Sun Java System Application Server Enterprise Edition 8.1 2005Q2 高可用性 (HA) 管理ガイド

可用性を低下させないアプリケーションのアップグレード

ユーザーへの可用性を低下させることなくアプリケーションを新しいバージョンにアップグレードする方法は、順次アップグレードと呼ばれます。アップグレードの前後で 2 つのバージョンのアプリケーションを慎重に管理することによって、アプリケーションの現在のユーザーが中断されることなくタスクを完了できる一方で、新しいユーザーが新しいバージョンのアプリケーションを透過的に取得できるようになります。順次アップグレードの場合、ユーザーはアップグレードが行われたことに気付きません。

アプリケーションの互換性

順次アップグレードでは、2 つのアプリケーションバージョン間の変更の大きさに応じて、さまざまなレベルの困難が発生します。

変更が、たとえば、静的なテキストやイメージへの変更のような表面的なものであれば、2 つのバージョンのアプリケーションには互換性があり、同じクラスタ内で両方のバージョンを一度に実行することができます。互換性のあるアプリケーションは、次の条件を備えている必要があります。

互換性のあるアプリケーションの順次アップグレードは、単一のクラスタまたは複数のクラスタのどちらでも実行できます。詳細については、「単一クラスタでのアップグレード」を参照してください。

2 つのバージョンのアプリケーションが上の一部の条件を満たしていない場合、これらのアプリケーションは互換性がないと見なされます。互換性のないバージョンのアプリケーションを同じクラスタ内で実行すると、アプリケーションデータが破壊され、セッションフェイルオーバーが発生して正しく機能しなくなる場合があります。発生する問題は、非互換性の種類や程度によって異なります。新しいバージョンを配備して古いクラスタやアプリケーションを徐々に停止する「シャドウクラスタ」を作成して、互換性のないアプリケーションをアップグレードすることをお勧めします。詳細については、「互換性のないアプリケーションのアップグレード」を参照してください。

アプリケーション開発者および管理者は、アプリケーションのバージョンに互換性があるかどうかを判断できる最適な人びとです。不明な場合は、バージョンには互換性がないと仮定してください。これがもっとも安全な方法です。

単一クラスタでのアップグレード

単一のクラスタに配備されたアプリケーションの順次アップグレードは、そのクラスタの設定がほかのどのクラスタとも共有されていないと仮定して行うことができます。

Procedure単一のクラスタでアプリケーションをアップグレードするには

  1. 旧バージョンのアプリケーションを保存するか、ドメインをバックアップします。

    ドメインをバックアップするには、asadmin backup-domain コマンドを使用します。

  2. クラスタの動的再設定を無効にします (有効になっている場合)。

    管理コンソールを使用してこれを行うには、次の手順に従います。

    1. 「設定」ノードを開きます。

    2. クラスタの設定の名前をクリックします。

    3. 「システムプロパティーの設定」ページで、「動的再設定を有効」ボックスのチェックをはずします。

    4. 「保存」をクリックします。

    あるいは、次のコマンドを使用します。

    asadmin set --user user --passwordfile password_file cluster_name -config.dynamic-reconfiguration-enabled=false

  3. ターゲットの domain に対して、アップグレードしたアプリケーションを再配備します。

    管理コンソールを使って再配備する場合、ドメインが自動的にターゲット になります。asadmin を使用している場合は、ターゲットのドメインを指定します。動的再設定が無効なので、旧アプリケーションがクラスタで実行し続けます。

  4. asadmin enable-http-lb-application を使用して、インスタンスに対して再配備アプリケーションを有効にします。

  5. ロードバランサから、クラスタ内の 1 つのサーバーインスタンスを停止します。

    次の手順に従います。

    1. asadmin disable-http-lb-server を使用して、サーバーインスタンスを無効にします。

    2. asadmin export-http-lb-config を使用して、ロードバランサ設定ファイルをエクスポートします。

    3. エクスポートした設定ファイルを Web サーバーインスタンスの設定ディレクトリにコピーします。

      たとえば、Sun Java System Web Server の場合、コピー先は web_server_install_dir/https-host-name/config/loadbalancer.xml となります。確実にロードバランサに新しい設定ファイルをロードさせるために、ロードバランサ設定の reloadinterval を設定して、動的再設定が有効であることを確認します。

    4. タイムアウトが終了するまで、待機します。

      ロードバランサのログファイルを監視して、インスタンスがオフラインであることを確認します。ユーザーに再試行 URL が表示される場合は、休止期間をスキップして、サーバーをただちに再起動します。

  6. クラスタ内のほかのインスタンスが実行中の間に、無効になっていたサーバーインスタンスを再起動します。

    再起動すると、サーバーはドメインと同期し、アプリケーションを更新します。

  7. 再起動したサーバー上でアプリケーションをテストし、正しく動作していることを確認します。

  8. ロードバランサで、サーバーインスタンスをふたたび有効にします。

    次の手順に従います。

    1. asadmin enable-http-lb-server を使用して、サーバーインスタンスを有効にします。

    2. asadmin export-http-lb-config を使用して、ロードバランサ設定ファイルをエクスポートします。

    3. 「単一クラスタでのアップグレード」「単一クラスタでのアップグレード」の説明に従って、設定ファイルを Web サーバーの設定ディレクトリにコピーします。

  9. クラスタ内の各インスタンスに対して、手順 5 〜 8 を繰り返します。

  10. すべてのサーバーインスタンスに新しいアプリケーションがあり、それらのインスタンスが実行中である場合は、そのクラスタに対して動的再設定を再度有効にすることができます。

複数のクラスタでのアップグレード

Procedure2 つ以上のクラスタで、互換性のあるアプリケーションをアップグレードするには

  1. 旧バージョンのアプリケーションを保存するか、ドメインをバックアップします。

    ドメインをバックアップするには、asadmin backup-domain コマンドを使用します。

  2. すべてのクラスタの動的再設定を無効にします (有効になっている場合)。

    管理コンソールを使用してこれを行うには、次の手順に従います。

    1. 「設定」ノードを開きます。

    2. 1 つのクラスタの設定の名前をクリックします。

    3. 「システムプロパティーの設定」ページで、「動的再設定を有効」ボックスのチェックをはずします。

    4. 「保存」をクリックします。

    5. ほかのクラスタに対して上記手順を繰り返します

    あるいは、次のコマンドを使用します。

    asadmin set --user user --passwordfile password_file cluster_name-config.dynamic-reconfiguration-enabled=false

  3. ターゲットの domain に対して、アップグレードしたアプリケーションを再配備します。

    管理コンソールを使って再配備する場合、ドメインが自動的にターゲット になります。asadmin を使用している場合は、ターゲットのドメインを指定します。動的再設定が無効なので、旧アプリケーションがクラスタで実行し続けます。

  4. asadmin enable-http-lb-application を使用して、クラスタに対して再配備したアプリケーションを有効にします。

  5. ロードバランサから 1 つのクラスタを停止します

    1. asadmin disable-http-lb-server を使用して、クラスタを無効にします。

    2. asadmin export-http-lb-config を使用して、ロードバランサ設定ファイルをエクスポートします。

    3. エクスポートした設定ファイルを Web サーバーインスタンスの設定ディレクトリにコピーします。

      たとえば、Sun Java System Web Server の場合、コピー先は web_server_install_dir/https-host-name/config/loadbalancer.xml となります。新しいロードバランサ設定ファイルが自動的にロードされるように、ロードバランサ設定の reloadinterval を設定して、ロードバランサの動的再設定を有効にする必要があります。

    4. タイムアウトが終了するまで、待機します。

      ロードバランサのログファイルを監視して、インスタンスがオフラインであることを確認します。ユーザーに再試行 URL が表示される場合は、休止期間をスキップして、サーバーをただちに再起動します。

  6. ほかのクラスタが実行中の間に、無効となっていたクラスタを再起動します。

    再起動すると、クラスタはドメインと同期し、アプリケーションを更新します。

  7. 再起動したクラスタ上でアプリケーションをテストし、正しく動作していることを確認します。

  8. ロードバランサでクラスタをふたたび有効にします。

    1. asadmin enable-http-lb-server を使用して、クラスタを有効にします。

    2. asadmin export-http-lb-config を使用して、ロードバランサ設定ファイルをエクスポートします。

    3. 設定ファイルを Web サーバーの設定ディレクトリにコピーします。

  9. ほかのクラスタに対して、手順 5 〜 8 を繰り返します。

  10. すべてのサーバーインスタンスに新しいアプリケーションがあり、それらのインスタンスが実行中である場合は、すべてのクラスタに対して動的再設定を再度有効にすることができます。

互換性のないアプリケーションのアップグレード

アプリケーションの互換性に必要な条件については、「アプリケーションの互換性」を参照してください。アプリケーションの新しいバージョンは、古いバージョンとは互換性がありません。互換性のないアプリケーションも、2 つ以上のクラスタでアップグレードする必要があります。クラスタが 1 つしかない場合は、後述の説明に従って、アップグレードのための「シャドウクラスタ」を作成します。

互換性のないアプリケーションをアップグレードする場合は、次の手順を実行します。

Procedure2 番目のクラスタを作成することにより互換性のないアプリケーションをアップグレードするには

  1. 旧バージョンのアプリケーションを保存するか、ドメインをバックアップします。

    ドメインをバックアップするには、asadmin backup-domain コマンドを使用します。

  2. 同じマシンセットまたは別のマシンセットに、既存のクラスタとして「シャドウクラスタ」を作成します。

    1. 管理コンソールを使用して、既存のクラスタで名前を付けられている設定から新しいクラスタと参照を作成します。

      既存のアクティブポートとの競合を回避するために、各マシンで新しいインスタンスのポートをカスタマイズします。

    2. asadmin create-resource-ref を使用して、クラスタに関連付けられたすべてのリソースについて、新しく作成されたクラスタにリソース参照を追加します。

    3. asadmin create-application-ref を使用して、新しく作成されたクラスタから、クラスタに配備されているほかのすべてのアプリケーション (現在再配備されているアプリケーションを除く) への参照を作成します。

    4. asadmin configure-ha-cluster を使用して、クラスタを高可用性に設定します。

    5. asadmin create-http-lb-ref を使用して、ロードバランサ設定ファイル内の新しく作成されたクラスタへの参照を作成します。

  3. 新しいバージョンのアプリケーションに、古いバージョンとは別の名前を付けます。

  4. 新しいクラスタをターゲットとして、新しいアプリケーションを配備します。別のコンテキストルートを使用します。

  5. asadmin enable-http-lb-application を使用して、クラスタに対して配備した新しいアプリケーションを有効にします。

  6. ほかのクラスタが実行している間に、新しいクラスタを起動します。

    起動すると、クラスタはドメインと同期し、新しいアプリケーションで更新されます。

  7. 新しいクラスタ上でアプリケーションをテストして、正しく動作していることを確認します。

  8. asadmin disable-http-lb-server を使用して、ロードバランサから古いクラスタを無効にします。

  9. 無応答のセッションに対するタイムアウト時間を設定します。

  10. asadmin enable-http-lb-server を使用して、ロードバランサから新しいクラスタを有効にします。

  11. asadmin export-http-lb-config を使用して、ロードバランサ設定ファイルをエクスポートします。

  12. エクスポートした設定ファイルを Web サーバーインスタンスの設定ディレクトリにコピーします。

    たとえば、Sun Java System Web Server の場合、コピー先は web_server_install_dir/https-host-name/config/loadbalancer.xml となります。新しいロードバランサ設定ファイルが自動的にロードされるように、ロードバランサ設定の reloadinterval を設定して、ロードバランサの動的再設定を有効にする必要があります。

  13. タイムアウトピリオドが経過するか、または古いアプリケーションのすべてのユーザーが終了したら、古いクラスタを停止し、古いアプリケーションを削除します。