日本語入力システムの概要とセットアップ

第 6 章 ATOK8 への移行

この章では、日本語入力システム ATOK7 または cs00 を利用していたユーザーが、ATOK8 に切り替える際に、以前の日本語入力環境をできるだけ維持するための手順や制約事項について説明します。

Solaris 上で ATOK7 を使用していたユーザーが ATOK8 へ移行する場合、ATOK7 の使用環境の一部を ATOK8 の使用環境に反映することができます。

次の 3 点が ATOK7 から ATOK8 へ移行する際に可能です。

また、Solaris 上で cs00 を使用していたユーザーが ATOK8 へ移行する場合、cs00 用のユーザー辞書に登録した単語を利用することができます。

6.1 ATOK7 の 辞書に登録した単語を ATOK8 で利用する

atok8migd コマンドを使って、ATOK7 の辞書に登録した単語を ATOK8 で使用できる形式に変換し、ATOK8 の辞書とマージして使用することができます。

atok8migd は、ATOK7 システム提供時に辞書に含まれている単語はマージしないで、ユーザーが登録した単語だけを、ATOK8 の辞書にマージします。ATOK7 と ATOK8 の両方の辞書に登録されている単語を、ATOK7 の辞書からマージすることはありません。なお、マージ元の ATOK7 の辞書の中身が、マージ処理によって破壊されたり変更されたりすることはありません。

atok8migd コマンドの形式は次のとおりです。

sun% atok8migd [-h xxx] atok7_dic atok8_dic

各引数は次のとおりです。

atok7_dic :   ATOK7の辞書ファイル。システム辞書とユーザー辞書のどちらでも指定でき、特に型を指定しなくても自動的に判別して処理します。
atok8_dic :  ATOK8 の辞書ファイル
-h xxx : 品詞指定。マージする単語を品詞によって限定します。品詞は ATOK7 の品詞番号で指定します。複数の品詞を指定する場合は + で区切ります。品詞番号については表 6-1 を参照してください。

atok8migd は、ja 以外のロケールで動作しません。atok8migdja ローケル以外の環境で実行する場合は、次のように LC_CTYPEja を指定し実行してください。

sun% env LC_CTYPE=ja atok8migd atok7_dic atok8_dic


注意 - 注意 -

atok8dicm コマンドや辞書メンテナンス用単語ファイルなどで使用する品詞番号とは異なりますので、注意してください。


品詞指定の例 :

 1 一般名詞
 2+3 固有名詞と名詞サ変
 3+4+8+9 名詞サ変と名詞ザ変と連体詞と接続詞
 all すべての品詞 ( 1. 一般名詞 〜 29. 副詞 )

表 6-1 ATOK7 の品詞番号と種類

1  

4  

10 

13 

16 

19 

22 

25 

28 

一般名詞  

名詞ザ変  

単漢字 

感動詞 

数詞 

サ行五段 

バ行五段 

ワ行五段 

サ変動詞 

形容動詞 

2  

5  

11 

14 

17 

20 

23 

26 

29 

固有名詞  

名詞形動  

連体詞 

接頭語 

カ行五段 

タ行五段 

マ行五段 

一段動詞 

ザ変動詞 

副詞 

3  

6  

12 

15 

18 

21 

24 

27 

名詞サ変  

独立語  

接続詞 

接尾辞 

ガ行五段 

ナ行五段 

ラ行五段 

カ変動詞 

形容詞 

詳細は、atok8migd(1) のマニュアルページを参照してください。

6.2 ATOK7 のキー操作環境をATOK8 で利用する

ATOK8 では、ATOK8 の標準キー操作の環境設定ファイル atok8.ucf と、ATOK7 のキー操作を好むユーザーのためにカスタマイズファイル atok8.ucf.like7 を提供しています。atok8.ucf.like7 をユーザーの環境にコピーすることで、 ATOK7 に近い操作性を実現することができます。コピー方法は次のとおりです。


注意 - 注意 -

atok8.ucf.like7 ファイルは、キー操作の一部を ATOK7 に似せているだけであり、ATOK7 (Solaris 用) の操作環境すべてを同じにするものではありません。


  1. 次のコマンドを入力します。

    sun% cp /usr/openwin/lib/locale/ja/atok8/atok8.ucf.like7 ¥
    $HOME/.atok8/atok8.ucf
    

    atok8.ucf.like7 がコピーされます。


    注 -

    ファイルをコピーした後、GUI の環境設定ツールを使って、操作環境をカスタマイズすることができます。詳細は、『ATOK8 ユーザーズガイド』の第 10 章「環境設定のカスタマイズ」を参照してください。


  2. ウィンドウシステムを再起動します (または、ログインし直します)。

    以降、ATOK7 に似たキー操作を ATOK8 で行うことができます。

表 6-2 atok8.ucfatok8.ucf.like7 のキー操作の違い
 

機能名称 

atok8.ucf

atok8.ucf.like7

8 [機能名称の左にある番号は、環境設定ツールの機能からのカスタマイズで使用されている番号です。 ]

部首変換 

Shift-F6 」、

Alt- スペース

Alt- スペース

28 

ファイル名全削除 

Home 」キー、

Shift-Del

Shift-BS

47 

単語登録開始 

Ctrl-F6

Shift-F6

51 

辞書ファイル変更 

Ctrl-F8

Shift-F8

54 

固定入力選択メニュー 

Ctrl-F9

Shift-F9

55 

句読点選択メニュー 

Ctrl-F10

 

62 

変換辞書切り替え選択 メニュー 

Shift-F8

 

66 

固定入力英字順次 切り替え 

Shift- 無変換

 

67 

固定入力かな順次 切り替え 

Ctrl- 無変換

 

83 

全角無変換固定(A) オン・オフ 

 

Shift- 無変換

85 

英字入力 オン・オフ 

 

F11 」キー

6.3 ATOK7 の環境設定ファイルを ATOK8 で利用する

ATOK7 の環境設定ファイル (resources) を修正してカスタマイズしている場合、ATOK8 でも同様の操作環境を設定できるものがあります。設定の有無と方法については表 6-3表 6-6 を参照してください。

表 6-3 ATOK8 環境設定ツールでの設定項目 (直接対応する設定項目あり)

モード 

環境設定ファイル内の記述 

備考 

項目名 

値 

変換 モード(H)

*xci*atok7.config.H 

0x2: 連文節変換 

0x3: 自動変換 

0x4: 単文節変換 

「入力モード設定」ウィンドウの 「漢字変換モード」で設定する 

入力 モード(M)

*xci*atok7.config.M 

0x1: ローマ字漢字 (R漢) 

0x2: カナ漢字 (カナ漢) 

0x100: 半角英字漢字 (R漢) 

「入力モード設定」ウィンドウの「漢字入力モード」で設定する。 ただし、半角英字漢字 (R 漢) モードに相当する設定を行う場合は、「入力モード設定」ウィンドウの「漢字入力モード」で「R漢」を、「入力文字種」で「A(ア)」を選択する 

コード体系 (C)

*xci*atok7.config.C 

0x1: JIS 

0x2: 区点 

0x3: EUC 

0x4: シフト JIS 

「入力モード設定」ウィンドウの「コード体系」で設定する 

学習 モード(S)

*xci*atok7.config.S:  

0x0: 学習 off  

0x1: 学習 on 

「入力モード設定」ウィンドウの「辞書学習」で設定する。 ATOK8 の行う各種学習内容の設定は、「自動登録」でそれぞれについてオン・オフを選択できる 

句読点 モード(K)

*xci*atok7.config.K: 0x1e 

以下の組み合わせを、先頭に 0x を付けた 16 進数で表す。  

 

位置 0 のとき 1 のとき 

 

bit 0 ハイフン(−) 長音(ー) 

bit 1 カンマ(,) 読点(、) 

bit 2 ピリオド(.) 句点(。) 

bit 3 角カッコ([]) かぎカッコ (「」) 

bit 4 スラッシュ(/) 中点(・) 

「入力モード設定」ウィンドウの「句読点モード」で設定する。 注意 - bit 0 ハイフン/長音の区分は ATOK7 では無効だったが、ATOK8 でも設定することはできない 

送りがな モード (OKURI) 

*xci*atok7. config.OKURI 

0x0: 本則 

0x1: 省く 

0x2: 送る 

「入力モード設定」ウィンドウの「送り仮名」で設定する 

表 6-4 ATOK8 環境設定ツールでの設定項目 (直接対応する設定項目なし)

モード 

環境設定ファイル内の記述 

備考 

項目名 

値 

ユーザー辞書パス名(USERDIC)

*xci*atok7.config. USERDIC 

/var/mle/ja/atok7 /atok7usr.dic

ATOK8 ではシステム辞書とユーザー辞書が一体となったため、個別の設定ではなく、環境設定ツールの「辞書ファイル設定」ウィンドウで複数辞書の選択機能を使って設定する。 ATOK7 辞書ファイル名を直接指定することはできないが、あらかじめatok8migdを使用して ATOK8 の辞書とマージすることによって、ATOK7 の登録単語を移行して使用することができる

システム辞書パス名(D)

*xci*atok7.config.D 

/usr/lib/mle/ja/ atok7/atok7xl.dic

ローマ字変換モード設定(ROMAJIX)

*xci*atok7.config. ROMAJIX 

0x0: ATOK ローマ字変換 

0x1: 標準ローマ字変換  

ATOK8 の用意しているローマ字変換規則は 1 種類だが、環境設定ツールの「ローマ字カスタマイズ」ウィンドウでカスタマイズができる 

Intermリージョン初期状態キーバインド

*xci*atok7.bind. preedit.init 

 

ATOK8 のキー割り当ては ATOK7 の場合と体系が異なっているため、環境設定ツールの「キーカスタマイズ ("機能からのカスタマイズ"または"キーからのカスタマイズ")」を用いて新たに設定する。 なお、あらかじめ ATOK7 のデフォルトキーに近い割り当てに設定した環境設定ファイル ( atok8.ucf.like7 ) をユーザーのディレクトリにコピーして、これをもとに必要に応じてカスタマイズを行うこともできる

Intermリージョン、Intermフィールド未変換状態キーバインド 

*xci*atok7.bind *preedit.edit  

 

Intermリージョン、Intermフィールド変換状態キーバインド 

*xci*atok7.bind *preedit.conv 

 


注 -

環境設定ツールの詳細については、『ATOK8 ユーザーズガイド』の第 10 章「環境設定のカスタマイズ」を参照してください。


表 6-5 環境設定ファイル (atok8.ucf) を直接編集する項目

モード 

環境設定ファイル内の記述 

備考 

項目名 

値 

先読み解析モード(PREREAD)

*xci*atok7.config. PREREAD 

0x0: 先読み解析する 

0x1: 先読み解析しない  

環境設定ファイル atok8.ucf の項目「PREREAD」を変更する

ATOK の横一列の次候補表示(JIKOHO)

*xci*atok7.config. JIKOHO 

0x0: 表示有効 

0x1: 表示無効  

環境設定ファイル atok8.ucf の項目「KOHOTMG」を変更することにより、候補ウィンドウを表示するまでの変換回数を指定できる。 表示されないように設定することはできないが、最大値の 254 に設定することで動作を擬似的に表示無効のようにさせることはできる


注 -

環境設定ファイルの詳細については、『ATOK8 ユーザーズガイド』の第 10 章「環境のカスタマイズ」を参照してください。


表 6-6 ATOK8 環境設定ツールで項目の設定ができないもの

モード 

環境設定ファイル内の記述 

備考 

項目名 

値 

入力サーバー (htt) とかな漢字変換サーバー (atok7) 間の通信パラメタ

*xci*atok7.connect.type  

*xci*atok7.connect. hostName  

*xci*atok7.connect. rpc.program  

*xci*atok7.connect. rpc.version 

RPC 

localhost  

160001  

ATOK8 は両方の機能を統合し、左記のパラメタを使用していたプロセス間通信を廃止したため、設定の必要はなくなった 

記号モード表示(KIGOU)

*xci*atok7. config.KIGOU 

0x0: 1 行固定表示  

0x1:カスタマイズ表示  

記号モード表示・メニュー表示・候補選択の複数行表示機能は ATOK8 では提供されない。 記号モード・メニュー表示・候補選択でのキー操作の割り当てについては、環境設定ツールの機能からのカスタマイズで設定する 

メニュー表示(MENU)

*xci*atok7. config.MENU 

0x0: 1 行固定表示  

0x1:カスタマイズ表示  

Selectionリージョン、Selectionフィールド初期状態キーバインド

*xci*atok7.bind *lookup.init 

 

Selectionリージョン、Selectionフィールド選択中状態キーバインド 

*xci*atok7.bind *lookup.choice 

 

6.4 cs00 の辞書に登録した単語を ATOK8 で利用する

cs00toatok8 は、cs00 のユーザー辞書を ATOK8 で利用するための変換フィルタです。このフィルタを使用して、cs00 のユーザー辞書から得られる単語リストのファイルを、 ATOK8 の辞書に一括登録することができます。

次に、この変換手順を説明します。

  1. udicmsdtudicm (Solaris CDE 上の場合) 、またはudicmtool (日本語 OpenWindows 上の場合) を用いてユーザー辞書から単語リストのファイルを作成します。

    • udicm を使用する場合

      次を実行します。

      sun% udicm show cs00_u.dic > cs00_u.list
      

      cs00_u.list には cs00 のユーザー辞書名を、cs00_u.list には単語リストのファイル名をそれぞれ指定します。

    • sdtudicm または、udicmtool を使用する場合

      cs00 ユーザーズガイド』の第 4 章「cs00 の辞書ファイルのメンテナンス」を参照してください。

  2. cs00 の単語リストのファイルを ATOK8 の辞書メンテナンスで使用するテキスト形式の単語ファイルに変換します。

    sun% cs00toatok8 cs00_u.list > atok8.list
    

    cs00_u.list には手順 1 で得られた cs00 の単語リストのファイル名を、atok8.list には ATOK8 のテキスト形式の単語ファイルのファイル名を指定します。

  3. ATOK8 辞書メンテナンスツールを使用して、手順 2 で得られたファイルの内容を ATOK8 の辞書に登録します。

    1. ATOK8 のアイコンをダブルクリックして ATOK8 ウィンドウを 呼び出し、ATOK8 ウィンドウの「辞書ツール」ボタンを押します。

    2. ATOK8 辞書メンテナンスツールの「一括登録」ボタンを押します。 一括登録のウィンドウでは、次の例を参考にして入力します。

      • 辞書ファイル名 : /home/user/.atok8/atok8you.dic

      • 単語ファイル名 : /home/user/atok8.list

      • 未登録単語ファイル名 : /home/user/atok8usr.unreg

      • 未登録単語ファイル作成 : する

      atok8.list には手順 2 で指定した ATOK8 のテキスト形式の単語ファイルのファイル名を指定します。

      /home/user には、ユーザーのホームディレクトリを指定します。

      atok8you.dic には、ユーザー登録用の辞書を指定します。

    3. 「適用」ボタンを押します。

      これで、登録は完了です。

    詳細は、『ATOK8 ユーザーズガイド』を参照してください。