戦略モデリングでは、3つの評価メソッドがサポートされています。株主価値モデルと配当還元モデルは、価値創造のソース、価値創造期間の長さ、および将来のキャッシュ・フロー・ストリームの割引価値についての情報を提供するキャッシュ・フロー・メソッドです。従来の配当還元モデルの限界の1つは、それらは一般に利益に対する現金配当と発生主義会計フローに関連しており、資本構造と資金調達効果が反映されないことです。企業が支払うことのできる配当は、予測される売上高の成長、売上高の現金利ざや、現金課税、必要な人件費と固定資本投資、目標資本構成の制約に依存します。戦略モデリングでは、これらの制約と機会を明確に捕捉して、評価の仮定をサポートします。
経済的利益モデルは、キャッシュ・フローと簿価の概念が混合している混合モデルであり、通常は経済的利益モデルと呼ばれます。このアプローチでは、資本コスト(資本コストX前の期間の帳簿価額(調整後))を超える予測キャッシュ・フローが割り引かれます。
これら3つのメソッドのすべてで、同じ資本価値を特定の仮定(市場価格での負債と資本の比率を一定にする)で計算できます。実際には、必要な仮定が無視されるため、モデルの結果が異なることがよくあります。経験を積んだ実務家であれば、その(ほとんどの場合は小さい)差異を説明できるのみでなく、異なるアプローチからの結果を比較して洞察できます。
フリー・キャッシュ・フロー・メソッド
フリー・キャッシュ・フロー・メソッド、株主価値、配当還元では、資本コストの加重平均を超える投資収益を生み出す能力に基づいて、事業価値を測定します。
余剰資金は、事業に再投資されるか、配当として株主に支払われます。前者のケースでは、選択した戦略についての資本コストを超える利益を期待して、工場、設備、運転資本への追加、または買収などの分野の事業に投資されます。
後者のケースでは、株主は受け取った配当金を資本市場に再投資して、リスク調整投資収益を得ます。
株主価値メソッド
簡単に考えると、企業または事業の価値は、負債と資本の価値を組み合せたものに等しくなります。戦略モデリングでは、負債と資本の両方を所有する企業全体の価値を企業価値と呼んでいます。資本部分の価値を株主価値と呼びます。
一般的に: 次のとおりです
(Corporate Value) = "Debt" + Equity
企業価値の負債部分は企業の総負債の現在価値であり、次のものが含まれます。
すべての負債の市場価値
年金債務積立不足額
その他の負債 - 優先株式(市場価値)、ゴールデン・パラシュート、偶発債務など。
注:
金利が上昇する期間では市場価値が簿価を下回るため、負債の簿価ではなく市場価値を使用する必要があります。簿価を使用すると負債の価値が過大評価されるため、株主価値が過小評価されます。金利が下落している場合は、逆の状況が発生します。
企業価値 = 負債 + 株主価値
ここで、負債 = 負債の市場価格 + 債務積立不足額 + その他の負債の市場価格です。
企業価値の方程式を変更すると、株主価値を求める方程式が得られます。
株主価値 = 企業価値 - 負債
株主価値を決定するには、最初に企業価値、企業全体、または事業部門の価値を計算します。
企業価値のコンポーネント
企業価値、事業または戦略の経済的価値は、次のもので構成されています。
予測期間中の営業からのすべての予測キャッシュ・フローの現在価値で、割引キャッシュ・フローとして知られています。
予測期間以後も残る企業価値で、残余価額として知られています。
キャッシュ・フローは、企業の資本コスト、または企業の事業リスクと財務リスクの両方を考慮した必要収益率で割り引かれます。
3つめのコンポーネントとして、営業活動に含まれない資産の投資価値(受動的投資)があります。それらの価値は、プラグインされた数字としてまたは個別にモデリングされて企業価値に追加されます。
一般的には、次の式が成り立ちます。企業価値 = 予測期間中に生み出される価値(割引キャッシュ・フロー) + 予測期間後の価値(残余価額)
割引キャッシュ・フローのコンポーネント
割引キャッシュ・フロー(より正確には、キャッシュ・フローの累積現在価値)は、事業の予測される純キャッシュ・インフローを表し、企業の資金調達または配当ポリシーとは独立したものです。
一般的には、次の式が成り立ちます。
営業からのキャッシュ・フロー = 実際の現金収入(インフロー) + 現金支出
戦略モデリングでは、予測期間の各年度の営業からのキャッシュ・フローを決定した後で、これらのキャッシュ・フローが資本コストに基づく割引係数を使用して現在価値に割り引かれます。
残余価額コンポーネント
5年から10年の予測期間中の予測キャッシュ・フローに合理的に帰属させられるのは、企業市場価値のごく一部分のみです。残りの部分は残余価額と呼ばれ、一般に総企業価値の50%以上(通常は80%近く)を占めます。この値を測定するにはいくつかの方法があります。
受動的投資コンポーネント
企業価値の正確な予測には、3つめのコンポーネントとして保有投資対象の現在の市場価値が必要です。例として、有価証券、株式および債券への投資、ロールアップされていない子企業への投資、過剰発行年金基金、営業外流動資産があります。これらのアイテムはキャッシュ・フローには算入されませんが、企業にとっては価値があるため、その価値が他の2つのコンポーネントに追加されます。
注:
有価証券がキャッシュ・フロー予測に使用される運転資本要件に含まれない理由は、それらが事業運営に必要とされる以外の現金保有であるからです。負債(特に、長期債務現在分)も含まれません。債務の保有者と資本の保有者は、企業が生み出す純キャッシュ・フローに対する権利を保有しています。それらは資本構造の一部であり、それらを投資要件に含めることは、二重計算となります。
要約すると、企業価値には、キャッシュ・フロー、残余価額、投資という3つのコンポーネントがあります。
価値ドライバ: 企業価値に影響する主要要素
営業からのキャッシュ・フローの割引ストリームの価値に影響を与えるものとして、次の6つのマクロ変数があります。
売上高成長率(g)
営業利益率(p)
営業利益に対する現金課税(t)
固定資本投資(f)
運転資本投資増加分(w)
資本コスト(K)
これらの変数または価値ドライバは、各年度の営業からのキャッシュ・フローを決定します。各年度の営業活動からのキャッシュ・フローが計算されると、これらのフローが資本コスト(K)に基づいて割り引かれます。
これらの価値ドライバは営業からの予測キャッシュ・フローを決定するため、これらの要因を評価して、企業の株主価値に最も大きな影響を及ぼす要因を決定できます。
価値ドライバを学習するには、メモ帳を使用して企業価値を評価して、主要評価変数に焦点を当てられます。
入力項目には次のものがあります。
予測期間数
売上高(最後の履歴期間)
売上高成長率(G)
営業利益率(P)
設備投資増加分(F)
運転資本投資増加分(W)
営業利益の税率
残余価額所得税率(Tr)
資本コスト(K)
有価証券およびその他の投資
債務およびその他の負債
普通株式数
これらの変数を予測期間全体に定数として設定してメモ帳分析を完了したら、戦略モデリングでより明確なモデルを使用して、より詳細に変化する期間を通じてこれらの変数を評価できます。シナリオ・マネージャを使用して、価値ドライバとなる変数の変更が株主価値へ与える影響を決定できます。
配当還元メソッド
配当還元モデルでは、株主が配当として受け取る予測キャッシュ・フローから、企業の資本価値を直接計算します。これらのフローは、自己資本コストで割り引かれます。このメソッドのメリットは、株主が実際に受け取ると予測されるフローから株主価値を直接計算できることです。
配当還元モデルには、次のデメリットがあります。
企業が固定配当ポリシーを採用している場合は、企業のレバレッジが目標レバレッジから逸脱します。企業が有価証券の形で現金を蓄積し投資している場合は、レバレッジが配当フローの割引に使用される自己資本コストまで下がります。企業が配当ポリシーの維持を負債に負っている場合は、レバレッジと自己資本コストが上昇します。自己資本コストはレバレッジの変化に連動するため、レバレッジにおけるこれらの変化を調整して、正確な評価結果を得る必要があります。
企業が現金または負債を蓄積している場合は、いずれ株主へのフローを調整する必要があります。戦略モデリングでは、そのような調整が必要な場合に、予測期間の終わりに調整が行われると想定されます。
企業が現金を蓄積している場合は、レバレッジが低下し、自己資本コストも下がります。企業が、企業の本来の事業と、投資事業(企業の本来の事業よりもリスクが小さいと予測される)の2つの事業で運営されている場合を想定してみてください。
企業が配当ポリシーを調整して一定のレバレッジを維持している場合、戦略モデリングではそれを低価格配当と呼びます。これにより、レバレッジの変化による問題を回避できますが、毎年低価格配当を支払うことが予測される企業はほとんどありません。つまり、株主への実際のフローを予測できません。
中期対期末割引を参照してください
中期対期末割引
企業が配当を支払う時期を考えてみます。ほとんどの企業は、四半期または半期ベースで配当を支払います。ここでは、期中割引きを使用します。年に1回のみ配当を支払う場合は、期末割引きの使用が適切です。
経済的利益メソッド
このメソッドでは、現金と簿価アイテムを混合していますが、慎重に適用すれば正確な資本評価が得られます。このモデルを公式化するには多くの方法がありますが、最も一般的なのは「経済的利益(EP) = 税引後純営業利益 - 資本費用」です。
ここで、資本費用 = 資本コスト * 前期の帳簿価額(調整後)です。
EPは各期で計算され、資本コストで割り引かれて現在価値(PVEP)が算出されます。帳簿価額(調整後)は各期の純総投資分増加するため、一般に成長企業では資本費用が長期にわたって増加します。したがって、「企業価値 = PVEP + 期首帳簿価額(調整後)」となり、
株主価値メソッドを使用して計算される企業価値と同じになります。純資産は、負債およびその他の負債の市場価値を差し引き、投資の市場価値を加算する通常のメソッドで計算できます。
帳簿価額(調整後)が事業の所有者の指標である場合、資本費用は達成しなければならない投資収益率の損益分岐点のハードルとなります。簿価を調整することで(方程式の資産と負債の両方で行われる)、現金または支払済の配当であっても、企業の投資の所有者にとってより合理的な指標となります。経済的利益モデルは、資本費用によって示される収益の下限に経営意識を向けることを重視しています。
経済的利益アプローチには、次のような問題があります。
期首帳簿価額(調整後)は企業の投資の指標として使用されますが、この数字には企業の実際の経済的価値を得るのに必要な調整を行う必要があります。帳簿価額(調整後)が実際の経済的価値よりも高い場合、予測期間の経済的利益は実際よりも低くなるため、実際には価値を生み出している企業の価値が損われることになります。経済的価値を市場価値で測定できる企業には、調整されたものであっても履歴の帳簿価額が必要で、モデルの一部としての帳簿価額は複雑なものではありません。
経済的利益は短期の測定で経営者が間違った目標にとらわれる場合があり、役に立たないことも考えられます。価値を生み出す多くのプロジェクトでは、長期的なキャッシュ・フローにおいて、プロジェクト当初に必要な投資を容易に埋め合せられる場合でも、最初の1、2年は資本コストを回収する収益が得られません。マネージャは、測定されたEPを見て、短期的な経済的利益のマイナスを理由にそのようなプロジェクトが不要であると判断しないでください。
経済的利益モデルでは、一般に企業は超過収益を常に生み出せないという前提に立っていますが、一方で、限られた年数しか維持できない競争力に基づいて価値を創造しているという考えも成り立ちます。
フリー・キャッシュ・フローの資本コスト・メソッド
資本コスト(K)は、企業の負債/自己資本比率(簿価ではなく市場価格に基づく)により指定される比率に基づいた、負債コストと資本コストの加重平均を表します。
コストは、資本の提供者がその投資に対する収益を要求するという事実を意味しており、収益は資本を受け取った側(すなわち企業)に対するコストを意味します。
次の理由で、借り手にとっての負債コストは自己資本コストを下回ります。
投資家に対する金利部分は課税控除の対象となります。
投資家が要求する収益は通常低いものです。理由は次のとおりです。
清算時の投資家の権利は、株主の権利よりも優先されます。
負債の収益率は固定されており、株式の収益率は企業の業績に依存しています。
株主価値メソッドでは税引き後の利払い前キャッシュ・フローを割り引き、そのキャッシュ・フローに対して、投資家と株主の両方が権利を持っているため、投資家と株主が要求する収益はどちらも重要です。そのため、資本コストには両方のグループの権利がそれぞれの出資に応じて統合されています。資本コストで割り引かれるキャッシュ・フローは、企業価値を表します。負債の市場価値は企業価値から差し引かれて、株主価値(資本価値)が計算されます。
資本コストを確立することで、許容可能な最低収益率を見積もります。前述の収益は、株主に対して生み出された収益率です。
ほとんどの企業は、様々な事業部門で構成されており、それぞれがマクロ経済の状況によって異なる影響を受けます。これらの事業部門は事業として分析されるのみではく、それぞれに異なる資本コストがあります。
一定の資本コスト使用の推奨
実務的な理由から、戦略モデリングでは長期にわたって一定の資本コストを使用する必要があります。言い換えると、各予測期間の資本コストは、長期の資本コストと同じにする必要があります。この資本コストを最終利回りの概念として考えます。一方で、予測は期間構造であると考えられます。特別な状況を除いて、これらの予測の値は最小となります。考慮する必要があるもう1つの要因として、最初の数年間の予測キャッシュ・フローは、企業全体の価値のほんの一部を構成するものであり、潜在的な資本構造の変化が起こり得る時期でもあります。そのため、これらの変化を予測できる場合でも、企業の計算値は変更されません。
アナリストからは、長期的には様々な理由で企業の資本コストが変化するため、将来の期間で使用する資本コストを変更したいという要望が聞かれます。ここで、この資本コストを変更したいという要望に対し、資本コストを一定にすることが合理的である2つの理由について説明します。
要望: 金利は将来変化するため、資本コストも変更する必要がある。
回答: 長期的な金利には、将来の平均金利の予測が組み込まれています。将来金利が変化しても、真の市場変化を常に予測できる人はいません。
要望: 次年度の予測についてはかなり自信があるが、今後5年間については不明確である。したがって、後半の期間についてはより高い資本コストを使用して確実性の低いキャッシュ・フローを割り引く必要がある。
回答: 割引アプローチではキャッシュ・フローが1/(1+K)nで割引かれ、リスクが組み込まれるため、将来のプロジェクトほどより高いリスクがあるという仮定が反映されています。
注:
一般的には資本構造が長期にわたって大きく変化する場合(つまり、典型的なLBOのケース)に、予測期間中の資本コストが長期的な資本コストと異なる状況が時々発生します
負債コスト
負債コストは、企業にとっての負債資本の税引き後コストを表します。これは、最終利回り(YTM)と限界税率に入力するレートに基づいて、資本コスト計算機で決定されます。
名目負債コストではなく、現在の最終利回りを入力することが重要です。名目利回りまたはクーポン・レート(負債の額面に基づく)により利払いが決定されますが、現在の企業の実際のコストを反映するものではありません。必要収益率が変化すると(将来のインフレ率と経済的状況の変化により)、負債の発行価格も変化し、実際の利払い(名目金利X額面金額)と満期時の償還金と投資家が必要とする利回りも変化します。名目利回りではない最終利回りは、投資家が要求する現在の収益率と、負債を乗り換える場合のレートを反映しています。
負債コスト(最終利回り)を予測する場合には、必ず長期金利を使用してください。短期金利は、インフレに関する長期的な予測が反映されていません。財務データを5年から10年先まで予測する場合には、長期的な予測に一致する資本コストを使用する必要があります。また、企業が恒常的に短期負債の乗り換えを行って長期的な資金調達を行っている場合でも、長期負債の金利には短期負債の繰り返しによる予測コストが反映されているため、長期金利は適切な将来の資本コストの予測としても使用できます。
負債コストは、長期的な負債のコストを表します。長期負債には最終利回りを使用します。
優先株コスト
優先株コストは、優先株主の期待収益を表します。負債と同様、優先株式には最終利回りを入力しますが、税控除はありません。
自己資本コスト
個別の株式について投資家が期待する収益は、戦略モデリングでは自己資本コストとして認識され、安全率(RF)と、市場リスクに株式のベータ(ß)を乗算した割増額との和に等しくなります。
安全率
安全率(RF)は、米国政府の安定性によって、事実上デフォルトのリスクがないと考えられる米国長期国債のような安全な投資から投資家が期待する収益率です。投資家が求める収益には、純粋金利または実質金利(投資の補償)と、期待インフレ率の、2つの要素があります。
安全率 = 「実質」金利 + 期待インフレ率
普通株式に対する収益率(配当と株価の上昇)は、米国債のような比較的収益の見通しがつきやすいものよりも確実性が低く(つまり、リスクが高く)なります。普通株式を所有するという高いリスクの代償として、投資家は株式に安全率よりも高い収益率を求めます。したがって、株式の収益率は、安全率に、米国債ではなく株式を所有することに対するリスク割増額が加算されたものになります。
安全率については、Wall Street JournalやFinancial Timesに掲載される毎日の長期国債の現在の利回りを使用するのが適切です。財務省短期証券のような短期金利には、短期(90日未満)のインフレ予測のみが反映されているため、使用するのはお薦めできません。期待インフレ率と金利変動が反映されている長期の安全率を使用します。
資本のベータ値
個別の株式は、市場全体よりも多かれ少なかれ高リスクです。市場の収益率と比較した株式の収益率の変動で測定される株式のリスクは、ベータ(ß)と呼ばれる指標で表されます。
ß = 1の場合、その株式の収益率の変動は市場の収益率と同じです。
ßが1より大きい場合、その株式の収益率の変動は市場全体の収益率を上回ります。
ß < 1の場合、その株式の収益率の変動は市場全体の収益率を下回ります。
たとえば、株式の収益率が上下1.2%の範囲で変動し、市場が1%の範囲で変動する場合、その株式のベータは1.2となります。ベータは、次のように自己資本コスト(株主が期待する収益率)の計算に使用します。
自己資本コスト = 安全率 + ベータ * 市場リスク割増額
パブリック企業
ベータは、Value LineやMerrill Lynchのような多くのブローカおよび投資顧問業により公表されています。これらのサービスで提供されているベータをチェックして、企業の過去のリスクを測定します。
プライベート企業
前述のようなサービスで提供されているベータをチェックして、市場リスクを共有すると予測されるパブリック企業を調べます。
ベータは、過去のリスク・メジャーです。将来の予測を行う場合には、企業の事業または財務リスク・プロファイルで予測される変化を考慮する必要があります。
注:
企業の目標債務限度額が変更されたり、別の企業のベータに基づいてベータを予測する場合は、財務リスクの違いによりベータを調整する必要があります。これは、ベータのアンレバレッジおよびレバレッジとして知られています。
市場リスク割増額
市場リスク割増額は、市場ポートフォリオと等しいシステマティック・リスクで投資家が投資を行えるよう、安全率を超えて支払われる必要のある追加収益率です。
市場リスク割増額は、予測される市場収益率から長期安全率を差し引くことで計算されます。これらの数字は、将来の市場の状況を詳細にモデリングします。これには、次の2つのアプローチがあります。
履歴または事後的リスク割増額アプローチ。過去の市場収益率が将来の市場収益率を最もよく説明するという立場をとります。履歴(事後的)リスク割増額を参照してください。
予測または事前リスク割増額アプローチ。現在の市場情報を使用して、履歴に基づく予測の精度を向上させられるという立場をとります。予測(事前)リスク割増額を参照してください。
履歴(事後的)リスク割増額
履歴アプローチは、市場リスク割増額が基本的には長期的に安定しているという仮定に基づいています。過去のリスク割増額の算術平均を使用して、将来のリスク割増額を予測します。実際の履歴情報に基づいているため、このメソッドは長期的な市場リスク割増額を客観的に測定できます。
ただし、このメソッドを使用する場合には、平均の計算に使用する履歴期間を分析者の主観で決定する必要があります。可能なかぎり長期のデータを使用することが最も客観的であるとする主張もあります。市場の統計は1926年以降から揃っているため、この期間は1926から現在までとなります。また、第二次世界大戦以後のリスク割増額がより安定的であるとの仮定の元、それをマイルストーンとして選択する主張もあります。
予測(事前)リスク割増額
履歴データ以外の情報が将来の市場リスク割増額の予測に有効であると考える金融専門家もいます。彼らは、市場リスク割増額に影響を与える投資市場には構造的な変化が起こりうると考えており、履歴データに基づく予測を、現時点での将来の市場状況で修正または置換する必要があると主張します。このアプローチは予測、事前、または将来リスク割増額決定と呼ばれます。
予測リスク割増額を計算するには、予測される市場収益率から安全率を差し引きます。現在の利回り曲線は、予測安全率についての貴重な情報源となります。現在から満期までの、様々な期間の安全債券の利回り曲線で構成されています。将来の利回りが現時点で固定されて、後から実現されるため、多くの人々はこれらの利回りが将来の利回りを正確に予見していると考えています。したがって、予測リスク割増額の計算で、これらの利回りを将来の安全率の指標として使用します。
将来の市場の収益率を予測する方法については、ある程度の合意があります。事実、予測アプローチに関する主要な問題は、計算を行う者がかなりの主観的判断を下す必要があるということです。市場収益率を予測するためには、どの予測方法を使用する必要があるでしょうか。履歴情報を全面的に使用する必要があるでしょうか。そうであれば、使用する期間と、予測期間の加重の方法はどうすればよいのでしょうか。
将来の市場を予測する方法は、根拠とする仮定により様々です。リスク割増額を適切に予測するためには、リスク割増額の構造変化などの現時点の利回り曲線から得られる情報を最大限に活用することですが、主観的な判断は最小限に抑える必要があります。
フリー・キャッシュ・フローの残余価額メソッド
株主価値メソッドの永続性
永続メソッドでは、企業が一定のキャッシュ・フローを株主に永続的に支払うという前提のもとで、残余価額を測定します。この仮定は、直感に反するように感じられます。企業は成長を続けるものと考えられています。
しかし、単純な永続メソッドを使用して残余価額を計算できます。戦略モデリングでは、投資前のキャッシュ・フロー・ストリームを使用して永続性の計算を行います。このストリームには投資が含まれていないため、将来の成長は、将来の投資が長期の資本コストと正確に同じ収益率であるという前提により単純化されます。言い換えると、予測期間後の新規投資の正味現在価値はゼロとなります(新規投資の内部収益率は長期資本コストと等しいとも考えられます)。
次に、どのフローが企業の永続性を正確に表しているのかを決定する必要があります。戦略モデリングでは、減価償却を含む税引き後の営業利益を使用します。(減価償却は、消耗または旧式となった物理的な資産を置換するのに必要な投資量を表します)。最後の予測期間の営業利益が企業の持続的な営業利益を表していないと考えられる場合は、株価収益率メソッドの場合の調整と同様に、この値を修正できます。
後払いの場合の永続性(支払いが期末に行われる)の式は、次のようになります。
(営業利益 + 営業利益調整) * (1 - RV税率) / 長期資本コスト
ここで:
株主価値メソッドの永久成長
永続メソッドのこのバリエーションでは、キャッシュ・フローがgの複利率で永久に増加(または減少)するという前提に基づいています。このメソッドは、モデル分母の"K - g"と分子の"次年度キャッシュ・フロー"で特徴付けられる、一般に"ゴードン・モデル"として知られる方法です。
このアプローチの限界は、持続的な成長に必要な追加投資のために出ていくキャッシュ・フローが、完全には認識されないことです。また、資本構造、すなわちキャッシュ・フローの増加は、資本構造に好ましくないまたは経済的に非現実的な大きな変化(つまり、高い負債/資本比率)をもたらすことがあります。最後に、このメソッドには、成長のために必要な経済的投資利益率に関する仮定はありません。したがって、永続的成長の正味現在価値は、永続メソッド(NPV = 0となる経済的成長の仮定がある)の価値よりも小さくなったり、等しくなったり、あるいは大きくなったりします。
注:
永続成長率が長期資本コストに近づくにつれて、次の式の分母が0に近づくため、残余価額は無限大に上昇します。これが合理的な仮定とならないことは明白です。
株主価値メソッドの価値成長期間
価値成長期間メソッドを使用すると、株主が受け取る投資後のキャッシュ・フローが指定した成長率で指定した年数の間増加します。従って、価値の創造は予測期間後に発生しますが永久的ではないという明確な仮定に立っており、多くの投資家が合理的であると考えています。不明確なのは、このメソッドが成長率を予測する方法、特に投資を考慮した場合の価値創造による成長の期間の長さです。
価値成長期間メソッドは、1ドルが永続的な成長後にいくらになるかという公式「(1 + g) / (K - g)」で始まります。
ここで:
ただし、戦略モデリングでは期間が固定された年数にかぎられます。したがって、価値成長期間が終わるN年目には、戦略モデリングでは永続成長から単純な永続性に切り替わります。
株主価値メソッドの株価収益率
これは、時価簿価比率メソッドとともに戦略モデリングでサポートされている2つの共通の大まかなテクニックの1つです。株価収益率メソッドでは、将来の株価収益率に直近期の純利益を乗算して株式の価値を求めます。
株価収益率メソッドを使用して残余価額を計算するために、戦略モデリングでは、正味優先配当金である普通株主可処分収入を収益として使用します。さらに、最終的な予測期間の収益が異常な水準となり、企業が持続的に維持できないものとなる可能性があるため、戦略モデリングには、収益を適切なものに調整するための標準利益調整変数が用意されています。
最後に、このメソッドでは資本価値を予測するため、戦略モデリングでは負債の将来の市場価値を追加して企業価値を求めます。戦略モデリングを使用すると、負債の帳簿価額を決定し、負債割引係数を入力して負債の簿価を市場価値に調整できます。
「株価収益残余価額」(v5200)メソッドの式は、次のようになります。
P/E * (収益 + 収益調整) + 負債の帳簿価額 - 負債割引
ここで:
P/E | (v5130)ユーザーが入力する株価収益率 |
---|---|
収益 |
(v1850)普通株主可処分収入 |
収益調整 |
(v5140)標準利益調整 |
負債の簿価 |
(v3510)債務と優先株式の合計 |
負債割増額 |
(v5150)負債割引(割増) |
株主価値メソッドの清算価値
残余価額を決定する最も単純なメソッドは、清算価値メソッドです。このメソッドを使用して、予測期間の終了時点での企業の予測価値を入力できます。この価値には、企業のすべての負債を回収するのに必要な現金が含まれます。
清算残余価額の値をv5180に入力できます。このメソッドには、分析に使用する主要財務勘定科目に基づいた式が含まれます。
株主価値メソッドの時価簿価比率
時価簿価比率メソッドを使用した残余価額の計算は、株価収益率メソッドと同様です。株価収益率メソッドの場合と同じように、企業の資本価値を決定する大まかな指標を使用して、負債の価値を追加して企業価値を求めるという調整を行う必要があります。
「株価総額残余価額」(v5190)の式は、次のようになります。
M/B * 株主資本 + 負債の価値 - 負債割引
ここで:
M/B比率 | (v5120)ユーザーが入力する時価簿価比率 |
---|---|
株主資本 |
(v2890)株主資本 |
負債の簿価 |
(v3510)債務と優先株式の合計 |
負債割引 |
(v5150)負債割引(割増) |