割り当てられたネットワーク番号を受け取り、ホストの IP アドレスを指定してしまったら、次に行う作業は、ホストに名前を割り当て、ネットワーク上のネームサービスをどのように扱うかを決めることです。これらの名前は、最初にネットワークを設定するときに使用するほか、後日ルーターや PPP を使用してネットワークを拡張するときにも使用します。
TCP/IP は、ネットワーク上の特定のマシンを見つけるときに、そのマシンの IP アドレスを使用します。しかし、人間にとっては、マシンに意味のある名前が付いている方が、識別しやすくて便利です。したがって、TCP/IP プロトコル (および Solaris オペレーティングシステム) では、マシンを一意なものとして識別するために、IP アドレスとホスト名の両方が必要です。
TCP/IP の視点から見れば、ネットワークは名前が付けられたエンティティの集合です。ホストは名前が付けられた 1 個のエンティティです。ルーターも名前が付けられた 1 個のエンティティです。さらに、ネットワークも名前が付けられた 1 個のエンティティです。ネットワークがインストールされているグループや部門にも、名前を付けることができます。部課、地区、会社も同様です。理論的には、ネットワークとそのマシンを識別するために使用できる名前の階層については、事実上まったく制限はありません。名前が付けられたこれらのエンティティを総称してドメインと呼びます。
多くのサイトでは、各ユーザーがそれぞれのマシンの名前を選定しています。サーバーにも少なくとも 1 つのホスト名が必要で、このホスト名は一次ネットワークインタフェースの IP アドレスに関連付けられます。
ネットワーク管理者は、自己の管轄ドメイン内のすべてのホスト名が一意なものであることを確認する必要があります。たとえば、ネットワーク内の "fred" というマシンが複数の IP アドレスを持っていてもかまいませんが、ネットワーク内に "fred" という名前を持つマシンが 2 つあってはなりません。
ネットワークの計画を立てるときは、IP アドレスとそれぞれのホスト名のリストを作って、設定工程中に各マシンに簡単にアクセスできるようにしてください。このリストは、すべてのホスト名が一意かどうかを検査するために役立ちます。
Solaris オペレーティングシステムでは、4 種類のネームサービスのどれでも任意に選択して使用できるようになっています。4 つのネームサービスとは、ローカルファイル、NIS、NIS+、DNS です。ネームサービスは、ネットワーク上のマシンに関する重要な情報、たとえばホスト名、IP アドレス、Ethernet アドレスなどを保持しています。
オペレーティングシステムをインストールするときに、その手順の一環として、サーバーマシン、クライアントマシン、スタンドアロンマシンのホスト名と IP アドレスを入力します。Solaris インストールプログラムは、hosts データベースと ipnodes データベースという 2 つのネットワークデータベースにこの情報を格納します。これらのデータベースは、ネットワーク上の TCP/IP の動作に必要な情報を格納しているネットワークデータベースセットの一部です。これらのデータベースは、管理者が自己のネットワーク用として選択したネームサービスにより読み取られます。
ネットワークデータベースの設定は、ネットワーク構成の重要な部分です。したがって、ネットワーク計画工程の一環として、どのネームサービスを使用するかを決定する必要があります。ネームサービスの使用の決定は、ネットワークを管理ドメインとして編成するかどうかにも影響を与えます。ネットワークデータベースのセットについては、「ネットワークデータベースと nsswitch.conf ファイル」に詳しい説明があります。
NIS、NIS+、DNS ネームサービスは、ネットワーク内のいくつかのサーバー上にネットワークデータベースを維持します。これらのネームサービスとそれぞれの設定方法については、『Solaris ネーミングの設定と構成』 に詳しい説明があります。「名前空間」と「管理ドメイン」の概念に関する説明も出ています。ネームサービスを NIS から NIS+ に変更する場合は、 『NIS+ への移行』を参照してください。これらのマニュアルは、ネットワークでこれらのネームサービスのどれを使用するかを決める際の参考として役立ちます。
NIS、NIS+、DNS のどれも実装しない場合は、ネットワークはローカルファイルを使用してネームサービスの機能を提供します。「ローカルファイル」とは、ネットワークデータベースが使用するためのものとして /etc ディレクトリに入っている一連のファイルのことです。本書に示す手順では、特に断らない限り、ネームサービスとしてローカルファイルを使用しているものとします。
ネットワーク用のネームサービスとしてローカルファイルを使用することに決めた場合、後日別のネームサービスを設定することもできます。
多くのネットワークでは、ホストとルーターが管理ドメインの階層の形で編成されます。NIS、NIS+、DNS のどれかのネームサービスを使用する場合は、所属組織のドメイン名として、全世界の中で一意な名前を選択する必要があります。ドメイン名が一意であることを確認するには、そのドメイン名を InterNIC に登録する必要があります。特に、DNS の使用を予定している場合は、この処置が重要です。
ドメイン名は階層構造になっています。一般に、新規のドメインは、既存の関連ドメインの下に配置されます。たとえば、子会社のドメイン名はその親会社のドメイン名の下に配置されます。特に他との関連性のない組織のドメイン名は、既存の最上位ドメインのいずれかの下に直接配置できます。
.com - 民間企業 (世界規模)
.edu - 教育機関 (世界規模)
.gov - アメリカ政府機関
.fr - フランス
組織を識別する名前は、一意なものであるという条件を満たしていれば、ネットワーク管理者が任意に選択できます。
管理作業の分化の目的は、サイズと制御に関する事項を解決することにあります。ネットワーク内のホストとサーバーの数が増えるに従って、管理作業はますます複雑になります。このような状況に対処するための方法としては、管理部門を増設することが考えられます。そのためには、特定のクラスのネットワークを増設するか、または既存のネットワークをサブネットに分割します。ネットワーク管理の作業を分化するかどうかを決める点には、次のものがあります。
ネットワークの規模
数百台のホストから成る単一のネットワークにおいて、すべてのホストが物理的に同じ場所にありしかも同じ管理サービスを必要とするものである場合は、1 つの管理部門だけで対処できるでしょう。これに対して、マシン数がもっと少ない場合でも、ネットワークが多数のサブネットに分割されていて、しかも地理的に広い範囲に散在しているとすれば、複数の管理部門を設立する方が効率的になります。
ネットワーク上のユーザーのニーズが共通しているかどうか
たとえば、1 つのビル内だけに限定され比較的少数のマシンをサポートするネットワークがあるとします。また、このネットワークのマシンがいくつかのサブネットワークに分割され、各サブネットワークがそれぞれ大幅にニーズの異なるユーザーのグループをサポートしているとします。このような場合は、各サブネットごとに管理部門を設けるとよいでしょう。
管理作業の分化についての詳細は、『Solaris ネーミングの管理』で説明しています。