Solaris ネーミングの管理

ネームサービスとは

ネームサービスは、ユーザー、ワークステーション、アプリケーションが、ネットワークを通じてやりとりする必要がある情報を 1 つの場所に格納します。情報にはたとえば、以下のものがあります。

集中化されたネームサービスがなければ、ワークステーションごとに、これらの情報のコピーを管理しなければなりません。ネームサービス情報はファイルまたはマップ、データベーステーブルの形で格納できます。これらのデータを 1 カ所で管理すれば、大規模なネットワークの管理が簡単になります。

ネームサービスは、どのようなコンピュータネットワークにも欠かせないものです。そのほかにもネームサービスには、以下の機能があります。

ネットワーク情報サービスを使用すると、数値アドレスの代わりに一般的な名前でワークステーションを識別できます。そのため、ユーザーは「129.44.3.1」のような難しい数値アドレスを覚えて入力する必要がなくなり、情報のやりとりが簡単になります。

たとえば、pineelmoak という 3 台のワークステーションからなる簡単なネットワークを例にとります。pineelm または oak にメッセージを送信するには、それら 2 台のネットワークアドレスを知る必要があります。そのため pine は、自分自身を含めたネットワーク内のすべてのワークステーションのネットワークアドレスを格納する /etc/hosts ファイルまたは /etc/inet/ipnodes ファイルを持っています。

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同様に、elmoakpine と通信したり、お互いに通信するためには、同じ /etc/hosts ファイルを持つ必要があります。

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しかし、ワークステーションが格納しなければならないネットワーク情報は、アドレスだけではありません。セキュリティ情報、メールデータ、Ethernet インタフェースについての情報、ネットワークサービスについての情報、ネットワークの使用を許可されたユーザーグループについての情報、ネットワーク上で提供されるサービスについての情報なども必要です。ネットワークによって提供されるサービスが増えるにつれて、そのファイルも大きくなります。その結果、各ワークステーションに /etc/hosts または /etc/inet/ipnodes のようなファイルのセット全部を持たせる必要もでてきます。

この情報が変更されるごとに、管理者はネットワーク内のすべてのワークステーションにある情報を最新のものにしなければなりません。小さなネットワークではこれは単純な作業にすぎませんが、中規模または大規模なネットワークでは、この仕事は時間がかかるだけではなく、手に負えないものとなります。

ネットワーク情報サービスがこの問題を解決します。このサービスでは、ネットワーク情報をサーバーに格納し、その情報を要求するワークステーションに提供します。

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この場合、ワークステーションはサーバーの「クライアント」と呼ばれます。ネットワークについての情報が変更されるたびに、各クライアントのローカルファイルを変更する代わりに、管理者はネットワーク情報サービスが格納する情報だけを更新します。これによって、エラー、クライアント間の不一致、そして作業量を減らすことができます。

このように、サーバーがネットワークを通してサービスをクライアントに提供する方法を「クライアントサーバーコンピューティング」と呼びます。

ネットワーク情報サービスの第一の目的は情報の一元管理ですが、もう 1 つの目的はネットワーク名の簡素化です。たとえば、ある会社がネットワークを設定して、インターネットに接続したと仮定します。インターネットはその会社に 129.44.0.0 というネットワーク番号と、doc.com というドメインネームを割り当てました。会社には「営業 (Sales)」と「製造 (Manf)」という 2 つの部門があるため、このネットワークは 1 つのメインネットと、各部門に 1 つずつ、合計 2 つのサブネットに分割されます。各ネットには独自のアドレスがあります。

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上に示すように、各部はネットワークアドレスで識別することもできますが、ネームサービスで使用できる名前の方が便利です。

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したがって、メールやその他のネットワーク通信の送信先を 129.44.1.0 というアドレスを指定する代わりに、単に doc と指定できます。また、129.44.2.0 や 129.44.3.0 と指定する代わりに、sales.docmanf.doc と指定できます。

名前は、物理アドレスよりもはるかに柔軟です。物理的なネットワークはめったに変更されませんが、これらを使用する組織はよく変化します。ネットワーク情報サービスは、組織とその物理的なネットワークとの間のバッファのように機能します。その理由は、ネットワーク情報サービスが物理的ネットワークに実際に接続されているのではなく、マップされているためです。次の例でこれを説明します。

この doc.com ネットワークが、S1、S2、S3 の 3 台のサーバーによってサポートされ、これらのうち 2 台のサーバー (S1 と S3) がクライアントをサポートすると仮定します。

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クライアント C1、C2、C3 はネットワーク情報をサーバー S1 から入手します。クライアント C4、C5、C6 はこれをサーバー S3 から入手します。このような形態のネットワークを次の表に示します (表 1-1 は、前記のネットワークを一般化して表現したもので、実際のネットワーク情報マップとは異なる)。

表 1-1 doc.com ネットワークの構成

ネットワークアドレス 

ネットワーク 

サーバー 

クライアント 

129.44.1.0 

doc

S1 

 

129.44.2.0 

sales.doc

S2 

C1, C2, C3 

129.44.3.0 

manf.doc

S3 

C4, C5, C6 

2 つの部門からある人数の人材を借りて第 3 の部門 Test を新設し、第 3 のサブネットは開設しなかったとします。その結果この物理ネットワークは、この企業の組織とは対応しなくなってしまいます。

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Test 部門の通信には専用のサブネットがなく、129.44.2.0 と 129.44.3.0 に分割されます。しかし、ネットワーク情報サービスを使用することにより、Test 部門の通信も専用のネットワークを備えることができます。

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このように、組織が変更された場合、そのネットワーク情報サービスは単にマッピングを変更するだけで対応できます。

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こうして、クライアント C1 と C2 はサーバー S2 から、C3 と C4 はサーバー S4 から、C5 と C6 はサーバー S3 からそれぞれ情報を入手します。

この組織でこれ以降に行われる変更に対しては、ハードウェアのネットワーク構造を再編成することなく、ソフトウェアのネットワーク情報構造を変更することにより対応できます。