JavaScript is required to for searching.
ナビゲーションリンクをスキップ
印刷ビューの終了
デバイスドライバの記述     Oracle Solaris 10 1/13 Information Library (日本語)
search filter icon
search icon

ドキュメントの情報

はじめに

パート I Oracle Solaris プラットフォーム用デバイスドライバの設計

1.  Oracle Solaris デバイスドライバの概要

2.  Oracle Solaris カーネルとデバイスツリー

3.  マルチスレッド

4.  プロパティー

5.  イベントの管理とタスクのキュー

6.  ドライバの自動構成

7.  デバイスアクセス: プログラム式入出力

8.  割り込みハンドラ

9.  ダイレクトメモリーアクセス (DMA)

10.  デバイスメモリーおよびカーネルメモリーのマッピング

11.  デバイスコンテキスト管理

12.  電源管理

13.  Oracle Solaris ドライバの強化

14.  階層化ドライバインタフェース (LDI)

パート II 特定の種類のデバイスドライバの設計

15.  文字デバイスのドライバ

16.  ブロックデバイスのドライバ

17.  SCSI ターゲットドライバ

18.  SCSI ホストバスアダプタドライバ

19.  ネットワークデバイスのドライバ

20.  USB ドライバ

21.  SR-IOV ドライバ

パート III デバイスドライバの構築

22.  ドライバのコンパイル、ロード、パッケージ化、およびテスト

23.  デバイスドライバのデバッグ、テスト、およびチューニング

24.  推奨されるコーティング方法

デバッグ準備手法

一意の接頭辞を使用してカーネルシンボルの衝突を回避する

cmn_err() を使用してドライバの活動を記録する

ASSERT() を使用して無効な前提条件を見つける

mutex_owned() を使用してロック要件の検証とドキュメント化を行う

条件付きコンパイルを使用してコストの高いデバッグ機能を切り替える

変数の volatile 宣言

保守性

定期的な健全性検査

パート IV 付録

A.  ハードウェアの概要

B.  Solaris DDI/DKI サービスのサマリー

C.  64 ビットデバイスドライバの準備

D.  コンソールフレームバッファードライバ

E.  pci.conf ファイル

索引

デバッグ準備手法

ドライバコードのデバッグは、次の理由から、ユーザープログラムの場合より困難です。

ドライバにはデバッグのサポートを組み込むようにします。このサポートは、保守作業と将来の開発を促進します。

一意の接頭辞を使用してカーネルシンボルの衝突を回避する

それぞれの関数、データ要素、およびドライバプリプロセッサの定義は、ドライバごとに一意であることが必要です。

ドライバモジュールはカーネルにリンクされます。特定のドライバに対して一意である各シンボルの名前は、決してほかのカーネルシンボルと衝突しないようにしてください。そのような衝突を回避するには、特定のドライバの関数とデータ要素のそれぞれに、そのドライバに共通の接頭辞を使用して名前を付ける必要があります。接頭辞を使用すると、各ドライバシンボルに一意の名前を付けるのに十分なはずです。通常、この接頭辞はドライバの名前またはドライバ名の略語になります。たとえば xx_open() は、ドライバ xxopen(9E) ルーチンの名前です。

ドライバを作成するときには、ドライバに必ずいくつかのシステムヘッダーファイルを含める必要があります。これらのヘッダーファイル内に記載された、グローバルに認識される名前を予測することはできません。これらの名前との衝突を避けるには、識別用の接頭辞を使用して、各ドライバプリプロセッサの定義に一意の名前を付ける必要があります。

ドライバシンボルの接頭辞を識別できれば、トラブルシューティング時にシステムログやパニックを解読する助けにもなります。あいまいな attach() 関数に関連するエラーを確認する代わりに、xx_attach() に関するエラーメッセージを確認します。

cmn_err() を使用してドライバの活動を記録する

cmn_err(9F) 関数を使用して、デバイスドライバ内からシステムログにメッセージを出力します。カーネルモジュール用の cmn_err (9F) 関数はアプリケーション用の printf(3C) 関数と似ています。cmn_err(9F) 関数には、デバイスレジスタのビットを出力する %b 書式などの追加の書式文字が用意されています。cmn_err(9F) 関数はシステムログにメッセージを書き込みます。/var/adm/messages にあるこれらのメッセージは、tail(1) コマンドを使用して監視します。

% tail -f /var/adm/messages

ASSERT() を使用して無効な前提条件を見つける

アサーションは非常に役立つ形式のアクティブドキュメントです。ASSERT(9F) の構文は次のとおりです。

void ASSERT(EXPRESSION)

ASSERT() マクロは、真であることが予期されている条件が実際には偽である場合、カーネルの実行を停止します。ASSERT() はプログラマに、特定のコードによって作成された前提条件を検証する方法を提供します。

ASSERT() マクロが定義されるのは、DEBUG コンパイルシンボルが定義されている場合のみです。DEBUG が定義されていない場合、ASSERT() マクロは有効になりません。

次のアサーションの例では、特定のポインタの値は NULL ではないという前提条件をテストしています。

ASSERT(ptr != NULL);

ドライバが DEBUG を使用してコンパイルされていて、実行のこの時点で ptr の値が NULL である場合、次のパニックメッセージがコンソールに出力されます。

panic: assertion failed: ptr != NULL, file: driver.c, line: 56

注 - ASSERT(9F) は DEBUG コンパイルシンボルを使用するため、どの条件付きデバッグコードでも DEBUG を使用します。


mutex_owned() を使用してロック要件の検証とドキュメント化を行う

mutex_owned(9F) の構文は次のとおりです。

int mutex_owned(kmutex_t *mp);

ドライバ開発のかなりの部分で、複数のスレッドを正しく処理する必要があります。mutex が取得されるときには常にコメントを使用する必要があります。明らかに必要な mutex が取得されていない場合は、コメントがさらに役立つことがあります。mutex がスレッドによって保持されているかどうかを判定するには、ASSERT(9F) 内で mutex_owned() を使用します。

void helper(void)
{
    /* this routine should always be called with xsp's mutex held */
    ASSERT(mutex_owned(&xsp->mu));
    /* ... */
}

注 - mutex_owned()ASSERT () マクロ内でのみ有効です。ドライバの動作を制御するためには mutex_owned() を使用してください。


条件付きコンパイルを使用してコストの高いデバッグ機能を切り替える

DEBUG などのプリプロセッサシンボルを使用するか、グローバル変数を使用すると、条件付きコンパイルによってドライバ内にデバッグ用のコードを挿入できます。条件付きコンパイルを使用すると、本番ドライバ内で不要なコードを削除できます。実行時のデバッグの出力量を設定するには変数を使用します。出力は、ioctl またはデバッガを使用して実行時のデバッグレベルを設定することで指定できます。通常は、これらの 2 つの方法が組み合わせられます。

次の例はコンパイラを使って到達不能コード (この場合は常に偽となるゼロのテストに続くコード) を削除しています。この例では、/etc/system で設定したり、デバッガによってパッチを適用したりできるローカル変数も提供しています。

#ifdef DEBUG
/* comments on values of xxdebug and what they do */
static int xxdebug;
#define dcmn_err if (xxdebug) cmn_err
#else
#define dcmn_err if (0) cmn_err
#endif
/* ... */
    dcmn_err(CE_NOTE, "Error!\n");

このメソッドは、cmn_err(9F) が可変数の引数を持つ状況を処理します。もう 1 つのメソッドは、マクロには引数が 1 つ (cmn_err(9F) 用の括弧付きの引数の一覧) あることを利用します。マクロはこの引数を削除します。このマクロは、DEBUG が定義されていない場合はマクロをゼロに展開することによって、オプティマイザへの依存も削除します。

#ifdef DEBUG
/* comments on values of xxdebug and what they do */
static int xxdebug;
#define dcmn_err(X) if (xxdebug) cmn_err X
#else
#define dcmn_err(X) /* nothing */
#endif
/* ... */
/* Note:double parentheses are required when using dcmn_err. */
    dcmn_err((CE_NOTE, "Error!"));

この手法は多くの方法で拡張できます。1 つの方法として、xxdebug の値に応じて、cmn_err(9F) にあるさまざまなメッセージを指定します。ただし、そのような場合は、デバッグ情報が多すぎてコードが複雑でわかりにくくならないように気を付ける必要があります。

もう 1 つ一般的なのは、xxlog() 関数を記述する方法です。この関数は vsprintf(9F) または vcmn_err(9F) を使用して可変変数の一覧を処理します。