リンカーとライブラリ

ファイル形式

すでに述べたとおり、オブジェクトファイルはプログラムのリンクと実行の両方に関係します。利便性と効率性のため、オブジェクトファイルの形式には、リンクと実行の異なる要求に合わせて、2 つの平行した見方があります。図 7-1 にオブジェクトファイルの編成を示します。

図 7-1 オブジェクトファイル形式

Graphic

ELF ヘッダーはオブジェクトファイルの先頭に存在し、ファイル編成を記述する「ロードマップ」を保持します。

「セクション」は、ELF ファイル内で処理可能な最小単位 (これ以上分割できない単位) です。「セグメント」は、exec(2) または実行時リンカーでメモリーイメージに対応付けできる (mmap(2) のマニュアルページを参照) 最小単位 (これ以上分割できない単位) です。

セクションは、リンクの観点から見たオブジェクトファイルの情報 (命令、データ、シンボルテーブル、再配置情報など) の大部分を保持します。セクションに関しては、この章の前半で説明します。セグメントとプログラムの実行の観点から見たファイルの構造に関しては、この章の後半で説明します。

プログラムヘッダーテーブル (存在する場合) は、システムにプロセスイメージの作成方法を通知します。プロセスイメージの作成に使用されるファイル (実行可能ファイルと共有オブジェクト) には、プログラムヘッダーテーブルが存在しなければなりません。再配置可能オブジェクトには、プログラムヘッダーテーブルは存在する必要はありません。

セクションヘッダーテーブルには、ファイルのセクションを記述する情報が入っています。セクションヘッダーテーブルには各セクションのエントリが存在します。各エントリは、セクション名、セクションサイズなどの情報が含まれます。リンク編集で使用されるファイルには、セクションヘッダーテーブルが存在しなければなりません。他のオブジェクトファイルには、セクションヘッダーテーブルは存在してもしなくてもかまいません。


注 -

図 7-1 では ELF ヘッダの直後にプログラムヘッダーテーブルが示され、セクションヘッダーテーブルがセクションの後に続いていますが、実際のファイルは異なる場合があります。また、セクションとセグメントの順序は特に決まっていません。ELF ヘッダーの位置のみがファイル内で固定されています。


データ表現

ここで記述されているとおり、オブジェクトファイルの形式は、8 ビットバイト、32 ビットアーキテクチャ、および 64 ビットアーキテクチャを持つさまざまなプロセッサをサポートしていますが、オブジェクトファイルの形式は、より大きな (またはより小さな) アーキテクチャに拡張できることを意図しています。

したがって、オブジェクトファイルはマシンに依存しない形式になっているいくつかの制御データを表現し、その結果、オブジェクトファイルが識別でき、オブジェクトファイルの内容が共通した方法で解釈できます。オブジェクトファイルの残りのデータは、このオブジェクトファイルが作成されたマシンとは関係なく、対象となるプロセッサ用に符号化されています。

表 7-1 32 ビットデータタイプ

名前 

サイズ 

整列 

目的 

Elf32_Addr

4

4

符号なしプログラムアドレス 

Elf32_Half

2

2

符号なし、中程度の整数 

Elf32_Off

4

4

符号なしファイルオフセット 

Elf32_Sword

4

4

符号付き整数 

Elf32_Word

4

4

符号なし整数 

unsigned char

1

1

符号なし、短い整数 

表 7-2 64 ビットデータタイプ

名前 

サイズ 

整列 

目的 

Elf64_Addr

8

8

符号なしプログラムアドレス 

Elf64_Half

2

2

符号なし、中程度の整数 

Elf64_Off

8

8

符号なしファイルオフセット 

Elf64_Sword

4

4

符号付き整数 

Elf64_Word

4

4

符号なし整数 

Elf64_Xword

8

8

符号なし、長い整数 

Elf64_Sxword

8

8

符号付き、長い整数 

unsigned char

1

1

符号なし、短い整数 

オブジェクトファイルの形式で定義されるすべてのデータ構造は、該当クラスの自然なサイズと整列ガイドラインに従います。必要であれば、データ構造に明示的にパッドを入れることで、4 バイトオブジェクトに対して 4 バイト整列を保証したり構造サイズを 4 の倍数に設定したりします。また、データはファイルの先頭から適切に整列されます。したがってたとえば、Elf32_Addr 構成要素が存在する構造はファイル内において 4 バイト境界で整列され、Elf64_Addr 構成要素が存在する構造は 8 バイト境界で整列されます。


注 -

移植性を考慮して、ELF ではビットフィールドを使用していません。


ELF ヘッダー

いくつかのオブジェクトファイル制御構造は大きくなることがありまが、そのサイズは ELF ヘッダーに記録されます。オブジェクトファイルの形式が変わった場合、ELF 形式のファイルにアクセスするプログラムは、大きくなったり小さくなったりした制御構造体を扱うことになります。大きくなった場合は、追加された部分を無視することができるかもしれません。小さくなった場合は、無くなった部分の扱いは状況に依存しますし、形式が変更された時に規定されるでしょう。

ELF ヘッダーの構造体 (sys/elf.h で定義されている) は、以下のとおりです。


#define EI_NIDENT       16

typedef struct {
        unsigned char   e_ident[EI_NIDENT]; 
        Elf32_Half      e_type;
        Elf32_Half      e_machine;
        Elf32_Word      e_version;
        Elf32_Addr      e_entry;
        Elf32_Off       e_phoff;
        Elf32_Off       e_shoff;
        Elf32_Word      e_flags;
        Elf32_Half      e_ehsize;
        Elf32_Half      e_phentsize;
        Elf32_Half      e_phnum;
        Elf32_Half      e_shentsize;
        Elf32_Half      e_shnum;
        Elf32_Half      e_shstrndx;
} Elf32_Ehdr;

typedef struct {
        unsigned char   e_ident[EI_NIDENT]; 
        Elf64_Half      e_type;
        Elf64_Half      e_machine;
        Elf64_Word      e_version;
        Elf64_Addr      e_entry;
        Elf64_Off       e_phoff;
        Elf64_Off       e_shoff;
        Elf64_Word      e_flags;
        Elf64_Half      e_ehsize;
        Elf64_Half      e_phentsize;
        Elf64_Half      e_phnum;
        Elf64_Half      e_shentsize;
        Elf64_Half      e_shnum;
        Elf64_Half      e_shstrndx;
} Elf64_Ehdr;
e_ident

先頭のバイト列に、オブジェクトファイルであることを示す印と、機種に依存しない、ファイルの内容を復号化または解釈するためのデータが入ります。完全な記述は、「ELF 識別」で行われています。

e_type

この構成要素は、オブジェクトファイルの種類を示します。

表 7-3 ELF ファイル識別子

名前 

値 

意味 

ET_NONE

0

ファイルタイプが存在しない 

ET_REL

1

再配置可能ファイル 

ET_EXEC

2

実行可能ファイル 

ET_DYN

3

共有オブジェクトファイル 

ET_CORE

4

コアファイル 

ET_LOPROC

0xff00

プロセッサに固有 

ET_HIPROC

0xffff

プロセッサに固有 

コアファイルの内容は指定されていませんが、ET_CORE タイプはコアファイルを示すために予約されます。ET_LOPROC から ET_HIPROC までの値 (それぞれを含む) は、プロセッサ固有の方法で解釈されます。他の値は予約され、必要に応じて新しいオブジェクトファイルの種類に割り当てられます。

e_machine

この構成要素の値は、個々のファイルが必要とするアーキテクチャを指定します。

表 7-4 ELF 機種

名前 

値 

意味 

EM_NONE

0

マシンが存在しない 

EM_SPARC

2

SPARC  

EM_386

3

Intel 80386  

EM_SPARC32PLUS

18

Sun SPARC 32+ 

EM_SPARCV9

43

SPARC V9 

他の値は予約され、必要に応じて新しい機種に割り当てられます (sys/elf.h を参照)。プロセッサ固有の ELF 名の識別には、機種名が使用されます。たとえば、以下に述べるフラグでは接頭辞 EF_ が使用されます。EM_XYZ マシンの WIDGET というフラグは、EF_XYZ_WIDGET と呼ばれます。

e_version

この構成要素は、オブジェクトファイルのバージョンを示します。

表 7-5 ELF バージョン

名前 

値 

意味 

EV_NONE

0

無効なバージョン 

EV_CURRENT

>=1

現在のバージョン 

値 1 は最初のファイル形式を示し、拡張した場合は番号を大きくします。EV_CURRENT の値は、現在のバージョン番号を示すために必要に応じて変化します。

e_entry

この構成要素は、システムが制御を最初に渡す仮想アドレスを保持します。仮想アドレスが与えられると、プロセスが起動されます。ファイルに関連するエントリポイントが存在しない場合、この構成要素は 0 を保持します。

e_phoff

この構成要素は、プログラムヘッダーテーブルのファイルオフセット (単位 : バイト) を保持します。ファイルにプログラムヘッダーテーブルが存在しない場合、この構成要素は 0 を保持します。

e_shoff

この構成要素は、セクションヘッダーテーブルのファイルオフセット (単位 : バイト) を保持します。ファイルにセクションヘッダーテーブルが存在しない場合、この構成要素は 0 を保持します。

e_flags

この構成要素は、ファイルに対応付けられているプロセッサ固有のフラグを保持します。フラグ名は、EF_machine「_flag」という形式をとります。この構成要素は現在、SPARC と IA に対して 0 です。

表 7-6 SPARC: ELF フラグ

名前 

値 

意味 

EF_SPARCV9_MM

0x3

メモリーモデルのマスク 

EF_SPARCV9_TSO

0x0

Total Store Ordering 

EF_SPARCV9_PSO

0x1

Partial Store Ordering 

EF_SPARCV9_RMO

0x2

Relaxed Memory Ordering 

EF_SPARC_EXT_MASK

0xffff00

ベンダー拡張マスク 

EF_SPARC_SUN_US1

0x000200

Sun UltraSPARCTM 1 拡張

EF_SPARC_HAL_R1

0x000400

HAL R1 拡張 

EF_SPARC_SUN_US3

0x000800

Sun UltraSPARC 3 拡張 

e_ehsize

この構成要素は、ELF ヘッダーのサイズ (単位 : バイト) を保持します。

e_phentsize

この構成要素は、ファイルのプログラムヘッダーテーブルの 1 つのエントリのサイズ (単位 : バイト) を保持します。すべてのエントリは同じサイズです。

e_phnum

この構成要素は、プログラムヘッダーテーブルのエントリ数を保持します。したがって、e_phentsizee_phnum を掛けると、テーブルのサイズ (単位 : バイト) が求められます。ファイルにプログラムヘッダーテーブルが存在しない場合、e_phnum は値 0 を保持します。

e_shentsize

この構成要素は、1 つのセクションヘッダーのサイズ (単位 : バイト) を保持します。1 つのセクションヘッダーは、セクションヘッダーテーブルの 1 つのエントリです。すべてのエントリは同じサイズです。

e_shnum

この構成要素は、セクションヘッダーテーブルのエントリ数を保持します。したがって、e_shentsizee_shnum を掛けると、セクションヘッダーテーブルのサイズ (単位 : バイト) が求められます。ファイルにセクションヘッダーテーブルが存在しない場合、e_shnum は値 0 を保持します。

e_shstrndx

この構成要素は、セクション名文字列テーブルに対応するエントリのセクションヘッダーテーブルインデックスを保持します。ファイルにセクション名文字列テーブルが存在しない場合、この構成要素は値 SHN_UNDEF を保持します。詳細は、「セクション」「文字列テーブル」を参照してください。

ELF 識別

先に述べたとおり、ELF はオブジェクトファイルの枠組みを提供し、複数のプロセッサ、複数のデータ符号化、複数のクラスのマシンをサポートします。このオブジェクトファイルファミリをサポートできるようファイルの初期バイトは、問い合わせが行われるプロセッサに関係なくかつファイルの残りの内容にも関係なくファイルのセマンティクスを指定します。

ELF ヘッダー (とオブジェクトファイル) の初期バイトは、e_ident 構成要素に一致します。

表 7-7 e_ident[ ] 識別インデックス

名前 

値 

目的 

EI_MAG0

0

ファイルの識別 

EI_MAG1

1

ファイルの識別 

EI_MAG2

2

ファイルの識別 

EI_MAG3

3

ファイルの識別 

EI_CLASS

4

ファイルのクラス 

EI_DATA

5

データの符号化 

EI_VERSION

6

ファイルのバージョン 

EI_OSABI

7

オペレーティングシステム / ABI の識別

EI_ABIVERSION

8

ABI のバージョン

EI_PAD

7

パッドバイトの開始 

EI_NIDENT

16

e_ident[] のサイズ

次のインデックスは、マジックナンバーを保持するバイトをアクセスします。

EI_MAG0 - EI_MAG3

ファイルの先頭 4 バイトは、ファイルを ELF オブジェクトファイルとして識別する「マジックナンバー」を保持します。

表 7-8 マジックナンバー

名前 

値 

位置 

ELFMAG0

0x7f

e_ident[EI_MAG0]

ELFMAG1

'E'

e_ident[EI_MAG1]

ELFMAG2

'L'

e_ident[EI_MAG2]

ELFMAG3

'F'

e_ident[EI_MAG3]

EI_CLASS

その次のバイト e_ident[EI_CLASS] は、ファイルのクラスまたは容量を示します。

表 7-9 ファイルクラス

名前 

値 

意味 

ELFCLASSNONE

0

無効なクラス 

ELFCLASS32

1

32 ビットオブジェクト 

ELFCLASS64

2

64 ビットオブジェクト 

ファイル形式は、最大マシンのサイズを最小マシンに押しつけることなしにさまざまなサイズのマシン間で互換性が維持されるように設計されています。ファイルのクラスは、オブジェクトファイルそのもののデータ構造によって使用される基本タイプを定義します。

クラス ELFCLASS32 は、4 ギガバイトまでのファイルと仮想アドレス空間が存在するマシンをサポートします。これは、表 7-1 で定義される基本タイプを使用します。

クラス ELFCLASS64 は、SPARC などの 64 ビットアーキテクチャ用に予約されています。これは、表 7-2 で定義される基本タイプを使用します。

EI_DATA

バイト e_ident[EI_DATA] は、オブジェクトファイルのプロセッサ固有のデータの符号化を指定します。現在、以下の符号化が定義されています。

表 7-10 データの符号化

名前 

値 

意味 

ELFDATANONE

0

無効な符号化 

ELFDATA2LSB

1

図 7-2 を参照

ELFDATA2MSB

2

図 7-3 を参照

これらの符号化の詳細を以下に示します。他の値は予約され、必要に応じて新しい符号化に割り当てられます。

EI_VERSION

バイト e_ident[EI_VERSION] は、ELF ヘッダーバージョン番号を指定します。現在この値は、e_version表 7-5 で説明しているように、EV_CURRENT でなければなりません。

EI_OSABI

バイト e_ident[EI_OSABI] は、オブジェクトのターゲット先となるオペレーティングシステムおよび ABI を識別します。他の ELF 構造体内のフィールドの中には、オペレーティンシステム特有か ABI 特有の意味、あるいはその両方に特有の意味を持つフラグおよび値を持つものがあります。これらのフィールドの解釈は、このバイトの値によって決定されます。

EI_ABIVERSION

バイト e_ident[EI_ABIVERSION] は、オブジェクトのターゲット先となる ABI のバージョンを識別します。このフィールドは、ABI の互換性の無いバージョンを識別するために使用します。このバージョン番号の解釈は、EI_OSABI フィールドで識別される ABI によって異なります。プロセッサについて EI_OSABI フィールドに値が何も指定されていない場合、または EI_OSABI バイトの特定の値によって決定される ABI についてバージョンの値が何も指定されていない場合は、「指定無し」を示すものとして値 0 が使用されます。

EI_PAD

この値は、e_ident の使用されていないバイトの先頭を示します。これらのバイトは保留され、0 に設定されます。オブジェクトファイルを読み取るプログラムは、これらのバイトを無視するべきです。使用されていないバイト列が使用されるようになった場合、EI_PAD の値は変更されます。

ファイルのデータ符号化方式は、ファイル内の基本オブジェクトを解釈する方法を指定します。クラス ELFCLASS32 のファイルは、1、2、および 4 バイトを占めるオブジェクトを使用します。クラス ELFCLASS64 のファイルは、1、2、4、および 8 バイトを占めるオブジェクトを使用します。定義されている符号化方式の下では、オブジェクトは以下のように表されます。バイト番号は、左上隅に示されています。

ELFDATA2LSB を符号化すると、最下位バイトが最低位アドレスを占める 2 の補数値が指定されます。

図 7-2 データの符号化方法 ELFDATA2LSB

Graphic

ELFDATA2MSB を符号化すると、最上位バイトが最低位アドレスを占める 2 の補数値が指定されます。

図 7-3 データの符号化方法 ELFDATA2MSB

Graphic

セクション

オブジェクトファイルのセクションヘッダーテーブルを使用すると、すべてのファイルのセクションを見つけ出すことができます。セクションヘッダーテーブルは、以下に示されているとおり、Elf32_Shdr 構造体または Elf64_Shdr 構造体の配列です。セクションヘッダーテーブルインデックスは、この配列への添字です。ELF ヘッダーの e_shoff 構成要素は、ファイルの先頭からセクションヘッダーテーブルまでのバイトオフセットを与えます。e_shnum は、セクションヘッダーテーブルに存在するエントリ数を与えます。e_shentsize は、各エントリのサイズ (単位: バイト) を与えます。

いくつかのセクションヘッダーテーブルインデックスは予約されます。オブジェクトファイルには、これらの特殊インデックスのセクションは存在しません。

表 7-11 セクションの特殊インデックス

名前 

値 

SHN_UNDEF

0

SHN_LORESERVE

0xff00

SHN_LOPROC

0xff00

SHN_BEFORE

0xff00

SHN_AFTER

0xff01

SHN_HIPROC

0xff1f

SHN_ABS

0xfff1

SHN_COMMON

0xfff2

SHN_HIRESERVE

0xffff

SHN_UNDEF

この値は、未定義の、失われた、関連のない、または無意味なセクション参照を示します。たとえば、セクション番号 SHN_UNDEF に関して「定義された」シンボルは、未定義シンボルです。


注 -

インデックス 0 は未定義値として予約されますが、セクションヘッダーテーブルにはインデックス 0 のエントリが存在します。つまり、ELF ヘッダーの e_shnum 構成要素が、ファイルのセクションヘッダーテーブルに 6 つのエントリが存在することを示している場合、これら 6 つのエントリにはインデックス 0 から 5 までが与えられます。先頭のエントリの内容は、この項の末尾に記述します。


SHN_LORESERVE

この値は、予約されているインデックスの範囲の下限を指定します。

SHN_LOPROC - SHN_HIPROC

この範囲の値は、プロセッサ固有の使用方法に予約されます。

SHN_BEFORE, SHN_AFTER

これらの値は、SHF_LINK_ORDER および SHF_ORDERED セクションフラグと共に先頭および末尾セクションに順序付けを行います (表 7-14 を参照)。

SHN_ABS

この値は、対応する参照の絶対値を示します。たとえば、セクション番号 SHN_ABS からの相対で定義されたシンボルは絶対値をとり、再配置の影響を受けません。

SHN_COMMON

このセクションに関して定義されたシンボルは、共通シンボルです。たとえば、FORTRAN COMMON や割り当てられていない C 外部変数です。これらのシンボルは、ときどき一時的シンボルと呼ばれることもあります。

SHN_HIRESERVE

この値は、予約されているインデックスの範囲の上限を指定します。システムは、SHN_LORESERVE から SHN_HIRESERVE までのインデックスを予約します。値は、セクションヘッダーテーブルを参照しません。つまり、セクションヘッダーテーブルには予約されているインデックスのエントリは存在しません。

セクションには、ELF ヘッダー、プログラムヘッダーテーブル、セクションヘッダーテーブルを除く、オブジェクトファイルのすべての情報が存在します。また、オブジェクトファイルのセクションは以下の条件を満たします。

セクションヘッダーの構造体 (sys/elf.h で定義されている) は、次のとおりです。


typedef struct {
        Elf32_Word      sh_name;
        Elf32_Word      sh_type;
        Elf32_Word      sh_flags;
        Elf32_Addr      sh_addr;
        Elf32_Off       sh_offset;
        Elf32_Word      sh_size;
        Elf32_Word      sh_link;
        Elf32_Word      sh_info;
        Elf32_Word      sh_addralign;
        Elf32_Word      sh_entsize;
} Elf32_Shdr;

typedef struct {
        Elf64_Word      sh_name;
        Elf64_Word      sh_type;
        Elf64_Xword     sh_flags;
        Elf64_Addr      sh_addr;
        Elf64_Off       sh_offset;
        Elf64_Xword     sh_size;
        Elf64_Word      sh_link;
        Elf64_Word      sh_info;
        Elf64_Xword     sh_addralign;
        Elf64_Xword     sh_entsize;
} Elf64_Shdr;
sh_name

この構成要素は、セクション名を指定します。値はセクションヘッダーの文字列テーブルセクション (「文字列テーブル」を参照) へのインデックスで、空文字で終わっている文字列を示します。セクション名とその説明は、表 7-17 を参照してください。

sh_type

この構成要素は、セクションの内容と意味を分類します。セクションの種類とその説明は、表 7-12 を参照してください。

sh_flags

セクションは、さまざまな属性を記述する 1 ビットフラグをサポートします。フラグの定義は、表 7-14 を参照してください。

sh_addr

セクションがプロセスのメモリーイメージに現れる場合、この構成要素はセクションの先頭バイトが存在しなければならないアドレスを与えます。セクションがプロセスのメモリーイメージに現れない場合、この構成要素には 0 が存在します。

sh_offset

この構成要素は、ファイルの先頭からセクションの先頭バイトまでのバイトオフセットを与えます。以下に説明されている SHT_NOBITS 型のセクションは、ファイルのスペースを占めません。sh_offset 構成要素は、ファイル内の概念上の位置を示します。

sh_size

この構成要素は、セクションのサイズ (単位: バイト) を与えます。セクションの型が SHT_NOBITS でない限り、セクションはファイルの sh_size バイトを占めます。タイプが SHT_NOBITS のセクションは、0 以外のサイズをとることがありますが、ファイルのスペースは占めません。

sh_link

この構成要素は、セクションヘッダーテーブルインデックスリンクを保持します。このリンクの解釈は、セクションの型に依存します。値は、表 7-15 を参照してください。

sh_info

この構成要素は、追加的な情報を保持します。追加的な情報の解釈は、セクションの型に依存します。値は、表 7-15 を参照してください。

sh_addralign

いくつかのセクションには、アドレス整列制約が存在します。たとえば、あるセクションが 2 語で構成されるデータを保持している場合、システムはそのセクション全体に対して 2 語単位の整列を保証しなければなりません。つまり、sh_addr の値は、sh_addralign の値を法として 0 でなければなりません。現在、0、および 2 の非負整数累乗のみが許可されています。値 0 と 1 は、セクションに整列制約が存在しないことを意味します。

sh_entsize

いくつかのセクションは、サイズが一定のエントリのテーブル (シンボルテーブルなど) を保持します。このようなセクションに対してこの構成要素は、各エントリのサイズ (単位: バイト) を与えます。サイズが一定のエントリのテーブルをセクションが保持しない場合、この構成要素には 0 が格納されます。

セクションヘッダーの sh_type 構成要素は、表 7-12 に示すようにこのセクションの意味を指定します。

表 7-12 sh_type が保持するセクションの型

名前 

値 

SHT_NULL

0

SHT_PROGBITS

1

SHT_SYMTAB

2

SHT_STRTAB

3

SHT_RELA

4

SHT_HASH

5

SHT_DYNAMIC

6

SHT_NOTE

7

SHT_NOBITS

8

SHT_REL

9

SHT_SHLIB

10

SHT_DYNSYM

11

SHT_SUNW_move

0x6ffffffa

SHT_SUNW_COMDAT

0x6ffffffb

SHT_SUNW_syminfo

0x6ffffffc

SHT_SUNW_verdef

0x6ffffffd

SHT_SUNW_verneed

0x6ffffffe

SHT_SUNW_versym

0x6fffffff

SHT_LOPROC

0x70000000

SHT_HIPROC

0x7fffffff

SHT_LOUSER

0x80000000

SHT_HIUSER

0xffffffff

SHT_NULL

この値は、該当セクションヘッダーが使用されないものであることを示します。このセクションには、関連付けられているセクションは存在しません。セクションヘッダーの他の構成要素の値は不定です。

SHT_PROGBITS

このセクションは、プログラムで定義された情報を保持します。プログラムの形式と意味は、プログラムが独自に決定します。

SHT_SYMTAB, SHT_DYNSYM

これらのセクションは、シンボルテーブルを保持します。一般に、SHT_SYMTAB セクションはリンク編集に関するシンボルを与えます。このセクションには完全なシンボルテーブルとして、動的リンクに不要な多くのシンボルが存在することがあります。また、オブジェクトファイルには SHT_DYNSYM セクション (動的リンクシンボルの最小セットを保持して領域を節約している) が存在することがあります。詳細は、「シンボルテーブル」を参照してください。

SHT_STRTAB, SHT_DYNSTR

これらのセクションは、文字列テーブルを保持します。オブジェクトファイルには、複数の文字列テーブルセクションが存在できます。詳細は、「文字列テーブル」を参照してください。

SHT_RELA

このセクションは、明示的加数が存在する再配置エントリ (32 ビットクラスのオブジェクトファイルの Elf32_Rela タイプなど) を保持します。オブジェクトファイルには、複数の再配置セクションが存在できます。詳細は、「再配置」を参照してください。

SHT_HASH

このセクションは、シンボルハッシュテーブルを保持します。動的にリンクされたすべてのオブジェクトファイルには、シンボルハッシュテーブルが存在しなければなりません。現在、オブジェクトファイルにはハッシュテーブルは 1 つしか存在できませんが、この制約は将来、緩和されるかもしれません。詳細は、「ハッシュテーブル」を参照してください。

SHT_DYNAMIC

このセクションは、動的リンクに関する情報を保持します。現在、オブジェクトファイルには動的リンクのセクションは 1 つしか存在できませんが、この制約は将来、緩和されるかもしれません。詳細は、「動的セクション」を参照してください。

SHT_NOTE

このセクションは、何らかの方法でファイルを示す情報を保持します。詳細は、「注釈セクション」を参照してください。

SHT_NOBITS

この型のセクションはファイルの領域を占めませんが、他の点では SHT_PROGBITS に類似しています。このセクションにはデータは存在しませんが、sh_offset 構成要素には概念上のファイルオフセットが存在します。

SHT_REL

このセクションは、明示的加数が存在しない再配置エントリ (32 ビットクラスのオブジェクトファイルの Elf32_Rel 型など) を保持します。オブジェクトファイルには、複数の再配置セクションが存在できます。詳細は、「再配置」を参照してください。

SHT_SHLIB

このセクション型は予約されていますが、解釈の方法は定義されていません。この型のセクションが存在するプログラムは、ABI に準拠しません。

SHT_SUNW_COMDAT

このセクションには、部分的に初期化されたシンボルを扱うデータが存在します。詳細は、「Comdat セクション」を参照してください。

SHT_SUNW_move

このセクションには、部分的に初期化されたシンボルを扱うデータが存在します。詳細は、「移動セクション」を参照してください。

SHT_SUNW_syminfo

このセクションには、追加シンボル情報を保持するテーブルが存在します。詳細は、「移動セクション」を参照してください。

SHT_SUNW_verdef

このセクションには、このファイルで定義されているきめの細かいバージョンの定義が存在します。詳細は、「バージョン定義セクション」を参照してください。

SHT_SUNW_verneed

このセクションには、イメージの実行に必要なきめの細かい依存性の記述が存在します。詳細は、「バージョン依存セクション」を参照してください。

SHT_SUNW_versym

このセクションには、シンボルとバージョン定義 (ファイルが与える) の関係を記述するテーブルが存在します。詳細は、「バージョンシンボルセクション」を参照してください。

SHT_LOPROC - SHT_HIPROC

この範囲の値は、プロセッサ固有な使用方法用に予約されます。

SHT_LOUSER

この値は、アプリケーションプログラムに対して予約されるインデックスの範囲の下限を示します。

SHT_HIUSER

この値は、アプリケーションプログラムに対して予約されるインデックスの範囲の上限を示します。SHT_LOUSER から SHT_HIUSER までのセクション型は、現在の、または将来のシステム定義セクション型と競合することなくアプリケーションで使用できます。

他のセクション型の値は、保留されています。先に述べたとおり、インデックス 0 (SHN_UNDEF) のセクションヘッダーは存在します (このインデックスが未定義セクション参照を示してもです)。その値は表 7-13 の通りです。

表 7-13 セクションヘッダーのテーブルエントリ: インデックス 0

名前 

値 

注意 

sh_name

0

名前が存在しない 

sh_type

SHT_NULL

使用されない 

sh_flags

0

フラグが存在しない 

sh_addr

0

アドレスが存在しない 

sh_offset

0

ファイルオフセットが存在しない 

sh_size

0

サイズが存在しない 

sh_link

SHN_UNDEF

リンク情報が存在しない 

sh_info

0

補助情報が存在しない 

sh_addralign

0

整列が存在しない 

sh_entsize

0

エントリが存在しない 

セクションヘッダーの sh_flags 構成要素は、セクションの属性を記述する 1 ビットフラグを保持します。

表 7-14 セクションの属性のフラグ

名前 

値 

SHF_WRITE

0x1

SHF_ALLOC

0x2

SHF_EXECINSTR

0x4

SHF_MERGE

0x10

SHF_STRINGS

0x20

SHF_INFO_LINK

0x40

SHF_LINK_ORDER

0x80

SHF_OS_NONCONFORMING

0x100

SHF_GROUP

0x200

SHF_MASKOS

0x0ff00000

SHF_ORDERED

0x40000000

SHF_EXCLUDE

0x80000000

SHF_MASKPROC

0xf0000000

sh_flags にフラグビットが設定されると、属性がセクションに対して「オン」になります。設定されない場合は、属性が「オフ」になるか、または適用されません。定義されていない属性は保留され、0 に設定されています。

SHF_WRITE

このセクションには、プロセス実行時に書き込み可能でなければならないデータが存在します。

SHF_ALLOC

このセクションは、プロセス実行時にメモリーを占めます。いくつかの制御セクションは、オブジェクトファイルのメモリーイメージに存在しません。この属性は、これらのセクションに対してオフです。

SHF_EXECINSTR

このセクションには、実行可能なマシン命令が存在します。

SHF_MERGE

このセクション内のデータは、重複を避けるためにマージすることができます。同時に SHF_STRINGS フラグが設定されていない限り、このセクション内のデータ要素は統一されたサイズになります。各要素のサイズは、セクションヘッダーの sh_entsize フィールドで指定されます。同時に SHF_STRINGS フラグも設定されいる場合は、データ要素は NUILL で終わる文字列で構成されています。各文字のサイズは、セクションヘッダーの sh_entsize フィールドで指定されます。

SHF_STRINGS

このセクション内のデータ要素が、NUILL で終わる文字列で構成されています。各文字のサイズは、セクションヘッダーの sh_entsize フィールドで指定されます。

SHF_INFO_LINK

このセクションヘッダーの sh_info フィールドは、セクションヘッダーのテーブルインデックスを保持します。

SHF_LINK_ORDER

このフラグは、リンカーに特別な順序の要求を追加します。この要求は、このセクションのヘッダーの sh_link フィールドが別のセクション (リンク先のセクション) を参照する場合に適用されます。このセクションが出力ファイル内の他のセクションと結合される場合には、これらのセクションに関しては、同じ相対的な順序で現われます。すなわち、リンクされるセクションは、それが結合されるセクションに現われます。

sh_info の特殊値である SHN_BEFORE および SHN_AFTER (表 7-11 を参照) は、順序付けされるセット内の他のすべてのセクションに対して、ソートされたセクションがそれぞれ前に付くまたは後に付くことを示します。入力ファイルのリンク行の順序は、1 つの順序付けセット内の複数のセクションがこれらの特殊値のいずれかを持つ場合のために、予約されています。

このフラグを使用する場合の典型的なものとして、アドレスの順序でテキストまたはデータセクションを参照するテーブルを構築する場合があります。

SHF_OS_NONCONFORMING

このセクションは、正しくない動作を避けるために、特別な OS 固有の処理 (標準のリンク処理規則の範囲を越えるもの) を必要とするものです。このセクションが、これらのフィールドに対して sh_type 値を持つか、OS 固有の範囲内にある sh_flags ビットを含み、かつリンカーがこれらの値を認識しない場合は、リンカーはこのセクションを含むオブジェクトファイルを拒否し、エラーを出します。

SHF_GROUP

このセクションは、1 つのセクショングループの (おそらく唯一の) 構成要素です。このセクションは、タイプ SHT_GROUP のセクションに参照されなければなりません。SHF_GROUP フラグは、再配置可能オブジェクト (ET_REL に設定された ELF ヘッダーの e_type 構成要素を持つオブジェクト) に含まれたセクションに対してのみ設定することができます。詳細は、「セクショングループ」 を参照してください。

SHF_MASKOS

このマスクに含まれるすべてのビットは、オペレーティングシステム特有のセマンティクス (意味的用途) のために予約されています。

SHF_ORDERED

このセクションは、同じ型の他のセクションと順序付けられます。順序付けられるセクションは、sh_link エントリでポイントされるセクション内で結合されます。順序付けられるセクションの sh_link エントリは、自身を指し示すことがあります。

順序付けられるセクションの sh_info エントリが同一入力ファイル内の有効セクションの場合、順序付けられるセクションは、sh_info エントリでポイントされるセクションの出力ファイル内の相対順序付けに基づいて整列されます。

特殊な sh_info 値である SHN_BEFORE または SHN_AFTER (表 7-11 を参照) は、整列対象セクションが順序付け対象となる他のすべてのセクションの前または後に存在することを意味します。順序付けの対象となるセクションの複数にこれらの特殊値の 1 つが存在する場合、入力ファイルが指定された順序は保存されます。

sh_info 順序付け情報が存在しない場合、出力ファイルの 1 つのセクション内で結合される 1 つの入力ファイルからのセクションは連続的になり、入力ファイル内の相対順序付けと同じ相対順序付けになります。複数の入力ファイルからの場合は、リンクコマンドで指定された順序になります。

SHF_EXCLUDE

このセクションは、実行可能オブジェクトまたは共有オブジェクトのリンク編集への入力から除かれます。このフラグは、SHF_ALLOC フラグが設定されている場合、またはセクションに対する参照が存在する場合、無視されます。

SHF_MASKPROC

このマスクに存在するすべてのビットは、プロセッサ固有な使用方法に予約されます。

セクションヘッダーの 2 つの構成要素 sh_linksh_info は、セクション型に従って特殊な情報を保持します。

表 7-15 sh_linksh_info の解釈

sh_type

sh_link

sh_info

SHT_DYNAMIC

関連付けられている文字列テーブルのセクションヘッダーインデックス 

0

SHT_HASH

関連付けられているシンボルテーブルのセクションヘッダーインデックス 

0

SHT_REL

SHT_RELA

関連付けられているシンボルテーブルのセクションヘッダーインデックス 

再配置が適用されるセクションのセクションヘッダーインデックス。表 7-17 も参照

SHT_SYMTAB

SHT_DYNSYM

関連付けられている文字列テーブルのセクションヘッダーインデックス 

最後のローカルシンボルのシンボルテーブルインデックスより 1 大きい (STB_LOCAL に対応する)

SHT_GROUP

関連付けられているシンボルテーブルのセクションヘッダーインデックス 

関連付けられているシンボルテーブル内のエントリの、シンボルテーブルインデックス。指定されたシンボルテーブルエントリの名前は、そのセクショングループのシグニチャを提供する 

SHT_SUNW_move

関連付けられているシンボルテーブルのセクションヘッダーインデックス

0

SHT_SUNW_COMDAT

0

0

SHT_SUNW_syminfo

関連付けられているシンボルテーブルのセクションヘッダーインデックス 

関連付けられている .dynamic セクションのセクションヘッダーインデックス

SHT_SUNW_verdef

関連付けられている文字列テーブルのセクションヘッダーインデックス 

セクション内のバージョン定義数 

SHT_SUNW_verneed

関連付けられている文字列テーブルのセクションヘッダーインデックス 

セクション内のバージョン依存数 

SHT_SUNW_versym

関連付けられているシンボルテーブルのセクションヘッダーインデックス 

0

セクショングループ

セクションの中には、相互関連のあるグループがあるものがあります。たとえば、インライン関数の out-of-line 定義では、実行可能命令を含むセクションに加えて、参照定数を含む読み取り専用のデータセクション、1 つまたは複数のデバッギング情報セクション、およびその他の情報セクションを必要とする場合があります。さらに、これらのセクションの中には、セクションのうちの 1 つが削除されたり他のオブジェクトからの重複によって置き換えられたりすると意味を成さない内部参照がある可能性があります。そのため、これらのグループは、リンクされるオブジェクトに含めるまたはそこから削除する場合は、1 つのユニットとして扱う必要があります。

タイプ SHT_GROUP のセクションは、そういったセクションのグループ化を定義します。含んでいるオブジェクトのシンボルテーブルのうちの 1 つからのシンボル名が、そのセクショングループについてのシグニチャを提供します。SHT_GROUP セクションのセクションヘッダーが、上記のように識別シンボルエントリを指定します。sh_link 構成要素はそのエントリを含むシンボルテーブルセクションのセクションヘッダーインデックスを含み、sh_info 構成要素はその識別エントリのシンボルテーブルインデックスを含みます。そのセクションヘッダーの sh_flags 構成要素は、0 を含みます。そのセクションの名前 (sh_name) は指定されません。

SHT_GROUP セクションのセクションデータは、Elf32_Word エントリの配列です。最初のエントリは、フラグです。残りのエントリは、セクションヘッダーのインデックスのシーケンスです。

現在、以下のフラグが定義されています。

表 7-16 セクショングループのフラグ

名前 

値 

GRP_COMDAT

0x1

GRP_COMDAT

COMDAT グループであることを示します。これは、同じグループシグニチャを持つものとして重複が定義されている場合には、他のオブジェクトファイル内の他の COMDAT グループと重複する可能性があります。その場合には、重複グループのうち 1 つのみがリンカーによって保持され、残りのグループの構成要素は破棄されます。

SHT_GROUP セクション内のセクションヘッダーインデックスは、そのグループを構成するセクションを識別します。それらの各セクションは、SHF_GROUP フラグを sh_flags セクションヘッダー構成要素内に設定していなければなりません。リンカーがそのセクショングループを削除することを決めた場合、リンカーはそのグループのすべての構成要素を削除します。

未決定の参照を残すことなく、シンボルテーブルの処理を最小限にしてグループの削除を行うには、次の規則に従う必要があります。

特殊セクション

さまざまなセクションがプログラム情報と制御情報を保持します。以下の一覧表に示されているセクションはシステムで使用されますが、これらのセクションには一覧表で示されている型と属性が存在します。

表 7-17 特殊セクション

名前 

型 

属性 

.bss

SHT_NOBITS

SHF_ALLOC + SHF_WRITE

.comment

SHT_PROGBITS

なし 

.data

SHT_PROGBITS

SHF_ALLOC + SHF_WRITE

.data1

SHT_PROGBITS

SHF_ALLOC + SHF_WRITE

.dynamic

SHT_DYNAMIC

SHF_ALLOC + SHF_WRITE

.dynstr

SHT_STRTAB

SHF_ALLOC

.dynsym

SHT_DYNSYM

SHF_ALLOC

.fini

SHT_PROGBITS

SHF_ALLOC + SHF_EXECINSTR

.fini_array

SHT_FINI_ARRAY

SHF_ALLOC + SHF_WRITE

.got

SHT_PROGBITS

「大域オフセットテーブル (プロセッサ固有)」を参照

.hash

SHT_HASH

SHF_ALLOC

.init

SHT_PROGBITS

SHF_ALLOC + SHF_EXECINSTR

.init_array

SHT_INIT_ARRAY

SHF_ALLOC + SHF_WRITE

.interp

SHT_PROGBITS

「プログラムインタプリタ」を参照

.note

SHT_NOTE

なし 

.plt

SHT_PROGBITS

「プロシージャのリンクテーブル (プロセッサ固有)」を参照

.preinit_array

SHT_PREINIT_ARRAY

SHF_ALLOC + SHF_WRITE

.rela

SHT_RELA

なし 

.relname

SHT_REL

「再配置」を参照

.relaname

SHT_RELA

「再配置」を参照

.rodata

SHT_PROGBITS

SHF_ALLOC

.rodata1

SHT_PROGBITS

SHF_ALLOC

.shstrtab

SHT_STRTAB

なし 

.strtab

SHT_STRTAB

後続の .strtab 記述を参照

.symtab

SHT_SYMTAB

「シンボルテーブル」を参照

.text

SHT_PROGBITS

SHF_ALLOC + SHF_EXECINSTR

.SUNW_bss

SHT_NOBITS

SHF_ALLOC + SHF_WRITE

.SUNW_heap

SHT_PROGBITS

SHF_ALLOC + SHF_WRITE

.SUNW_move

SHT_SUNW_move

SHF_ALLOC

.SUNW_reloc

SHT_rel

SHT_rela

SHF_ALLOC

.SUNW_syminfo

SHT_SUNW_syminfo

SHF_ALLOC

.SUNW_version

SHT_SUNW_verdef

SHT_SUNW_verneed

SHT_SUNW_versym

SHF_ALLOC

.bss

このセクションは、プログラムのメモリーイメージで使用される初期化されていないデータを保持します。システムは、プログラムが実行を開始すると 0 でデータを初期化することになっています。このセクションは、セクション型 SHT_NOBITS で示されているとおり、ファイルスペースを占めません。

.comment

このセクションは、コメント情報を保持し、このセクションはコメント情報を保持し、通常、コンパイルシステムのコンポーネントが使用します。このセクションは mcs(1) によって操作できます。

.data.data1

これらのセクションは、プログラムのメモリーイメージに使用される初期化されているデータを保持します。

.dynamic

このセクションは、動的リンク情報を保持します。詳細は、「動的セクション」を参照してください。

.dynstr

このセクションは、動的リンクに必要な文字列 (最も一般的には、シンボルテーブルエントリに関連付けられている名前を表す文字列) を保持します。

.dynsym

このセクションは、動的リンクシンボルテーブルを保持します。詳細は、「シンボルテーブル」を参照してください。

.fini

このセクションは、プロセス終了時に使用される実行可能命令を保持します。つまり、プログラムが正常終了すると、システムはこのセクションの命令を実行できるようにします。詳細は、「初期設定および終了ルーチン」を参照してください。

.fini_array

このセクションは、そのセクションを含む実行可能ファイルまたは共有オブジェクトの単一の終了配列に使用される関数ポインタの配列を保持します。詳細は、「初期設定および終了ルーチン」を参照してください。

.got

このセクションは、大域オフセットテーブルを保持します。詳細は、「大域オフセットテーブル (プロセッサ固有)」を参照してください。

.hash

このセクションは、シンボルハッシュテーブルを保持します。詳細は、「ハッシュテーブル」を参照してください。

.init

このセクションは、プロセス初期化時に使用される実行可能命令を保持します。つまり、プログラムが実行を開始すると、システムはプログラムエントリポイントを呼び出す前にこのセクションの命令を実行できるようにします。詳細は、「初期設定および終了ルーチン」を参照してください。

.init_array

このセクションは、そのセクションを含む実行可能ファイルまたは共有オブジェクトの単一の初期設定配列に使用される関数ポインタの配列を保持します。詳細は、「初期設定および終了ルーチン」を参照してください。

.interp

このセクションは、プログラムインタプリタのパス名を保持します。詳細は、「プログラムインタプリタ」を参照してください。

.note

このセクションは、「注釈セクション」に記述されている形式で情報を保持します。

.plt

このセクションは、プロシージャのリンクテーブルを保持します。詳細は、「プロシージャのリンクテーブル (プロセッサ固有)」を参照してください。

.preinit_array

このセクションは、そのセクションを含む実行可能ファイルまたは共有オブジェクトの単一の初期設定前の配列に使用される関数ポインタの配列を保持します。詳細は、「初期設定および終了ルーチン」 を参照してください。

.rela

このセクションは、特定のセクションに適用されないレジスタ再配置情報を保持します。このセクションの用途の 1 つは、レジスタの再配置です。詳細は、「レジスタシンボル」を参照してください。

.relname.relaname

これらのセクションは、再配置情報 (「再配置」に記述されている) を保持します。再配置が存在する読み込み可能セグメントがファイルに存在する場合、これらのセクションの属性として SHF_ALLOC ビットがオンになります。そうでない場合、このビットはオフになります。慣例により、name は再配置が適用されるセクションの名前になります。したがって、.text の再配置セクションには、通常 .rel.text または .rela.text という名前が存在します。

.rodata.rodata1

これらのセクションは、読み取り専用データを保持します。このデータは、通常はプロセスイメージの書き込み不可セグメントに使用されます。詳細は、「プログラムヘッダー」を参照してください。

.shstrtab

このセクションは、セクション名を保持します。

.strtab

このセクションは、文字列 (最も一般的には、シンボルテーブルエントリに関連付けられている名前を表す文字列) を保持します。シンボル文字列テーブルが存在する読み込み可能セグメントがファイルに存在する場合、セクションの属性として SHF_ALLOC ビットがオンになります。そうでない場合、このビットはオフになります。

.symtab

このセクションは、「シンボルテーブル」に記述しているとおり、シンボルテーブルを保持します。シンボルテーブルが存在する読み込み可能セグメントがファイルに存在する場合、セクションの属性として SHF_ALLOC ビットがオンになります。そうでない場合、このビットはオフになります。

.text

このセクションは、プログラムの「テキスト」すなわち実行可能命令を保持します。

.SUNW_bss

このセクションは、プログラムのメモリーイメージで使用される、共有オブジェクトの部分的に初期化されたデータを保持します。データは実行時に初期化されます。このセクションは、セクション型 SHT_NOBITS で示しているとおり、ファイル領域を占めません。

.SUNW_heap

このセクションは、dldump(3DL) によって作成される動的実行可能ファイルのデータ領域 (ヒープ) を保持します。

.SUNW_move

このセクションは、部分的に初期化されたデータに関する追加情報を保持します。「移動セクション」を参照してください。

.SUNW_reloc

このセクションは、「再配置」で記述しているとおり、再配置情報を保持します。このセクションは再配置セクションが連結されたものであり、個々の再配置レコードに対するより良い参照のローカル性 (局所性) を与えます。再配置レコード自身のオフセットのみが意味があり、したがってセクション sh_info の値は 0 です。

.SUNW_syminfo

このセクションは、シンボルテーブルの追加情報を保持します。詳細は、「Syminfo テーブル」を参照してください。

.SUNW_version

この名前を持つセクションは、バージョン情報を保持します。詳細は、「バージョン情報」を参照してください。

ドット (.) 接頭辞付きのセクション名はシステムにおいて予約されています。これらのセクションの既存の意味が満足できるものであれば、アプリケーションはこれらのセクションを使用できます。アプリケーションは、ドット (.) 接頭辞なしの名前を使用して、システムで予約されたセクションとの競合を回避することができます。オブジェクトファイル形式では、上記リストに記載されていないセクションが定義できます。オブジェクトファイルには、同じ名前を持つ複数のセクションが存在できます。

プロセッサアーキテクチャに対して予約されるセクション名は、アーキテクチャ名の省略形をセクション名の前に入れることで作成されます。セクション名の前に、e_machine に対して使用されるアーキテクチャ名を入れる必要があります。たとえば、.Foo.psect は、FOO アーキテクチャで定義される psect セクションです。

既存の拡張セクションは、従来から使用されている名前をそのまま使用しています。

既存の拡張セクション

.conflict

.liblist

.lit8

.sdata

.debug

.line

.reginfo

.stab

.gptab

.lit4

.sbss

.tdesc

文字列テーブル

文字列テーブルセクションは、空文字で終了する一連の文字 (一般に文字列と呼ばれている) を保持します。オブジェクトファイルは、これらの文字列を使用してシンボルとセクション名を表します。文字列は、文字列テーブルセクションへのインデックスとして参照されます。

先頭バイト (インデックス 0) は、空文字を保持します。同様に、文字列テーブルの最後のバイトは、空文字を保持します。したがって、すべての文字列は確実に空文字で終了します。インデックスが 0 の文字列は、名前を指定しないか空文字の名前を指定します (状況に依存する)。

空の文字列テーブルセクションが許可されており、このセクションのセクションヘッダーの sh_size 構成要素に 0 が入ります。0 以外のインデックスは、空の文字列テーブルに対して無効です。

セクションヘッダーの sh_name 構成要素は、ELF ヘッダーの e_shstrndx 構成要素で示されているとおり、セクションヘッダー文字列テーブルセクションへのインデックスを保持します。図 7-4 は、25 バイトの文字列テーブルと、さまざまなインデックスに関連付けられている文字列を示しています。

図 7-4 文字列テーブル

Graphic

表 7-18 は、上に示した文字列テーブルの文字列を示しています。

表 7-18 文字列テーブルインデックス

インデックス 

文字列 

0

なし 

1

name

7

Variable

11

able

16

able

24

空文字列 

例で示しているとおり、文字列テーブルインデックスはセクションのすべてのバイトを参照できます。文字列は 2 回以上現れることができ、部分文字列に対する参照は存在でき、単一文字列は複数回参照できます。参照されない文字列も許可されます。

シンボルテーブル

オブジェクトファイルのシンボルテーブルは、プログラムのシンボル定義または参照の探索と再配置に必要な情報を保持します。シンボルテーブルインデックスは、この配列への添字です。インデックス 0 はシンボルテーブルの先頭エントリを指定し、また未定義シンボルインデックスとして機能します。先頭エントリの内容は、このセクションの後の方で記述します。

表 7-19 シンボルテーブルの先頭エントリ

名前 

値 

STN_UNDEF

0

シンボルテーブルエントリの形式 (sys/elf.h で定義されている) は、次のとおりです。


typedef struct {
        Elf32_Word      st_name;
        Elf32_Addr      st_value;
        Elf32_Word      st_size;
        unsigned char   st_info;
        unsigned char   st_other;
        Elf32_Half      st_shndx;
} Elf32_Sym;

typedef struct {
        Elf64_Word      st_name;
        unsigned char   st_info;
        unsigned char   st_other;
        Elf64_Half      st_shndx;
        Elf64_Addr      st_value;
        Elf64_Xword     st_size;
} Elf64_Sym;
st_name

この構成要素は、オブジェクトファイルのシンボル文字列テーブルへのインデックス (シンボル名の文字表現を保持する) を保持します。値が 0 以外の場合、その値はシンボル名を与える文字列テーブルインデックスを表します。値が 0 の場合、シンボルテーブルエントリに名前は存在しません。


注 -

外部 C シンボルは、C とオブジェクトファイルのシンボルテーブルにおいて同じ名前を持ちます。


st_value

この構成要素は、関連付けられているシンボルの値を与えます。この値は、絶対値やアドレスなど (状況に依存する) を表します。「シンボル値」を参照してください。

st_size

多くのシンボルは、関連付けられているサイズを持っています。たとえば、データオブジェクトのサイズは、データオブジェクトに存在するバイト数です。この構成要素は、シンボルがサイズを持っていない場合またはサイズが不明な場合、0 を保持します。

st_info

この構成要素は、シンボルの種類と結び付けられる属性を指定します。値と意味のリストを以下に示します。次のコードは、値 (sys/elf.h で定義されている) の処理方法を示します。


#define ELF32_ST_BIND(i)             ((i) >> 4)
#define ELF32_ST_TYPE(i)             ((i) & 0xf)
#define ELF32_ST_INFO(b, t)          (((b)<<4)+((t)&0xf))

#define	ELF64_ST_BIND(info)		        ((info) >> 4)
#define	ELF64_ST_TYPE(info)		        ((info) & 0xf)
#define	ELF64_ST_INFO(bind, type)    (((bind)<<4)+((type)&0xf))
st_other

この構成要素は、現在シンボルの可視性のために使用されています。値とその意味に関しては、後述のとおりです。以下のコードは、32 ビットオブジェクトと 64 ビットオブジェクトについて値を操作する方法を示しています。その他のビットは 0 を含んでおり、特に意味はありません。


#define ELF32_ST_VISIBILITY(o)       ((o)&0x3)
#define ELF64_ST_VISIBILITY(o)       ((o)&0x3)
st_shndx

すべてのシンボルテーブルエントリは、何らかのセクションに関して定義されます。この構成要素は、該当するセクションヘッダーテーブルインデックスを保持します。いくつかのセクションインデックスは、特別な意味を示します。表 7-12 を参照してください。

シンボルの結び付けは、リンクの可視性と動作を決定します。

表 7-20 シンボルの結び付け (ELF32_ST_BINDELF64_ST_BIND)

名前 

値 

STB_LOCAL

0

STB_GLOBAL

1

STB_WEAK

2

STB_LOOS

10

STB_HIOS

12

STB_LOPROC

13

STB_HIPROC

15

STB_LOCAL

ローカルシンボルは、ローカルシンボルの定義が存在するオブジェクトファイルの外部では見えません。同じ名前のローカルシンボルは、互いに干渉することなく複数のファイルに存在できます。

STB_GLOBAL

大域シンボルは、結合されるすべてのオブジェクトファイルで見ることができます。あるファイルの大域シンボルの定義は、その大域シンボルへの別ファイルの未定義参照を解決します。

STB_WEAK

ウィークシンボルは大域シンボルに似ていますが、ウィークシンボルの定義の優先順位は大域シンボルの定義より低いです。

STB_LOOS - STB_HIOS

この範囲の値 (両端の値も含む) は、オペレーティングシステム特有のセマンティクス用に予約されています。

STB_LOPROC - STB_HIPROC

この範囲の値は、プロセッサ固有の使用方法に対して予約されます。

大域シンボルとウィークシンボルは、主に 2 つの点で異なります。


注 -

ウィークシンボルは、主にシステムソフトウェアでの使用を意図したものです。アプリケーションプログラムでの使用は推奨されません。


各シンボルテーブルにおいて、STB_LOCAL 結び付きが存在するすべてのシンボルは、ウィークシンボルと大域シンボルの前に存在します。「セクション」に記述されているとおり、シンボルテーブルセクションの sh_info セクションヘッダー構成要素は、最初のローカルではないシンボルに対するシンボルテーブルインデックスを保持します。

シンボルの種類は、関連付けられている実体に関する一般的分類を行います。

表 7-21 シンボルの種類 (ELF32_ST_TYPEELF64_ST_TYPE)

名前 

値 

STT_NOTYPE

0

STT_OBJECT

1

STT_FUNC

2

STT_SECTION

3

STT_FILE

4

STT_COMMON

5

STT_LOOS

10

STT_HIOS

12

STT_LOPROC

13

STT_SPARC_REGISTER

13

STT_HIPROC

15

STT_NOTYPE

シンボルの種類は指定されません。

STT_OBJECT

シンボルは、データオブジェクト (変数や配列など) と関連付けられています。

STT_FUNC

シンボルは、関数または他の実行可能コードに関連付けられています。

STT_SECTION

シンボルは、セクションに関連付けられています。この種類のシンボルテーブルエントリは主に再配置を行うために存在しており、通常、STB_LOCAL に結び付けられています。

STT_FILE

慣例により、シンボルの名前はオブジェクトファイルに対応するソースファイルの名前を与えます。ファイルシンボルは STB_LOCAL に結び付けられており、セクションインデックスは SHN_ABS であり、ファイルシンボル (存在する場合) はファイルの他の STB_LOCAL シンボルの前に存在します。SHT_SYMTAB のシンボルインデックス 1 は、ファイル自身を表す STT_FILE シンボルです。慣例により、この後にはファイルの STT_SECTION シンボルと、ローカルシンボルに短縮されている大域シンボルが続きます (詳細は、「シンボル範囲の縮小」と、第 5 章「バージョンアップ」を参照)。

STT_COMMON

このシンボルは、初期設定されていない共通ブロックを表しますが、これは STT_OBJECT とまったく同じに扱われます。

STT_LOOS - STT_HIOS

この範囲の値 (両端の値を含む) は、オペレーティングシステム固有のセマンティクス (意味的用途) のために予約されています。

STT_LOPROC - STT_HIPROC

この範囲の値 (両端の値を含む) は、プロセッサ固有の使用方法に対して予約されています。

共有オブジェクトファイルの関数シンボル (STT_FUNC タイプが存在する) は、特別な意味を持っています。別のオブジェクトファイルが共有オブジェクトの関数を参照すると、リンカーは参照されるシンボルのプロシージャのリンクテーブルエントリを自動的に作成します。STT_FUNC 以外のタイプの共有オブジェクトシンボルは、プロシージャのリンクテーブルから自動的には参照されません。

シンボルの可視性は、(再配置可能オブジェクトの中に指定することもできますが、) シンボルがいったん実行可能ファイルまたは共有オブジェクトの一部になってからどのようにアクセスされるかを定義します。

表 7-22 シンボルの可視性

名前 

値 

STV_DEFAULT

1

STV_INTERNAL

2

STV_HIDDEN

3

STV_PROTECTED

4

STV_DEFAULT

STV_DEFAULT 属性を持つシンボルの可視性は、シンボルの結合タイプで指定されたものになります。つまり、大域シンボルおよびウィークシンボルは、それらの定義するコンポーネント (実行可能ファイルまたは共有オブジェクト) の外から見ることができます。ローカルシンボルは、後述のように「隠されて」います。また、大域シンボルおよびウィークシンボルは「横取り可能な」ものです。つまり、それらは別のコンポーネント内の同じ名前の定義によってオーバーライドが可能なものです。

STV_PROTECTED

現在のコンポーネン内で定義されたシンボルは、それが他のコンポーネント内で参照可能であるが横取り可能ではない場合、保護されています。つまり、定義するコンポーネント内からのそのようなシンボルへの参照は、たとえデフォルトの規則によって間に入るような別のコンポーネントの定義があったとしても、そのコンポーネントの定義にもとづいて解決されなければなりません。STB_LOCAL 結合を持つシンボルは、STV_PROTECTED 可視性を持ちません。

STV_HIDDEN

現在のコンポーネント内で定義されたシンボルは、その名前が他のコンポーネントから参照することができない場合、「隠されて」います。そのようなシンボルは、保護される必要があります。この属性は、コンポーネントの外部インタフェースの管理に使用されます。そのようなシンボルによって指定されたオブジェクトは、そのアドレスが外部に渡された場合、他のコンポーネントから参照できることに留意してください。

再配置可能オブジェクトに含まれた「隠された」シンボルは、その再配置可能オブジェクトが実行可能ファイルまたは共有オブジェクトに含まれる時には、リンカーによって削除されるか STB_LOCAL 結合に変換されます。

STV_INTERNAL

この可視性の属性は、現在予約されています。将来使用される場合は、そのセマンティクスは少なくとも STV_HIDDEN と同じくらい制約の厳しいものとなります。

可視性の属性は、リンク編集中、実行可能ファイルまたは共有オブジェクト内のシンボルの解決には全く影響をおよぼしません。このような解決は、結合タイプによって制御されます。いったんリンカーがその解決を選択すると、これらの属性は以下の 2 つの必要条件を課します。どちらの必要条件も、リンクされるコード内の参照は、属性の利点を利用するために最適化されるという事実に基づくものです。

シンボル値がセクション内の特定位置を参照すると、セクションインデックス構成要素 st_shndx は、セクションヘッダーテーブルへのインデックスを保持します。再配置時にセクションが移動すると、シンボル値も変化し、シンボルへの参照はプログラム内の同じ位置を指し示し続けます。いくつかの特殊セクションのインデックス値は、他の意味付けがされています。

SHN_ABS

シンボルは、絶対値 (再配置が行われても変化しない) を持ちます。

SHN_COMMON

シンボルは、割り当てられていない共通ブロックを示します。シンボル値は、セクションの sh_addralign 構成要素に類似した整列制約を与えます。つまり、リンカーは st_value の倍数のアドレスにシンボル記憶領域を割り当てます。シンボルのサイズは、必要なバイト数を示します。

SHN_UNDEF

このセクションテーブルインデックスは、シンボルが未定義であることを意味します。リンカーがこのオブジェクトファイルを、示されたシンボルを定義する他のオブジェクトファイルに結合すると、このシンボルに対するこのファイルの参照は実際の定義に結び付けられます。

前述したとおり、インデックス 0 (STN_UNDEF) のシンボルテーブルエントリは予約されています。このシンボルテーブルエントリは以下の値を保持します。

表 7-23 シンボルテーブルエントリ: インデックス 0

名前 

値 

注意 

st_name

0

名前はない 

st_value

0

値は 0 

st_size

0

サイズはない 

st_info

0

種類はない。ローカル結合 

st_other

0

 

st_shndx

SHN_UNDEF

セクションは存在しない 

シンボル値

異なる複数のオブジェクトファイル型のシンボルテーブルエントリは、st_value 構成要素に対してわずかに異なる解釈を持ちます。

シンボルテーブル値は、異なる種類のオブジェクトファイルでも似た意味を持ちますが、適切なプログラムはデータに効率的にアクセスできます。

レジスタシンボル

SPARC アーキテクチャは、レジスタシンボル (大域レジスタを初期化するシンボル) をサポートします。レジスタシンボルに対するシンボルテーブルエントリには、以下の値が入ります。

表 7-24 SPARC: シンボルテーブルエントリ: レジスタシンボル

フィールド 

意味 

st_name

シンボル名文字列テーブルへのインデックス。または 0 (スクラッチレジスタ)  

st_value

レジスタ番号。整数レジスタの割り当てについては、ABI マニュアルを参照 

st_size

未使用 (0)  

st_info

結び付きは標準的には STB_GLOBAL。種類は STT_SPARC_REGISTER でなければならない

st_other

未使用 (0)  

st_shndx

SHN_ABS (このオブジェクトがこのレジスタシンボルを初期化する場合)。SHN_UNDEF (それ以外の場合)

表 7-25 SPARC: レジスタ番号

名前 

値 

意味  

STO_SPARC_REGISTER_G2

0x2

%g2

STO_SPARC_REGISTER_G3

0x3

%g3

特定の大域レジスタのエントリが存在しないことは、その特定の大域レジスタがオブジェクトで使用されないことを意味します。

Syminfo テーブル

このセクションには、Elf32_Syminfo 型または Elf64_Syminfo 型の複数のエントリが存在します。関連付けられているシンボルテーブルの各エントリ (sh_link) の .SUNW_syminfo セクションには、1 つのエントリが存在します。

このセクションがオブジェクトに存在している場合、関連付けられているシンボルテーブルからシンボルインデックスを取り出し、このシンボルインデックスを使ってこのセクションに存在する対応する Elf32_Syminfo または Elf64_Syminfo エントリを見つけることで、追加シンボル情報を見つけます。関連付けられているシンボルテーブルと、Syminfo テーブルには、必ず同じ数のエントリが存在します。

インデックス 0 は、Syminfo テーブルの現バージョン (SYMINFO_CURRENT) を格納するために使用されます。シンボルテーブルエントリ 0 は必ず UNDEF シンボルテーブルエントリに対して予約されるので、矛盾は発生しません。

Syminfo エントリの形式は、以下のとおりです。


typedef struct {
        Elf32_Half      si_boundto;
        Elf32_Half      si_flags;
} Elf32_Syminfo;

typedef struct {
        Elf64_Half      si_boundto;
        Elf64_Half      si_flags;
} Elf64_Syminfo;
si_flags

これはビットフィールドであり、表 7-26 に示すようにフラグを設定できます。

表 7-26 Syminfo フラグ

名前 

値 

意味 

SYMINFO_FLG_DIRECT

0x01

このシンボルは、外部オブジェクトを直接参照した 

SYMINFO_FLG_COPY

0x04

このシンボルは、コピー再配置を行なった結果 

SYMINFO_FLG_LAZYLOAD

0x08

このシンボルは、レイジーロード可能な外部オブジェクトを参照する 

si_boundto

sh_info フィールドで示される .dynamic セクションのエントリへのインデックス。このエントリは、DT_* (DT_NEEDED) エントリ (Syminfo エントリに関連付けられている動的オブジェクトを示す) を示します。表 7-27 に示すエントリは、si_boundto に対して予約されています。

表 7-27 si_boundto 予約値

名前 

値 

意味 

SYMINFO_BT_SELF

0xffff

自己に結びつけられるシンボル 

SYMINFO_BT_PARENT

0xfffe

親に結びつけられるシンボル。親は、この動的オブジェクトの読み込みを発生させる最初のオブジェクト 

再配置

再配置は、記号参照を記号定義に関連付ける処理です。たとえば、プログラムが関数を呼び出すとき、関連付けられている呼び出し命令は、実行時に適切な宛先アドレスに制御を渡さなければなりません。つまり、再配置可能ファイルには、セクション内容の変更方法を示す情報が存在しなければなりません。その結果、実行可能オブジェクトファイルと共有オブジェクトファイルは、プロセスのプログラムイメージに関する正しい情報を保持できます。再配置エントリは、これらのデータを保持します。

再配置エントリは、以下の構造体 (sys/elf.h で定義されている) を持つことができます。


typedef struct {
        Elf32_Addr      r_offset;
        Elf32_Word      r_info;
} Elf32_Rel;

typedef struct {
        Elf32_Addr      r_offset;
        Elf32_Word      r_info;
        Elf32_Sword     r_addend;
} Elf32_Rela;

typedef struct {
        Elf64_Addr      r_offset;
        Elf64_Xword     r_info;
} Elf64_Rel;

typedef struct {
        Elf64_Addr      r_offset;
        Elf64_Xword     r_info;
        Elf64_Sxword    r_addend;
} Elf64_Rela;
r_offset

この構成要素は、再配置処理を適用する位置を与えます。再配置可能ファイルの場合、値はセクションの先頭から再配置の影響を受ける領域までのオフセットです。実行可能ファイルまたは共有オブジェクトの場合、値は再配置の影響を受ける領域の仮想アドレスです。

r_info

この構成要素は、再配置が行われなければならないシンボルテーブルインデックスと、適用される再配置の種類を与えます。たとえば、呼び出し命令の再配置エントリは、呼び出される関数のシンボルテーブルインデックスを保持します。インデックスが STN_UNDEF (未定義シンボルインデックス) の場合、再配置はシンボル値として 0 を使用します。再配置の種類はプロセッサに固有です。再配置の種類の動作は以下に記述します。以下のテキストが再配置エントリの再配置の種類またはシンボルテーブルインデックスを参照すると、それぞれ ELF32_R_TYPE または ELF32_R_SYM をエントリの r_info 構成要素に適用した結果が得られます。


#define ELF32_R_SYM(i)                ((i)>>8)
#define ELF32_R_TYPE(i)               ((unsigned char)(i))
#define ELF32_R_INFO(s, t)            (((s)<<8)+(unsigned char)(t))

#define ELF64_R_SYM(info)             ((info)>>32)
#define ELF64_R_TYPE(info)            ((Elf64_Word)(info))
#define ELF64_R_INFO(sym, type)       (((Elf64_Xword)(sym)<<32)+ ¥ 
                                        (Elf64_Xword)(type)

Elf64_Rel および Elf64_Rela 構造の場合、r_info フィールドはさらに 8 ビットの識別子と 24 ビットの付随的なデータに分割されます。


#define ELF64_R_TYPE_DATA(info)       (((Elf64_Xword)(info)<<32)>>40)
#define ELF64_R_TYPE_ID(info)         (((Elf64_Xword)(info)<<56)>>56)
#define ELF64_R_TYPE_INFO(data, type) (((Elf64_Xword)(data)<<8)+ ¥ 
                                        (Elf64_Xword)(type))
r_addend

この構成要素は、再配置可能フィールドに格納される値の計算に使用される定数加数を指定します。

前述したとおり、Elf*_Rela エントリにのみ明示的加数が存在します。タイプ Elf*_Rel のエントリには、変更される位置に暗黙の加数が存在します。32 ビット SPARC は Elf32_Rela エントリ、64 ビット SPARC は Elf64_Rela エントリ、IA は Elf32_Rel エントリをそれぞれ使用します。

再配置セクションは、他の 2 つのセクション (シンボルテーブルと変更されるセクション) を参照します。セクションヘッダーの sh_infosh_link 構成要素 (「セクション」で記述している) は、これらの関係を指定します。異なる複数のオブジェクトファイルに対する再配置エントリには、r_offset 構成要素に関してわずかに異なる解釈が存在します。

r_offset の解釈は異なる複数のオブジェクトファイルでは変化し、その結果、関連プログラムによる効率的アクセスが可能になっていますが、再配置タイプの意味は変化しません。

再配置型 (プロセッサ固有の)

SPARC の場合、再配置エントリは以下の命令/データフィールドの変更方法を記述します (ビット番号はボックスの下隅に表示される)。

Graphic

IA の場合、再配置エントリは以下の命令/データフィールドの変更方法を記述します (ビット番号はボックスの下隅に表示される)。

Graphic

word32 は、任意バイト整列が存在する 4 バイトを占める 32 ビットフィールドを指定します。これらの値は、IA アーキテクチャにおける他のワード値と同じバイト順序を使用します。

Graphic

64 ビット SPARC には、64 ビットワードフィールドが存在します。

Graphic

以下の計算では、アクションが再配置可能ファイルを実行可能ファイルまたは共有オブジェクトファイルに変換することが仮定されています。概念上、リンカーは 1 つまたは複数の再配置可能ファイルを併合して出力します。リンカーは、まず入力ファイルの結合/配置方法を決め、次にシンボル値を更新し、最後に再配置を行います。実行可能オブジェクトファイルと共有オブジェクトファイルに適用される再配置は類似しており、同じ結果を実現します。後述の説明では、以下の表記が使用されています。

A

再配置可能フィールドの値を計算するために使用される加数を意味します。

B

実行時に共有オブジェクトがメモリーに読み込まれるベースアドレスを意味します。一般に共有オブジェクトファイルは 0 ベース仮想アドレスで作成されますが、実行アドレスは異なります。ベースアドレスについては、「プログラムヘッダー」を参照してください。

G

実行時に再配置エントリのシンボルのアドレスが存在する「大域オフセットテーブル」へのオフセットを意味します。詳細は、「大域オフセットテーブル (プロセッサ固有)」を参照してください。

GOT

「大域オフセットテーブル」のアドレスを意味します。詳細は、「大域オフセットテーブル (プロセッサ固有)」を参照してください。

L

シンボルに対する「プロシージャのリンクテーブル」エントリの位置 (セクションオフセットまたはアドレス) を意味します。プロシージャのリンクテーブルエントリは、関数呼び出しを適切な宛先に変更します。リンカーは初期プロシージャのリンクテーブルを作成し、実行時リンカーは実行時にエントリを変更します。詳細は、「プロシージャのリンクテーブル (プロセッサ固有)」を参照してください。

P

再配置される領域の位置 (セクションオフセットまたはアドレス) (r_offset を使って計算される) を意味します。

S

インデックスが再配置エントリに存在するシンボルの値を意味します。

SPARC 再配置エントリは、バイト (byte8)、ハーフワード (half16)、またはワード (その他) に適用されます。IA 再配置エントリはワードに適用されます。どの場合も r_offset 値は、影響が与えられる領域の先頭バイトのオフセットまたは仮想アドレスを指定します。再配置タイプは、変更されるビットと、これらのビットの値の計算方法を指定します。

32 ビット SPARC は明示的加数が存在する Elf32_Rela 再配置エントリのみを使用し、64 ビット SPARC は Elf64_Rela を使用します。したがって、r_addend 構成要素は再配置加数として機能します。IA は Elf32_Rel 再配置エントリのみを使用し、再配置されるフィールドは加数を保持します。すべての場合において、加数と計算された結果は同じバイト順序を使用します。

SPARC: 再配置型

表 7-28 に示されているフィールド名は、再配置型がオーバーフローを検査するかどうかを通知します。計算される再配置値は意図したフィールドより大きい場合があり、再配置の型によっては値の適合を検証 (V) したり結果を切り捨てたり (T) することがあります。たとえば、V-simm13 は、計算された値が simm13 フィールドの外部に 0 以外の有意ビットを持つことがないことを意味します。

表 7-28 SPARC: 再配置型

名前 

値 

フィールド 

計算 

R_SPARC_NONE

0

なし 

なし 

R_SPARC_8

1

V-byte8

S + A

R_SPARC_16

2

V-half16

S + A

R_SPARC_32

3

V-word32

S + A

R_SPARC_DISP8

4

V-byte8

S + A - P

R_SPARC_DISP16

5

V-half16

S + A - P

R_SPARC_DISP32

6

V-disp32

S + A - P

R_SPARC_WDISP30

7

V-disp30

(S + A - P) >> 2

R_SPARC_WDISP22

8

V-disp22

(S + A - P) >> 2

R_SPARC_HI22

9

T-imm22

(S + A) >> 10

R_SPARC_22

10

V-imm22

S + A

R_SPARC_13

11

V-simm13

S + A

R_SPARC_LO10

12

T-simm13

(S + A) & 0x3ff

R_SPARC_GOT10

13

T-simm13

G & 0x3ff

R_SPARC_GOT13

14

V-simm13

G

R_SPARC_GOT22

15

T-simm22

G >> 10

R_SPARC_PC10

16

T-simm13

(S + A - P) & 0x3ff

R_SPARC_PC22

17

V-disp22

(S + A - P) >> 10

R_SPARC_WPLT30

18

V-disp30

(L + A - P) >> 2

R_SPARC_COPY

19

なし 

なし 

R_SPARC_GLOB_DAT

20

V-word32

S + A

R_SPARC_JMP_SLOT

21

なし 

R_SPARC_JMP_SLOT」を参照

R_SPARC_RELATIVE

22

V-word32

B + A

R_SPARC_UA32

23

V-word32

S + A

R_SPARC_PLT32

24

V-word32

L + A

R_SPARC_HIPLT22

25

T-imm22

(L + A) >> 10

R_SPARC_LOPLT10

26

T-simm13

(L + A) & 0x3ff

R_SPARC_PCPLT32

27

V-word32

L + A - P

R_SPARC_PCPLT22

28

V-disp22

(L + A - P) >> 10

R_SPARC_PCPLT10

29

V-simm13

(L + A - P) & 0x3ff

R_SPARC_10

30

V-simm10

S + A

R_SPARC_11

31

V-simm11

S + A

R_SPARC_WDISP16

40

V-d2/disp14

(S + A - P) >> 2

R_SPARC_WDISP19

41

V-disp19

(S + A - P) >> 2

R_SPARC_7

43

V-imm7

S + A

R_SPARC_5

44

V-imm5

S + A

R_SPARC_6

45

V-imm6

S + A

いくつかの再配置型には、単純な計算を超えた意味があります。

R_SPARC_GOT10

この再配置型は R_SPARC_LO10 に似ています。ただし、次の点が異なります。つまり、この再配置型はシンボルの大域オフセットテーブルエントリのアドレスを参照し、かつ大域オフセットテーブルを作成するようにリンカーに指示します。

R_SPARC_GOT13

この再配置型は R_SPARC_13 に似ています。ただし、次の点が異なります。つまり、この再配置型はシンボルの大域オフセットテーブルエントリのアドレスを参照し、かつ大域オフセットテーブルを作成するようにリンカーに指示します。

R_SPARC_GOT22

この再配置型は R_SPARC_22 に似ています。ただし、次の点が異なります。つまり、この再配置型はシンボルの大域オフセットテーブルエントリのアドレスを参照し、かつ大域オフセットテーブルを作成するようにリンカーに指示します。

R_SPARC_WPLT30

この再配置型は R_SPARC_WDISP30 に類似しています。ただし、次の点が異なります。つまり、この再配置型はシンボルのプロシージャのリンクテーブルエントリのアドレスを参照し、かつプロシージャのリンクテーブルを作成するようにリンカーに指示します。

R_SPARC_COPY

リンカーは、動的リンクを行うためにこの再配置型を使用します。この再配置型のオフセット構成要素は、書き込み可能セグメントの位置を参照します。シンボルテーブルインデックスは、現オブジェクトファイルと共有オブジェクトの両方に存在する必要があるシンボルを指定します。実行時、実行時リンカーは共有オブジェクトのシンボルに関連付けられているデータを、オフセットで指定されている位置にコピーします。詳細は、「コピー再配置」を参照してください。

R_SPARC_GLOB_DAT

この再配置型は R_SPARC_32 に似ています。ただし、次の点が異なります。つまり、この再配置型は大域オフセットテーブルエントリを、指定されたシンボルのアドレスに設定します。この特殊な再配置型を使うと、シンボルと大域オフセットテーブルエントリの対応付けを判定できます。

R_SPARC_JMP_SLOT

リンカーは、動的リンクを行うためにこの再配置型を使用します。この再配置型のオフセット構成要素は、プロシージャのリンクテーブルエントリの位置を与えます。実行時リンカーは、プロシージャのリンクテーブルエントリを変更して指定シンボルアドレスに制御を渡します。

R_SPARC_RELATIVE

リンカーは、動的リンクを行うためにこの再配置型を使用します。この再配置型のオフセット構成要素は、相対アドレスを表す値が存在する、共有オブジェクト内の位置を与えます。実行時リンカーは共有オブジェクトが読み込まれる仮想アドレスを相対アドレスに加算することで、対応する仮想アドレスを計算します。この型に対する再配置エントリは、シンボルテーブルインデックスに対して 0 を指定しなければなりません。

R_SPARC_UA32

この再配置型は R_SPARC_32 に似ていますが、整列されていないワードを参照する点が異なります。つまり、再配置されるワードは、任意整列が存在する 4 つの別個のバイトとして処理されなければなりません (アーキテクチャの要求に従って整列されるワードとしては処理されません)。

SPARC: 再配置型


注 -

表 7-29 に示されているフィールド名は、再配置型がオーバーフローを検査するかどうかを通知します。計算される再配置値は意図したフィールドより大きい場合があり、再配置型によっては値の適合を検証 (V) したり結果を切り捨てたり (T) することがあります。たとえば、V-simm13 は、計算された値が simm13 フィールドの外部に 0 以外の有意ビットを持つことがないことを意味します。


表 7-29 SPARC: 再配置型

名前 

値 

フィールド 

計算 

R_SPARC_NONE

0

なし 

なし 

R_SPARC_8

1

V-byte8

S + A

R_SPARC_16

2

V-half16

S + A

R_SPARC_32

3

V-word32

S + A

R_SPARC_DISP8

4

V-byte8

S + A - P

R_SPARC_DISP16

5

V-half16

S + A - P

R_SPARC_DISP32

6

V-disp32

S + A - P

R_SPARC_WDISP30

7

V-disp30

(S + A - P) >> 2

R_SPARC_WDISP22

8

V-disp22

(S + A - P) >> 2

R_SPARC_HI22

9

V-imm22

(S + A) >> 10

R_SPARC_22

10

V-imm22

S + A

R_SPARC_13

11

V-simm13

S + A

R_SPARC_LO10

12

T-simm13

(S + A) & 0x3ff

R_SPARC_GOT10

13

T-simm13

G & 0x3ff

R_SPARC_GOT13

14

V-simm13

G

R_SPARC_GOT22

15

T-simm22

G >> 10

R_SPARC_PC10

16

T-simm13

(S + A - P) & 0x3ff

R_SPARC_PC22

17

V-disp22

(S + A - P) >> 10

R_SPARC_WPLT30

18

V-disp30

(L + A - P) >> 2

R_SPARC_COPY

19

なし 

なし 

R_SPARC_GLOB_DAT

20

V-xword64

S + A

R_SPARC_JMP_SLOT

21

なし 

R_SPARC_JMP_SLOT」を参照

R_SPARC_RELATIVE

22

V-xword64

B + A

R_SPARC_UA32

23

V-word32

S + A

R_SPARC_PLT32

24

V-word32

L + A

R_SPARC_HIPLT22

25

T-imm22

(L + A) >> 10

R_SPARC_LOPLT10

26

T-simm13

(L + A) & 0x3ff

R_SPARC_PCPLT32

27

V-disp32

L + A - P

R_SPARC_PCPLT22

28

V-disp22

(L + A - P) >> 10

R_SPARC_PCPLT10

29

V-simm13

(L + A - P) & 0x3ff

R_SPARC_10

30

V-simm10

S + A

R_SPARC_11

31

V-simm11

S + A

R_SPARC_64

32

V-xword64

S + A

R_SPARC_OLO10

33

V-simm13

( (S + A) & 0x3ff) + O

R_SPARC_HH22

34

V-imm22

(S + A) >> 42

R_SPARC_HM10

35

T-simm13

( (S + A) >> 32) & 0x3ff

R_SPARC_LM22

36

T-imm22

(S + A) >> 10

R_SPARC_PC_HH22

37

V-imm22

(S + A - P) >> 42

R_SPARC_PC_HM10

38

T-simm13

( (S + A - P) >> 32) & 0x3ff

R_SPARC_PC_LM22

39

T-imm22

(S + A - P) >> 10

R_SPARC_WDISP16

40

V-d2/disp14

(S + A - P) >> 2

R_SPARC_WDISP19

41

V-disp19

(S + A - P) >> 2

R_SPARC_7

43

V-imm7

(S + A) & 0x7f

R_SPARC_5

44

V-imm5

(S + A) & 0x1f

R_SPARC_6

45

V-imm6

(S + A) & 0x3f

R_SPARC_DISP64

46

V-xword64

S + A - P

R_SPARC_PLT64

47

V-xword64

L + A

R_SPARC_HIX22

48

V-imm22

( (S + A) ^ 0xffffffffffffffff) >> 10

R_SPARC_LOX10

49

T-simm13

( (S + A) & 0x3ff) | 0x1c00

R_SPARC_H44

50

V-imm22

(S + A) >> 22

R_SPARC_M44

51

T-imm10

( (S + A) >> 12) & 0x3ff

R_SPARC_L44

52

T-imm13

(S + A) & 0xfff

R_SPARC_REGISTER

53

V-xword64

S + A

R_SPARC_UA64

54

V-xword64

S + A

R_SPARC_UA16

55

V-half16

S + A

いくつかの再配置型には、単純な計算を超えた意味が存在します。

R_SPARC_GOT10

この再配置型は R_SPARC_LO10 に似ています。ただし、次の点が異なります。つまり、この再配置型はシンボルの大域オフセットテーブルエントリのアドレスを参照し、かつ大域オフセットテーブルを作成するようにリンカーに指示します。

R_SPARC_GOT13

この再配置型は R_SPARC_13 に似ています。ただし、次の点が異なります。つまり、この再配置型はシンボルの大域オフセットテーブルエントリのアドレスを参照し、かつ大域オフセットテーブルを作成するようにリンカーに指示します。

R_SPARC_GOT22

この再配置型は R_SPARC_22 に似ています。ただし、次の点が異なります。つまり、この再配置型はシンボルの大域オフセットテーブルエントリのアドレスを参照し、かつ大域オフセットテーブルを作成するようにリンカーに指示します。

R_SPARC_WPLT30

この再配置型は R_SPARC_WDISP30 に似ています。ただし、次の点が異なります。つまり、この再配置型はシンボルのプロシージャのリンクテーブルエントリのアドレスを参照し、かつプロシージャのリンクテーブルを作成するようにリンカーに指示します。

R_SPARC_COPY

リンカーは、動的リンクを行うためにこの再配置型を使用します。この再配置型のオフセット構成要素は、書き込み可能セグメントの位置を参照します。シンボルテーブルインデックスは、現オブジェクトファイルと共有オブジェクトの両方に存在する必要があるシンボルを指定します。実行時、実行時リンカーは共有オブジェクトのシンボルに関連付けられているデータを、オフセットで指定されている位置にコピーします。詳細は、「コピー再配置」を参照してください。

R_SPARC_GLOB_DAT

この再配置型は R_SPARC_64 に似ています。ただし、次の点が異なります。つまり、この再配置型は大域オフセットテーブルエントリを、指定されたシンボルのアドレスに設定します。この特殊な再配置型を使うと、シンボルと大域オフセットテーブルエントリの対応付けを判定できます。

R_SPARC_JMP_SLOT

リンカーは、動的リンクを行うためにこの再配置型を作成します。この再配置型のオフセット構成要素は、プロシージャのリンクテーブルエントリの位置を与えます。実行時リンカーは、プロシージャのリンクテーブルエントリを変更して指定シンボルアドレスに制御を渡します。

R_SPARC_RELATIVE

リンカーは、動的リンクを行うためにこの再配置型を使用します。この再配置型のオフセット構成要素は、相対アドレスを表す値が存在する、共有オブジェクト内の位置を与えます。実行時リンカーは共有オブジェクトが読み込まれる仮想アドレスを相対アドレスに加算することで、対応する仮想アドレスを計算します。この型に対する再配置エントリは、シンボルテーブルインデックスに対して 0 を指定しなければなりません。

R_SPARC_UA32

この再配置型は R_SPARC_32 に似ていますが、整列されていないワードを参照する点が異なります。つまり、再配置されるワードは、任意整列が存在する 4 つの別個のバイトとして処理されなければなりません (アーキテクチャの要求に従って整列されるワードとしては処理されません)。

R_SPARC_OLO10

この再配置型は R_SPARC_LO10 に似ていますが、符号付き 13 ビット即値フィールドを十分に使用するために余分なオフセットが追加される点が異なります。

R_SPARC_HH22

アセンブラは、"imm22-instruction ... %hh (absolute) ..." という形式の命令を認識すると、この再配置型を使用します。

R_SPARC_HM10

アセンブラは、"simm13-instruction ... %hm (absolute) ..." という形式の命令を認識すると、この再配置型を生成します。

R_SPARC_LM22

アセンブラは、"imm22-instruction ... %lm (absolute) ..." という形式の命令を認識すると、この再配置型を使用します。この再配置型は R_SPARC_HI22 に似ていますが、妥当性検査ではなく切り捨てを行う点が異なります。

R_SPARC_PC_HH22

アセンブラは、"imm22-instruction ... %hh (pc-relative) ..." という形式の命令を認識すると、この再配置型を使用します。

R_SPARC_PC_HM10

アセンブラは、"simm13-instruction ... %hm (pc-relative) ..." という形式の命令を認識すると、この再配置型を生成します。

R_SPARC_PC_LM22

アセンブラは、"imm22-instruction ... %lm (pc-relative) ..." という形式の命令を認識すると、この再配置型を使用します。この再配置型は R_SPARC_PC22 に似ていますが、妥当性検査ではなく切り捨てを行う点が異なります。

R_SPARC_7

アセンブラは 7 ビットソフトウェアトラップ番号に対してこの再配置型を使用します。

R_SPARC_HIX22

この再配置型は、64 ビットアドレス空間の最上位 4GB に限定される実行可能ファイルに対して R_SPARC_LOX10 と共に使用されます。R_SPARC_HI22 に似ていますが、リンク値の 1 の補数を与えます。

R_SPARC_LOX10

R_SPARC_HIX22 と共に使用されます。R_SPARC_LO10 に似ていますが、必ずリンク値のビット 10 からビット 12 までを設定します。

R_SPARC_H44

アセンブラは、"imm44-instruction ... %h44 (absolute) .." という形式の命令を認識すると、この再配置型を使用します。

R_SPARC_M44

アセンブラは、"imm44-instruction ... %m44 (absolute) ..." という形式の命令を認識すると、この再配置型を生成します。

R_SPARC_L44

この再配置型は再配置型 R_SPARC_H44 および R_SPARC_M44 と共に使用され、44 ビット絶対アドレス指定モデルを生成します。アセンブラは、"imm44-instruction ... %l44 (absolute) ..." という形式の命令を認識すると、この再配置型を生成します。

R_SPARC_REGISTER

この再配置型は、レジスタシンボルを初期化するために使用されます。この再配置型のオフセット構成要素には、初期化されるレジスタ番号が存在します。SHN_ABS 型のこのレジスタには、対応するレジスタシンボルが存在しなければなりません。

IA: 再配置型

表 7-30 IA: 再配置型

名前 

値 

フィールド 

計算 

R_386_NONE

0

なし 

なし 

R_386_32

1

word32

S + A

R_386_PC32

2

word32

S + A - P

R_386_GOT32

3

word32

G + A

R_386_PLT32

4

word32

L + A - P

R_386_COPY

5

なし 

なし 

R_386_GLOB_DAT

6

word32

S

R_386_JMP_SLOT

7

word32

S

R_386_RELATIVE

8

word32

B + A

R_386_GOTOFF

9

word32

S + A - GOT

R_386_GOTPC

10

word32

GOT + A - P

R_386_32PLT

11

word32

L + A

いくつかの再配置型には、単純な計算を超えた意味が存在します。

R_386_GOT32

この再配置型は、大域オフセットテーブルのベースからシンボルの大域オフセットテーブルエントリまでの距離を計算します。この再配置型はまた、大域オフセットテーブルを作成するようにリンカーに指示します。

R_386_PLT32

この再配置型はシンボルのプロシージャのリンクテーブルエントリのアドレスを計算し、かつプロシージャのリンクテーブルを作成するようにリンカーに指示します。

R_386_COPY

リンカーは、動的リンクを行うためにこの再配置型を使用します。この再配置型のオフセット構成要素は、書き込み可能セグメントの位置を参照します。シンボルテーブルインデックスは、現オブジェクトファイルと共有オブジェクトの両方に存在する必要があるシンボルを指定します。実行時、実行時リンカーは共有オブジェクトのシンボルに関連付けられているデータを、オフセットで指定されている位置にコピーします。詳細は、「コピー再配置」を参照してください。

R_386_GLOB_DAT

この再配置型は大域オフセットテーブルエントリを、指定されたシンボルのアドレスに設定します。この特殊な再配置型を使うと、シンボルと大域オフセットテーブルエントリの対応付けを判定できます。

R_386_JMP_SLOT

リンカーは、動的リンクを行うためにこの再配置型を使用します。この再配置型のオフセット構成要素は、プロシージャのリンクテーブルエントリの位置を与えます。実行時リンカーは、プロシージャのリンクテーブルエントリを変更して指定シンボルアドレスに制御を渡します。

R_386_RELATIVE

リンカーは、動的リンクを行うためにこの再配置型を使用します。この再配置型のオフセット構成要素は、相対アドレスを表す値が存在する、共有オブジェクト内の位置を与えます。実行時リンカーは共有オブジェクトが読み込まれる仮想アドレスに相対アドレスを加算することで、対応する仮想アドレスを計算します。この型に対する再配置エントリは、シンボルテーブルインデックスに対して 0 を指定しなければなりません。

R_386_GOTOFF

この再配置型は、シンボルの値と大域オフセットテーブルのアドレスの差を計算します。この再配置型はまた、大域オフセットテーブルを作成するようにリンカーに指示します。

R_386_GOTPC

この再配置型は R_386_PC32 に似ていますが、計算を行う際に大域オフセットテーブルのアドレスを使用する点が異なります。この再配置で参照されるシンボルは、通常 _GLOBAL_OFFSET_TABLE_ です。この再配置型はまた、大域オフセットテーブルを作成するようにリンカーに指示します。

Comdat セクション

この種類のセクションは、セクション名 (sh_name) で一意に示されます。リンカーが、同じセクション名の SHT_SUNW_COMDAT 型の複数のセクションと出会うと、最初のセクションが保持され、他のすべてのセクションは捨てられます。また、捨てられた SHT_SUNW_COMDAT セクションに適用されたすべての再配置は無視され、かつ捨てられたセクションで定義されたすべてのシンボルも保持されません。

また、リンカーはセクション命名規約をサポートします。このセクション命名規約は、コンパイラが -xF オプションで呼び出されるとき、セクションの再順序付け (「セグメントの宣言」を参照) で使用されます。つまり、セクションが、.<funcname>%<sectname> という名前のセクションに入れられると、保持された最後の SHT_SUNW_COMDAT セクションが、.<sectname> で示されるセクションに合体します。この方法を使用すると、SHT_SUNW_COMDAT セクションを最終的に .text.data、または他のセクションに入れることができます。

バージョン情報

リンカーで作成されるオブジェクトには、2 つの型のバージョン情報が存在できます。

これらのセクションを形成する構造体は、sys/link.h で定義されます。バージョン情報が存在するセクションには、.SUNW_version という名前が付けられます。

バージョン定義セクション

このセクションは、SHT_SUNW_verdef 型で定義されます。このセクションが存在する場合、SHT_SUNW_versym セクションも存在しなければなりません。これら 2 つの構造体を使用することで、シンボルとバージョン定義の関連付けがファイル内で維持されます (詳細は、「バージョン定義の作成」を参照)。このセクションの要素の構造体は、以下のとおりです。


typedef struct {
        Elf32_Half      vd_version;
        Elf32_Half      vd_flags;
        Elf32_Half      vd_ndx;
        Elf32_Half      vd_cnt;
        Elf32_Word      vd_hash;
        Elf32_Word      vd_aux;
        Elf32_Word      vd_next;
} Elf32_Verdef;

typedef struct {
        Elf32_Word      vda_name;
        Elf32_Word      vda_next;
} Elf32_Verdaux;

typedef struct {
        Elf64_Half      vd_version;
        Elf64_Half      vd_flags;
        Elf64_Half      vd_ndx;
        Elf64_Half      vd_cnt;
        Elf64_Word      vd_hash;
        Elf64_Word      vd_aux;
        Elf64_Word      vd_next;
} Elf64_Verdef;

typedef struct {
        Elf64_Word      vda_name;
        Elf64_Word      vda_next;
} Elf64_Verdaux;
vd_version

この構成要素は、構造体自身のバージョンを示します。

表 7-31 バージョン定義構造のバージョン

名前 

値 

意味 

VER_DEF_NONE

0

無効バージョン 

VER_DEF_CURRENT

>=1

現在のバージョン 

値 1 は最初のセクション形式を示し、拡張した場合は番号を大きくします。VER_DEF_CURRENT の値は、現在のバージョン番号を示すために必要に応じて変化します。

vd_flags

この構成要素は、バージョン定義に固有の情報を保持します。

表 7-32 バージョン定義セクションのフラグ

名前 

値 

意味 

VER_FLG_BASE

0x1

ファイル自身のバージョン定義 

VER_FLG_WEAK

0x2

ウィークバージョン識別子 

ベースのバージョン定義は、バージョン定義またはシンボルの自動短縮簡約がファイルに適用されている場合、必ず存在します。ベースバージョンは、ファイルの予約されたシンボルに対してデフォルトのバージョンを与えます (「出力イメージの生成」を参照)。ウィークバージョン定義には、関連付けられているシンボルは存在しません (詳細は、「ウィークバージョン定義の作成」を参照)。

vd_ndx

この構成要素は、バージョンインデックスを保持します。各バージョン定義には、SHT_SUNW_versym エントリを適切なバージョン定義に関連付ける一意のインデックスが存在します。

vd_cnt

この構成要素は、Elf32_Verdaux 配列の要素数を示します。

vd_hash

この構成要素は、バージョン定義名の値を保持します (この値は、「ハッシュテーブル」に記述されているハッシング機能で生成されます)。

vd_aux

この構成要素は、この Elf32_Verdef エントリの先頭からバージョン定義名の Elf32_Verdaux 配列までのバイトオフセットを保持します。配列の先頭要素は存在しなければならず、この構造体が定義するバージョン定義文字列を指し示します。追加要素は存在することができ、また番号は vd_cnt 値で示されます。これらの要素は、このバージョン定義の依存関係を表します。これらの依存関係の各々は、独自のバージョン定義構造体を持っています。

vd_next

この構成要素は、この Elf32_Verdef 構造体の先頭から次の Elf32_Verdef エントリまでのバイトオフセットを保持します。

vda_name

この構成要素は、空文字で終わっている文字列への文字列テーブルオフセットを保持し、バージョン定義名を与えます。

vda_next

この構成要素は、この Elf32_Verdaux エントリの先頭から次の Elf32_Verdaux エントリまでのバイトオフセットを保持します。

バージョンシンボルセクション

このセクションは SHT_SUNW_versym 型で定義されており、以下の構造を持つ要素配列からなります。


typedef Elf32_Half      Elf32_Versym;
typedef Elf64_Half      Elf64_Versym;

配列の要素数は、関連付けられているシンボルテーブルに存在するシンボルテーブルエントリ数 (セクション sh_link 値で決定される) に等しくなければなりません。配列の各要素には 1 つのインデックスが存在し、このインデックスは表 7-33 に示す値をとることができます。

表 7-33 バージョン依存インデックス

名前 

値 

意味 

VER_NDX_LOCAL

0

シンボルにローカル適用範囲が存在する。 

VER_NDX_GLOBAL

1

シンボルに大域適用範囲 (ベースバージョン定義に割り当てられる) が存在する 

 

>1

シンボルに大域適用範囲 (ユーザー定義バージョン定義に割り当てられる) が存在する 

VER_NDX_GLOBAL より大きいインデックス値は、SHT_SUNW_verdef セクションのエントリの vd_ndx 値に一致しなければなりません。VER_NDX_GLOBAL より大きいインデックス値が存在しない場合、SHT_SUNW_verdef セクションが存在する必要はありません。

バージョン依存セクション

このセクションは、SHT_SUNW_verneed 型で定義されます。このセクションは、ファイルの動的依存性から要求されるバージョン定義を示すことで、ファイルの動的依存性要求を補足します。依存性にバージョン定義が存在する場合のみ、記録がこのセクションにおいて行われます。このセクションの要素の構造体は、次のとおりです。


typedef struct {
        Elf32_Half      vn_version;
        Elf32_Half      vn_cnt;
        Elf32_Word      vn_file;
        Elf32_Word      vn_aux;
        Elf32_Word      vn_next;
} Elf32_Verneed;

typedef struct {
        Elf32_Word      vna_hash;
        Elf32_Half      vna_flags;
        Elf32_Half      vna_other;
        Elf32_Word      vna_name;
        Elf32_Word      vna_next;
} Elf32_Vernaux;

typedef struct {
        Elf64_Half      vn_version;
        Elf64_Half      vn_cnt;
        Elf64_Word      vn_file;
        Elf64_Word      vn_aux;
        Elf64_Word      vn_next;
} Elf64_Verneed;

typedef struct {
        Elf64_Word      vna_hash;
        Elf64_Half      vna_flags;
        Elf64_Half      vna_other;
        Elf64_Word      vna_name;
        Elf64_Word      vna_next;
} Elf64_Vernaux;
vn_version

この構成要素は、構造体自身のバージョンを示します。

表 7-34 バージョン依存構造体のバージョン

名前 

値 

意味 

VER_NEED_NONE

0

無効バージョン 

VER_NEED_CURRENT

>=1

現在のバージョン 

値 1 は最初のセクション形式を示し、拡張した場合は番号を大きくします。VER_NEED_CURRENT の値は、現在のバージョン番号を示すために必要に応じて変化します。

vn_cnt

この構成要素は、Elf32_Vernaux 配列の要素数を示します。

vn_file

この構成要素は、空文字で終わっている文字列への文字列テーブルオフセットを保持し、バージョン依存性が存在するファイル名を与えます。この名前は、ファイルに存在する .dynamic 依存性 (「動的セクション」を参照) のどれかに一致します。

vn_aux

この構成要素は、この Elf32_Verneed エントリの先頭から、関連付けられているファイル依存性から要求されるバージョン定義の Elf32_Vernaux 配列までのバイトオフセットを保持します。少なくとも 1 つのバージョン依存性が存在しなければなりません。追加バージョン依存性は存在することができ、また番号は vn_cnt 値で示されます。

vn_next

この構成要素は、この Elf32_Verneed エントリの先頭から次の Elf32_Verneed エントリまでのバイトオフセットを保持します。

vna_hash

この構成要素は、バージョン依存性の名前のハッシュ値を保持します (この値は、「ハッシュテーブル」に記述されているハッシュ関数で生成されます)。

vna_flags

この構成要素は、バージョン依存性に固有の情報を保持します。

表 7-35 バージョン依存構造のフラグ

名前 

値 

意味 

VER_FLG_WEAK

0x2

ウィークバージョン識別子 

ウィークバージョン依存性は、ウィークバージョン定義への最初の結び付きを示します。詳細は、「バージョン定義の作成」を参照してください。

vna_other

この構成要素は現在、使用されていません。

vna_name

この構成要素は、空文字で終わっている文字列への文字列テーブルオフセットを保持し、バージョン依存性の名前を与えます。

vna_next

この構成要素は、この Elf32_Vernaux エントリの先頭から次の Elf32_Vernaux エントリまでのバイトオフセットを保持します。

注釈セクション

ソフトウェアを開発して販売する場合、オブジェクトファイルに特別な情報を付加して、他のプログラムから準拠性や互換性などを確認できるようにしたいことがあります。SHT_NOTE 型のセクションと PT_NOTE 型のプログラムヘッダー要素は、この目的に対して使用できます。

セクションとプログラムヘッダー要素での注釈情報は任意の数のエントリを保持します。64 ビットおよび 32 ビットのオブジェクトについては、各エントリはターゲットプロセッサの形式になっている 4 バイトワードの配列です。注釈情報の構造についての説明を容易にするためにラベルを図 7-6 に示します。ただし、ラベルは仕様の一部ではありません。

図 7-5 注釈の情報

Graphic

nameszname

name の先頭 namesz バイトには、エントリの所有者または作者を示す、空文字 で終わっている文字列が存在します。名前の競合を回避するための正式な機構は存在しません。慣例では、ベンダーは識別子として自身の名前 ("XYZ Computer Company" など) を使用します。name が存在しない場合、namesz は 0 になります。name の領域は、パッドを使用して、4 バイトに整列します。必要であれば namesz は、パッドの長さを含みません。

descszdesc

desc の先頭 descsz バイトは、注釈記述を保持します。注釈の記述が存在しない場合、descsz は 0 になります。desc の領域は、必要であればパッドを使用して、4 バイトに整列します。descsz はパットの長さを含みません。

type

このワードは注釈の記述のセマンティクスを示します。各エントリの作者は、自分で種類を管理しますので、1 つの type 値に関して複数の解釈が存在することがあります。したがって、注釈の記述を認識するには、name と type の両方を認識しなければなりません。type は現在、負でない値でなければなりません。

たとえば、以下の注釈のセグメントは 2 つのエントリを保持しています。

図 7-6 注釈セグメントの例

Graphic


注 -

システムは注釈情報 (名前が存在せず (namesz == 0)、名前の長さが 0 (name[0] == '¥0') を予約していますが、現在 type を定義していません。他のすべての名前には、少なくとも 1 つの空ではない文字が存在しなければなりません。


移動セクション

一般に、ELF ファイル内では、初期設定されたデータ変数はオブジェクトファイル内で維持されます。データ変数が非常に大きく、初期設定された (ゼロ以外の) 要素が少数の場合でも、変数全体はやはりオブジェクトファイルで維持されます。

サイズの大きな部分的に初期設定されたデータ変数を含むオブジェクト (FORTRAN COMMON ブロックなどのような) は、多大なディスクスペースオーバーヘッドをもたらすことがあります。SHT_SUNW_move セクションは、こういったデータ変数を圧縮して関連オブジェクトのディスクサイズを減らすメカニズムを提供します。

SHT_SUNW_move セクションは、ELF32_Move または Elf64_Move 型の複数のエントリを含みます。これらのエントリはデータ変数を一時的項目 (.bss) として定義することが可能で、そのためオブジェクトファイル内にスペースを占めることなく、実行時にオブジェクトのメモリーイメージに反映させることができます。移動レコードは、完全なデータ変数を構成するためにデータについてメモリーイメージがどのように初期設定されるかを確立します。

ELF32_Move および Elf64_Move エントリは次のように定義されます。


typedef struct {
        Elf32_Lword		 m_value;
        Elf32_Word      m_info;
        Elf32_Word      m_poffset;
        Elf32_Half      m_repeat;
        Elf32_Half      m_stride;
} Elf32_Move;

#define ELF32_M_SYM(info)       ((info)>>8)
#define ELF32_M_SIZE(info)      ((unsigned char)(info))
#define ELF32_M_INFO(sym, size) (((sym)<<8)+(unsigned char)(size))

typedef struct {
        Elf64_Lword     m_value;
        Elf64_Xword     m_info;
        Elf64_Xword     m_poffset;
        Elf64_Half      m_repeat;
        Elf64_Half      m_stride;
} Elf64_Move;

#define ELF64_M_SYM(info)       ((info)>>8)
#define ELF64_M_SIZE(info)      ((unsigned char)(info))
#define ELF64_M_INFO(sym, size) (((sym)<<8)+(unsigned char)(size))
m_value

この構成要素は、初期設定値 (メモリーイメージへ移動される値) を提供します。

m_info

この構成要素は、初期設定が適用されるものに関するシンボルテーブルインデックスと、初期設定されるオフセットのサイズ (単位: バイト) の両方を提供します。構成要素の下位 8 ビットはサイズを定義し、1、2、4、または 8 になります。上位バイトはシンボルインデックスを定義します。

m_poffset

この構成要素は、初期設定が適用される、関連シンボルからの相対オフセットです。

m_repeat

この構成要素は、繰り返し回数です。

m_stride

この構成要素は、スキップの数を提供します。この値は、繰り返し初期設定を実行する際にスキップするユニットの数を示します。1 ユニットは m_info で定義された初期設定オブジェクトのサイズです。m_stride の値が 0 の場合、初期設定を m_repeat ユニット連続して行うことを示します。

次のデータ定義は、オブジェクトファイル内で通常 0x8000 バイトを消費するものです。


typedef struct {
        int     one;
        char    two;
} Data

Data move[0x1000] = {
        {0, 0},
        {1, '1'},
        {0, 0},
        {0xf, 'F'}, {0xf, 'F'},
        {0, 0},
        {0xe, 'E'},
        {0, 0},
        {0xe, 'E'}
};

SHT_SUNW_move セクションを使用して、データ項目を .bss セクションへ移動し、関連する移動エントリで初期設定することができます。


% elfdump -s data | fgrep move
      [17]  0x00020868 0x00008000  OBJT GLOB 0   .bss       move
% elfdump -m data
Move Section: .SUNW_move
        offset  ndx     size    repeat  stride  value   with respect to
        0x8     0x17    4       1       0       0x1     foo
        0xc     0x17    1       1       0       0x31    foo
        0x18    0x17    4       2       2       0xf     foo
        0x1c    0x17    1       2       8       0x46    foo
        0x28    0x17    4       2       4       0xe     foo
        0x2c    0x17    1       2       16      0x45    foo