モバイル IP の管理

モバイル IP の動作

モバイル IP により、IP データグラムをモバイルノードへ経路指定できます。モバイルノードのホームアドレスは、インターネット上または組織のネットワーク上の現在の接続点に関係なく、常にモバイルノードを指します。ホームから離れているときは、気付アドレスが、モバイルノードのインターネット上または組織のネットワーク上の現在の接続点に関する情報を提供することによって、モバイルノードをホームアドレスに関連付けます。モバイル IP は、登録機構を利用して気付アドレスをホームエージェントに登録します。

ホームエージェントは、モバイルノードの気付アドレスを含む新しい IP ヘッダーを宛先 IP アドレスとして作成して、データグラムをホームネットワークからその気付アドレスに転送します。この新しいヘッダーは元のデータグラムをカプセル化します。その結果、モバイルノードのホームアドレスは、カプセル化されたデータグラムが気付アドレスに到達するまで、その経路指定に影響を与えません。このようなカプセル化を「トンネリング」とも呼びます。気付アドレスに到達後、各データグラムはカプセル化を解除され、モバイルノードに配信されます。

図 1–2 では、外部ネットワーク B に移動する前の、ホームネットワーク A 上にあるモバイルノードを示しています。どちらのネットワークもモバイル IP をサポートしています。モバイルノードは、固定 IP アドレス 128.226.3.30 によってホームネットワークに常に関連付けられています。ネットワーク A はホームエージェントを持っていますが、モバイルノード宛てのデータグラムは通常の IP 処理で配信されます。

図 1–2 ホームネットワーク上にあるモバイルノード

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図 1–3 では、外部ネットワーク B に移動したモバイルノードを示しています。モバイルノード宛てのデータグラムはホームネットワーク A 上のホームエージェントが取得し、カプセル化してネットワーク B 上の外来エージェントに転送します。カプセル化されたデータグラムを受信すると、外来エージェントは外側のヘッダーを取り除き、そのデータグラムをネットワーク B にあるモバイルノードに配信します。

図 1–3 外部ネットワークに移動したモバイルノード

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気付アドレスは外来エージェントに含まれる場合や、動的ホスト構成プロトコル (DHCP) またはポイントツーポイントプロトコル (PPP) により取得される場合もあります。PPP により取得される場合、モバイルノードは、共存気付アドレスを持っていると言います。

モバイルノードは、特別な「登録」処理を使用して現在の場所に関する情報を絶えずホームエージェントに提供します。モバイルノードがホームネットワークから外部ネットワークへ、あるいは外部ネットワークから別の外部ネットワークへ移動するときは、いつも新しいネットワーク上の外来エージェントを選択し、そのエージェントを使用して登録メッセージをホームエージェントに転送します。

モビリティエージェント (ホームエージェントと外来エージェント) は「エージェント通知」メッセージを使用してその存在を通知します。オプションとしてモバイルノードは、「エージェント要請」メッセージを使用して、ローカルに接続されている任意のモビリティエージェントにエージェント通知メッセージを要請できます。モバイルノードは、これらのエージェント通知を受信して、それらがホームネットワーク上または外部ネットワーク上にあるのかを判断します。

モバイルノードが自分のホームネットワークにいることが判明すれば、モビリティサービスを利用せずに動作します。外部での登録状態からホームネットワークに戻るときに、モバイルノードは自分のホームエージェントの「登録を解除」します。

逆方向トンネリングを使用するモバイル IP

モバイル IP の動作では、インターネット上の経路指定は、データパケット発信元アドレスから独立したものと想定されています。しかし、中間ルーターは、トポロジとして正しい発信元アドレスを確認します。中間ルーターが確認する場合は、逆方向トンネルを設定しなければなりません。モバイルノードの気付アドレスからホームエージェントに逆方向トンネルを設定することによって、IP データパケットはトポロジとして正しい発信元アドレスを確保します。モバイルノードは、登録時に外来エージェントとホームエージェントの間に逆方向トンネルを要求できます。逆方向トンネルは、モバイルノードの気付アドレスで始まり、ホームエージェントで終わるトンネルです。図 1–4 に逆方向トンネルを使用するモバイル IP トポロジを示します。

図 1–4 逆方向トンネルを使用するモバイル IP

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専用アドレスの制限付きサポート

専用アドレスを持ち、インターネットを経由してグローバルに経路指定できないモバイルノードには、逆方向トンネルが必要です。Solaris モバイル IP は、専用アドレスを持つモバイルノードのみをサポートします。Solaris モバイル IP がサポートしない機能については、Solaris モバイル IP 実装の概要を参照してください。

外部との接続が必要でない場合、ネットワークでは専用アドレスを使います。専用アドレスは、インターネットを通る経路指定ができません。専用アドレスを持つモバイルノードは、逆方向トンネルを経由する通信ノードとだけ通信できます。専用アドレスが指定された通信ノードは、同じホームエージェントの管理ドメインに属さなければなりません。同じ外来エージェントに登録された時に同じ気付アドレスを使用する、専用アドレスが指定された 2 つのモバイルノードのネットワークトポロジを 図 1–5 に示します。

図 1–5 同じ外部ネットワーク上にある、専用アドレスが指定されたモバイルノード

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専用アドレスが指定された 2 つのモバイルノードが同じ管理ドメインに属しているので、ホームエージェントはこの 2 つのモバイルノードの間にデータパケットをどのようにして経路指定するかを識別します。また、外来エージェントの気付アドレスとホームエージェントの IP アドレスは、グローバルに経路指定できるアドレスでなければなりません。

同じ外部ネットワーク上にあり、同じ IP アドレスを持つ、専用アドレスが指定された 2 つのモバイルノードを持つことは可能です。各モバイルノードが異なるホームエージェントを持つ時にのみこれは、可能になります。また、各モバイルノードが共通の 1 つの外来エージェントの異なる通知サブネット上にある場合にのみ可能になります。図 1–6 は、このような状況を表わすネットワークトポロジを示しています。

図 1–6 異なる外部ネットワーク上にある、専用アドレスが指定されたモバイルノード

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専用アドレスが指定された 2 つのモバイルノードは同じ IP アドレスを持ち、これらのモバイルノードは異なるホームエージェントドメインに属しているので、2 つのノードは互いに通信し合うことはできません。しかし、各ノードは逆方向トンネルを経由し、対応するホームエージェントの管理ドメイン内のノードと通信することができます。例えば、図 1–6 のモバイルノード 2 は、通信ノード 2 に伝達できます。