第1章 新機能および変更点
Unbreakable Enterprise Kernelリリース3 (UEK R3)は、x86-64アーキテクチャ上のOracle Linux 6向けにテストを重ね、最適化されたオペレーティング・システム・カーネルのオラクル社が提供する3番目のメジャー・リリースです。 これはメインラインのLinuxカーネル・バージョン3.8.13に基づいています。
3.8.13-35リリースは、UEK R3向けの2番目の四半期更新リリースです。 このリリースには、セキュリティとバグの修正、ドライバの更新が含まれます。
オラクル社は、積極的に、アップストリーム・チェックインを監視し、クリティカルなバグおよびセキュリティの修正をUEK R3に適用しています。
UEK R3では、メインラインのLinuxカーネル・バージョンと同じバージョニング・モデルを使用します。 一部のアプリケーションでは、3.xバージョニング・スキームが認識されない可能性があります。 アプリケーションに2.6のコンテキストが必要な場合は、uname26ラッパー・コマンドを使用すると、アプリケーションを開始できます。 ただし、通常のLinuxアプリケーションでは、通常はLinuxカーネルのバージョン番号は認識されず、それによる影響もありません。
1.1 注目すべき変更点
hpsa
ドライバの更新では、HP Smartアレイ・コントローラ用の新しいPCI IDと、HP SSD Smart Path機能が追加され、SSDベースのHP ProLiantサーバーにおけるHP Smartアレイ・コントローラのパフォーマンスが向上します。Intelイーサネット・コントローラXL710ファミリーのサポートが追加されました。
Microsoft Hyper-V上で動作するOracle Linuxゲストをサポートするため、準仮想化ドライバが追加または更新されました。
すべてのアクティブなCPUで、割込みレベルが高く、固定間隔で起動する
profile-
プローブが、DTraceプロファイル・プロバイダでサポートされるようになりました。 (比較として、n
tick-
プローブは、間隔ごとに1つのCPUでのみ起動し、起動対象のCPUは一定間隔で変更される場合があります。)n
のデフォルトの単位は秒当たりの起動レートとして表される周波数です。n
tick-
プローブと同じ接頭辞を使用して、時間間隔または周波数のいずれかを指定できます。n
四半期更新2ではdracutの要件変更があり、現在はバージョン004-303.0.3以上が必要です。
UEK3リリースでは、
kernel-uek-headers
パッケージのビルドと配信が行われなくなりました。 カーネル・モジュールのビルドには、kernel-uek-devel
パッケージのみが必要です。 ヘッダー・パッケージが必要な場合は、kernel-headers
パッケージを使用してください。クライアント側のNFS over RDMA (Remote Direct Memory Access)の制限付きサポートが有効化されました。 サーバー側のNFS over RDMAは無効です。
1.2 Xenの改良点
Rx (受信)とTx (送信)パスの問題に関するnetbackでの修正(バグID 18379272)。
リソース・リークおよびタイマー消失に関するnetfrontでの修正(バグID 18348558)。
仮想CPU (VCPU)ホットプラグ・コードでの修正(バグID 18348666)。
PCIパススルーに対応した物理対マシン(P2M)コードでの修正(バグID 18355746)。
1.3 ドライバの更新
Unbreakable Enterprise Kernelでは、広範なハードウェアおよびデバイスをサポートします。 ハードウェアおよびストレージのベンダーとの密接な協力関係により、いくつかのデバイス・ドライバがオラクル社によって更新されました。
1.3.1 ストレージ・アダプタ・ドライバ
NetXtreme IIファイバ・チャネル・オーバー・イーサネット(FCoE)ドライバ(
bnx2fc
)の2.4.2eへの更新。
ファイバ・チャネル・ホスト・バス・アダプタ(HBA)ドライバfcpim (
bfa
)の3.2.23.0への更新。
Cisco FCoE HBAドライバ(
fnic
)の1.6.0.10への更新。
OneConnect(旧Blade Engine 2) Open-iSCSIドライバ(
be2iscsi
)の10.2.125.0oへの更新。
HP Smartアレイ・コントローラ・ドライバ(
hpsa
)の3.4.4-1への更新。
NVM Expressデバイス・ドライバ(
nvme
)の0.9への更新。
ファイバ・チャネルHBAドライバ(
qla2xxx
)の8.07.00.08.39.0-k1への更新。iSCSI HBAドライバ(
qla4xxx
)の5.04.00.05.06.02-uek3への更新。
1.3.2 ネットワーク・アダプタ・ドライバ
NetXtreme II 1 Gigabitネットワーク・アダプタ・ドライバ(
bnx2
)の2.2.5fへの更新。NetXtreme II 10 Gigabitネットワーク・アダプタ・ドライバ(
bnx2x
)の1.710.10への更新。NetXtreme II統合ネットワーク・インタフェース・カード・コア・ドライバ(
cnic
)の2.5.18dへの更新。Tigon3イーサネット・アダプタ・ドライバ(
tg3
)の3.136eへの更新。
10ギガビットPCI Expressネットワーク・アダプタ・ドライバ(
bna
)の3.2.23.0への更新。
VICイーサネットNICドライバ(
enic
)の2.1.1.50への更新。
OneConnect (旧Blade Engine 2) 10Gbpsアダプタ・ドライバ(
be2net
)の10.2uへの更新。
PRO/1000 PCI Express Gigabitネットワーク・アダプタ・ドライバ(
e1000e
)の3.0.4-NAPIへの更新。イーサネット・コネクションXL710ネットワーク・アダプタ・ドライバ(
i40e
)バージョン0.3.9-kの追加。ギガビット・イーサネット・ネットワーク・アダプタ・ドライバ(
igb
)の5.1.2への更新。ギガビット仮想機能ドライバ(
igbvf
)の2.3.3への更新。10ギガビットPCI Expressネットワーク・アダプタ・ドライバ(
ixgbe
)の3.19.1への更新。10ギガビットPCI Express仮想機能ドライバ(
ixgbevf
)の2.12.1への更新。
Sun Blade 40/10ギガビット・イーサネット・ネットワーク・ドライバ(
sxge
)の0.11202013への更新。Sun Blade仮想化40/10ギガビット・イーサネット・ネットワーク・ドライバ(
sxgevf
)の0.11202013への更新。
1/10 GbE統合/インテリジェント・イーサネット・アダプタ・ドライバ(
qlcnic
)の5.3.55.6への更新。10ギガビットPCI-Eイーサネット・アダプタ・ドライバ(
qlge
)の1.00.00.34への更新。
1.3.3 その他のドライバ
Intel CPU用パッケージ・レベルのCステート・アイドル・インジェクション・ドライバ(
intel_powerclamp
)の追加。
Microsoft Hyper-V上で動作するOracle Linuxゲストをサポートするため、次の準仮想化ドライバが追加または更新されました。
HID準拠のマウス・ドライバ(
hid-hyperv
)balloonドライバ(
hv_balloon
)ネットワーク・ドライバ(
hv_netvsc
)仮想化ストレージ・ドライバ(
hv_storvsc
)ユーティリティ(
hv_utils
)VMBusドライバ(
hv_vmbus
)統合フレーム・バッファ・ビデオ・ドライバ(
hyperv_fb
)キーボード・ドライバ(
hyperv-keyboard
)
1.4 テクノロジ・プレビュー
Unbreakable Enterprise Kernelリリース3に含まれている次の機能は、まだ開発中ですが、テストと評価の目的で使用できます。
分散複製型ブロック・デバイス(DRBD)
非共有型の同時複製ブロック・デバイス(ネットワーク経由のRAID1)で、高可用性(HA)クラスタのビルディング・ブロックの役割を果たすように設計されています。 自動フェイルオーバーのためにはクラスタ・マネージャ(ペースメーカーなど)が必要です。
カーネル・モジュール署名機能
暗号署名チェックをモジュール・ロード時にモジュールに適用し、カーネルにコンパイルされた公開キー・リングに対して署名をチェックします。 GPGは暗号化の作業を行うために使用され、署名およびキーのデータの書式を決定します。
Transcendent Memory
高性能メモリー(tmem)は、システム内で十分に利用されていないメモリーを回収して、最も必要とされる場所で利用できるようにすることで、仮想化環境での物理メモリーの利用を改善するための新しい方法を提供します。 オペレーティング・システムの観点から見れば、tmemはサイズが不確定で可変の高速擬似RAMで、主として実際のRAMが不足しているときに役に立ちます。 このテクノロジとそのユースケースの詳細は、透過メモリー・プロジェクト・ページ(https://oss.oracle.com/projects/tmem/)を参照してください。
1.5 互換性
Oracle LinuxではRed Hat Enterprise Linuxとのユーザー空間の互換性が維持され、これはオペレーティング・システムの下で実行されているカーネルのバージョンとは無関係です。 ユーザー空間の既存のアプリケーションは、Unbreakable Enterprise Kernelリリース3で変更なしに引き続き実行され、RHEL認定アプリケーションには証明書の更新は不要です。
Oracle Linuxチームはリリース時の互換性に関する影響を最小限に抑えるため、カーネル・モジュールに対する依存性があるハードウェアおよびソフトウェアを提供するサード・パーティ・ベンダーと緊密に協力しています。 UEK R3のカーネルABIは、最初のリリースの後のすべての更新において変更されていません。 このリリースでは、システム上でサード・パーティのカーネル・モジュールの再コンパイルを必要とするUEK R2と比較してカーネルABIに対する変更点があります。 UEK R3をインストールする前に、アプリケーション・ベンダーとそのサポート状況を確認してください。
1.6 開発用ヘッダー・パッケージ
kernel-headers
およびkernel-uek-headers
パッケージには、ユーザー領域のバイナリまたはライブラリとUEKおよびRHCK間のインタフェースを指定するCヘッダー・ファイルが用意されています。 これらのヘッダー・ファイルでは、ほとんどの標準プログラムのビルドまたはglibc
パッケージの再ビルドに必要な構造体および定数を定義します。
kernel-devel
およびkernel-uek-devel
の各パッケージには、UEKおよびRHCKに対するモジュールのビルドに必要なカーネル・ヘッダーとmakefileが用意されています。