インターネットプロトコル (IP) の現在のバージョンでは、コンピュータがインターネットあるいはネットワークに接続する場所は固定され、その IP アドレスは接続しているネットワークを識別するものと仮定しています。データグラムは、IP アドレスに含まれる場所情報に基づいてコンピュータに送信されます。
モバイルコンピュータ、つまり「モバイルノード」が IP アドレスを変更せずに新たなネットワークに移動すると、そのアドレスは新しい接続点を反映しません。その結果、既存の経路指定プロトコルではデータグラムをモバイルノードに正しく送り届けることができません。このような場合、モバイルノードを新しい場所を表す別の IP アドレスに再構成しなければなりませんが、これは手間がかかります。このように現在のインターネットプロトコルでは、モバイルノードがアドレスを変更せずに移動すればその経路を失い、またアドレスを変更すれば今までの接続を失ってしまいます。
モバイル IP では、この問題を 2 つの IP アドレス、つまり固定の「ホームアドレス」と、各接続点で変わる「気付アドレス (care-of address)」をモバイルノードに与えることで解決します。これにより 1 つのコンピュータは同じホームアドレスを維持しながら、インターネットあるいは企業ネットワークを自由に移動することができます。その結果、ユーザーがコンピュータの接続点をインターネット上または企業ネットワーク上に変更したときにもコンピュータ動作が中断されることはありません。ネットワークはモバイルノードの新しい場所に関する情報を更新します。モバイル IP に関連する用語の定義については、「用語集」を参照してください。
図 1–1 にモバイル IP の一般的なトポロジを示します。
図 1–1 のモバイル IP トポロジを使って、データグラムがどのようにモバイル IP フレームワーク内のある点から別の点に移動するかを説明します。
インターネットホストはモバイルノードのホームアドレスを使って、データグラムをモバイルノードへ送信します (通常の IP 経路指定処理)。
モバイルノードがホームネットワーク上にある場合、データグラムは通常の IP 処理でモバイルノードに配信されます。それ以外の場合は、ホームエージェントがデータグラムを取得します。
外来エージェントはデータグラムをモバイルノードに配信します。
モバイルノードからデータグラムは、通常の IP 経路指定手順でインターネットホストへ送信されます。モバイルノードが外部ネットワーク上にある場合は、パケットは外来エージェントに配信されます。外来エージェントはデータグラムをインターネットホストに転送します。
無線通信の場合、図 1–1 では無線トランシーバを使用してデータグラムをモバイルノードに送信します。また、モバイルノードがホームまたは外部ネットワークにあるかに関わらず、インターネットホストとモバイルノード間で送受信されるすべてのデータグラムがモバイルノードのホームアドレスを使用します。その際、気付アドレスはモバイルエージェントとの通信にだけ使用され、インターネットホストが関わることはありません。