管理グループの階層

各レベルのグループ化の定義に使用する属性および管理グループのメンバーシップ基準は、グローバル・ターゲット・プロパティおよびユーザー定義ターゲット・プロパティに基づきます。これらのターゲット・プロパティは、すべてのターゲットの属性となり、組織内での運用情報を指定します。たとえば、場所、それが属するライン・オブ・ビジネスライフサイクル・ステータスなどです。管理グループの定義に使用できるグローバル・ターゲット・プロパティは次のとおりです。

  • ライフサイクル・ステータス

    ノート:

    ターゲットの運用ステータスを表すため、「ライフサイクル・ステータス」ターゲット・プロパティが特に重要です。ライフサイクル・ステータスは、「基幹」、「本番」、「ステージング」、「テスト」および「開発」のいずれかです。

  • 場所

  • ライン・オブ・ビジネス

  • 部門

  • コストセンター

  • 連絡先

  • プラットフォーム

  • オペレーティング・システム

  • ターゲット・バージョン

  • カスタマ・サポートID

  • 高可用性ロール

  • ターゲット・タイプ(許可されているがグローバル・ターゲット・プロパティではない)

EM CLI動詞のadd_target_propertyおよびset_target_property_valueを使用して、カスタムのユーザー定義ターゲット・プロパティを作成できます。詳細は、『Oracle Enterprise Managerコマンドライン・インタフェース』ガイド動詞のリファレンスに関する項を参照してください。

Enterprise Manager (EM) 13.5リリース更新13以降では、ユーザー定義の高可用性ロール・ターゲット・プロパティがサポートされます。このプロパティを使用して、データベースのロール(プライマリ・データベースであるかスタンバイ・データベースであるか)を区別できます。データベース・ロールの変更が発生すると、Enterprise Managerは、このユーザー定義のターゲット・プロパティ値(定義されている場合)を新しいデータベース・ロール(プライマリまたはスタンバイ)で自動的に更新します。このプロパティは、動的グループまたは管理グループに適用できます。

たとえば、プライマリ・データベース専用の管理グループと、スタンバイ・データベース専用の個別の管理グループがある場合があります。これは、これらのグループごとの個別の通知をそれぞれのデータベース管理者に送信できるようにするためです。データベース・ロールの変更が発生すると、高可用性ロール・ターゲット・プロパティが管理グループ階層定義に含まれている場合、EMによってこのプロパティの値が新しいデータベース・ロールに自動的に更新されます。したがって、各データベースは自動的に、新しい基準に一致するそれぞれの管理グループの新しいメンバーとなります。これにより、各管理グループの管理者に、対応する新しいアラートが通知されます。

高可用性ロール・ターゲット・プロパティの使用方法:

1. ユーザー定義ターゲット・プロパティを作成し、高可用性ロールとラベル付けします。

2. OMSプロパティ'oracle.sysman.db.utilizeHARoleTargetProperty'を'true'に設定して、機能を有効にします。

3. このプロパティのマスター値リストを更新して、'Primary'および'Standby'の値を明示的に含めます。

4. ターゲット・プロパティ値'Primary'または'Standby'を目的のデータベース・ターゲットに割り当てます。

5. 管理グループ階層定義を作成または更新して、高可用性ロールを含めます。

例:

  1. ユーザー定義ターゲット・プロパティ高可用性ロールが作成されました。

    1. ターゲット・プロパティ値'Primary'および'Standby'が含まれます。

  2. 現在のロールに対応するターゲット・プロパティ値が割り当てられているDB1 (プライマリ・データベース)とDB2 (スタンバイ・データベース)の2つのデータベースがあります。

    1. DB1 (プライマリ) ==> '高可用性ロール = Primary'

    2. DB2 (スタンバイ) ==> '高可用性ロール = Standby'

  3. データベース・ロールの変更が発生します(自動)。

    1. データベースのターゲット・プロパティ値がPrimaryまたはStandbyになった場合は、EMによってこれらの値が更新されます

      1. DB1 (以前はプライマリ、現在はスタンバイ) ==> 高可用性ロール・プロパティが'Primary'から'Standby'に変更されます

      2. DB2 (以前はスタンバイ、現在はプライマリ) ==> 高可用性ロール・プロパティが'Standby'から'Primary'に変更されます

  4. EMによって、新規プライマリ・データベースおよび新規スタンバイ・データベースが適切なグループに自動的に配置されます。

ターゲットは手動では管理グループに追加できません。そのかわりに、(グループのメンバーとする予定の)ターゲットのターゲット・プロパティを、管理グループで定義するメンバーシップ基準と一致するように設定します。ターゲット・プロパティが設定されていれば、Enterprise Managerにより、そのターゲットは自動的に適切な管理グループに追加されます。

ターゲット・プロパティのマスター・リスト

ターゲット・プロパティを管理グループ(および動的グループ)で使用するには、管理対象の環境内のすべてのユーザーが、一貫性のある共通の方法で指定する必要があります。また、特定のターゲット・プロパティ値に対して、定義可能なターゲット・プロパティ値のリストを制限することが必要になることがあります。Enterprise Managerでターゲット・プロパティのマスター・リストを定義することで、このことを実現できます。特定のターゲット・タイプのためのマスター・リストを定義すると、ターゲットのターゲット・プロパティ・ページで、テキスト・エントリ・フィールドのかわりに、事前定義済プロパティ値を含むドロップダウン・メニューが表示されます。マスター・プロパティ・リストは、次のEM CLI動詞を使用して管理します。

  • use_master_list: 指定されたターゲット・プロパティに対して使用されるマスター・リストを有効または無効にします。

  • add_to_property_master_list: 指定されたプロパティのマスター・リストにターゲット・プロパティ値を追加します。

  • delete_from_property_master_list: 指定されたプロパティのマスター・リストから値を削除します。

  • list_property_values: プロパティのマスター・リストの値をリストします

  • list_targets_having_property_value: この指定されたプロパティ名の指定されたプロパティ値を持つすべてのターゲットをリストします。

  • rename_targets_property_value: すべてのターゲットのプロパティの値を変更します。

マスター・リストの動詞の詳細は、『Oracle Enterprise Managerコマンドライン・インタフェース』ガイド動詞のリファレンスに関する項を参照してください。

ノート:

ターゲット・プロパティのマスター・リストを定義および管理するには、スーパー管理者権限が必要です。

Enterprise Manager管理者とターゲット・プロパティ

Enterprise Manager管理者の作成時に、「連絡先」、「場所」、「説明」などのプロパティを関連付けることができます。ただし、そのプロファイルに関連付けることのできる追加のリソース割当てプロパティがあります。これらのプロパティは、次のとおりです。

  • 部門

  • コストセンター

  • ライン・オブ・ビジネス

これらのプロパティは永続的であることに注意してください。つまり、管理者に関連付けられると、そのプロパティ(前述のターゲット・プロパティの一部をミラーリング)は、管理者により検出されるか作成されるターゲットに、自動的に渡されます。

次の管理グループ階層には、Root Administration Groupノードの下に、ProductionTestという2つの管理グループが作成されています。本番ターゲットのモニタリング設定はテスト・ターゲットのモニタリング設定とは異なるためです。


図に、本番とテストのグループが作成された管理グループ階層を示します。

この例では、グループのメンバーシップ基準は「ライフサイクル・ステータス」ターゲット・プロパティに基づいています。「ライフサイクル・ステータス」が'Production'のターゲットはProductionグループに所属し、「ライフサイクル・ステータス」が'Test'のターゲットはTestグループに所属します。このためライフサイクル・ステータスは、管理グループ階層の第1レベルを決めるターゲット・プロパティです。「ライフサイクル・ステータス」プロパティの値は、第1レベルの管理グループのメンバーシップ基準を決めます。本番グループには"Lifecycle Status = Production"、テスト・グループには"Lifecycle Status = Test'のメンバーシップ基準があります。

管理グループ階層のその他のレベルは、他のターゲット・プロパティに基づいて追加できます。通常、その他のレベルが追加されるのは、適用する必要があるその他のモニタリング(または管理)設定がある場合です。これらは、管理グループのターゲットの様々なサブセットで異なる可能性があります。たとえば、Productionグループでは、Finance部門のターゲットとSales部門のターゲットのその他のモニタリング設定が異なる可能性があります。その場合は、「ライン・オブ・ビジネス」ターゲット・プロパティ・レベルに基づくもう1つのレベルが追加されます。

次の表に、階層計画の練習問題の最終的な結果をまとめています。

ルート・レベル(1行目) レベル1 ターゲット・プロパティ(2行目): ライフサイクル・ステータス レベル2 ターゲット・プロパティ(3行目): ライン・オブ・ビジネス
ルート管理グループ Production(本番)またはMission Critical(基幹) Finance (会計)

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_

Sales (販売)

_

Staging(ステージング)、Test(テスト)またはDevelopment(開発) Finance (会計)

_

_

Sales (販売)

表の各セルがグループを表しています。各セルの値は、そのグループのメンバーシップ基準を定義するターゲット・プロパティの値を表しています。

グループのメンバーシップ基準は、1つ以上のターゲット・プロパティの値を基にすることが可能です。その場合は、ターゲット・プロパティがいずれかの値と一致するターゲットがグループに追加されます。たとえば、Productionグループの場合、ターゲットの「ライフサイクル・ステータス」「本番」または「基幹」のいずれかであれば、そのターゲットはProductionグループに追加されます。

また、グループのメンバーシップ基準が累積的であることを覚えておいてください。たとえば、ProductionまたはMission Criticalグループの下にあるFinanceグループでは、グループに加える前に、ターゲットの「ライフサイクル・ステータス」「本番」または「基幹」が設定され、かつ「ライン・オブ・ビジネス」「Finance」が設定されている必要があります。ターゲットの本番に設定されたライフサイクル・ステータス設定があっても、FinanceまたはSalesライン・オブ・ビジネス設定がない場合、管理グループに追加されません。

この計画例では、できあがる管理グループ階層は次の図のようになります。


図に、場所の属性が追加された管理グループ階層を示します。

ターゲットは、そのプロパティ値が両方のレベルで基準と一致するとき、そしてそのときにのみ、階層の一部となるという点に注意することが重要です。ターゲットが「ライフサイクル・ステータス」と一致する値を持っていても、それのみでは、第1レベルの管理グループのメンバーとなることはありません。また、管理グループ階層のすべてのターゲットは最も低いレベルのグループに属しています。

ステップ2: ターゲット・プロパティの割当て

必要な管理グループ階層を設定したら、ターゲットが正しい管理グループに所属するように、各ターゲットのプロパティが正しく設定されていることを確認する必要があります。Enterprise Managerは、ターゲット・プロパティを使用して、適切な管理グループにターゲットを自動的に配置します。ユーザーが操作する必要はありません。Enterprise Managerにすでに追加されたターゲットに対し、コンソール経由またはEM CLI動詞set_target_property_valueを使用して、ターゲット・プロパティを設定することもできます。詳細は、Oracle Enterprise Managerコマンドライン・インタフェース・ガイドを参照してください。set_target_property_valueの実行時に、ターゲット・プロパティの以前の値は上書きされることに注意してください。階層を作成する前にターゲット・プロパティを設定した場合は、階層が作成された後でグループに追加されます。EM CLIを使用して設定されたプロパティを持つターゲットは、適切な管理グループに自動的に追加されます。ただしターゲット・プロパティは、管理グループ階層が作成された後で設定されます。

ターゲット数が少ない場合、Enterprise Managerコンソールで直接ターゲット・プロパティを変更できます。

  1. Enterprise Managerのターゲット・オプションのメニューから、「ターゲット設定」「プロパティ」の順に選択します。

    ターゲット・プロパティのページ

  2. ターゲット・プロパティ・ページで、「編集」をクリックしてプロパティ値を変更します。


    ターゲット・プロパティのページ

    管理グループ条件として使用される適切なターゲット・プロパティ値を指定するときには、ページ上部の指示に注意してください。

  3. ターゲット・プロパティを設定したら、「OK」をクリックします。

ターゲットの数が多い場合は、Enterprise Managerコマンドライン・インタフェース(EM CLI)のset_target_property_value動詞を使用して一括更新を実行することをお薦めします。EM CLI動詞の詳細は、『Oracle Enterprise Managerコマンドライン・インタフェース・ガイド』を参照してください。

管理グループは権限伝播です。管理グループでユーザー(またはロール)に付与した権限は、管理グループのすべてのメンバーに対して自動的に適用されます。たとえば本番管理グループのOperator権限をユーザーまたはロールに付与すると、そのユーザーまたはロールは、その管理グループのすべてのターゲットで自動的にOperator権限を持つことになります。管理グループは常に権限伝播であるため、管理グループに追加される集約ターゲットにも権限伝播されるはずです。

ノート:

集約ターゲットは、他のメンバー・ターゲットを含むターゲットです。たとえばクラスタ・データベース(RAC)は、RACインスタンスを持つ集約ターゲットです。

権限伝播グループは集約ターゲットのよい例です。詳細は、「グループの管理」を参照してください。

いつでも、「すべてのターゲット」ページを使用して、すべてのターゲットのプロパティを表示できます。ターゲット・プロパティを表示するには:

  1. 「ターゲット」メニューから「すべてのターゲット」を選択し、すべてのターゲット・ページを表示します。

  2. 「ビュー」メニューから、「列」「すべて表示」の順に選択します。

  3. また、特定のターゲット・プロパティを表示する場合は、「列」を選択してから「他の列も表示」を選択します。

ステップ3: テンプレート・コレクションの作成準備

テンプレート・コレクションには、ターゲットを管理グループに追加する際に適用するモニタリング設定およびその他の管理設定が含まれています。ターゲットのモニタリング設定はモニタリング・テンプレートに定義されています。モニタリング・テンプレートはターゲット・タイプごとに定義されるため、管理グループ内の異なるターゲット・タイプのそれぞれに対してモニタリング・テンプレートを作成する必要があります。おそらく、複数のモニタリング・テンプレートを作成し、管理グループに適したモニタリング設定を定義することになります。たとえば、本番データベース用のメトリック設定を定義するデータベースのモニタリング・テンプレートを作成し、それとは別に、本番ではないデータベース用の設定を定義するモニタリング・テンプレートを作成します。テンプレート・コレクションに追加できるその他の管理設定としては、コンプライアンス標準とEnterprise Managerポリシーがあります。テンプレート・コレクションに追加するエンティティのすべてがEnterprise Managerで正しく定義されていることを確認してから、テンプレート・コレクションに追加します。

次の図に示す階層のように、2つ以上のレベルで定義されている管理グループ階層の場合は、管理設定がどのように管理グループのターゲットに適用されるのかを理解することが重要です。


テンプレート・コレクションの関連付け

管理グループ階層内の各グループは、テンプレート・コレクション(モニタリング・テンプレート、コンプライアンス標準およびEnterprise Managerポリシーが含まれている)と関連付けることができます。モニタリング設定を含むテンプレート・コレクションをProductionグループと関連付けている場合、そのモニタリング設定はProductionの下にあるFinanceおよびSalesサブグループに適用されます。Productionの下のFinanceグループに追加のモニタリング設定がある場合は、その追加のモニタリング設定のみを定義したモニタリング・テンプレートを作成できます。(後で、このモニタリング・テンプレートは別のテンプレート・コレクションに追加し、Financeグループに関連付けます)。Finance Template Collectionからのモニタリング設定は、Production Template Collectionからのモニタリング設定と論理的に結合されます。2つのテンプレート・コレクションに重複するメトリック設定が存在する場合は、Finance Template Collectionからのメトリック設定が優先され、Financeグループ内のターゲットに適用されます。この優先度のルールは、メトリック設定の場合にのみ適用されます。コンプライアンス標準ルールとEnterprise Managerポリシーの場合は、2つのテンプレート・コレクション内に重複するコンプライアンス標準ルールおよびEnterprise Managerポリシーがあるとしても、それらすべてがFinanceグループ内のターゲットに適用されます。

計画と準備のステップがすべて完了したら、管理グループの作成を開始できます。