Secure RPC は Secure NFS システムの基本となるメカニズムです。Secure RPC の目標は、少なくともタイムシェアリングシステム程度に安全なシステムを構築することです。タイムシェアリングシステムでは、すべてのユーザーが 1 台のコンピュータを共有します。タイムシェアリングシステムはログインパスワードによりユーザーを認証します。データ暗号化規格 (DES) 認証でも、同じ認証処理が実行されます。ユーザーは、ローカル端末の場合と同じように、任意のリモートコンピュータにログインできます。ユーザーのログインパスワードは、ネットワークセキュリティーへの保証です。タイムシェアリングでは、システム管理者は信頼のおける人で、パスワードを変更してだれかを装うようなことはしないという道徳上の義務を負います。Secure RPC では、ネットワーク管理者は「公開鍵」を格納するデータベースのエントリを変更しないという前提で信頼されています。
RPC 認証システムを理解するには、 「資格 (credential)」と「ベリファイア」という 2 つの用語を理解する必要があります。ID バッジを例にとれば、 資格とは、名前、住所、誕生日など個人を識別するものです。ベリファイアとはバッジに添付された写真です。バッジの写真をその所持者と照合することによって、そのバッジが盗まれたものではないことを確認できます。RPC では、クライアントプロセスは RPC 要求のたびに資格とベリファイアの両方をサーバーに送信します。クライアントはサーバーの資格をすでに知っているため、サーバーはベリファイアだけを送り返します。
RPC の認証機能は拡張が可能で、UNIX、DH、および KERB などのさまざまな認証システムを組み込むことができます。
ネットワークサービスで UNIX 認証を使用する場合、資格にはクライアントのホスト名、UID、GID、グループアクセスリストが含まれ、ベリファイアには何も含まれません。ベリファイアが存在しないため、root ユーザーは su などのコマンドを使用して、適切な資格を偽ることができます。UNIX 認証でのもう 1 つの問題は、ネットワーク上のすべてのコンピュータを UNIX コンピュータと想定していることです。UNIX 認証を異機種ネットワーク内の他のオペレーティングシステムに適用した場合、これは正常に動作しません。
UNIX 認証の問題を克服するために、Secure RPC では DH 認証を使用します。
DH 認証は、Data Encryption Standard (DES) と Diffie-Hellman 公開鍵暗号手法を使ってネットワーク上のユーザーとコンピュータの両方を認証します。DES は、標準の暗号化メカニズムです。Diffie-Hellman 公開鍵暗号手法は、2 つの鍵、つまり公開鍵と秘密鍵を持つ暗号方式です。 公開鍵と秘密鍵は名前空間に格納されます。NIS では、これらのキーは public-key マップに保存されています。これらのマップにはすべての認証の候補ユーザーの公開鍵と秘密鍵が入っています。このマップの設定方法については、『Solaris のシステム管理 (ネーミングとディレクトリサービス : DNS、NIS、LDAP 編)』を参照してください。
DH 認証のセキュリティーは、送信側が現在時刻を暗号化する機能に基づいていて、受信側はこれを復号化して、自分の時刻と照合します。タイムスタンプは DES を使用して暗号化されます。この方式が機能するには次の条件が必要です。
2 つのエージェントの現在時刻が一致している。
送信側と受信側が同じ暗号化鍵を使用する。
ネットワークが時間同期プログラムを実行する場合、クライアントとサーバー上の時間は自動的に同期がとられます。時間同期プログラムを使用できない場合、ネットワーク時間ではなく、サーバーの時間を使ってタイムスタンプを計算できます。クライアントは、RPC セッションを開始する前にサーバーに時間を要求し、自分のクロックとサーバーのクロックとの時間差を計算します。タイムスタンプを計算するときには、この差を使ってクライアントのクロックを補正します。クライアントとサーバーのクロックが同期していないと、サーバーはクライアントの要求を拒否します。その場合、クライアントの DH 認証システムはサーバーとの間で再び同期をとります。
クライアントとサーバーは、ランダムな「対話鍵」(「セッション鍵」とも呼ばれる) を生成したあと公開鍵暗号方式を使って「共通鍵」を推理することによって、同一の暗号化鍵に到達します。この共通鍵は、クライアントとサーバーだけが推理できる鍵です。対話鍵は、クライアントのタイムスタンプを暗号化および復号化するために使用されます。共通鍵は、この対話鍵を暗号化および復号化するために使用されます。
Kerberos は、マサチューセッツ工科大学 (MIT) で開発された認証システムです。Kerberos は、DES を含むさまざまな暗号化タイプを提供します。Kerberos サポートは Secure RPC の一部としては提供されなくなりましたが、Solaris 9 以降のリリースでは、サーバー側とクライアント側に実装されています。Kerberos 認証の実装に関する詳細については、『Solaris のシステム管理 (セキュリティサービス)』の第 21 章「Kerberos サービスについて」を参照してください。
Secure RPC を使用する場合は、次の点に注意してください。
サーバーがクラッシュしたとき周囲にだれもいない場合 (停電のあとなど) には、システムに格納されていた秘密鍵はすべて削除されます。そのためどのプロセスからも、セキュリティー保護されたネットワークサービスにアクセスしたり NFS ファイルシステムをマウントしたりできません。リブート中の重要な処理は、通常 root として実行されます。そのため、root の秘密鍵を別に保存していればこれらのプロセスを実行できますが、その秘密鍵を復号化するパスワードを入力することはできません。keylogin -r を使用すると root の秘密鍵がそのまま /etc/.rootkey に格納され、keyserv がそれを読み取ります。
システムによっては、シングルユーザーモードで起動し、コンソールには root のログインシェルが表示されてパスワードの入力が要求されないことがあります。このような場合は、物理的なセキュリティーが不可欠です。
ディスクレスコンピュータのブートは、完全に安全とはいえません。ブートサーバーになりすましてリモートコンピュータに対する秘密鍵の入力を記録するような、不正なカーネルをだれかがブートすることが考えられます。Secure NFS システムによって保護されているのはカーネルとキーサーバーが起動した後だけです。そうでないと、ブートサーバーからの応答を認証することができません。このような制限は重大な問題につながる可能性がありますが、この部分を攻撃するにはカーネルのソースコードを使用した高度な技術が必要です。また、不法行為の痕跡が残ります。つまり、ネットワークを通じてブートサーバーにポーリングすれば、不正なブートサーバーの場所がわかります。
多くの setuid プログラムは root が所有者です。root の秘密鍵が /etc/.rootkey に格納されていれば、これらのプログラムは正常に動作します。しかし、ユーザーが所有者である setuid プログラムは動作しない可能性があります。たとえば、ある setuid プログラムの所有者が dave であり、ブート後 dave が 1 度もログインしていないとします。このプログラムはセキュリティー保護されたネットワークサービスにはアクセスできません。
リモートコンピュータに (login、rlogin、または telnet を使用して) ログインし、keylogin を使ってアクセスすると自分のアカウントへのアクセスを許したことになります。これは、秘密鍵が相手側のコンピュータのキーサーバーに渡され、キーサーバーがその秘密鍵を格納したためです。このプロセスが問題になるのは、相手側のリモートコンピュータを信用できない場合だけです。しかし、疑いがある場合は、パスワードを要求するリモートコンピュータにはログインしないでください。代わりに NFS 環境を使用して、そのリモートコンピュータから共有されているファイルシステムをマウントします。または、keylogout を使ってキーサーバーから秘密鍵を消去します。
ホームディレクトリが共有されていて -o sec=dh 指定されていると、リモートログインによって問題が生じる可能性があります。/etc/hosts.equiv ファイルまたは ~/.rhosts ファイルに、パスワードを要求するように設定されていない場合は、ログインが成功します。ただし、ローカルで認証されていないため、ユーザーは自分のホームディレクトリにアクセスできません。パスワードを要求され、入力したパスワードがネットワークパスワードと一致すれば、自分のホームディレクトリにアクセスできます。