Solaris のシステム管理 (資源管理とネットワークサービス)

第 14 章 ネットワークファイルシステムの管理 (概要)

この章では、ネットワーク経由でファイルシステムにアクセスするために使用する NFS サービスの概要を説明します。また、NFS サービスを理解するために必要な概念、および NFS と autofs の最新の機能についても説明します。

NFS の用語

ここでは、NFS サービスを使用するために必要な基本用語について説明します。NFS サービスの詳細は、第 16 章「リモートファイルシステムへのアクセス (リファレンス)」で説明します。

NFS サーバーとクライアント

クライアントとサーバーという用語は、コンピュータがファイルシステムを共有するときの役割を示すものです。ネットワークを介してファイルシステムを提供するコンピュータは、サーバーの役割を果たします。そのファイルシステムにアクセスしているコンピュータをクライアントと呼びます。NFS を使用することによって、どのコンピュータからも他のコンピュータのファイルシステムにアクセスでき、同時に自分のファイルシステムへのアクセスも可能になります。ネットワーク上では 1 台のコンピュータがクライアントかサーバー、またはその両方の役割として動作することができます。

クライアントは、サーバーの共有ファイルシステムをマウントすることによってサーバーのファイルにアクセスします。クライアントがリモートファイルシステムをマウントしたとき、ファイルシステムがコピーされるのではありません。マウントプロセスでは一連のリモート手続き呼び出しによって、クライアントからサーバーのディスク上にあるファイルシステムに透過的にアクセスできるようになります。マウントはローカルマウントのように行われます。ユーザーはファイルシステムがローカルにあるのと同じようにコマンドを入力します。ファイルシステムをマウントする方法については、ファイルシステムのマウント を参照してください。

サーバーのファイルシステムは、NFS オペレーションによって共有すると、クライアントからアクセスできるようになります。NFS ファイルシステムは、autofs を使用すると自動的にマウントできます。share コマンドと autofs に関連する作業については、ファイルシステムの自動共有autofs 管理作業の概要 を参照してください。

NFS ファイルシステム

NFS サービスで共有できるオブジェクトは、ファイル階層の全体、またはその一部です。ファイルを 1 つだけ共有することもできます。すでに共有しているファイル階層と重複するファイル階層は共有できません。モデムやプリンタなどの周辺機器も共有できません。

多くの UNIX システム環境で共有されるファイル階層構造は、1 つのファイルシステム、またはその一部です。しかし NFS サポートは複数のオペレーティングシステムにまたがって動作しますが、ファイルシステムという考え方は UNIX 以外の環境では通用しません。したがって、ファイルシステムという語は、NFS でマウントし共有したファイルまたはファイル階層構造を指します。

NFS サービスについて

NFS サービスとは、アーキテクチャが異なり、別のオペレーティングシステムで動作しているコンピュータが、ネットワークを通じてファイルシステムを共有できるようにするサービスのことです。NFS サポートは、MS-DOS から VMS オペレーティングシステムまで多くのプラットフォームに実装されています。

NFS 環境は、異なるオペレーティングシステムで実現できます。NFS はアーキテクチャの仕様を定義するのではなく、ファイルシステムの抽象モデルを定義しているためです。それぞれのオペレーティングシステムでは、ファイルシステムセマンティクスに NFS 抽象モデルを適用します。このモデルにより、書き込みや読み出しのようなファイルシステムオペレーションが、ローカルファイルにアクセスするように機能することになります。

NFS サービスには次の利点があります。

NFS サービスを使用すると、ファイルシステムの実際の場所をユーザーとは無関係に決めることができます。ユーザーは場所を気にすることなく、すべての適切なファイルにアクセスできるということです。NFS サービスでは、共通して使用するファイルのコピーをすべてのシステムに置くのではなく、コピーを 1 つのコンピュータのディスクに置き、他のシステムからネットワークを通じてアクセスできるようにします。NFS オペレーションでは、リモートファイルシステムとローカルファイルシステムの区別がありません。

autofs について

NFS サービスで共有されるファイルシステムは、「自動マウント」と呼ばれる方法によってマウントできます。クライアント側のサービスである autofs は、自動マウントを実現するファイルシステム構造です。autofs のファイルシステムは、automount で作成されます。automount は、システムを起動すると自動的に実行されます。automountd という常駐型の自動マウントデーモンが、必要に応じてリモートディレクトリのマウントとアンマウントを行います。

automountd を実行しているクライアントコンピュータがリモートのファイルまたはディレクトリにアクセスしようとすると、リモートのファイルシステムがデーモンによってマウントされます。このリモートファイルシステムは、必要な間はマウントされたままです。リモートファイルシステムが一定時間アクセスされないと、自動的にアンマウントされます。

ブート時にマウントする必要はなく、ユーザーはディレクトリをマウントするためにスーパーユーザーのパスワードを知る必要はありません。ユーザーが mountumount コマンドを使用する必要もありません。autofs は、ユーザーの介入なしに、必要に応じてファイルシステムをマウントまたはアンマウントします。

automountd によって一部のファイル階層をマウントするということは、mount によって他の階層をマウントしないということではありません。ディスクレスコンピュータは、mount/etc/vfstab ファイルを使用して / (ルート)、/usr、および /usr/kvm をマウントしなければなりません。

autofs サービスについては、autofs 管理作業の概要autofs のしくみで詳しく説明します。

NFS サービスの機能

ここでは、NFS サービスの重要な機能について説明します。

NFS バージョン 2 プロトコル

バージョン 2 は、一般に広く使用された初めての NFS プロトコルです。バージョン 2 は、引き続き広範囲のプラットフォームで使用できます。Solaris のすべてのリリースが NFS プロトコルのバージョン 2 をサポートし、Solaris 2.5 より以前のリリースはバージョン 2 だけをサポートします。

NFS バージョン 3 プロトコル

NFS バージョン 3 のプロトコルは、Solaris 2.5 で新機能として追加されたものです。相互運用性とパフォーマンスを向上させるために、いくつかの変更が行われました。これらをすべて有効に利用するには、NFS サーバーとクライアントの両方で、バージョン 3 プロトコルを使用する必要があります。

バージョン 3 では、サーバーで非同期の書き込みが可能になります。サーバーがクライアントの書き込み要求をメモリーに保存するので、効率が向上しました。クライアントは、サーバーが変更内容をディスクに反映させるのを待つ必要がないため、応答時間が短縮されます。サーバーは要求をバッチ処理することもできるので、サーバー上の応答時間も短縮されました。

NFS バージョン 3 では、どの操作でもローカルキャッシュに保存されているファイル属性が返されます。キャッシュの更新頻度が増えたため、ローカルキャッシュのデータを更新する操作を独立して行う必要性が少なくなります。したがってサーバーに対する RPC コールの回数が減少し、パフォーマンスが向上します。

ファイルアクセス権の確認処理も改善されました。バージョン 2 では、ユーザーが適切なアクセス権を持っていないリモートファイルをコピーしようとすると、「書き込みエラー」や「読み出しエラー」というメッセージが出力されました。バージョン 3 では、ファイルを開く前にアクセス権がチェックされるので、「オープンエラー」というメッセージが出力されます。

NFS バージョン 3 プロトコルでは、8K バイトの転送サイズ制限が解除されました。クライアントとサーバーは、バージョン 2 の 8K バイトの制限を受けることなく、サポートされている転送サイズをネゴシエートします。Solaris 2.5 から、転送サイズが 32K バイトにデフォルトで設定されています。

NFS ACL サポート

Solaris 2.5 で、アクセス制御リスト (ACL) サポートが追加されました。ACL では、ファイルアクセス権を通常の UNIX よりも厳密に設定します。この追加機能では効率は改善されませんが、ファイルへのアクセスがより厳密に制限されるので、セキュリティが向上します。ACL の詳細は、『Solaris のシステム管理 (セキュリティサービス)』の「アクセス制御リスト (ACL)」を参照してください。

NFS の TCP への依存

NFS プロトコルのデフォルトのトランスポートプロトコルは、Solaris 2.5 で TCP (Transmission Control Protocol) に変更されました。TCP は、低速ネットワークとワイドエリアネットワークのパフォーマンスの向上に役立ちます。TCP には、トラフィック抑制機能とエラー回復機能もあります。TCP を利用した NFS は、バージョン 2 でもバージョン 3 でも動作します。Solaris 2.5 より前のバージョンでは、NFS のデフォルトプロトコルは UDP (User Datagram Protocol) でした。

ネットワークロックマネージャと NFS

Solaris 2.5 からネットワークロックマネージャの改良版も含まれています。このため NFS ファイルに対して UNIX のレコードロックと PC のファイル共有を使用できます。NFS ファイルのロックメカニズムの信頼性の向上により、ロックを使用するコマンドのハングが起こりにくくなりました。

NFS 大規模ファイルのサポート

Solaris 2.6 の NFS バージョン 3 プロトコルから、2G バイトを超えるサイズのファイル (大規模ファイル) も正しく処理できるようになりました。NFS バージョン 2 プロトコル、および Solaris 2.5 に実装されているバージョン 3 プロトコルでは 2G バイトを超えるサイズのファイルは処理できませんでした。

NFS クライアントのフェイルオーバー機能

Solaris 2.6 では、読み取り専用ファイルシステムの動的フェイルオーバー機能が追加されました。フェイルオーバーによって、マニュアルページ、その他のドキュメント、共有バイナリなどのあらかじめ複製されている読み取り専用リソースを高度に利用できます。フェイルオーバー機能は、ファイルシステムがマウントされた後ならばいつでも実行可能です。手動マウントでは、今までのリリースのオートマウンタのように複数の複製をリストできるようになりました。オートマウンタは、フェイルオーバーの際にファイルシステムが再マウントされるまで待つ必要がなくなったこと以外は変更されていません。詳細は、クライアント側フェイルオーバーを使用する方法クライアント側フェイルオーバー機能 を参照してください。

NFS サービスのための Kerberos のサポート

Solaris 2.0 では、Kerberos V4 クライアントがサポートされていました。Solaris 2.6 では、mountshare コマンドが Kerberos V5 認証を使用する NFS バージョン 3 のマウントをサポートするように変更されました。share コマンドもクライアントごとに異なる複数の認証機能を使用できるように変更されました。各種のセキュリティ機能の詳細は、RPCSEC_GSS セキュリティ方式 を参照してください。Kerberos V5 認証の詳細は、『Solaris のシステム管理 (セキュリティサービス)』の「SEAM NFS サーバーの構成」を参照してください。

WebNFS のサポート

Solaris 2.6 には、NFS プロトコルの拡張機能を使用することによってインターネット上のファイルシステムにファイアウォール経由でアクセスできるようにする機能も追加されました。インターネットアクセスに WebNFSTM プロトコルを使用する利点の 1 つは、信頼性が高いことです。このサービスは、NFS バージョン 3 とバージョン 2 プロトコルの拡張として構築されています。また NFS サーバーでは、負荷が大きい状態のときに HTTP (HyperText Transfer Protocol) から Web サーバーへのアクセスよりも高いスループットを確保できます。このため、ファイルを取得するために必要な時間を短縮できます。さらに、WebNFS ではそうしたファイルを共有しても匿名 ftp サイトを管理するオーバーヘッドが生じません。WebNFS サービスのその他の変更については、WebNFS サービスのセキュリティネゴシエーション を参照してください。作業については、WebNFS の管理作業 を参照してください。

RPCSEC_GSS セキュリティ方式

Solaris 7 から、新しいセキュリティ方式である RPCSEC_GSS がサポートされています。この方式では、標準的な GSS-API インタフェースを使用して、認証、一貫性、機密性を実現し、複数のセキュリティメカニズムをサポートしています。Kerberos V5 認証のサポートについての詳細は、NFS サービスのための Kerberos のサポート を参照してください。GSS-API についての詳細は、『GSS-API のプログラミング』を参照してください。

Solaris 7 の NFS に対する拡張機能

Solaris 7 で、mount コマンドと automountd コマンドが拡張され、マウント要求で MOUNT プロトコルの代わりに公開ファイルハンドルも使用できるようになりました。MOUNT プロトコルは、WebNFS サービスが使用するアクセス方法と同じです。公開ファイルハンドルを使用すると、ファイアウォールを越えたマウントが可能です。さらに、サーバーとクライアント間のトランザクションが少なくて済むため、マウントにかかる時間が短縮されます。

この機能拡張で、標準のパス名の代わりに NFS URL を使用することもできるようになりました。また、mount コマンドとオートマウンタのマップに public オプションを指定すると、必ず公開ファイルハンドルを使用するようになります。WebNFS サービスの変更の詳細は、WebNFS のサポート を参照してください。

WebNFS サービスのセキュリティネゴシエーション

Solaris 8 で、WebNFS クライアントが NFS サーバーとセキュリティメカニズムをネゴシエートするための新しいプロトコルが追加されました。このプロトコルの追加により、WebNFS サービスの使用時に、セキュリティ保護されたトランザクションを使用できます。詳細については、WebNFS セキュリティネゴシエーション機能のしくみ を参照してください。

NFS サーバーロギング

Solaris 8 で、NFS サーバーはサーバーロギングによって、ファイルシステムに実行されたファイル操作の記録を提供できるようになりました。この記録には、どのファイルが、いつ、誰によってアクセスされたかという情報が含まれています。一連の構成オプションを使用して、これらの情報を含むログの場所を指定することができます。また、これらのオプションを使用して、ログに記録する処理を選択することもできます。この機能は、NFS クライアントや WebNFS クライアントで匿名 ftp を利用するサイトで特に便利です。詳細は、NFS サーバーログを有効にする方法 を参照してください。

autofs の特徴

autofs は、ローカルの名前空間に指定したファイルシステムで動作します。この情報は、NIS、NIS+、およびローカルファイルに保存されます。

Solaris 2.6 から、完全にマルチスレッド化された automountd が含まれています。この拡張によって autofs はさらに信頼性が高まりました。また、複数のマウントを同時にサービスできるようになったため、サーバーが使用できないときにサービスが停止することも避けられます。

この新しい automountd には、オンデマンドマウント機能もあります。Solaris 2.6 より前のリリースでは、階層に含まれるすべてのファイルシステムがマウントされていました。現在は、いちばん上のファイルシステムしかマウントされません。そのマウントポイントに関係する他のファイルシステムは、必要に応じてマウントされます。

autofs サービスで、間接マップを表示できるようになりました。これによりユーザーは、どのディレクトリがマウントできるかを確認するためにファイルシステムを実際に 1 つずつマウントする必要がなくなります。autofs マップに -nobrowse オプションが追加されたので、/net/home などの大きなファイルが自動的に表示されることはありません。また、automount に対して -n を使用することによって、autofs の表示機能を各クライアントでオフにすることもできます。詳細は、autofs のブラウズ機能を無効にする を参照してください。