6 ポリシーベースのスケーリング

Oracle WebLogic Serverでは、ドメイン・スコープの診断システム・モジュールで構成されているポリシーによって監視される要求の変化またはその他の条件に応じて、動的クラスタで自動的にスケーリング操作を実行できる、ポリシーベースのスケーリングをサポートしています。次の項では、WebLogic Serverでのポリシー・ベースのスケーリングについて説明し、スマート・ルールを使用してクラスタの平均スループットを追跡するポリシーベースのスケーリングの例を示します。

ポリシーベースのスケーリングとは

ポリシーベースのスケーリングは、ポリシーおよび関連付けられたアクションに基づき、WebLogic診断フレームワーク(WLDF)のポリシーおよびアクション・コンポーネントを活用します。ポリシーは、動的クラスタでスケーリング操作が発生する条件を設定し、その条件が満たされると、スケーリング・アクションがスケーリング操作を実行します。WLDFのポリシーおよびアクション・コンポーネントの詳細は、Oracle WebLogic Server診断フレームワークの構成と使用ポリシーとアクションの構成を参照してください。

WLDFには2つのエラスティック・アクション、スケール・アップおよびスケール・ダウンが用意されており、スケーリング操作を実行するポリシーに割り当てることができます。スケール・アップおよびスケール・ダウン・アクションの詳細は、「エラスティック・アクション」を参照してください。1つのスケーリング・アクションのみ、指定のポリシーに割り当てることができます。

たとえば、例6-1は、起動するとスケール・アップ・アクションを実行するポリシーを作成、構成するWLSTコマンドを示しています。次の点に注意してください。

  • スケール・アップ・アクションscaleUpが作成されます。このアクションは、動的クラスタDynamicClusterを、サーバー・インスタンス1つのみスケール・アップするように構成されます。

  • highMarkという名前のポリシーが、10秒ごとに評価されるように構成されます。

  • ポリシーが起動される、つまりtrueと評価されると、対応するスケール・アップ・アクションが実行されます。

同様に、例6-2は、起動するとスケール・ダウン・アクションを実行するポリシーの構成を示しています。次の点に注意してください。

  • スケール・ダウン・アクションscaleDownが作成されます。このアクションは、動的クラスタDynamicClusterを、サーバー・インスタンス1つのみスケール・ダウンするように構成されます。

  • LowMarkという名前のポリシーが、10秒ごとに評価されるように構成されます。

  • ポリシーが起動される、つまりtrueと評価されると、対応するスケール・ダウン・アクションが実行されます。

例6-1 動的クラスタをスケール・アップするポリシーの作成

scaleUp=wn.lookupScaleUpAction('scaleUp')
if scaleUp == None:
  print "Creating scale up action"
  scaleUp=wn.createScaleUpAction('scaleUp')
scaleUp.setScalingSize(1)
scaleUp.setClusterName(DynamicCluster)
high=wn.createWatch('highMark')
high.setExpressionLanguage('EL')
high.getSchedule().setMinute('*')
high.getSchedule().setSecond('*/10')
high.getRuleType()
high.setAlarmType('AutomaticReset')
high.setAlarmResetPeriod(150000)
high.setRuleExpression("wls:ClusterHighThroughput('"+DynamicCluster+"', '10s', '30s', 250, 60)")
high.addNotification(scaleUp)
high.setEnabled(true)

例6-2 動的クラスタをスケール・ダウンするポリシーの作成

scaleDown=wn.lookupScaleDownAction('scaleDown')
if scaleDown == None:
  print "Creating scale down action"
  scaleDown=wn.createScaleDownAction('scaleDown')
scaleDown.setScalingSize(1)
scaleDown.setClusterName(DynamicCluster)
low=wn.createWatch('lowMark')
low.setExpressionLanguage('EL')
low.getSchedule().setMinute('*')
low.getSchedule().setSecond('*/10')
low.getRuleType()
low.setAlarmType('AutomaticReset')
low.setAlarmResetPeriod(60000)
low.setRuleExpression("wls:ClusterLowThroughput('"+DynamicCluster+"', '10s', '60s', 50, 75)")
low.addNotification(scaleDown)
low.setEnabled(true)

ノート:

動的クラスタの自動拡張度を構成するには、スケーリング・ポリシーとそれに対応するエラスティック・アクションを定義したドメイン・スコープの診断システム・モジュールを作成し、その診断モジュールのターゲットを管理サーバーに設定する必要があります。

スマート・ルールの導入

スマート・ルールは、一連の設定可能パラメータを持ち、その設定可能パラメータの値を指定することで複合ポリシー式を作成できるようにする、事前パッケージ済のファンクションです。

スマート・ルールは、単独で、または複合ポリシー式を作成するために他の述語とともに、ポリシー式内で述語として使用できます。スマート・ルールのポリシー式は、Java Expression Language (EL)を使用して指定されます。『Oracle WebLogic Server診断フレームワークの構成と使用』スマート・ルールベースのポリシーの構成に関する項を参照してください。

ポリシーベースのスケーリングでは、スマート・ルールが使用できます。「ポリシーベースのスケーリング例」では、スマート・ルールのwls:ClusterHighThroughput()およびwls:ClusterLowThroughput()をルール式で使用するポリシーの使用方法を説明します。これら2つのスマート・ルールは、例6-1および例6-2でも示しています。

  • 例6-1は、wls:ClusterHighThroughput()スマート・ルールを示しています。このスマート・ルールは、各管理対象サーバーのThreadPoolRuntimeMBean.Throughput属性の平均値によって示される、クラスタにおける平均スループットが増大しているかどうかを測定します。

    例に示されているように、このスマート・ルールは、動的クラスタDynamicCluster内の少なくとも60パーセントのサーバーにおいて、10秒間隔で収集した過去30秒の平均Throughput値が250以上の場合に起動されます(つまりtrueと評価されます)。このスマート・ルールが起動されると、スケール・アップ・アクションscaleUpが実行され、クラスタでサーバー・インスタンスが起動されます。

  • 例6-2は、wls:ClusterLowThroughput()スマート・ルールを示しています。このスマート・ルールは、各管理対象サーバーのThreadPoolRuntimeMBean.Throughput属性の平均値によって示される、クラスタにおける平均スループットが減少しているかどうかを測定します。

    例に示されているように、このスマート・ルールは、動的クラスタDynamicCluster内の少なくとも75パーセントのサーバーにおいて、10秒間隔で収集した過去60秒の平均Throughput値が50未満の場合に起動されます(つまりtrueと評価されます)。このスマート・ルールが起動されると、スケール・ダウン・アクションscaleDownが実行され、クラスタでサーバー・インスタンスが停止されます。

スマート・ルールベースのポリシーの作成および構成の詳細は、次を参照してください。

ポリシーベースのスケーリング例

wls:HighThroughput()およびwls:LowThroughput()スマート・ルールを使用して高負荷時に動的クラスタをスケール・アップし、要求が減少したら動的クラスタをスケール・ダウンするポリシーを作成できます。

前提条件

正常にこの例を実行するには、先に環境を準備して、この例で使用する必要なファイルをダウンロードします。

この項では、次のタスクを取り上げます。

必要なソフトウェアのインストール

この例を実行するには、次のソフトウェアをダウンロードしてインストールします。

必要なファイルのダウンロードと解凍

拡張度デモのJARファイルは、次の場所にあるWebLogic Serverブログの記事動的クラスタの拡張度からダウンロードできます。

https://cdn.app.compendium.com/uploads/user/e7c690e8-6ff9-102a-ac6d-e4aebca50425/92a4be11-24be-41af-a122-be88dcc2684d/File/bd70c19e88c1927f0919d42171cbfe2b/wls_elasticity_demo.zip

この例で使用する拡張度JARから、次のファイルを解凍します。

ノート:

同じディレクトリに、次のファイルをすべて保存します。この例では、このディレクトリをDEMO_HOMEと呼びます。

  • create-domainスクリプト - このスクリプトによってこの例のドメインが作成されます。

  • Elasticity5MinuteDemo.jmx - この例で使用するJMeterテスト・プラン。

  • Elasticity1HourDemo.jmx - オプションの、より長いJMeterテスト・プラン。

環境の設定

WebLogic ServerをORACLE_HOMEディレクトリにインストールしたら、setWLSEnvスクリプト・コマンドを実行して、この例に環境変数を設定します。

  1. コマンド・ウィンドウを開きます。

    ノート:

    Windowsシステム上でこのデモを実行する場合、管理者権限が必要になる場合があります。その場合は、次のとおりにコマンド・ウィンドウを開きます。

    1. 「起動」をクリックします。

    2. コマンド・プロンプトを右クリックして「管理者として実行」を選択します。

      「スタート」メニューに「コマンド プロンプト」がない場合、「検索」フィールドに「コマンド」と入力し、「コマンド プロンプト」を右クリックします。

    3. 求められたら、管理者の資格証明を入力します。

  2. コマンド・ウィンドウで、ORACLE_HOME/wlserver/server/binディレクトリに移動します。

  3. setWLSEnvスクリプトを実行します。たとえば:

    Windows:

    ORACLE_HOME\wlserver\server\bin> setWLSEnv.cmd
    

    Unix:

    prompt> sh setWLSEnv.sh

ドメインとそのリソースの作成

create-domainスクリプトを使用してドメインを作成すると、この例のために、次のようにドメインが設定されます。

  • elasticity_domainドメインとディレクトリを作成します。

  • 動的クラスタDynamicClusterと4つの動的サーバーDynamicCluster-1DynamicCluster-2DynamicCluster-3およびDynamicCluster-4を作成し、構成します。

  • スマート・ルールベースのポリシーhighMarklowMark、およびエラスティック・アクションscaleDownscaleUpを作成して構成します。

ドメインを作成するには:

  1. デモJARファイルを解凍したディレクトリに移動します。たとえば、Windowsの場合は次のようにします。

    ORACLE_HOME\wlserver\server\bin> cd DEMO_HOME

  2. create-domainスクリプトを実行します。たとえば:

    Windows:

    DEMO_HOME> create-domain.cmd username password

    Unix:

    DEMO_HOME> sh create-domain.sh username password

    スクリプトを実行するには、WebLogic管理者のユーザー名とパスワードを使用します。

Apache Webサーバーの構成と起動

Apache HTTPサーバーおよびApache HTTPサーバーのプラグインのインストール後、次の詳細を使用してhttpd.confファイルを構成してください。

LoadModule weblogic_module /home/myhome/weblogic-plugins/lib/mod_wl.so

また、WebLogicクラスタと、そのクラスタ内の管理対象サーバーのすべてのポートを指定します。かわりにクラスタのDNS名を指定することもできます。たとえば:


<IfModule mod_weblogic.c>
WebLogicCluster localhost:8001,localhost:8002
</IfModule>
<Location>
SetHandler weblogic-handler
</Location>

Apache Webサーバーの起動

Apacheのbinディレクトリで次のコマンドを使用して、Apache Webサーバーを起動します。

Windows
httpd.exe
Unix
sudo systemctl start httpd

動的サーバーの構成とアクティビティの表示

start-serversスクリプトを実行すると、次のWebLogic Serverインスタンスが起動します。

  • 管理サーバー

  • DynamicClusterという名前が付いた、動的クラスタにある次の2つのサーバー・インスタンス:

    • DynamicCluster-1

    • DynamicCluster-2

WebLogic Server管理コンソールかFusion Middleware Controlを使用して、DynamicClusterの構成と、クラスタ内で実行中デモとして現在実行中のサーバー・インスタンスの数を表示できます。

たとえば、WebLogic Server管理コンソールにDynamicClusterを表示するには、次のようにします。

  1. ブラウザのアドレス・バーに次のURLを入力して、WebLogic Server管理コンソールを起動します。
    localhost:20001/console
    
  2. create-domainスクリプトの実行に使用したWebLogic管理者の資格証明を使用してログインします。
  3. コンソールのホーム・ページで、「サーバー」をクリックします。

    「サーバーのサマリー」ページに、現在実行中および停止中のサーバーがリストされます。このページは、サーバー・インスタンスの状態を表示するデモの実行として参照できます。

『Oracle WebLogic Serverサーバーの起動と停止の管理』サーバーの起動と停止に関する項を参照してください。

JMeterを使用したデモの実行

JMeterからテスト・プランを実行するには:

  1. コマンド・プロンプトを開いて、インストールされているJMeterのbinディレクトリに移動します。たとえば、C:\JMeter\apache-jmeter-2.13\binです。
  2. 次のコマンドを入力して、JMeterをGUIモードで起動します。
    jmeter.bat
    
  3. JMeterコンソールで、「ファイル」→「開く」を選択して、Elasticity5MinuteDemo.jmxを選択します。
  4. 「オプション」メニューから、「ログ・ビューア」が選択されていることを確認します。
  5. 左のナビゲーション・ペインで、活用度Pingサーブレット・ドライバが選択されていることを確認します(図6-1参照)。

    図6-1 JMeterテスト・ナビゲーション・ペイン

    図6-1の説明を次に示します
    「図6-1 JMeterテスト・ナビゲーション・ペイン」の説明
  6. 「Run」→「Start」を選択します。

監視ダッシュボードを使用したスケーリング操作の監視

JMeterでテスト・プランを起動したら、WebLogic Server管理コンソールの管理ダッシュボードを使用して、JMeterテストにより生成されるサーバー・アクティビティを表示できます。実行中のサーバー・インスタンス数が負荷に応じて4までランプアップすることを確認できます。シナリオが完了すると、追加のインスタンスは、最小実行サーバー・インスタンス数の2つに達するまでスケール・ダウンされます。このシナリオ全体は、5分間続きます。

モニタリング・ダッシュボードにアクセスするには:

  1. 「動的サーバーの構成とアクティビティの表示」に説明されているように、まだ実行されていない場合、WebLogic Server管理コンソールを起動します。
  2. 「チャートとグラフ」の下で、「監視ダッシュボード」をクリックします。
  3. 監視ダッシュボードで、起動ボタンをクリックします(図6-2参照)。

    図6-2 監視ダッシュボードの起動ボタン

    図6-2の説明を次に示します
    「図6-2 監視ダッシュボードの起動ボタン」の説明
  4. JMeterが、シミュレーションされた動的クラスタでのクライアント呼出し量をランプアップすると、スケーリング・アクションを実行するスケーリング・ポリシーが起動されます。

    新しいサーバー・インスタンスが起動される瞬間の、現在実行中のサーバー・インスタンスのスループットに注目してください。図6-3に、出力例を示します。取得するグラフは、マシンのパフォーマンス特性に応じて異なる場合があります。

    図6-3 動的サーバーのスケーリング・アクティビティ

    図6-3の説明を次に示します
    「図6-3 動的サーバーのスケーリング・アクティビティ」の説明

図6-3で、次に注目してください。

  • 上部の4つのグラフに、管理対象サーバー・インスタンスDynamicCluster-1DynamicCluster-2DynamicCluster-3およびDynamicCluster-4に関するスループットが表示されています。

  • 上2つのグラフに表示されているサーバー・インスタンスDynamicCluster-1およびDynamicCluster-2は、スループットのスパイクが2:42:00頃に始まっています。

  • DynamicCluster-3のグラフは、サーバー・インスタンスDynamicCluster-1およびDynamicCluster-2でスループットのスパイクが発生したときにこの第3のサーバーが起動されたことを示しています。

  • 下部のグラフは、クラスタ内のアクティブな管理対象サーバーの数(ClusterRuntimeMBeanインスタンスのAliveServerCount属性の値)を示しています。このグラフは、第3および第4のサーバー・インスタンスがいつ頃に起動されたかを示しています。

  • 第3のサーバー・インスタンスDynamicCluster-3は、2:42:00と2:43:30の間に起動されました。

  • 第4のサーバー・インスタンスDynamicCluster-4は、最初の3つのサーバー・インスタンスにおけるスループットの増加と軌を一にして、2:46:00の直後に起動されたことに注目してください。

  • 新しいサーバー・インスタンスが起動されると、他のサーバー・インスタンス上のスループットが、それに対応して低下することに注目してください。

拡張度デモの再実行と停止

JMeter GUIから拡張度デモを再実行することも、次のようにstop-serversスクリプトを実行して、デモと実行中のすべてのサーバー・インスタンスを停止することもできます。

Windows:

DEMO_HOME> stop-servers.cmd

Unix:

DEMO_HOME> sh stop-servers.sh