この節の例は、読み取り、書き込み、検索、実行操作のため、プロセスがファイルシステムオブジェクトにアクセスする場合に考慮すべき事項を示しています。
この例では、プロセスが、読み取りと書き込みで /export/home/heartyann/somefile にアクセスし、実行で /export/home/heartyann/filetoexec にアクセスすることを想定します。両方のファイルとも Confidential で保護されています。プロセスの機密ラベルは Secret で、プロセス認可上限は Top Secret です。Confidential は Secret よりも低く、Secret は Top Secret よりも低いラベルです。
次の図に示すように、パス /export/home の機密ラベルは ADMIN_LOW で、heartyann ディレクトリと somefile の機密ラベルは Confidential です。
このプロセスは、somefile と somefile のパス内のディレクトリの所有権は持っていません。
/export に対する任意アクセス権によって、所有者とグループには読み取り、書き込み、検索の権限が与えられ、その他のユーザーには読み取りと検索の権限が与えられます。
/export/home に対する任意アクセス権によって、所有者には読み取り、書き込み、検索の権限が与えられ、グループとその他のユーザーには読み取りと検索の権限が与えられます。
/export/home/heartyann に対する任意アクセス権によって、所有者とグループには読み取り、書き込み、検索の権限が与えられ、その他のユーザーには読み取りと検索の権限が与えられます。
somefile に対する任意アクセス権によって、所有者には読み取りと書き込みの権限が与えられ、グループとその他のユーザーには読み取り権だけが与えられます。
filetoexec に対する任意アクセス権によって、所有者には読み取り、書き込み、実行の権限が与えられ、グループとその他のユーザーには読み取りと実行の権限が与えられます。
プロセスが必須または任意のアクセスチェックに失敗した場合は、プログラムはエラーを表明するか、適切な特権を表明する必要があります。
アクセス制御の適用を回避するため特権を使用する場合の機密ラベルの処理の詳細は、第 5 章「ラベル」の 「ラベルのガイドライン」を参照してください。
Secret プロセスは、読み取りのために somefile を開いて読み取り操作を実行し、このファイルを閉じます。Confidential の /export/home/heartyann シングルレベルディレクトリ内の somefile がアクセスされるように、完全な装飾パス名が使用されます。
完全な装飾パス名は、マルチレベルディレクトリの装飾方法を使用し、どのシングルレベルディレクトリが必要か正確に指定します。代わりに通常のパス名が使用されると、プロセスが Secret で動作しているため Secret のシングルレベルディレクトリがアクセスされます。
完全な装飾パス名の詳細は、「装飾名」を参照してください。マルチレベルとシングルレベルのディレクトリを処理するインタフェースの詳細は、第 8 章「マルチレベルディレクトリ」で説明します。次の例では、わかりやすさのために使われている完全装飾パス名がハードコードされていますが、この方法は第 8 章「マルチレベルディレクトリ」では使いません。
#include <sys/types.h> #include <sys/stat.h> #include <fcntl.h> #include <unistd.h> main() { int filedes, retval; ssize_t size; char readbuf[1024]; char *buffer = "Write to File."; char *file = "/export/home/.MLD.heartyann/.SLD.1/filetoexec"; char *argv[10] = {"filetoexec"}; filedes = open("/export/home/.MLD.heartyann/.SLD.1/somefile", O_RDONLY); size = read(filedes, readbuf, 29); retval = close(filedes);
open(2) システムコールに対する必須アクセスチェック - プロセスは /export/home/heartyann に対する必須検索アクセスと、somefile に対する必須読み取りアクセスを必要とします。このプロセスは Secret で動作しているので、両方の必須アクセスチェックの条件を満たしています。
open(2) システムコールに対する任意アクセスチェック - プロセスは /export/home/heartyann に対する任意検索アクセスと、somefile に対する任意読み取りアクセスを必要とします。このディレクトリパスと somefile 上のその他ユーザーに対するアクセス権ビットは、必要な任意の検索権と読み取り権を与えます。
read(2) システムコールに対する必須アクセスチェック - 必須アクセスチェックは、somefile が開かれたときに実行されます。ほかにはアクセスチェックは行われません。
read(2) システムコールに対する任意アクセスチェック - 任意アクセスチェックは、somefile が開かれたときに実行されます。ほかにはアクセスチェックは行われません。
Secret プロセスは、Confidential の /export/home/heartyann シングルレベルディレクトリ内での書き込みのために somefile を開き、書き込み操作を実行し、このファイルを閉じます。
filedes = open("/export/home/.MLD.heartyann/.SLD.1/somefile", O_WRONLY); size = write(filedes, buffer, 14); retval = close(filedes);
open(2) システムコールに対する必須アクセスチェック - プロセスは /export/home/heartyann に対する必須検索アクセスと、somefile に対する必須書き込みアクセスを必要とします。Secret で動作中のプロセスは必須検索のアクセスチェックの条件を満たしますが、必須書き込みのアクセスチェックの条件は満たしていません。必須書き込みアクセスが有効になるためには、somefile の機密ラベルはプロセスの機密ラベルより優位でなければなりませんが、実際には優位ではありません。つまり、Confidential は Secret より優位ではありません。プロセスは、file_mac_write 特権を表明してこの制限を無効にすることも、エラーを表明することもできます。
open(2) システムコールに対する任意アクセスチェック - プロセスは /export/home/heartyann に対する任意検索アクセスと、somefile に対する任意書き込みアクセスを必要とします。このディレクトリパスと somefile 上のその他ユーザーに対するアクセス権ビットは、任意検索アクセスを与えますが、任意書き込みのアクセスチェックの条件をパスしません。プロセスは、file_dac_write 特権を表明してこの制限を無効にすることも、エラーを表明することもできます。
write(2) システムコールに対する必須アクセスチェック - 必須アクセスチェックは、somefile が開かれているときに行われます。ほかのアクセスチェックは行われません。
write(2) システムコールに対する任意アクセスチェック - 任意アクセスチェックは、somefile が開かれているときに行われます。ほかのアクセスチェックは行われません。
Secret プロセスは、Confidential の /export/home/heartyann シングルレベルディレクトリ内の実行可能ファイルを実行します。
retval = execv(file, argv); }
execv(2) システムコールに対する必須アクセスチェック - プロセスは、/export/home/heartyann に対する必須検索アクセスと、file に対する必須読み取りアクセスを必要とします。ファイルに対する必須読み取りアクセスが必要なのは、ファイルを実行するためです。Secret で動作中のプロセスは、これら両方の必須アクセスチェックの条件を満たします。
execv(2) システムコールに対する任意アクセスチェック - プロセスは、/export/home/heartyann に対する任意検索アクセスと、file に対する任意実行アクセスを必要とします。このディレクトリパスと file のアクセス権ビットは、file に対する任意の検索アクセスと実行アクセスを与えます。