CIM オブジェクトマネージャは、WBEM クライアントアプリケーションと管理対象リソースとの間で CIM データを送受信するソフトウェアです。
この章の内容は次のとおりです。
CIM オブジェクトマネージャ (CIMOM) は、WBEM 対応システムの CIM オブジェクトを管理します。CIM オブジェクトは、プリンタ、ディスクドライブ、CPU などの管理対象リソースを表したモデルです。CIM オブジェクトは、内部的には Java プログラミング言語のクラスとして格納されます。
WBEM クライアントアプリケーションがオブジェクト情報にアクセスすると、CIMOM はそのオブジェクトに適したプロバイダか、 CIM オブジェクトマネージャリポジトリ に接続します。プロバイダとは、管理オブジェクトと通信してデータにアクセスするクラスです。WBEM クライアントアプリケーションから要求されたデータが、CIM オブジェクトマネージャリポジトリに含まれていない管理対象リソースのデータである場合、CIM オブジェクトマネージャはその要求を該当する管理対象リソースのプロバイダに転送します。プロバイダは、動的にその情報を取得します。
CIM オブジェクトマネージャは、起動時に次の機能を実行します。
CIM オブジェクトマネージャは、次のことを行います。
セキュリティ検査を実行して、ユーザーログインを認証し、名前空間へのアクセスを承認する
CIM データ操作の構文と意味を検査して、最新の CIM 仕様に準拠していることを確認する
プロバイダや CIM オブジェクトマネージャリポジトリから受け取ったデータを WBEM クライアントアプリケーションに転送する
クライアント側で WBEM 操作を実行する必要があるとき、WBEM クライアントアプリケーションは CIMOM に接続します。たとえば、CIM クラスの作成や、CIM インスタンスの更新処理が必要なときです。WBEM クライアントアプリケーションが CIMOM に接続すると、クライアントアプリケーションは CIMOM への参照を取得します。クライアントアプリケーションは、この参照を利用して、サービスや操作を要求します。
init.wbem コマンドは、インストール時とシステムのリブート時に自動的に実行されます。init.wbem コマンドは、CIM オブジェクトマネージャと Solaris 管理コンソール サーバーが結合された単一プロセスを実行します。また、CIM オブジェクトマネージャおよび Solaris 管理コンソール サーバーを停止したり、サーバーからステータスを入手したりするためにも、init.wbem コマンドを使用できます。このコマンドに関する追加情報は、init.wbem(1M) のマニュアルページにあります。
一般には CIM オブジェクトマネージャを停止する必要はありません。ただし、既存のプロバイダを変更する場合には、変更後のプロバイダを使用する前に、CIM オブジェクトマネージャを停止してから再起動する必要があります。
init.wbem コマンドには、次の 3 つのオプションを指定できます。
start – ローカルホスト上の CIM オブジェクトマネージャまたは Solaris 管理コンソールサーバーを起動する
stop – ローカルホスト上の CIM オブジェクトマネージャおよび Solaris 管理コンソールサーバーを停止する
status – ローカルホスト上の CIM オブジェクトマネージャおよび Solaris 管理コンソールサーバーのステータスを取得する
Solaris 管理コンソール ソフトウェアは、ユーザー管理、ディスク管理、ログビューアなどの Solaris プラットフォーム管理アプリケーションを提供します。Solaris 管理コンソールサーバーは、コンソールを取り込むことが可能なツールを提供します。Solaris 管理コンソールサーバーは、コンソールとそのツール群を対象とした一般的なサービスも実行できます。たとえば、認証、承認、ロギング、メッセージング、持続性などです。
Solaris 管理コンソールについては、ほかの章で説明します。詳細は、『Solaris のシステム管理 (基本編)』を参照してください。
init.wbem コマンドは、/etc/init.d ディレクトリにあります。init 状態 2 に入った時点 (通常はブート時) で、/etc/rc2.d/S90wbem ファイルが start オプションを指定して実行されます。/etc/rc0.d/K36wbem、/etc/rc1.d/K36wbem、および /etc/rcS.d/K36wbem の 3 ファイルは、init 状態 0、1、および S に入った時点で、stop オプションで実行されます。
プロバイダを変更する場合は、変更後のプロバイダを使用する前に、CIM オブジェクトマネージャを停止し、再起動する必要があります。
以前のバージョンの Solaris を Solaris 10 にアップグレードした場合は、MOF (Managed Object Format) のカスタムデータを Solaris 9 からの新しいリポジトリ形式に更新する必要があります。アップグレードを行うと、アップグレード前に変更を加えた CIM および Solaris MOF データがすべて破壊されます。そのため、アップグレード後に MOF ファイルを再コンパイルするか、WBEM データをマージする必要があります。
変更を加えたデータの再コンパイルまたはマージ処理を正しく実行しないと、データは失われます。
Solaris 10 OS にアップグレードしたあと WBEM データを再コンパイルするかマージするかについては、次の表を参照してください。
表 2–1 WBEM データを再コンパイルするかマージするかの判別
アップグレード前の環境 |
所有する MOF (Managed Object Format) ファイルを再コンパイルするか | |
---|---|---|
Solaris 8 (Solaris WBEM サービス 2.0) Solaris 8 6/00 (WBEM サービス 2.0) Solaris 8 10/00 (WBEM サービス 2.2) |
する | |
Solaris 8 1/01 (WBEM サービス 2.3) Solaris 8 4/01 (WBEM サービス 2.4) Solaris 8 7/01 (WBEM サービス 2.4) Solaris 8 10/01 (WBEM サービス 2.4) Solaris 9 全リリース (WBEM サービス 2.5) |
しない。ただし、アップグレード済みリポジトリにデータをマージする必要がある |
システムを Solaris 10 OS にアップグレードします。
スーパーユーザーになります。
所有する MOF ファイルが置かれているディレクトリに移動します。
mofcomp コマンドを使って、所有する個々の MOF ファイルをコンパイルします。
# /usr/sadm/bin/mofcomp root root-passwd MOF-filename |
MOF コンパイラの詳細については、mofcomp(1M) のマニュアルページを参照してください。
CIM オブジェクトマネージャを停止します。
# /etc/init.d/init.wbem stop |
CIM オブジェクトマネージャを起動します。
# /etc/init.d/init.wbem start |
CIMOM は、/var/sadm/wbem/logr/ ディレクトリに、変換済みデータを含むリポジトリファイルを追加します。このディレクトリは、Solaris 10 OS へのアップグレード時に作成されたものです。
システムを Solaris 10 OS にアップグレードします。
スーパーユーザーになります。
CIM オブジェクトマネージャを停止します。
# /etc/init.d/init.wbem stop |
wbemconfig convert コマンドを実行する前に CIM オブジェクトマネージャを停止しなかった場合、データが損傷を受ける場合があります。
以前のバージョンの信頼できるログにある元のデータを、Solaris 10 の Reliable Log 内のデータとマージします。
# /usr/sadm/lib/wbem/wbemconfig convert |
wbemconfig convert コマンドでは、独自にカスタマイズした MOF データは正しく変換できますが、変更を加えた CIM または Solaris MOF データは変換できません。変更を加えた CIM または Solaris MOF データは壊れます。変更を加えた CIM または Solaris MOF データを新しいリポジトリに再コンパイルするには、mofcomp コマンドを使用して、クラス定義を含む MOF ファイルをコンパイルします。
CIM オブジェクトマネージャ は、MOF の構文や意味が正しくない場合、例外メッセージを生成します。例外メッセージの詳細については、第 9 章「問題発生時の解決方法」を参照してください。