この章では、Solaris Trusted Extensions の主な構成要素について説明します。この章で扱う内容は、次のとおりです。
ログインプロセスが正常に完了すると、第 2 章Trusted Extensions へのログイン (手順)で説明したように、Trusted Extensions で作業できるようになります。作業にはセキュリティー制限が適用されます。Trusted Extensions に固有の制限には、システムのラベル範囲、ユーザー認可上限、シングルレベルセッションかマルチレベルセッションかの選択などがあります。次の図が示すように、Trusted Extensions が設定されたシステムは、4 つの特徴によって Solaris システムと区別できます。Trusted JDS デスクトップで機能を表示する方法については、図 1–5 を参照してください。
ラベル表示 – ウィンドウ、ワークスペース、ファイル、アプリケーションのすべてにラベルがあります。実体のラベルは、ラベルストライプやその他のインジケータでデスクトップに表示されます。
トラステッドストライプ – 特殊なグラフィカルセキュリティー機構です。Solaris Trusted Extensions (CDE) では、トラステッドストライプは常に画面の最下部に表示されます。Solaris Trusted Extensions (JDS) では、ストライプを画面の最上部に表示できます。
ワークスペースからアプリケーションへのアクセス制限 – アカウントで許可されているアプリケーションに対してのみ、ワークスペースからアクセスできます。
トラステッドパスメニュー – Trusted CDE では、フロントパネルのスイッチ領域からトラステッドパスメニューにアクセスできます。トラステッドパスメニューは、セキュリティー関連のタスクの実行に使用されます。Trusted JDS では、トラステッドシンボルからメニューにアクセスできます。
「必須アクセス制御」で説明したように、Trusted Extensions ではすべてのアプリケーションとファイルにラベルがあります。Trusted Extensions では、次の場所にラベルが表示されます。
ウィンドウのラベルストライプ: ウィンドウのタイトルバーの上
ウィンドウアイコンのラベルストライプ: アイコン化されたウィンドウの下
ウィンドウラベルインジケータ: トラステッドストライプ内
トラステッドパスメニュー項目の「ウィンドウのラベルを照会 (Query Window Label)」インジケータ: ポインタが置かれたウィンドウまたはアイコンのラベルを表示します
Trusted JDS では、パネルの色はワークスペースのラベルを示します。
図 4–1 は、Trusted CDE デスクトップでラベルがどのように表示されるかを示しています。図 1–5 は、Trusted JDS デスクトップでラベルがどのように表示されるかを示しています。この場合は、「ウィンドウのラベルを照会 (Query Window Label)」メニュー項目を使用して、ウィンドウのラベルを表示できます。説明図は、図 3–5 を参照してください。
Trusted CDE では、すべての Trusted Extensions セッションで、トラステッドストライプが画面最下部の予約領域に表示されます。Trusted JDS では、トラステッドストライプを画面の最上部に表示できます。
トラステッドストライプの目的は、正規の Trusted Extensions セッションにいることを視覚的に確認できるようにすることです。ユーザーとトラステッドコンピューティングベース (TCB) の対話中は、そのことがストライプに表示されます。また、現在のワークスペースおよび現在のウィンドウのラベルも表示します。 トラステッドストライプは、ほかのウィンドウやダイアログボックスが原因で位置が変わったり背面に隠れたりすることはありません。
Trusted CDE では、トラステッドストライプに次の 2 つの構成要素があります。
トラステッドシンボル – 画面のフォーカスがセキュリティー関連にあるときに表示されます。
ウィンドウラベル – 省略可能。アクティブウィンドウのラベルが表示されます。
Trusted JDS では、トラステッドストライプにさらに次の 2 つの構成要素があります。
現在のアカウント名 – トラステッドシンボルのすぐ右に、ワークスペース内での新しいプロセスの所有者の名前が表示されます。アカウントが役割アカウントの場合、役割名の前に帽子アイコンが表示されます。
ラベルの付いたウィンドウ – ワークスペース内のすべてのウィンドウのラベルを表示します。
TCB のいずれかの部分にアクセスすると、トラステッドストライプ領域の左側にトラステッドシンボルが必ず表示されます。構成によってラベルが非表示にされている場合、トラステッドシンボルはトラステッドストライプとともに表示されます。Trusted CDE では、トラステッドシンボルはフロントパネルの左側に表示されます。Trusted JDS では、トラステッドシンボルはトラステッドストライプの左側に表示されます。
トラステッドシンボルは、ポインタが置かれているウィンドウや画面領域が、セキュリティーに影響を与えるものでないときは表示されません。トラステッドシンボルは偽造できません。トラステッドシンボルが表示されている場合は、TCB と安全に対話していることを確認できます。
ワークスペースにトラステッドストライプが表示されていない場合は、セキュリティー管理者に連絡してください。システムに重大な問題が起きている可能性があります。
ログイン時および画面ロック時は、トラステッドストライプは表示されません。トラステッドストライプが表示されている場合は、ただちに管理者に連絡してください。
「ウィンドウラベル」インジケータには、アクティブなウィンドウのラベルが表示されます。この表示は、マルチレベルセッションにおいて、同じワークスペース内にある異なるラベルのウィンドウを識別するのに役立ちます。また、インジケータは TCB と対話中であることも示します。たとえば、パスワードを変更するときは、「Trusted Path」という表示がトラステッドストライプに表示されます。
Trusted Extensions のデフォルトでは、デバイスはデバイス割り当て要求によって保護されます。ユーザーは、デバイスを割り当てるための明示的認可を与えられないかぎりデバイスを使用できず、割り当てられたデバイスをほかのユーザーが使用することもできません。あるラベルで使用中のデバイスは、最初のラベルから割り当て解除されて次のラベルに割り当てられるまでは別のラベルで使用できません。
デバイスを使用するには、「Trusted Extensions でデバイスを割り当てる」を参照してください。
Trusted Extensions のすべてのアプリケーションには、ラベルで示された機密レベルがあります。アプリケーションは、任意のデータトランザクションにおける動作の「サブジェクト」です。サブジェクトは、アクセス対象となる「オブジェクト」よりも優位である必要があります。オブジェクトはファイルの場合もあれば、ほかのプロセスの場合もあります。アプリケーションのラベル情報は、ウィンドウのラベルストライプに表示されます。ラベルが表示されるのは、ウィンドウが開いているときと、アイコン化されているときです。また、ポインタがアプリケーションのウィンドウ内にあるときは、トラステッドストライプにもアプリケーションのラベルが表示されます。
Trusted Extensions では、ファイルはデータトランザクションにおけるオブジェクトです。ファイルには、そのファイルのラベルよりも優位にあるラベルを持つアプリケーションによってのみアクセスできます。ファイルは、そのファイルと同じラベルを持つウィンドウに表示することができます。
一部のアプリケーションでは、初期設定ファイルを使用してユーザーの環境を設定します。ホームディレクトリにある 2 つの特殊ファイルを使用すると、初期設定ファイルにあらゆるラベルでアクセスできます。これらのファイルは、あるラベルのアプリケーションで、別のラベルのディレクトリで生成された初期設定ファイルを使用できるようにします。2 つの特殊ファイルとは、.copy_files と .link_files です。
.copy_files ファイルにファイル名が格納されていると、より高いラベルを持つワークスペースに初めて移動するときに、そのファイルがコピーされます。このファイルは、ユーザーの最下位ラベルで、ホームディレクトリに格納されます。このファイルは、常に特定の名前でホームディレクトリ内のファイルに書き込みを行うアプリケーションがある場合に便利です。.copy_files ファイルを使用すると、アプリケーションで該当のファイルをあらゆるラベルで更新できるように指定できます。
.link_files ファイルには、より高いラベルを持つワークスペースに最初に移動するときにリンクされるファイルの名前が格納されます。このファイルは、ユーザーの最下位ラベルで、ホームディレクトリに格納されます。.link_files ファイルは、特定のファイルを複数のラベルで使用できるようにする必要があるものの、その内容がすべてのラベルで同一でなければならないときに便利です。
パスワードを頻繁に変更すると、侵入者が違法に入手したパスワードを利用する機会を減らすことができます。そのため、サイトのセキュリティーポリシーで、パスワードの定期的な変更を必須とする場合があります。Solaris OS では、パスワードの内容に関する条件を設定したり、パスワードの再設定の条件を強制したりできます。再設定の条件にできるものは次のとおりです。
パスワード変更までの最小日数 – 設定した日数内は、そのユーザーを含め、だれもパスワードを変更できないようにします。
パスワード変更までの最大日数 – 設定した日数が過ぎたらパスワードの変更を要求します。
非使用期間の最大日数 – 設定した非使用日数を過ぎてもパスワードが変更されなかった場合に、そのユーザーのアカウントをロックします。
有効期限 – 指定日までにパスワードを変更するよう要求します。
前述のオプションのいずれかを管理者が設定している場合は、パスワードを変更するように警告する電子メールメッセージが、期日前に送信されます。
パスワードに内容の基準を設定できます。Solaris OS のパスワードは、少なくとも次の基準を満たす必要があります。
パスワードの長さは 8 文字以上にする。
パスワードには、最低 2 個のアルファベットと、最低 1 個の数字または特殊文字を使用する。
新しいパスワードは以前と違うものにする。以前のパスワードの文字を逆順に並べたり、語順の何文字かを語尾に移動したりして使用することはできません。この比較では、大文字と小文字は同じものとみなされます。
新しいパスワードには、以前のパスワードで使用されていなかった文字を 3 個以上含める。この比較では、大文字と小文字は同じものとみなされます。
パスワードは推測されにくいものにする。一般的な語句や固有名詞を使わないでください。アカウントに侵入しようとするプログラムや個人は、複数のリストを使ってユーザーのパスワードを推測しようとします。
パスワードは、トラステッドメニューの「パスワード変更 (Change Password)」メニュー項目を使用して変更できます。手順については、「トラステッドアクションの実行」を参照してください。
Solaris Trusted Extensions (CDE) のフロントパネルは、標準の CDE で使用されるフロントパネルとよく似ています。Trusted Extensions のフロントパネルでは、ユーザーが使用を許可されているアプリケーション、ファイル、およびユーティリティーのみにアクセスが制限されます。ワークスペーススイッチ領域内の任意の場所でマウスボタン 3 をクリックすると、トラステッドパスメニューが表示されます。
リムーバブルメディアマネージャーでデバイスにアクセスできるようにするには、デバイス割り当てマネージャーを使ってそのデバイスを割り当てておく必要があります。デバイス割り当てマネージャーには、フロントパネルのスタイルマネージャーアイコンの上にある「ツール (Tools)」サブパネルからアクセスします。
フロントパネルがアイコン化されている場合は、トラステッドストライプの任意の場所をクリックすることで、パネルを元のサイズに戻すことができます。
Trusted Extensions では、「アイコンのインストール (Install Icon)」ドロップサイトは、現在のワークスペースのラベルで使用が許可されているアプリケーションおよびファイルに制限されています。
標準の CDE に関する詳細は、『Solaris 共通デスクトップ環境 ユーザーズ・ガイド』を参照してください。
Trusted Extensions のワークスペースボタンは、個別のワークスペースを定義するだけでなく、特定ラベルでの作業をユーザーに義務付けます。マルチレベルセッションを開始すると、それぞれのワークスペースは、使用可能な最下位のラベルに設定されます。管理者がサイトのラベルを色分けしている場合は、各ラベルの色がワークスペースボタンに表示されます。ワークスペーススイッチ領域から、トラステッドパスメニューにアクセスできます。
トラステッドパスメニューには、次の図に示すような、セキュリティーに影響を与えるメニュー項目が表示されます。
たとえば、このメニューを使用してパスワードを変更したり、デバイスを割り当てたりします。詳細は、「トラステッドアクションの実行」を参照してください。
Trusted CDE では、トラステッドパスメニューに 、もう 1 つのバージョンがあります。ワークスペース 名バージョンには、追加のワークスペースのオプションが含まれます。メニューに表示される選択肢は、管理者によるアカウントの設定によって異なります。
Trusted Extensions では、管理者だけがワークステーションに設定された日時を変更できます。
カレンダには、現在のワークスペースのラベルのアポイントメントだけが表示されます。別のラベルのアポイントメントを表示するには、そのラベルでカレンダを開く必要があります。
Trusted Extensions では、現在のワークスペースのラベルのファイルがファイルマネージャーによって表示されます。複数のラベルのファイルを一度に表示するには、異なるラベルを持つ複数のワークスペースで、ファイルマネージャーをそれぞれに実行します。次に、「配置するワークスペース (Occupy Workspace)」コマンドを使用して、同じワークスペースに複数のファイルマネージャーウィンドウを表示します。
ファイルマネージャーを使用すると、ファイルやフォルダの基本的なアクセス権およびアクセス制御リスト (ACL) を変更できます。承認があれば、異なるラベルのファイルマネージャー間でファイルの移動やリンクを実行することもできます。ファイルマネージャーの使い方の詳細は、「ラベル付きワークスペースにファイルを表示する」および 「トラステッドアクションの実行」を参照してください。
テキストエディタは、現在のワークスペースのラベルのファイルを編集する場合にのみ使用できます。承認があれば、異なるラベルのテキストエディタ間で情報をコピーできます。
「個人アプリケーション (Personal Applications)」サブパネルに組み込まれているデフォルトのアプリケーションは、標準の CDE 環境のものと同様に動作します。端末アイコンをクリックすると、管理者によって割り当てられたデフォルトのシェルが開きます。Web サーバーにアクセスするには、ブラウザのラベルを Web サーバーと同じにする必要があります。
Trusted Extensions では、すべてのメールメッセージにラベルが付きます。メッセージを送信する場合、メッセージはメールアプリケーションのラベルで送信されます。そのラベルの認可を受けているホストおよびユーザーのみがメッセージを受信します。そのラベルで作業しているユーザーのみがメッセージを表示できます。
メールプログラムの不在返信メッセージオプションを使う必要がある場合は、通常メールを受信しているラベルのそれぞれについて、不在返信メッセージの送付を明示的に設定しなければなりません。不在返信メッセージに関するサイトのセキュリティーポリシーについては、セキュリティー管理者に確認してください。
「個人プリンタ (Personal Printers)」サブパネルの印刷マネージャーには、ユーザーの認可上限の範囲で認可されているすべてのプリンタのアイコンが表示されます。ただし、これらのプリンタの中で使用できるのは、現在のワークスペースのラベルで文書を印刷する認可を受けているものだけです。
Trusted Extensions での一般的な印刷ジョブには、次のようなラベルや追加ページが含まれます。
印刷ジョブの最初に出力されるバナーページ。サイトに応じた印刷ジョブ、取り扱い指示、ラベルが印刷されます。
ヘッダーおよびフッターにラベルの付いた本文ページ。
印刷ジョブの最後に出力されるトレーラページ。ジョブの最後であることを示します。
一般的なバナーページを次の図に示します。JOB START という語句が、バナーページであることを示しています。
サイトでの印刷に関する厳密なセキュリティー情報については、管理者に確認してください。
次に挙げる 3 つの例外を除き、スタイルマネージャーの操作は Solaris システムの場合と同じです。
スタイルマネージャーをアプリケーションマネージャーから実行できない。これは、Trusted Extensions が設定されているときは、スタイルマネージャーがトラステッドパスを必要とするためです。スタイルマネージャーはフロントパネルとワークスペースメニューから実行してください。この場合はスタイルマネージャーにトラステッドパスが与えられます。
スクリーンセーバーと画面ロックオプションは制限される。ロックされるまでのシステムの最大アイドル時間が管理者によって設定されます。ユーザーはアイドル時間を短くできます。最大値を超えてアイドル時間を増やすことはできません。ただし、画面のロックパターンは選択可能です。サイトのセキュリティーポリシーの詳細は、管理者に確認してください。
ユーザーの起動セッション設定は、ログイン時に指定したラベルまたは認可上限に応じて起動制御によって設定される。したがって、使用するアカウントラベル範囲内の各ラベルに対して異なるワークスペース設定を保存できます。
アプリケーションマネージャーでは、管理者がユーザーに割り当てたアプリケーションおよびユーティリティーのみにアクセスできます。ユーザーは役割の中で、別のアプリケーションや機能にアクセスできます。ファイル上で操作できる機能は、現在のワークスペースのラベルによって異なります。
同様に、アイコンを「アイコンのインストール (Install Icon)」ドロップサイトにドロップすると、そのアプリケーションは「個人アプリケーション (Personal Application) 」サブメニューに追加されますが、実行できるアプリケーションは、管理者が指定したものに限られます。
Trusted Extensions のごみ箱には、削除するファイルをラベルごとに格納できます。どのラベルのファイルもごみ箱に入れることができますが、表示されるのは現在のラベルのファイルのみです。機密情報は、ごみ箱に入れた直後に削除する必要があります。
Trusted Extensions では、Trusted JDS は Trusted CDE と同等のセキュリティーを備えていますが、見た目と使い心地が異なります。Trusted CDE では、デスクトップアプリケーションはラベルを認識します。アプリケーションは現在のワークスペースのラベルで動作し、アプリケーションを開いたプロセスのラベルの情報だけを表示します。
セキュリティー機能の場所が Trusted JDS と Trusted CDE では異なります。動作も異なる場合があります。
Trusted JDS では、トラステッドストライプから Trusted Path メニューが使用可能です。
ウィンドウの上にマウスを移動すると、パネル上のタスクのリストにあるウィンドウのラベル名がツールチップに表示されます。同様に、スイッチ領域にあるワークスペースのラベル名もツールチップに表示されます。
ある役割に変更するには、トラステッドストライプのアカウント名をクリックし、役割を選択します。
特定のラベルにワークスペースを追加するには、既存のワークスペースを選択してそのラベルを変更します。
それぞれのワークスペースが作業中のワークスペースのラベルの色を反映するよう、デスクトップを設定できます。