29 アイデンティティ管理診断フレームワークの使用

アイデンティティ管理診断フレームワーク(IDMDF)の使用には、フレームワークの有効化と構成、IDMDFの動作の理解、ロギングとデバッグの出力の使用が含まれます。

29.1 アイデンティティ管理診断フレームワークについて

アイデンティティ管理診断フレームワーク(IDMDF)は、最初の発生診断および(サービス・レベル合意) SLAベースの通知を提供するフレームワークです。

IDMDFには、問題をより迅速に解決するための診断フレームワークが用意されています。

このクラスは次の機能を提供します。

  • 事前定義済イベントに対するSLAベースのイベント・モニタリングの有効化/無効化
  • 事前定義済イベントのSLAの更新/設定
  • SLA違反の詳細なイベント・ロギング
  • イベント・ログとともにSLA違反の通知
  • インメモリー・ロギングが有効な場合にのみ、失敗した操作およびSLA違反のトレース・レベル・ログ(まれなケースでのみ使用する必要があります)。

29.2 IDMDFの有効化

IDMDFは、IDMDF: Sysadminによって有効化/無効化システム・プロパティの値を設定することで有効または無効になります。

IDMDFを使用したOracle Identity GovernanceでのSLAベース・モニタリングは、デフォルトで無効になっています。有効にするには:
  1. アイデンティティ・システム管理にログインします。
  2. 左のナビゲーション・ペインの「システム構成」で、「構成プロパティ」をクリックします。
  3. 「システム構成」タブで、キーワードIDM.Diagnostics.Enabledを使用してIDMDF: Sysadminによって有効化/無効化システム・プロパティを検索します。
  4. システム・プロパティ名をクリックして開きます。
  5. 値フィールドで、現在の値をtrueに置き換えます。
  6. 「保存」をクリックします。

29.3 IDM診断フレームワークの構成

Oracle Identity Governanceには、SLAベースの監視および通知を制御するために事前定義された多くのシステム・プロパティが用意されています。

システム・プロパティの値を変更して、様々な操作をデバッグする方法を変更できます。表29 -1に、これらのプロパティをリストします。

表29-1 ロギングを制御する構成可能なプロパティ

システム・プロパティ 説明 デフォルト/サンプル値
IDMDF: デバッグ・モード(true/false) IDMDFフレームワークのログをログ・ファイルに保存するかどうかを決定するためのプロパティ。 デフォルト値はFalseであるため、デバッグ・モードは無効です。

Trueに設定すると、デバッグ・モードが有効になります。

IDMDF: デフォルトSLA イベントのデフォルトSLAのサイズを決定するためのプロパティ。 600000ミリ秒
IDMDF: SMTPサーバー名 電子メール通知を送信するサーバーを指定するためのプロパティ。 localhost
IDMDF: フラッド制御期間(日数) フラッド制御最大電子メールの保存期間を日数で示すためのプロパティ。定義された日数が経過すると、フラッド制御最大電子メール・カウンタがリセットされます。 1
IDMDF: Sysadminによって有効化/無効化 IDMDFを有効または無効にするためにシステム管理者によって使用されるプロパティ。 false
IDMDF: 状況依存ログを保持するバッファ・サイズ 製品の詳細ログを保持するキュー内のレコード数を決定するためのプロパティ。 10000
IDMDF: 失敗したレコードを保持するバッファ・サイズ 失敗(機能/SLA)イベントを保持するキュー内のレコード数を決定するためのプロパティ。 1000
IDMDF: 同時に実行できなかったイベントの最大数 イベントを同時に実行し、データベースに配置するスレッド数を決定するためのプロパティ。 2
IDMDF: インメモリー・ロギング ログをメモリーに格納するかどうかを決定するためのプロパティ。 false
IDMDF: 添付ファイル・パス 添付ファイルを格納するパスを指定するためのプロパティ。 デフォルト値: /scratch/IDMDFAttachment

サンプル値: OIM_HOME/IDMDFAttachment/

IDMDF: 通知テンプレート・ファイル名 通知テンプレート・ファイル名を決定するためのプロパティ。 None
IDMDF: 電子メール・メッセージ・テンプレート・パス 電子メール・メッセージ・テンプレートのパスを決定するためのプロパティ。 None
IDMDF: SLAテンプレート・ファイル名 定義済のユース・ケースのSLAのリストを含むファイルを決定するためのプロパティ。 None
IDMDF: IDMDF Rest serviceエンドポイント IDMDFサービスがデプロイされるURLを決定するためのプロパティ。 http://localhost:PORT/idmeventrecording
IDMDF: 電子メール通知元 通知の送信元の電子メール・アドレスを決定するためのプロパティ。 dummy.dummy@dummy.com
IDMDF: 電子メール通知先 通知の送信先の電子メール・アドレスを決定するためのプロパティ。 dummy.dummy@dummy.com
IDMDF: 通知プロバイダ 通知の送信に使用されるサービスを決定するためのプロパティ。 oracle.idm.diagnostics.notification.service.impl.IdmdfNotifier

ノート: デフォルトの通知プロバイダを変更し、カスタム通知プロバイダを使用する場合は、oracle.idm.diagnostics.notification.service.impl.IdmdfNotifierベース・クラスを拡張します。そのためには、「カスタム通知プロバイダの構成」で説明している手順を実行します。

IDMDF: フラッド制御最大電子メール ユース・ケースごとに許可される通知の最大数を決定するためのプロパティ。 2

事前定義済のIDMDFシステム・プロパティの詳細は、「Oracle Identity Governanceのデフォルトのシステム・プロパティ」を参照してください。

システム・プロパティの変更の詳細は、「システム・プロパティの編集」を参照してください。

29.4 SLAモニタリングのワークフローについて

IDMDFによるロギングおよび通知の優先順位は、カスタム・システム・プロパティ、事前定義済SLA値、すべてのイベントのデフォルトSLA値の順です。

IDMDFを有効化すると、SLAモニタリングと通知は次のように動作します。
  1. Oracle Identity Governanceでは、操作またはイベントのSLA値を設定できます。これは、IDMDF:EVENT_NAMEという形式のキーワードを使用してシステム・プロパティを定義し、適切な値を指定することで実行できます。「事前定義済操作のSLA」にリストされているように、事前定義済イベントAPIおよび対応するSLA値のリストを参照して、イベント名を判別できます。

    たとえば、検索カタログ・イベントの場合、作成するシステム・プロパティにキーワードIDMDF.Search.Catalogを指定し、値を50000に設定します(ミリ秒単位)。ここでは、事前定義済イベントAPI名はSearch Catalog-APIです。システム・プロパティに指定した値により、事前定義済のSLA値(60000ミリ秒)がオーバーライドされます。そのため、検索カタログの操作が完了するまでに50000ミリ秒より長くかかる場合、診断情報を含む通知が管理者に送信されます。

    ノート:

    システム・プロパティの作成の詳細は、「システム・プロパティの追加」を参照してください。

    IDMDFの出力および通知が送信されるメール形式の詳細は、「出力の理解」を参照してください。

    イベントに対してプロパティが定義されていて、その適切な値が設定されている場合、IDMDFはそのプロパティを使用して通知をログに記録および送信します。
  2. イベントに対してシステム・プロパティを定義しない場合、そのイベントAPIのデフォルトのSLA値は、SLAモニタリングと通知の送信のためにIDMDFで考慮されます。
  3. イベントに対してSLA値が事前定義されていない場合、そのイベントのSLA値はIDMDF: デフォルトSLAシステム・プロパティによって決定されます。IDMDF: デフォルトSLAシステム・プロパティの詳細は、「Oracle Identity Governanceのデフォルトのシステム・プロパティ」を参照してください。

29.5 事前定義済操作のSLA

Oracle Identity Governanceには、様々な操作に対するデフォルトのSLA値が用意されています。

表29-2に、事前定義済の操作またはイベントとそれに対応するSLA値を示します。

表29-2 事前定義済のイベントとSLA値

カテゴリ イベント SLA (ミリ秒)
カタログAPI Find Catalog-API 60000
カタログAPI Search Catalog-API 60000
カタログAPI Catalog Item Details-API 60000
カタログAPI Catalog Details In Bulk-API 60000
カタログAPI Catalog Details As Metadata-API 60000
カタログUI Find Catalog-UI 60000
カタログUI Catalog Item Details-UI 60000
自己登録API Self Registration-API 60000
自己登録UI Self Registration-UI 60000
リクエストのトラッキングAPI Get Request Data-API 60000
リクエストのトラッキングAPI Withdraw Request_API 60000
リクエストのトラッキングAPI Close Request-API 60000
リクエストのトラッキングAPI Get Requests-API 60000
リクエストのトラッキングUI Track Request-UI 60000
リクエストのトラッキングUI Withdraw Request-UI 60000
リクエストのトラッキングUI Close Request-UI 60000
リクエストのトラッキングUI Get Requests-UI 60000
アプリケーション・オンボーディング Create Application-REST 60000
アプリケーション・オンボーディング Create Application-API 60000
アプリケーション・オンボーディング Create Application Instance-API 60000
リコンシリエーション Create Reconciliation Event-API 60000
プロビジョニング Account Provision-API 60000
プロビジョニング Revoke Account-API 60000
プロビジョニング Revoke Entitlement-API 60000
ロールAPI Create Role-API 60000
ロールAPI Update Role-API 60000
ロールAPI Modify Role Based On SearchCriteria-API 60000
ロールAPI Delete Role-API 60000
ロールAPI Delete Bulk Role-API 60000
ロールUI Delete Bulk Role-API 60000
アクセス・ポリシーAPI Evaluate Policies For User-API 60000
アクセス・ポリシーAPI Initiate Policy Evaluation-API 60000
アクセス・ポリシーAPI Create Access Policy-API 60000
アクセス・ポリシーAPI Update Access Policy-API 60000
アクセス・ポリシーAPI Delete Access Policy-API 60000
アクセス・ポリシーUI Update Access Policy-UI 60000
アクセス・ポリシーUI Delete Access Policy-UI 60000
アクセス・ポリシーUI Create Access Policy-UI 60000
本人情報UI Update MyInfo Changes-UI 60000
本人情報UI Apply Changes For ChallengeQuestion-UI 60000
本人情報UI MyInformation Change User Password-UI 60000
本人情報UI Apply Proxy Add/Update-UI 60000
本人情報UI Remove Proxy-UI 60000
本人情報UI Remove All Proxy-UI 60000
本人情報API Change password-API 60000
本人情報API Set challenge values-API 60000
本人情報API Modify Profile Details-API 60000
本人情報API Add Proxy For User-API 60000
本人情報API Update Proxy For User-API 60000
本人情報API Remove Proxy-API 60000
本人情報API Remove All Proxies For User-API 60000
パスワード・ポリシーUI Delete Password Policy-UI 60000
パスワード・ポリシーUI Apply Create/Update Password Policy-UI 60000
パスワード・ポリシーAPI Delete Password Policy-API 60000
パスワード・ポリシーAPI Update Password Policy-API 60000
パスワード・ポリシーAPI Create Password Policy-API 60000
証明API Complete Certification-API 60000
証明API Certify Users-API 60000
証明API Reassign Items Phase60000-API 60000
証明API Save Certification Definition-API 60000
証明API Create Certification Job-API 60000
証明API Update Certification-API 60000
SoD API Initiate SoD Check=-API 60000
SoD API Get Result For Synchronous SoD Check-API 60000
SoD API Execute Sod Async Provisioning Task-API 60000
SoD API Execute Sod Async Task-API 60000
該当なし Create User-API 60000
該当なし Delete User-API 60000
該当なし Delete User by search criteria-API 60000
該当なし Delete Users in Bulk-API 60000
該当なし Update Audit Profile 60000
該当なし Update Audit Records 60000
該当なし Initialize IAuditor 60000
該当なし Create Auditor 60000
該当なし Create Audit Event 60000
該当なし Create Audit Event in Bulk 60000
該当なし Delete AuditEvent Group 60000
該当なし Create Fresh Profile 60000
該当なし Create AuditEvent Group 60000
該当なし Create and Modify Organization-UI 60000
該当なし Delete Organization-UI 60000
該当なし Modify User-API 60000
該当なし Modify User by search criteria-API 60000
該当なし Modify Users in bulk-API 60000
該当なし Create and Modify AdminRole-UI 60000
該当なし Save AdminRole-UI 60000
該当なし Delete the AdminRole-UI 60000
該当なし Approval Callback-UI 60000
該当なし Submit Request-UI 60000
該当なし Create User-REST 60000
該当なし Submit OIM Operation-API 60000
該当なし Submit Request-API 60000
該当なし Approval Callback-API 60000
該当なし Post Approval Callback-API 60000
該当なし Start Orchestration-API 60000
該当なし Create Organization-API 60000
該当なし Authorize Access-API 60000
該当なし Refresh Entity Cache-API 60000
該当なし Delete Organization-API 60000
該当なし Execute OIM Event 60000
該当なし Search Organization To Modify-API 60000
該当なし Modify Organization-API 60000
該当なし Send Notification-API 60000
該当なし Send Bulk Notification-API 60000
該当なし Create Admin Role-API 60000
該当なし Modify Admin Role-API 60000
該当なし Delete Admin Role-API 60000
該当なし Submit OIM Operation-API 60000
該当なし Async Processing-API 60000
該当なし Create Entity-API 60000
該当なし Modify Entity-API 60000
該当なし Delete Entity-API 60000
該当なし Find Entities-API 60000
該当なし Find Entity-API 60000

29.6 出力の理解

IDMDFは、SLA失敗ごとに電子メール通知を送信します。

電子メールには、イベントおよび破綻したSLAに関する情報とともに、詳細ログおよびイベント・ツリーXMLファイルの2つの添付が含まれています。

通知電子メール

表29-3に、通知電子メールの内容を示します。

表29-3 IDMDF電子メール通知

フィールド サンプル値 説明

ユーザー

4

ログインしているユーザーのユーザーID。

製品名

OIG

イベントが発生したアイデンティティ管理製品。IDMDFでは、Oracle Identity Governance (OIG)およびOracle Access Management (OAM)でのイベント・ロギングがサポートされます。

SLA

2 ms

デフォルトまたは定義済のSLA値(ミリ秒単位)。

開始時間

2019-03-01 01:18:24.99

イベントが開始した日時。

終了時間

2019-03-01 01:18:24.994

イベントが終了した日時。

実績所要時間

4 ms

イベントが完了するまでにかかった実際の時間(ミリ秒単位)。

ECID (イベント識別子)

dced1e07-1e20-4342-b8fb-3bc819b904df-0000000a

イベントの一意識別子。

詳細ログ

表29-4に、電子メール通知の詳細ログ添付内の情報を示します。

表29-4 詳細ログ

フィールド サンプル値 説明

ログ・レベル

FINEST

診断ログ・レベル(INFO、FINE、FINEST、NONEのいずれか)。診断レベルの詳細は、「フレームワークで提供される構成可能な診断レベル」を参照してください。

ログ時間

Jan 14,2019 02:11:33.831

ログの日時。

ログ・メッセージ

Number of invocations of loginSessionCreated is 6

問題を示すエラーまたは警告メッセージ。

パラメータ

[getRunAsUser, configurationInstance, []]

ログのパラメータ。

ソース・クラス名

AuthenticationContextUtilForEJB

例外が発生したクラス、またはSLA違反が発生したソース・クラス。

ソース・メソッド名

setAuthenticationContextInEJB

実行に時間がかかるメソッド名。

スタック・トレース

該当なし 間に実行されるイベントの詳細を含むトレース。

イベント・ツリーXML

イベント・ツリーXMLファイルには、イベント実行に関する情報が含まれます。サンプルのイベント・ツリーXMLファイルの内容は、次のとおりです。

<structure>
   <thread>
      <threadId>25</threadId>
      <event name="Find Entities-API" startTime="Jan 14,2019 02:11:33.991" endTime="Jan 14,2019 02:11:34.002" status="SUCCESS">
         <eventDetails>find/lookup for a list of entites</eventDetails>
      </event>
      <event name="Authorize Access-API" startTime="Jan 14,2019 02:11:34.115" endTime="Jan 14,2019 02:11:34.115" status="SUCCESS">
         <eventDetails>Check if action is authorized for the user.</eventDetails>
      </event>
      <event name="Find Entity-API" startTime="Jan 14,2019 02:11:34.117" endTime="Jan 14,2019 02:11:34.131" status="SUCCESS">
         <eventDetails>find/lookup an entity</eventDetails>
      </event>
   </thread>
</structure>