リンカーとライブラリ

プログラムの読み込み (プロセッサ固有)

システムは、プロセスイメージを作成または拡張するとき、ファイルのセグメントを仮想メモリーセグメントに論理的にコピーします。システムがファイルをいつ物理的に読み取るかは、プログラムの挙動やシステムの負荷などに依存します。

プロセスは実行時に論理ページを参照しない限り物理ページを必要とせず、また一般に多くのページを未参照状態のままにします。したがって、物理読み取りを遅延させると、これらの物理読み取りが不要になり、システム性能が向上します。この効率性を実際に実現するには、実行可能オブジェクトファイルと共有オブジェクトファイルには、ファイルオフセットと仮想アドレスがページサイズを法として同じであるセグメントイメージが存在しなければなりません。

32 ビットのセグメントの仮想アドレスとファイルオフセットは、64K (0x10000) を法として同じです。64 ビットのセグメントの仮想アドレスとファイルオフセットは、1M バイト (0x100000) を法として同じです。 セグメントを最大ページサイズに整列すると、ファイルは物理ページサイズには関係なくページング処理に対して適切になります。

デフォルトでは 64 ビット SPARC プログラムは開始アドレス (0x100000000) にリンクされます。プログラム全体 (テキスト、データ、ヒープ、スタック、共有オブジェクトの依存関係を含む) は、4G バイトより上に存在します。そうすることにより、プログラムがポインタを切り捨てると、アドレス空間の最下位 4G バイトでフォルトが発生することになるので、64 ビットプログラムが正しく作られたことを確認することがより容易になります。64 ビットプログラムは4G バイトより上でリンクされていますが、コンパイラあるいはリンカーに mapfile および -M オプションを使用することにより、4G バイト未満でリンクすることも可能です。詳細は、/usr/lib/ld/sparcv9/map.below4G を参照してください。

次の図に、SPARC バージョンの実行可能ファイルを示します。

図 7–7 SPARC: 実行可能ファイル (64K に整列)

SPARC 実行可能ファイルのレイアウトの例。

次の表に、前の図に示した読み込み可能セグメント要素の定義を示します。

表 7–39 SPARC: ELF プログラムヘッダーセグメント (64K に整列)

構成要素 

テキスト 

データ 

p_type

PT_LOAD

PT_LOAD

p_offset

0x0

0x4000

p_vaddr

0x10000

0x24000

p_paddr

指定なし 

指定なし 

p_filesize

0x3a82

0x4f5

p_memsz

0x3a82

0x10a4

p_flags

PF_R + PF_X

PF_R + PF_W + PF_X

p_align

0x10000

0x10000

次の図に、x86 バージョンの実行可能ファイルの例を示します。

図 7–8 x86: 実行可能ファイル (64K に整列)

x86 実行可能ファイルのレイアウトの例。

次の表に、前の図に示した読み込み可能セグメント要素の定義を示します。

表 7–40 x86: ELF プログラムヘッダーセグメント (64K に整列)

構成要素 

テキスト 

データ 

p_type

PT_LOAD

PT_LOAD

p_offset

0x0

0x4000

p_vaddr

0x8050000

0x8064000

p_paddr

指定なし 

指定なし 

p_filesize

0x32fd

0x3a0

p_memsz

0x32fd

0xdc4

p_flags

PF_R + PF_X

PF_R + PF_W + PF_X

p_align

0x10000

0x10000

例に示したファイルオフセットと仮想アドレスは、テキストとデータの両方に対して最大ページサイズを法として同じですが、最大 4 ファイルページ (ページサイズとファイルシステムブロックサイズに依存) に、純粋ではないテキストやデータが含まれます。


注 –

上記の例は、テキストセグメントを丸めた、典型的な Solaris のシステムバイナリを反映したものです。


データセグメントの終わりは、初期化されていないデータに対して特別な処理を必要とします (初期値が 0 になるようにシステムで定義されている)。ファイルの最後のデータページに、論理メモリーページに存在しない情報が存在する場合、これらのデータは 0 に設定しなければなりません (実行可能ファイルの未知の内容のままにしてはならない)。

他の 3 ページに存在する純粋でないテキストまたはデータは、論理的にはプロセスイメージの一部ではありません。システムがこれらの純粋でないテキストまたはデータを除去するかどうかについては、規定されていません。このプログラムのメモリーイメージが 4K バイト (0x1000) ページを使用する例を、次の図に示します。単純化するために次の図では、1 ページのサイズのみを示しています。

図 7–9 SPARC: プロセスイメージセグメント

SPARC プロセスイメージセグメントの例。

図 7–10 x86: プロセスイメージセグメント

x86 プロセスイメージセグメントの例。

セグメント読み込みは、実行可能ファイルと共有オブジェクトでは異なる側面が 1 つ存在します。実行可能ファイルのセグメントには、標準的には絶対コードが存在します。プロセスを正しく実行するには、セグメントは実行可能ファイルを作成するために使用された仮想アドレスに存在しなければなりません。システムは変化しない p_vaddr 値を仮想アドレスとして使用します。

一方、通常は共有オブジェクトのセグメントには、位置に依存しないコードが存在します。したがって、セグメントの仮想アドレスは、実行動作を無効にすることなくプロセスごとに変化させることができます。

システムは個々のプロセスごとに仮想アドレスを選択しますが、セグメントの相対位置は維持します。位置に依存しないコードはセグメント間で相対アドレス指定を使用するので、メモリーの仮想アドレス間の差は、ファイルの仮想アドレス間の差に一致しなければなりません。

以下の表は、いくつかのプロセスに対する共有オブジェクト仮想アドレスの割り当ての例で、一定の相対位置になることを示しています。これらの表は、ベースアドレスの計算も示しています。

表 7–41 SPARC: ELF 共有オブジェクトセグメントアドレスの例

出所 

テキスト 

データ 

ベースアドレス 

ファイル 

0x0

0x4000

0x0

プロセス 1 

0xc0000000

0xc0024000

0xc0000000

プロセス 2 

0xc0010000

0xc0034000

0xc0010000

プロセス 3 

0xd0020000

0xd0024000

0xd0020000

プロセス 4 

0xd0030000

0xd0034000

0xd0030000

表 7–42 x86: ELF 共有オブジェクトセグメントアドレスの例

出所 

テキスト 

データ 

ベースアドレス 

ファイル 

0x0

0x4000

0x0

プロセス 1 

0x8000000

0x8004000

0x80000000

プロセス 2 

0x80081000

0x80085000

0x80081000

プロセス 3 

0x900c0000

0x900c4000

0x900c0000

プロセス 4 

0x900c6000

0x900ca000

0x900c6000

プログラムインタプリタ

動的リンクを開始する動的実行可能ファイルまたは共有オブジェクトは、1 つの PT_INTERP プログラムヘッダー要素を保持できます。exec(2) の実行時に、システムは PT_INTERP セグメントからパス名を取り出し、インタプリタファイルのセグメントから初期プロセスイメージを作成します。インタプリタはシステムから制御を受け取り、アプリケーションプログラムに対して環境を提供する必要があります。

Solaris オペレーティング環境では、インタプリタは実行時リンカー、ld.so.1(1) として知られています。