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Oracle Multimedia DICOM開発者ガイド
11g リリース1(11.1)
E05685-01
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1 Oracle Multimedia DICOMの概要

この章では、医用画像のバックグラウンド情報およびOracle Multimedia DICOM(以前のOracle interMedia DICOM)の機能の概要について説明します。

この章は、次の項で構成されています。

1.1 医用画像と通信

Digital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)は医用画像の標準規格です。 この規格は、米国放射線学会(American College of Radiology: ACR)と米国電機工業会(National Electrical Manufacturers Association: NEMA)が、放射線デバイス間の接続性の向上を目的に策定したものです。 DICOM標準規格が広く普及する前は、各メーカーは独自の画像形式と通信プロトコルを使用していました。 形式およびプロトコルが多様なため、医用データの管理または分析を行うソフトウェアをサード・パーティ・ベンダーが開発することはほとんど不可能でした。 また、異なるメーカーのハードウェア・デバイスを接続することもできませんでした。

1985年に、米国放射線学会と米国電機工業会は、この問題を解決するために共同でACR-NEMA規格と呼ばれる医用画像と通信の標準規格を発表しました。 ACR-NEMA規格は1993年に改訂され、名前もDICOM(バージョン3.0)に改名されました。それ以来、DICOM標準規格は放射線科の画像および通信の主要規格になりました。大手メーカーは、すべてこの標準規格に準拠しています。 現在では、どのソフトウェア・コンポーネントも、あらゆるメーカーのDICOMコンテンツを同じインタフェースで読み込み、管理できます。 DICOMコンテンツとは、単体のDICOM情報オブジェクトのことで、DICOM標準規格のPS 3.10-2007(通常、DICOM Part 10ファイルと呼ばれる)のデータ構造定義およびエンコーディング定義に従ってエンコードされています。 DICOMコンテンツには、患者のカルテ、波形図、画像、3D断面図、ビデオ映像、診断報告書、グラフィックまたは注釈テキストなど、様々なタイプのデータを保存できます。 DICOMコンテンツには、多くの標準属性が含まれます。 オプションでDICOMコンテンツにプライベート属性を含めることもできます。 (DICOM標準規格でのDICOMオブジェクトという用語は、DICOMコンテンツを指します。)

他の標準規格と同様、DICOMの大半はボランティアによって作成されています。 専門家で結成された作業部会が既存の標準規格に対する追加や変更を提示し、変更内容は投票によって承認されます。 通常、標準規格の新しいバージョンが毎年NEMAから発表されます。 この標準規格は、次に示すNEMAのWebサイトで世界中に公開されています。

http://medical.nema.org/

Integrating the Healthcare Enterprise(IHE)イニシアティブにより、DICOMコンテンツと通信に関連する問題についての情報も提供されています。 この情報は、次に示すIHEのWebサイトで参照できます。

http://www.ihe.net/

DICOM標準規格で取り扱われている主な領域は、データ・モデル(ファイル形式)と通信プロトコルの2つです。 データ・モデルはオブジェクト指向のプログラミング原理を使用して定義されています。 医療デバイスで取得された画像や波形図などのコンテンツは、情報オブジェクトとして表現されます。 これらのオブジェクト上には、取得、検索、保存の操作などのサービスを定義できます。 サービスと情報オブジェクトは、結合されてサービス・オブジェクト・ペア(SOP)になります。

DICOMでは、ネットワーク間でオブジェクトを送信したりファイル内のオブジェクトをエンコードするための様々な種類の転送構文(バイナリ・エンコーディング・ルール)が定義されています。 転送構文で指定されているのは、DICOMオブジェクト階層からバイナリ・ストリームへのマッピングです。 バイナリ・データはテープ、CD、ディスクなどの物理メディアに保存でき、DICOMファイル階層に従って編成されます。 バイナリ・データはDICOM通信プロトコルを使用してネットワーク上で交換することもできます。このプロトコルで使用されるのは、OSI(Open Systems Interconnection)7階層モデルの上位階層(アプリケーション層、プレゼンテーション層およびセッション層)です。 DICOM通信プロトコルは、通常TCP/IPの上部に実装されます。 最近、DICOM標準規格にDICOMオブジェクトへのWebアクセス(Web Access to DICOM Objects: WADO)が導入されました。 WADOでは主にDICOMオブジェクトに対するHTTPアクセスが処理されます。 DICOMサーバーとDICOMオブジェクト間で交換されるメッセージには、放射線ワークフロー、グレースケール画像レンダリング、画像印刷、そして保存および検索などの操作が伴います。

Oracle Multimedia DICOMの機能で想定されているのは、ファイルにエンコードされたDICOM形式の医用画像とその他のオブジェクトの保存、管理および操作です。 Oracle Multimediaでは、DICOM通信プロトコルはサポートされていません。

1.2 Oracle MultimediaとDICOM

Digital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)の機能は、Oracle Database 10g リリース2(10.2)で初めてOracle Multimediaに導入されました。 このリリースでは、Oracle Multimedia ORDImageオブジェクト型の従来の動作がOracle Multimedia DICOMによって拡張され、Oracle MultimediaでDICOMコンテンツを認識できるようになり、また患者、研究などに関連する埋込みDICOM属性のサブセットを抽出できるようになりました。

Oracle Database 11g リリース1(11.1)でも、引き続きDICOMがORDImageで同様にサポートされています。 また、このリリースでは、さらに完全なDICOMサポートが新しいORDDicomオブジェクト型で提供されています。

1.2.1 Oracle Multimedia DICOM形式のサポート

Oracle Database 11g リリース1(11.1)では、Oracle MultimediaによってDICOM(医用画像の標準規格として広く認められている形式)が完全にサポートされています。 現在は、アプリケーションでOracle Multimedia DICOM JavaおよびPL/SQL APIを使用して、DICOMコンテンツを保存、管理および操作できます。

Oracle Databaseで管理およびセキュリティ保護される医療コンテンツの大規模なアーカイブを構築できます。 DICOMメタデータが完全にサポートされていることで、研究を目的として、アーカイブされたDICOMコンテンツに索引付けして検索できます。 DICOMコンテンツの中央記憶域は、遠隔治療の実用化につながります。 DICOMコンテンツをデータベースに取り込むことで、Oracleまたは他社のアプリケーション開発ツールを使用して、医療の電子記録を行うアプリケーションを構築できます。

1.2.2 ORDDicomオブジェクト型

Oracle Multimediaの新しいオブジェクト型であるORDDicomでは、医療デバイスで作成されるDICOMコンテンツがネイティブにサポートされます。 このオブジェクト型にはDICOMコンテンツおよび抽出されたメタデータが保持され、DICOMコンテンツを操作するメソッドが実装されます。 新しいJavaプロキシ・クラスのOrdDicomを使用することにより、JavaアプリケーションでJDBCを介してORDDicomデータベース・オブジェクトにアクセスできます。 すでにDICOMコンテンツを直接BLOBまたはBFILESに保存してあるアプリケーション用には、PL/SQLパッケージ(ORD_DICOM)としてリレーショナル・インタフェースが用意されています。

データベースに保存されたDICOMコンテンツをオブジェクトとして表現することにより、Oracleでは、短期間でのアプリケーション開発、およびDICOMコンテンツの大規模アーカイブの簡単でセキュアな管理の両方を実現しています。

1.2.3 DICOMメタデータの抽出

Oracle Database 10g リリース2(10.2)では、最も重要なメタデータをDICOM属性タグとしてXML文書に抽出し、それらのタグに、特定の条件に一致するDICOMコンテンツを検索するための索引付けをして検索することができました。 Oracle Database 11g リリース1(11.1)ではこの機能が向上され、完全かつ拡張可能なメタデータ抽出がサポートされています。 Oracle指定のXMLスキーマに従ってメタデータを抽出したり、独自に作成したスキーマ定義を使用して標準のDICOM属性タグまたはプライベート・タグのサブセットを抽出することができます。 抽出されたメタデータは表に格納され、標準のDICOM属性またはプライベートDICOM属性に基づくDICOMコンテンツの検索に活用されます。

この拡張されたメタデータ抽出機能を使用すると、DICOMコンテンツの大規模アーカイブを構築できます。 抽出されたXMLメタデータ・ドキュメントをカスタマイズすることにより、標準DICOM属性タグおよびプライベートDICOM属性タグに基づいて、特殊な索引をDICOMコンテンツに作成できます。

1.2.4 DICOMの準拠の検証

Oracle Multimediaでは、DICOMコンテンツがユーザー指定の準拠ルールに従っていることを検証できます。

DICOMコンテンツは多くのデバイスによって生成されます。 ほとんどのコンテンツはDICOM標準規格に準拠していますが、一部には準拠していないものもあります。 DICOM標準規格または特定の組織や企業の準拠ルールに従っていないDICOMコンテンツを識別できることは重要です。 DICOMコンテンツが準拠しているかどうかを検証することにより、DICOMアーカイブの一貫性を確保できます。 この機能により、データベースで複数の作成元からのDICOMコンテンツを受け入れて、コンテンツの整合性を検証することができます。

1.2.5 DICOM画像の処理

Oracle Database 11g リリース1(11.1)には、DICOMから画像をコピーしてJPEG、GIF、PNG、TIFFなどの他の画像形式に変換したり、画像をコピーして拡大バージョンやサムネイル画像を生成するためのメソッドおよびファンクションが追加されています。 また、このリリースには、画像コンテンツをコピーして圧縮、サイズ変更、回転、トリミングなどの加工を、変換処理中にオプションで実行するための、一連のオプションのメソッドとファンクションが用意されています。

DICOM形式で保存された医用画像をWebアプリケーションで表示するには、現在業界で使用されているブラウザと互換性のある形式で画像のコピーを作成する必要があります。 Oracle Database 11g リリース1(11.1)を使用すると、自動的にDICOM画像をコピーおよび再フォーマットして、普及している業界標準の画像形式(JPEGなど)を必要とするアプリケーションに配信できます。

1.2.6 プライベートDICOMコンテンツの匿名化

Oracle Database 11g リリース1(11.1)には、DICOMコンテンツおよび抽出されたXML属性を含む新しいORDDicomオブジェクトを、匿名ドキュメントで指定されたルールに従って匿名化するメソッドが追加されています。 匿名ドキュメントでは、匿名化する必要のある一連の属性と、それらの属性を匿名化するために実行するアクションの両方を定義します。

このメソッドを使用して新しい匿名ORDDicomオブジェクトを生成すると、DICOM医療アーカイブのユーザーは、参照が認可されているDICOMコンテンツとメタデータのみを参照することができます。 たとえば臨床医は、担当している患者それぞれのDICOMコンテンツとメタデータのすべてにアクセスする必要があります。 DICOMコンテンツに含まれるすべてのDICOMメタデータを参照できる必要があります。 一方、研究者がアクセスできる必要があるのは、研究に協力している患者の同じDICOMメタデータの一部のみです。 患者の個人情報保護の規制では、このクラスのユーザーは、ORDDicomオブジェクトのうち個人を特定する情報を含む属性およびメタデータを参照できないことが求められています。

データベースに匿名化サービスを搭載することにより、Oracle Databaseでは、アーカイブ内のORDDicomオブジェクトへのアクセスに使用するアプリケーションに関係なく、DICOM医療アーカイブのユーザー・クラスに応じた適切なアクセスが可能になります。

1.2.7 画像およびメタデータからのORDDicomオブジェクトの作成

Oracle Database 11g リリース1(11.1)には、DICOM、JPEG、RAW、TIFF、GIFなど様々な形式のデジタル画像を、関連付けられているDICOMメタデータのXML表現と組み合せて、新しいORDDicomオブジェクトを生成する機能があります。 この操作により、適格で有効なORDDicomオブジェクトが生成されます。このオブジェクトは、データベースの表に格納したりDICOMビューアに配信することができます。 この機能は、DICOMの2次取得画像の生成に特に有効です。

医用画像をフィルム・ベースで保存して検索することは、非常にコストがかかり、間違いの原因にもなります。 DICOMコンテンツの中には、医療や研究の目的で長期間保存することが必要なものもあります。 フィルム・ベースの医用画像をDICOM画像に置き換えることで、保存と検索にかかるコストが削減されます。 スキャンした画像をメタデータとともにDICOM形式で保存することにより、DICOM以外の画像の有用性を高めることができます。 また、同じ方法を使用して、新しいDICOMコンテンツを生成し、元のDICOMコンテンツのメタデータのエラーを修正することもできます。

1.2.8 実行時に更新可能なDICOMデータ・モデル

Oracle Database 11g リリース1(11.1)で重要なDICOM対応機能は、ユーザーによる構成が可能な一連のドキュメントを使用して実行時の動作を決定できる点です。 このドキュメント・セットは、データ・モデル・リポジトリでまとめて管理されます。 管理者は、このデータ・モデル・リポジトリを更新して、特定のデータベース・インスタンスのOracle Multimedia DICOMを構成できます。

病院は常時稼働している必要があります。 病院のシステムは、次のいずれかの理由でも停止できません。

  • 新バージョンのDICOM標準規格に更新する

  • 新しい設備に合わせてプライベートDICOM属性タグを取り込む

  • DICOM準拠ルールを変更する

  • 各ORDDicomオブジェクトから抽出する一連のDICOM属性タグを修正する、または抽出された属性のXMLエンコーディングを変更する

  • DICOM匿名化ルールを修正する

この設計により、稼働中のDICOMアーカイブを停止することなく、いつでもOracle Multimedia DICOMをアップグレードできます。