Trusted Solaris 開発ガイド

ポリシーの運用

UNIX では、すべての入出力はファイルインタフェースを介して行われるため、ファイルシステムのセキュリティポリシーは、Trusted Solaris 7 全体に適用されます。

ここでは、ファイルシステムのセキュリティポリシーの次の点について説明します。

プロセス間通信 (IPC) のセキュリティポリシーについては、アクセスするプロセスとアクセスされるプロセス間の必須の読み取りアクセスおよび書き込みアクセスのチェックについて説明します。一部の IPC 機構と X ウィンドウシステムオブジェクトはファイルを使用しているので、この節で説明するファイルシステムのセキュリティポリシーがそれらの操作にも適用されます。IPC 機構によっては、下位読み取りと上位書き込みのセキュリティポリシーを持つものがあります。また、制限の強い同位読み取りと同位書き込みポリシーを持つ IPC 機構もあります。X ウィンドウシステムは、同位書き込みと下位読み取りポリシーを持ちます。特定のセキュリティポリシー情報については、次に示す章を参照してください。

ファイルシステムのセキュリティポリシー

この節では、次に示すファイルオブジェクトに対する必須アクセスチェックと任意アクセスチェックについて説明します。

任意アクセス

プロセスの所有者には、目的のオブジェクトが含まれているパス内のすべてのディレクトリに対する任意検索 (実行) 権がなければなりません。目的のオブジェクトに到達すると、アクセス操作は次のように実行できます。

必須アクセス

任意アクセス制御 (DAC) チェックが済むと、目的のファイルが含まれているパス内のすべてのディレクトリについて、必須検索アクセスが必要となります。ディレクトリに対する必須検索アクセスは、プロセスの機密ラベルがパス内のすべてのディレクトリの機密ラベルより優位な場合に与えられます。目的のファイルに到達すると、アクセス操作は次のように実行されます。

ファイルシステムのアクセス特権

ファイルシステムオブジェクトに対する任意または必須のアクセスチェックが失敗した場合、プロセスは、セキュリティポリシーの適用を回避する特権を表明できます。また、現行のラベル、またはユーザーに対してその処理を許容すべきでない場合は、エラーを出すことができます。

任意アクセスは、次のように有効になります。

必須アクセスは、次のように有効になります。

アクセスチェックが実行される場合

必須アクセスチェックと任意アクセスチェックは、ファイルシステムオブジェクトが開かれるときにパス名に対して実行されます。ほかのシステムコールでそのファイル記述子が使用される場合、それ以上アクセスチェックは行われません。ただし、次の場合を除きます。

ファイルシステムポリシーの例

この節の例は、読み取り、書き込み、検索、実行操作のため、プロセスがファイルシステムオブジェクトにアクセスする場合に考慮すべき事項を示しています。

この例では、プロセスが、読み取りと書き込みで /export/home/heartyann/somefile にアクセスし、実行で /export/home/heartyann/filetoexec にアクセスすることを想定します。両方のファイルとも Confidential で保護されています。プロセスの機密ラベルは Secret で、プロセス認可上限は Top Secret です。Confidential は Secret よりも低く、Secret は Top Secret よりも低いラベルです。

機密ラベル

次の図に示すように、パス /export/home の機密ラベルは ADMIN_LOW で、heartyann ディレクトリと somefile の機密ラベルは Confidential です。

図 1-1 ファイルシステムオブジェクトのアクセス

Graphic

プロセスが必須または任意のアクセスチェックに失敗した場合は、プログラムはエラーを表明するか、適切な特権を表明する必要があります。

アクセス制御の適用を回避するため特権を使用する場合の機密ラベルの処理の詳細は、第 5 章「ラベル」「ラベルのガイドライン」を参照してください。

ファイルを開く

Secret プロセスは、読み取りのために somefile を開いて読み取り操作を実行し、このファイルを閉じます。Confidential の /export/home/heartyann シングルレベルディレクトリ内の somefile がアクセスされるように、完全な装飾パス名が使用されます。

完全な装飾パス名は、マルチレベルディレクトリの装飾方法を使用し、どのシングルレベルディレクトリが必要か正確に指定します。代わりに通常のパス名が使用されると、プロセスが Secret で動作しているため Secret のシングルレベルディレクトリがアクセスされます。

完全な装飾パス名の詳細は、「装飾名」を参照してください。マルチレベルとシングルレベルのディレクトリを処理するインタフェースの詳細は、第 8 章「マルチレベルディレクトリ」で説明します。次の例では、わかりやすさのために使われている完全装飾パス名がハードコードされていますが、この方法は第 8 章「マルチレベルディレクトリ」では使いません。

#include <sys/types.h>
 #include <sys/stat.h>
 #include <fcntl.h>
 #include <unistd.h>

 main()
 {
 	int			filedes, retval;
 	ssize_t			size;
 	char			readbuf[1024];
 	char			*buffer = "Write to File.";
 	char			*file = "/export/home/.MLD.heartyann/.SLD.1/filetoexec";
 	char			*argv[10] = {"filetoexec"};

 	filedes = open("/export/home/.MLD.heartyann/.SLD.1/somefile", O_RDONLY);
 	size = read(filedes, readbuf, 29);
 	retval = close(filedes);

ファイルへの書き込み

Secret プロセスは、Confidential の /export/home/heartyann シングルレベルディレクトリ内での書き込みのために somefile を開き、書き込み操作を実行し、このファイルを閉じます。

filedes = open("/export/home/.MLD.heartyann/.SLD.1/somefile", O_WRONLY);
 size = write(filedes, buffer, 14);
 retval = close(filedes);

ファイルの実行

Secret プロセスは、Confidential の /export/home/heartyann シングルレベルディレクトリ内の実行可能ファイルを実行します。

	retval = execv(file, argv);
 }