状態データベースの問合せ

このトピックでは、ブロックチェーン台帳の現在の状態データが格納されている状態データベースを問い合せる方法を理解するのに役立つ情報を示します。

状態データベースとは

ブロックチェーン・レジャーの現在の状態データは、状態データベースに格納されます。

Oracle Blockchain Platformチェーンコードを開発する場合、リッチ問合せを実行することで、状態データベースからデータを抽出できます。Oracle Blockchain Platformでは、SQLのリッチ問合せ構文およびCouchDBの検索式を使用し、リッチ問合せをサポートしています。「SQLリッチ問合せ構文」および「CouchDBリッチ問合せ構文」を参照してください。

Hyperledger Fabricでは、SQLリッチ問合せはサポートされません。Oracle Blockchain PlatformネットワークにHyperledger Fabric参加者が含まれる場合は、次のことを確認する必要があります:

  • チェーンコードにSQLリッチ問合せ構文が含まれている場合、それらのチェーンコードはOracle Blockchain Platformを使用するメンバー・ピアにのみインストールします。

  • チェーンコードをOracle Blockchain PlatformおよびHyperledger Fabricピアにインストールする必要がある場合、チェーンコードにCouchDB構文を使用し、Hyperledger FabricピアがCouchDBを状態データベース・リポジトリとして使用するように設定されていることを確認します。Oracle Blockchain PlatformはCouchDBを処理できます。

Oracle Blockchain PlatformはBerkeley DBとどのように連携しますか。

Oracle Blockchain Platformは、状態データベースとしてOracle Berkeley DBを使用します。Oracle Blockchain Platformは、SQLite拡張に基づいてBerkeley DBにリレーショナル表を作成します。このアーキテクチャは、SQLリッチ問合せを検証するための堅牢でパフォーマンスの高い方法を提供します。

チャネル・チェーンコードごとに、Oracle Blockchain PlatformによってBerkeley DB表が作成されます。この表には、状態情報データが格納され、少なくともkeyという名前のキー列と(JSON形式データを使用しているかどうかによって)valueまたはvalueJsonという名前の値列が含まれます。

列名 タイプ 説明
key TEXT 状態表のキー列。
value TEXT 状態表の値列。
valueJson TEXT 状態表のJSON形式の値列。

valueJsonおよびvalue列は、相互に排他的であることに注意してください。したがって、チェーンコードがキーにJSON値を割り当てた場合、valueJson列にその値が保持され、value列はnullに設定されます。チェーンコードがキーに非JSON値を割り当てた場合、valueJson列はnullに設定され、value列に値が保持されます。

状態データベースの例

Car Dealerサンプルの状態データベースのキーとその値の例を次に示します:

key value valueJson
abg1234 null {"docType": "vehiclePart", "serialNumber": "abg1234", "assembler": "panama-parts", "assemblyDate": 1502688979, "name": "airbag 2020", "owner": "Detroit Auto", "recall": false, "recallDate": 1502688979}
abg1235 null {"docType": "vehiclePart", "serialNumber": "abg1235", "assembler": "panama-parts", "assemblyDate": 1502688979, "name": "airbag 4050", "owner": "Detroit Auto", "recall": false, "recallDate": 1502688979}
ser1236 null {"docType": "vehiclePart", "serialNumber": "ser1236", "assembler": "panama-parts", "assemblyDate": 1502688979, "name": "seatbelt 10020", "owner": "Detroit Auto", "recall": false, "recallDate": 1502688979}
bra1238 null {"docType": "vehiclePart", "serialNumber": "bra1238", "assembler": "bobs-bits", "assemblyDate": 1502688979, "name": "brakepad 4200", "owner": "Detroit Auto", "recall": false, "recallDate": 1502688979}
dtrt10001 null {"docType": "vehicle", "chassisNumber": "dtrt10001", "manufacturer": "Detroit Auto", "model": "a coupe", "assemblyDate": 1502688979, "airbagSerialNumber": "abg1235", "owner": "Sam Dealer", "recall": false, "recallDate": 1502688979

コンソールでのリッチ問合せ

管理者は、コンソールからリッチ問合せを実行および分析できます。

  1. コンソールに移動し、チャネル・タブを選択します。
  2. チャネル表で、問合せを実行するチャネルを探し、チャネルの「その他のアクション」ボタンをクリックして、「リッチ問合せの分析」をクリックします。「リッチ問合せの分析」ダイアログが表示されます。
  3. 状態データベースに対してリッチ問合せを実行するには、「問合せ実行」を選択します。
    1. 「チェーンコード」で、問い合せるチャネルにデプロイされているチェーンコードを選択します。
    2. 「ピア」で、問い合せるピアを選択します。
      選択したチェーンコードを実行している現在の組織のピアのみが使用可能です。
    3. 「リッチ問合せ」に、実行および分析するリッチ問合せを入力します。
      問合せ形式は、リッチ問合せ構文に従う必要があります。リッチ問合せ構文の詳細は、「サポートされるリッチ問合せ構文」を参照してください。
    4. 「結果行制限」で、スライダをフェッチする結果行の最大数に移動します。最大50行の結果をフェッチできます。
  4. 問合せの実行計画を取得するには、「問合せ計画の説明」を選択します。問合せ実行計画は、問合せを実行するために実行された一連の操作です。
    1. 「チェーンコード」で、問い合せるチャネルにデプロイされているチェーンコードを選択します。
    2. 「ピア」で、問い合せるピアを選択します。
    3. 「コレクション」で、状態データベースまたはプライベート・データ・コレクションを選択します。
    4. 「リッチ問合せ」に、リッチ問合せを入力します。
      この問合せには、explainキーワードは必要ありません。
      例: select * from <state>
  5. 「実行」をクリックします。「結果」フィールドに、問合せ結果表または実行計画が表示されます。結果表を.csvファイルとしてエクスポートするには、「エクスポート」をクリックします。
    結果表のサイズは1MBに制限されます。この制限を超えないように、問合せを絞り込む必要がある場合があります。

サポートされるリッチ問合せ構文

Oracle Blockchain Platformでは、SQLリッチ問合せとCouchDBリッチ問合せの2種類のリッチ問合せ構文がサポートされ、状態データベースの問合せに使用できます。

SQLリッチ問合せ構文

Berkeley DB JSON拡張は、SQL関数の形式をとっています。

始める前に

次の点に注意してください。

  • 問合せの実行元のチャネル・チェーンコード(<STATE>)にのみアクセスできます。
  • SELECT文のみがサポートされます。
  • 状態データベース表を変更できません。
  • リッチ問合せ式には、SELECT文を1つのみ指定できます。
  • このトピックの例は、リッチ問合せを作成できる方法をいくつか示したにすぎません。通常の完全なSQL構文にアクセスして、SQLデータベースに問合せできます。
  • JSON1拡張(SQLite拡張)にアクセスできます。『JSON1 Extension』および『SQL As Understood by SQLite』を参照してください。

チェーンコードの記述およびテストの詳細は、「チェーンコードの開発」を参照してください。

問合せにおける状態データベースの参照方法

状態データベース表の名前は、Oracle Blockchain Platformによって内部的に管理されるため、チェーンコードの記述時にデータベースの物理名を知っている必要はありません。

かわりに、<STATE>別名を使用して表名を参照する必要があります。たとえば、select key, value from <STATE>です。

<STATE>別名では、大/小文字が区別されないため、<state><STATE>または<StAtE>などを使用できます。

すべてのキーの取得

次の構文を使用します:

SELECT key FROM <STATE>

たとえば、この構文を使用してCar Dealerサンプルを問い合せると、次のキーのリストが取得されます:

キー

abg1234

abg1235

ser1236

bra1238

dtrt10001

すべてのキーと値を取得し、キーのアルファベット順に並替え

次の構文を使用します:

SELECT key AS serialNumber, valueJson AS details FROM  <state> ORDER BY key

たとえば、この構文を使用してCar Dealerサンプルを問い合せると、次の結果が得られます:

serialNumber 詳細
abg1234 {"docType": "vehiclePart", "serialNumber": "abg1234", "assembler": "panama-parts", "assemblyDate": 1502688979, "name": "airbag 2020", "owner": "Detroit Auto", "recall": false, "recallDate": 1502688979}
abg1235 {"docType": "vehiclePart", "serialNumber": "abg1235", "assembler": "panama-parts", "assemblyDate": 1502688979, "name": "airbag 4050", "owner": "Detroit Auto", "recall": false, "recallDate": 1502688979}
bra1238 {"docType": "vehiclePart", "serialNumber": "bra1238", "assembler": "bobs-bits", "assemblyDate": 1502688979, "name": "brakepad 4200", "owner": "Detroit Auto", "recall": false, "recallDate": 1502688979}
dtrt10001 {"docType": "vehicle", "chassisNumber": "dtrt10001", "manufacturer": "Detroit Auto", "model": "a coupe", "assemblyDate": 1502688979, "airbagSerialNumber": "abg1235", "owner": "Sam Dealer", "recall": false, "recallDate": 1502688979
ser1236 {"docType": "vehiclePart", "serialNumber": "ser1236", "assembler": "panama-parts", "assemblyDate": 1502688979, "name": "seatbelt 10020", "owner": "Detroit Auto", "recall": false, "recallDate": 1502688979}

"abg"で始まるすべてのキーと値の取得

次の構文を使用します:

SELECT key AS serialNumber, valueJson AS details FROM <state> WHERE key LIKE 'abg%'SELECT key, value FROM <STATE>

たとえば、この構文を使用してCar Dealerサンプルを問い合せると、次の結果が得られます:

serialNumber 詳細
abg1234 {"docType": "vehiclePart", "serialNumber": "abg1234", "assembler": "panama-parts", "assemblyDate": "1502688979", "name": "airbag 2020", "owner": "Detroit Auto", "recall": "false", "recallDate": "1502688979"}
abg1235 {"docType": "vehiclePart", "serialNumber": "abg1235", "assembler": "panama-parts", "assemblyDate": "1502688979", "name": "airbag 4050", "owner": "Detroit Auto", "recall": "false", "recallDate": "1502688979"}

"Detroit Auto"が所有する自動車部品を含む値を持つすべてのキーの取得

次の構文を使用します:

SELECT key FROM <state> WHERE json_extract(valueJson, '$.docType') = 'vehiclePart' AND json_extract(valueJson, '$.owner') = 'Detroit Auto'

たとえば、この構文を使用してCar Dealerサンプルを問い合せると、次のキーのリストが取得されます:

キー

abg1234

abg1235

ser1236

bra1238

"Sam Dealer"が所有するすべての自動車のモデルと製造元の取得

次の構文を使用します:

SELECT json_extract(valueJson, '$.model') AS model, json_extract(valueJson, '$.manufacturer') AS manufacturer FROM <state> WHERE json_extract(valueJson, '$.docType') = 'vehicle' AND json_extract(valueJson, '$.owner') = 'Sam Dealer'

たとえば、この構文を使用してCar Dealerサンプルを問い合せると、次の結果が得られます:

モデル 製造元
a coupe Detroit Auto

状態値がJSON配列の場合、次の構文を使用して、Sam Dealerが所有するすべての車のモデルと製造元を取得できます:

SELECT json_extract(j.value, '$.model') AS model, json_extract(j.value, '$.manufacturer') AS manufacturer FROM <state> s, json_each(json_extract(s.valueJson,'$')) j WHERE json_valid(j.value) AND json_extract(j.value, '$.owner') = 'Sam Dealer'

CouchDBリッチ問合せ構文

CouchDB構文を含むチェーンコードをOracle Blockchain Platformに移行する場合、またはOracle Blockchain Platformネットワークに参加しているHyperledger Fabricピアにインストールするチェーンコードを記述する必要がある場合、このトピックの情報を使用します。

新しいチェーンコードを記述する場合、SQLリッチ問合せを使用し、Oracle Blockchain PlatformとBerkeley DBの組合せで得られるパフォーマンス上の利点を活用することをお薦めします。

チェーンコードの記述およびテストの詳細は、「チェーンコードの開発」を参照してください。

サポートされていない問合せパラメータおよびセレクタ構文

Oracle Blockchain Platformでは、use_indexパラメータはサポートされていません。これを使用した場合、Oracle Blockchain Platformではこのパラメータが無視され、問題のStateDBに定義されている索引が自動的に選択されます。

パラメータ タイプ 説明
use_index json 特定の索引を使用するように問合せに指示します。

自動車のすべてのモデル、製造元および所有者の取得と所有者による並替え

次の式を使用します:

{ 
  "fields": ["model", "manufacturer", "owner"], 
  "sort": [   
    "owner" 
   ]
}

"Sam Dealer"が所有するすべての自動車のモデルと製造元の取得

次の式を使用します:

{ 
  "fields": ["model", "manufacturer"], 
  "selector": {   
    "docType"  : "vehicle",
     "owner" : "Sam Dealer" 
  }
}

状態データベースの索引

状態データベースには、大量のデータを格納できます。このような場合、Oracle Blockchain Platformでは索引を使用してデータ・アクセスを向上させます。

デフォルトの索引

チェーンコードがデプロイされると、Oracle Blockchain Platformによって2つの索引が作成されます。

  • キー索引 — キー列に作成されます。

  • 値索引 — 値列に作成されます。

カスタム索引

カスタム索引の作成が必要になる場合があります。これらの索引は、状態表のコンテキストで解決される任意の式を使用して定義します。Berkeley DBに対して作成されたカスタム索引は、SQLite構文に依存しますが、それ以外の場合は、Hyperledger Fabricが提供するのと同じCouchDB実装に従います。

大規模データ・セットに対するWHERE文とORDER BY文のパフォーマンスを大幅に向上させるために、カスタム索引を使用できることに注意してください。カスタム索引を使用するとデータ挿入が遅くなるため、その使用には適切な判断が必要です。

各カスタム索引は、複合索引をサポートする式の配列として定義され、1つのファイル内でJSONドキュメントとして表されます(ファイルごとに1つの索引があることに注意してください)。このファイルは、statedb/relationaldb/indexesというディレクトリ構造の"indexes"という名前のフォルダに、チェーンコードとともにパッケージ化する必要があります。『How to add CouchDB indexes during chaincode installation』を参照してください。

カスタム索引の例

この項のカスタム索引の例では、Car Dealerサンプルを使用します。

例1 —この例では、WHERE式とORDER BY式のコンテキストでjson_extract式の使用を索引付けしています。

{"indexExpressions": ["json_extract(valueJson, '$.owner')"]}

たとえば:

SELECT … FROM … ORDER BY json_extract(valueJson, '$.owner')

例2 — この例では、WHERE式とORDER BY式のコンテキストで2つのjson_extract式の複合使用を索引付けしています。

{"indexExpressions": ["json_extract(valueJson, '$.docType')", "json_extract(valueJson, '$.owner')"]}

たとえば:

SELECT … FROM … WHERE json_extract(valueJson, '$.docType') = 'vehiclePart' AND json_extract(valueJson, '$.owner') = 'Detroit Auto'

例3 - この例では、例1で説明した索引と例2で説明した索引の、2つの索引を作成します。各JSON構造は個別のファイルに含める必要があることに注意してください。各ファイルには、単一の索引(例1のような単純な索引、または例2のような複合索引)を記述します。

索引1: {"indexExpressions": ["json_extract(valueJson, '$.owner')"]}

索引2: {"indexExpressions": ["json_extract(valueJson, '$owner')", "json_extract(valueJson, '$.docType')"]}

次の例では、問合せのWHERE部分のAND式に索引2が適用され、ORDER BY式に索引1が適用されます:

SELECT … FROM … WHERE json_extract(valueJson, '$.docType') = 'vehiclePart' AND json_extract(valueJson, '$.owner') = 'Detroit Auto' ORDER BY json_extract(valueJson, '$.owner')

JSONドキュメントの形式

JSONドキュメントは次の形式である必要があります:

{"indexExpressions": [expr1, ..., exprN]}

たとえば:

{"indexExpressions": ["json_extract(valueJson, '$.owner')"]}

リッチ問合せの検証の相違点

標準的なHyperledger Fabric with CouchDBのリッチ問合せとOracle Berkeley DBのリッチ問合せの動作が異なる場合があります。

標準的なHyperledger Fabric with CouchDBでは、問合せによって返されたキーと値の各ペアはトランザクションの読取りセットに追加され、検証時に問合せを再実行することなく検証されます。Berkeley DBでは、返されたキーと値のペアは読取りセットに追加されませんが、リッチ問合せの結果がMerkleツリーにハッシュされ、検証時に問合せの再実行に対して検証されます。

ネイティブHyperledger Fabricでは、リッチ問合せに対するデータ保護は提供されていません。ただし、Berkeley DBには、Merkleツリー・ハッシュ値を読取りセットに追加し、リッチ問合せを再実行し、検証段階でMerkleツリー値を再計算することでリッチ問合せを保護および検証する機能が含まれています。Berkeley DBを使用するOracle Blockchain Platformでは検証がより正確であるため、チェーンコードの呼出しに頻繁なファントム読取りのフラグが設定されることがあります。